徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

大人の診療を、一部再開します。

2013年06月30日 21時18分46秒 | 小児科診療
 2013年7月から大人の診療を一部再開します。
 子どものためには病院へ行くけれど、自分のための時間が取れないご両親(具体的にはお子様と一緒に来院された方)が対象です。
 診療をご希望の方はオンライン予約せずに直接窓口へご相談ください。
 なお、混雑時には子どもを優先しますので診療をお断りすることがあります。あらかじめご了承ください。

■ 対応できる病気はかぜ・花粉症などの軽症疾患です。

■ 以下の方はご遠慮ください;
・他院で通院治療中の方
・妊婦さん、妊娠の可能性のある方
・治療の有無にかかわらず、高血圧等の持病をお持ちの方

■ 子どもと同じように診察しますので、聴診しやすい服装でご来院ください。

■ 休日当番医の時は、当院は子どものみが診療対象となりますので、他の当番医をご利用いただくことになります。

■ 大人対象の予防接種は現時点では扱っておりません。


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「厚生労働大臣は風疹の国家的予防接種施策の発動を拒否した」by CDC

2013年06月29日 06時17分39秒 | 小児科診療
 世界の常識からみて、現在の日本の風疹対策がいかに非常識なのかを象徴するコメントがCDC(アメリカ疾病予防管理センター)から発せられました。

米CDC、日本の風疹予防対策不備に警戒、日本への渡航注意を呼びかけ
(2013年06月28日:QLife Pro)

CDC日本の風疹対策を批判
 アメリカ疾病予防管理センターCDCは、日本における風疹流行の現状に対し、「日本の厚生労働大臣は国家的予防接種施策の発動を拒否」と報じ渡航に注意するよう呼びかけている。6月24日、NYタイムズが報じた。
 風疹が流行している日本とポーランドへの渡航に際し、妊娠しているかその可能性がある女性は、医師と相談するように注意を促している。
妊娠10週以内で90%が先天性風疹症候群
 欧米では「ドイツはしか(German Measles)」と呼ばれる風疹。風疹ウイルスによる飛沫感染または直接接触感染で、感染が広がる。風疹自体は、発疹と熱程度で数日で治癒するが、妊娠10週以内の妊婦が感染した場合、90%の確率で先天性風疹性症候群を合併するとされている。この先天性風疹症候群の典型的症状は、心奇形・難聴・白内障である。
日本の風疹予防接種体制への懸念
 2012年に兵庫県で大流行してから、国内では10,000人以上が発症。これは2011年のアジアでの大流行が飛び火したものと言われている。
現在、国内では都市部を中心に発症が増加、神奈川県と大阪府では非常事態宣言が出されている。ポーランドでも同様に26,000人以上が発症している。問題が指摘されているのは、日本の「異常な (peculiarity) 」ワクチン史が原因で,発症者の75%は20-40代男性である、という点。
 国内では1976年まで中学2年の女子にだけ風疹の予防接種をしており、その後、予防接種が個人単位になったことや自治体単位での法改正などから、1979~1987年に生まれた人では、予防接種を受けてない人が多数いる。
 アメリカでは風疹の予防接種を2回義務づけており、永住するには風疹の予防接種を必須としている。
 また、近年では、アメリカでの風疹発症は日本人が持ち込んだとさえ言われるほどである。
先天性風疹症候群の発症例を重視
 CDCは、今回の大流行で日本国内では2013年1月~5月に先天性風疹症候群が少なくとも5例は発生しているにもかかわらず,日本の厚生労働大臣は国家的予防接種施策の発動を拒否した、との点を強調。
 予防接種を受けていない世代が、働き盛りであることが流行の一因でもあり、医療界からは、早くから風疹制圧のため、ワクチンの積極的接種の助成や不足するワクチンの緊急輸入など、多くの要請が行われているものの、田村憲久厚生労働相は「特別な対応を取るところまでは来ていない」と述べ何ら対応しない姿勢を崩していない。残念ながらCDCがこうした発表を行った以上、海外からの観光やビジネスでの来日が減る事も予想され、せっかくの景気回復に水を差す可能性すら懸念され始めた。もはや一国の対応では済まされない状況になりつつある。国益を損ねる前に厚労省の前向きな対応を期待したい。


 とにかく、田村厚生労働大臣の発言は医療者からみると「信じられない!」レベル。
 妊娠初期に風疹に罹り、自分のお腹の中にいる命をどうすべきか選択を迫られている母親の気持ちを考えたことがあるのでしょうか。
 CRSの発生数の60倍の人工妊娠中絶が存在するという報告もあります。すると、生まれてくるはずの600の命が「なかったもの」とされた可能性が・・・。
 風疹の被害者はCRSとしての数字だけで判断できないのです。
 CRSの子を持つ母のコメントです;

母と子を風しんから守るためワクチンを打ってください
(医療ガバナンス学会 :2013年6月27日)

 先天性風疹症候群(CRS)の子をもつ母 
 可兒 佳代、川井 千鶴、西村 麻依子

 私たちの子供は、CRSという病気をもって生まれてきました。私たち母親が妊娠中に風しんにかかったのが原因です。ずっと苦しい思いを抱いてすごしてきま した。それなのに、去年からの風しんの流行で、すでに11人(2013年6月24日現在)のCRSのお子さんが生まれています。もうこれ以上は待っていら れません。田村憲久厚生労働大臣に、CRSの子の母の気持ちを知っていただき、そして国が主体となって風しんワクチン接種を推進してほしいと思い、私たち は立ち上がりました。

 6月16日、新宿の国立国際医療研究センターで開催された『風疹の流行を止めよう緊急セミナー』に参加し、当時者としての気持ちを述べました。そして、翌 17日に、厚生労働省に要望書と手紙を渡しに行きました。17日は、田村厚生労働大臣はもとより、副大臣や大臣政務官には会ってもらえず、結核感染症課の 課長補佐の方に要望書をお渡ししました。
とても短い時間でお手紙を読みました。要望書を渡しても、その方は無言で受け取っただけでした。私たちは、自分 たちの思いが軽視されたように感じました。

 その後の記者会見では、たくさんの報道陣の方々に集まっていただきました。すごく緊張しましたが、みんなの代表として伝えたい事を言いました。1番伝えた かったのは「この風疹の流行で、多くの赤ちゃんが中絶されている。これ以上、小さな命を亡きものにしたくない!」という事です。

 記者会見の後も、
たくさんの取材を受けました
・風疹の流行によって、今も不安な気持ちでいる妊婦さんがおられること
・『産む・産まない』の選択を迫られている人がいること
・亡くなっていく命があること
・それを風疹ワクチンによって無くしたいこと
・その為には臨時接種が必要な事
を伝えました。どうか思いが伝わりますように。

 帰りに乗ったタクシーの運転手さんに、「厚労省で何かあったの?」と聞かれたので、「風疹ワクチンの臨時接種を求めるため要望書の提出をして、記者会見し てきたのです」と、説明すると、運転手さんは「あれ、副作用あるんでしょ?」と。一般の方々にとって、ワクチンは必ずしも正しく理解してもらえていないこ とが多いです。

 記者会見で理化学研究所の加藤茂孝博士が説明しましたが、日本で開発されたMRワクチンは、とても弱毒化されており、副作用がほとんどありません。ワクチ ンの副作用とワクチンを打たないリスクを天秤にかけた時、圧倒的にワクチンを打たないことで、麻疹や風疹に感染する健康リスクの方が高いのです。

 6月18日、風しん患者数が10,102人と、1万人を超えました。しかし田村大臣は、風しん患者は「まだ一万人」とおっしゃっています。先進国で風疹が 流行っているのは日本だけです。私たちにとっては『まだ』一万人ではなく『もう』一万人なのです。この風疹の流行のために何人のお母さんがお腹の中の赤 ちゃんを諦めたか分かりません。生きている命を殺したのです。風疹さえ流行らなかったら産まれていた命を、です。私たちCRSの子の母は先天性風疹症候群 のお子さんが産まれると、胸が引き裂かれそうなくらい苦しくなります。本当に悔しい思いです。田村大臣と厚生労働省は、もっともっと先天性風疹症候群のお 子さんが生まれても良いと考えているのでしょうか?それによる中絶が増える事も関係ないのかと・・・。

 また、厚生労働省は、ワクチンが不足する可能性があるから、接種を、妊娠を希望する女性と、その周囲の方を優先するように通知を6月9日に出しました。こ れでは、風しんや、CRSはなくなりません。何故なら、私たち自身が、周囲には風しん患者さんはおらず、どこで誰から風しんをもらったか不明だからです。 
田村大臣のコメントは、やがて自然に風しんの流行が終息するのを待て、その間に起きることは仕方ない、という事だと感じました。

 田村厚労大臣と厚生労働省は母と子供を守るつもりはないのでしょうか。CRSの子どもたちは何も悪くありません。どうか願いをきいて下さい。私達は、あきらめません。これからもワクチンによる風疹の撲滅を目指します。めざしましょう!ストップ風疹。


 CDCから「日本の異常なワクチン史」とまで言われてしまった日本のワクチン行政は「責任回避」「批判されないよう」「訴えられないよう」方針を決めてきました。

・HPV(子宮頸がん)ワクチンに罹っても国は訴えられませんが、HPVワクチンで副反応が出ると訴えられます。
・日本脳炎に罹り後遺症が残っても国は訴えられませんか、日本脳炎ワクチンで副反応が出ると訴えられます。
・妊婦が風疹に罹ってCRS児が生まれても国は訴えられませんが、風疹ワクチンで副反応が出れば訴えられます。

なら、やらない方が無難・・・という判断です。
現場の認識とどんどん乖離し、世界の常識からも乖離して今回のような事態に陥いることになったのですね。

※ この「無責任体質」は司法と連動していますので、根本的解決法は「無過失保障制度」なのですが、まだワクチン行政に関しては導入されていません。
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コスタリカの風疹対策

2013年06月28日 06時46分00秒 | 小児科診療
 日本の風疹対策が迷走・停滞しています。
 海外からはこんな声も;

・日本は途上国の子どもたちへのワクチン費用をたくさんサポートしているのに、自国の子どもたちをなぜ守らないのか?
・VPD(ワクチンで防げる感染症)である風疹をワクチンで防ぐことに失敗するなんて先進国ではあり得ない。どうなっているの?


 などなど。

 成功例に学びましょう。
 1964年に風疹大流行を経験し2万人(!)の先天性風疹症候群(CRS)が生まれたアメリカは、1969年に風疹ワクチンを導入し、乳幼児全員に接種する方法(米国方式)で患者・CRSともに激減させ、2004年に風疹排除宣言をなし得ました。
 南北アメリカ大陸は風疹対策という点では進んでおり、実はアメリカよりも早く風疹を排除した国も存在します。
 それがコスタリカという中南米の小国。

コスタリカ:大人への1カ月間の緊急接種で麻疹も排除
(2013年6月25日:メディカルトリビューン)

 米国に先駆けて、風疹と麻疹の国内発生をゼロにした国がある。コスタリカでは1999年、風疹にかかったことや予防接種を受けたことのない15~45歳で大規模な風疹の流行が起き、30例の先天性風疹症候群が発生した。これを受け、保健当局は2001年5月の1カ月間で15~39歳の国民を対象とした緊急接種キャンペーンを実施。風疹とともに麻疹も排除するため麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)を使い、全国民の42%を占める同年齢層への接種が行われた。このキャンペーンでは、全ての地域で80%以上、過半数に当たる60の地域で95%以上の接種率を達成。これ以降、コスタリカでは麻疹、風疹の国内報告がゼロとなった。
 臨時接種には保健当局だけでなく、社会保障、教育、労働関係の省庁や地方自治体も参加したほか、臨時接種の2週間前からはテレビやラジオなどで国民に接種への協力を求める放送も行われた。接種は医療機関、ショッピングモール、大学、職場で行われ、人口の少ない地域では医療チームが直接、住宅を回って接種したと報告されている。


 ブラボー!
 キーワードは「緊急一斉接種」ですが、医療機関にとどまらない出張医療サービス(ショッピングモール、大学、職場、巡回接種)は大いに参考になります。やはりここまでやらなければ接種率は上がらないのですねえ。
 今までの日本のように「接種をご検討ください」とか「経過措置を取りますから接種を呼びかけましょう」などとダラダラやっていては埒があきません。
 さあ、日本政府・厚労省も腹をくくっていただきたい。
 実行するのは国民の意識が高まっている「 今でしょ!
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日本のHPV(子宮頸がん)ワクチン積極的勧奨停止を世界はどう見ているか?

2013年06月28日 06時24分35秒 | 小児科診療
 2011年の同時接種後死亡問題で一時接種中止をした日本を、海外の感染症専門家は「クレイジー!」とあきれ、批判しました。

 今回のHPVワクチンの積極的勧奨一時停止措置はどうでしょうか。

 まず、2005年に発売されて以来、世界中で1億を超える回数のHPVワクチンが接種されてきた事実があります。
 その中で、ワクチンの安全性の懸念から接種を中止した国はゼロです。

 こんなニュースもあります;

■ 日本の「子宮頸がんワクチン推奨中止」に米当局が回答~マスメディアとの電話会見
(2013年6月26日メディカルトリビューン)

 米国の感染症対策当局である疾病対策センター(CDC)の研究グループが、米国で14~19歳の女性への子宮頸(けい)がんワクチン(ヒトパピローマウイルス=HPVワクチン)導入後、同年齢層の女性のHPV感染率(ワクチンに含まれている4種類)が56ポイント下がったとの研究成果を、6月19日発行の米医学誌「Journal Infectious Diseases」に発表した。これを受けてCDCは、マスメディアとの電話会見を行い、その模様を公式サイトで公開。会見では、厚生労働省が子宮頸がんワクチンの積極的な推奨を中止したことについて、同ワクチンの安全性を確認する質問も出ていた。それに対し、CDC担当者はどう答えたのか…。
 
「懸念されるような報告はない」
 会見で日本の状況について質問したのは、米公共ラジオ局の記者。厚労省が同ワクチン接種後の痛みやしびれに関する複数の報告を受けて接種の推奨を一時中止したが、日本の関係者とは連絡を取っているのかと問い掛けた
 この質問に対し、CDC予防接種安全性管理室の専門官Cindy Weinbaum氏は、日本での推奨中止は把握していると回答。また、米国で接種している医師や接種を受けている人、その関係者らが自発的な報告を行えるシステムを調査したところ、日本と同様、注射を打った箇所の痛みに関する複数の報告があったことを明らかにした。ただし、その報告はさまざまで、予防接種だけに関連を示すものは見つからなかったとも述べている。
 さらに、同記者は「今のところ、米国では接種後の重篤な症例や死亡例は全くないということか」と質問した。
 これに対し、Weinbaum専門官は「接種後には接種との関連があるかないかにかかわらず、たくさんのことが起こる。一般的には、その因果関係を証明することは不可能」と答えている。また、前出のシステムや電子カルテと連動したシステムもあるが、子宮頸がんワクチンに関して懸念されるような報告はないと説明。接種後の死亡例については「全部で42件の報告がある」としたが、それぞれの死因は全く異なっており、それらが予防接種との関連が懸念されるパターンは見られなかったと回答した。


 今回の厚労省の措置を「国は無責任」と非難する声もありますが、私は悪くない措置と捉えています。
 もともと、HPVワクチンは子宮頸がんを自身で経験した女優や議員の強い訴えで見切り発車的に認可された経緯があり、国民の総意があったわけではありません。
 なので、子宮頸がんという病気(性行為でうつるウイルス感染のなれの果て)の理解も乏しいし、ワクチンの効果と危険性の評価も国民に浸透しているとは思えないのです。

 立ち止まって考えてみるよい機会かと。

 日本のワクチン行政の歴史をみると、厚労省は常に「責任回避」「批判されないように」「訴えられないように」という方向に舵を切る傾向があります。

 ある女性が子宮頸がんになっても訴えられませんが、HPVワクチンの副反応が出れば訴えられます。
 日本脳炎に罹って後遺症が残っても訴えられませんが、日本脳炎ワクチン接種後の重篤な副反応が発生すれば訴えられます。
 先天性風疹症候群の赤ちゃんが生まれても国は訴えられませんが、風疹ワクチンで問題が起これば訴えられます。

 まあ、患者への同上・救済目的で「因果関係が否定できないから」と認めてしまう司法にも問題があり、このジレンマを解決すべく米国は「無過失保障制度」を気づき挙げて現在に至るのですが、日本はそれをしてこなかったことが致命的。
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「予防接種スケジューラー」というスマホアプリ

2013年06月21日 22時12分06秒 | 小児科診療
 このアプリ「予防接種スケジューラー」はワクチンの正しい知識の啓蒙活動を行っている小児科医の集まり「KNOW VPD!」という組織(私も会員)がつくったもので、ワクチンのスケジュール管理のみならず、ワクチンや病気の知識も得られる優れものです。

 ワクチンについて、ワクチンで防ぐことのできる病気について知りたいけど、ネットに怖い情報があふれていて読めば読むほど不安になるお母さん・お父さんにぴったりのお勧め品。

 無料です。
 是非お試しください。
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風疹流行を阻止できるワクチン接種率は85%

2013年06月20日 06時10分14秒 | 小児科診療
 風疹が流行してから「ワクチンを接種しましょう」というフレーズを多く聞くようになりました。
 たくさんの人がワクチンを接種すれば、流行しにくくなることは何となくわかるけど、具体的にはどうなの?
 という疑問に答えるべく、ワクチン接種率について説明してみたいと思います。
 キーワードは「基本再生産数」と「集団免疫率」。

 まず、基本再生産数という概念があり、これはその病原微生物(おもにウイルス)の感染しやすさ、広がりやすさの目安となる数字です。風疹の基本再生産数は7~9であり、例えて言うと「風疹患者を1人診たら、その周囲に7~9人患者がいると思え!」ということ。
 集団免疫率はこの基本再生産数から計算式で出される数字です。その集団から病原微生物を排除可能、つまり流行を抑制できるワクチン接種率を表します。風疹では80~85%とされています。

 解説はこちらをご覧ください;
ビケンワクチンニュース(2011年 Vol.12)
 その中の表を引用します;


 上から3番目に風疹がありますね。
 前述の如く、風疹の基本再生産数は7~9、そして集団免疫率は80~85%と記されています。
 つまりワクチン接種率を85%以上に維持すれば風疹流行が抑制可能であり、CRSの発生を防げることが理論的にわかっているということ。

 では現実を見つめてみましょう。

 日本のワクチン行政の過去の接種率記録をいくつか提示します。
 まず、中学生に風疹ワクチンの集団接種をしていた頃の接種率;



 1977年~1994年に中学生女子に集団接種(左の薄緑のバー)、1994年以降は中学生男女に経過措置としての個別接種(右の黄色いバー)が行われました。
 接種率(実施率)をご確認ください。
 1997~1994年は接種対象の女子でも平均70%程度で、残り30%は風疹に対する免疫がないまま現在に至っています(この年齢の女性は現時点で妊娠年齢を過ぎつつありますが)。当然対象外の男子の感受性者は100%に近いことになります。
 1994年以降では男女に対象が広がりましたが接種率がどんどん下がり、50%~30%台まで落ち込んでいます。
 前回ブログで記した「谷間の世代」とは、イコールこの年齢層であり、より正確に誕生日で記すと、
・男性:1962年4月2日~1987年10月1日生(現在の年齢:25~51歳)
・女性:1979年4月2日~1987年10月1日生(現在の年齢:25~34歳)

 となります。

 ではそれ以降はどうなのか、というと1994年から幼児期接種が始まっていますので、一応免疫がある人がほとんどです。
 しかし、免疫はいずれ減っていくもの。
 当初は一生ものと考えられた生ワクチンの効果は10年持たないことが判明し、2回接種が2006年に導入されました。
 1回しか接種していない子どもたちを対象に2012年3月まで経過措置が取られました。
 いわゆるMRワクチン第三期(中学1年)と第四期(高校3年生)ですね。
 すると、この第三期/第四期の接種率が気になります。
 検索すると、厚労省が2012年度の接種率を公表していました(↓)。
 下図では、黄色(85~90%)とピンク(90~95%)と赤い(95%以上)都道府県が85%以上を達成しています;





 数字が小さくて見にくい方はこちらからどうぞ:
2012年度の麻疹・風疹ワクチン接種率(厚労省)

 あなたの住んでいる地域はいかがでしょうか。
 風疹の流行を排除可能な集団免疫率85%以上を達成している県はむしろ少数派であることが読み取れます。
 これすなわち、将来の風疹流行とCRS発生が約束されていることを意味するのです(涙)。

 外国はこのような日本の現状をどう見ているのでしょうか。
 公式見解ではありませんが、日本の某感染症専門家に届く世界各国からの声は;

・「アジアやアフリカの予防接種拡大プログラム(EPI)にもたくさんお金を出してサポートしているのに自国の子供は守らないのか」
・「誰が放置していいと決めているのだ。そもそも感染症対策の優先順位がおかしくないか」。


 などなど。
 風疹はもともとVPD(Vaccine Preventable Diseases)のひとつとして、このような大騒ぎをすること自体、先進国では「想定の範囲外」なわけです。

 公式にはイギリス、アメリカ、カナダが見解を出しています:

米CDCが勧告「風疹抗体のない妊婦は日本への渡航延期を」(2013.6.20)
 米疾病対策センター(CDC)は6月19日,日本とポーランドに関する新たな渡航注意情報を発表。2つの国で風疹の流行が続いていることから「風疹抗体のない妊娠中の女性は,流行期間中の渡航を避けるべき」との勧告が出された。CDCは特に妊娠20週目までの女性に注意を呼びかけている。
 今回の渡航注意情報は3段階(レベル1:注意/通常の予防措置,レベル2:警戒態勢/予防措置を拡大,レベル3:警告/不要不急の旅行を避ける)のうちのレベル2とされている。最近,CDCが出している渡航情報はイスラム教の聖地巡礼の時期を迎える中東地域における中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS)やエチオピアでの黄熱に関するものだが,いずれも最も低い「レベル1」の注意にとどまっている。

カナダ公衆衛生局が「日本の風疹大流行」で渡航注意情報(2013.5.27)
 カナダの公衆衛生局は5月24日,「日本で風疹の大規模な流行が続いている」との渡航注意情報を発表。日本に渡航する自国民に,免疫状態が不明な場合は,風疹含有ワクチンの接種を行うよう呼びかけた。

しっかりしろ、ニッポン!
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止まらない風疹流行

2013年06月20日 04時32分14秒 | 小児科診療
 4/26に先天性風疹症候群を取りあげましたが、その後も国の無策により流行拡大に歯止めがかかっていません。
 今年に入って患者数がとうとう1万人を超えました。
 現在報告されているCRS11例は昨年までの妊婦感染者の分ですから、これからCRS児はさらに増えることが予想されます。

 しかし、現在の厚生労働大臣田村憲久氏の「風疹患者はまだ1万人なので、緊急対策としての臨時接種の対象とは考えていない」という寝ぼけた発言は、いったいなんなのでしょう?
 患者数・死亡者の数字だけしか見ていない。
 あまりの無知・無理解に憤りさえ覚えます。
 CRSという「生き地獄」を味わうであろう子どもたちを思いやる気持ちが全く感じられない。
 次のCRS当事者の手記を読んでから出直していただきたい。

■ CRS文集「妊娠中に風疹になって

 医療者の感覚:

 国立国際医療研究センター国際感染症センターの大曲貴夫センター長は「目的はCRSをなくすことであり、ワクチンの数を維持することではない。今は非常事態。不足した場合は、ワクチンを輸入することも選択肢として議論すべきだ」と話す。

 ワクチン不足もこの流行を読めなかった行政の失態です。

 実は過去に今回の流行が予見できるエピソードがありました。
 日本では1990年代に幼児へのワクチンが定期接種化するまで、5-6年ごとに風疹が流行し、そのたびにCRSを数例出していました。
 定期接種化以降は目立った流行はなくなり一安心・・・と思いきや、2004年に4万人が感染し10例のCRSが発生するという、想定外の流行が発生したのです。このときの年齢層は10歳以上が中心であり、乳幼児ではありませんでした。
 この年齢層は風疹ワクチン接種の「谷間の世代」と呼ばれています。
 そしてこの「谷間の世代」が2004年の流行の主役であり、さらに今回の流行の主役でもあるのです。

 1970年代後半以降、将来妊婦になる中学生女子にのみ集団接種する英国方式が採用されていた日本ですが、流行がコントロールできないので1990年代前半に幼児期への接種(米国方式)へ切り替えられました。
 経過措置として中学生男女にも接種の機会が与えられましたが、その際義務接種・集団接種から勧奨接種・個別接種への切り替えも行われたため接種率が落ち込み50%に満たない年もありました。
 風疹に免疫を持たない感受性者たまり、積もり積もって2004年の風疹流行として現れたのでした。
 それを受けて当時の厚労省は一応研究班をつくり緊急提言を出しました。

風疹流行および先天性風疹症候群の発生抑制に関する緊急提言(2004年8月)
 この中で、以下の緊急提言がなされています;

1. 妊婦の夫、子供及びその他の同居家族への風疹予防接種の勧奨
2. 定期予防接種勧奨の強化
3. 定期接種対象者以外で風疹予防接種が勧奨される者への接種強化
1)10代後半から40代の女性、このうちことに妊娠の希望あるいはその可能性の高い女性
2)産褥早期の女性


 この内容は現在でも通用します。
 というより、この提言を守ってワクチン行政を行っていれば今回の流行はなかったはず。
 そう、この提言は「絵に描いたもち」で終わってしまっていたのです。
 行政の怠慢・無策というほかに言葉が見つかりません。
 感受性者がたまれば流行が起こるという現象を、2007年の大学生間での麻疹流行という苦い経験でも国が学習できなかったことが残念でなりません。
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HPVワクチンに関する園部先生のご意見

2013年06月19日 05時53分08秒 | 小児科診療
 ワクチン・予防接種の正しい知識の啓蒙を目的に創設された「KNOW*VPD」という小児科医中心の団体があります(私も会員の1人です)。その代表である園部先生の会員向けコメントを、許可が下りましたので一部改変してほぼ全文を紹介させていただきます;

■ HPVワクチン接種 の変更に関して
(2013年6月16日、文責:薗部友良先生)

 6月14日の厚労省の緊急通達にありますように、HPVワクチン接種に関して、従来のA類(以前の一類)の定期接種としての位置づけは変わりませんが、接種する努力義務が削除され、積極的に勧奨されていないワクチンと、一時的になりました。そして接種のメリットとデメリットをより分かりやすく説明するようにとなりました。

 以下は小生の私見ですが、背景になることを記します。小生もこのことを検討した厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会の薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会の委員として出席し、会の代表としてではなく、個人として色々意見を述べました。

 今回のことを理解するための基本は、日本の厚労省の副作用報告書に記載された例は、世界では有害事象例と呼ばれるもので、ワクチンとの因果関係のある真の副作用例と紛れ込み事故(ニセの副作用)例の両者が含まれております。因果関係の最終判定は専門家が行いますが、世界の常識として、有害事象報告例のほとんどは、重篤な症状を呈する例も含めて紛れ込み事故です。稀な副作用を見つけるために行われる調査ですが、このHPVワクチンは日本を除く国で、約1億5千万回使用されたもので膨大なデータが集積されております。
 その結果は、ほかのワクチンと同様に、ゼロリスクではあり得ませんが、この調査で安全性の高さが証明されております。多くのマスコミでは上記のことが報道されませんので、保護者の方が危険に思うのも無理からぬことです。報道は下記のことも含めて保護者が判断するのに必要な情報を総て記載すべきですが、残念ながらそうではないことが多いのです。

 まず、原因は何であれ、接種後に起こった子どものCRPS(複合性局所疼痛症候群)などの病気にお悩みのご本人及びご家族に深くご同情申し上げます。突然症状が出れば、どなたでもびっくりして、受診します。また、ご両親がHPVワクチンのために起こったと思うことも大変自然なことです。しかし、小生も慢性疼痛のことはある程度は知っておりましたが、特に子どものCRPSに関しては、この問題が起こるまで全く知りませんでした。患者さんが受診された医療施設でも戸惑ったのではないかと思われます。

 最終的に、大きな問題点はこの子どものCRPSが知られてないことと、専門医が少ないことになります。今後この点に関して小生は、先日の委員会に出席された成人の慢性疼痛の専門家に、是非子どものCRPSの専門家の先生を研究班などに加えて頂き、研究、治療体制の拡充をお願いしております。これは当然厚労省にお願いしていることにもなります。また、VPDの会としましても何かお手伝いできることはないかと模索しております。

 さて、HPVワクチン接種後の血管迷走神経反射による失神と子どものCRPSに関して、ご両親に説明するための客観的な情報を記します。

 失神も、子どものCRPSも、これはHPVワクチンだけで起こるものではなく、他のワクチンでも、献血や採血でも、その他の学校や家庭の生活上のことでも起こるものです。失神に関しては、HPVワクチンが痛いという噂が大変広まっており、そのために緊張します。時には、接種前に失神した例も報告されております。しかし、多くは接種が終わってほっとして緊張がとれた時に起こります。失神は女性に多く見られ、接種年齢が好発年齢と重なることも関係すると思います。ですので、これは基本的にワクチンの内容成分のためではなく、針を刺すという接種行為によって起こるものです。

 同じことが子どものCRPSについても言えます。すなわち、これもHPVワクチンだけで起こるものでは無く、他のワクチンでも、献血や採血でも、その他の学校や日常の生活上のことでも起こるものです。日本の献血での健康被害報告にもCRPSの記載はあります。これらの点がマスコミ報道では出ていないことが多いので、是非保護者の方に伝えていただきたいことです。

 次に、接種中止にするかどうかなどの判断のことです。

 幸いなことに、接種中止にはなりませんでした。国際的な中止する条件とは、世界で知られていない未知の重篤な副作用や有害事象が多発した場合です。接種後のCRPSに関しては世界中で報告されており、英国では接種後に6例でているとのことです。しかし、自然発生のCRPSと比べて、発生頻度に差がないとのことので、接種中止にはなっていません.米国では、多分同じ症状の人を、CRPSでは無く、RSD(reflex sympathetic dystrophy)と分類しており、7例報告が有り、その他の国でも起こっております。

 ですので、今回も接種を中止したり、制限する条件には当たらないと小生は主張しました。しかし最終採決は3:2で、結果は上記の通りになりました。

 制限した理由の一つに、未回復の方がおられることが問題とされました。基本的に慢性疼痛の一種ですので、お気の毒ですが、回復に時間のかかることが多いと思います。ですが、時間はかかりますが最終的な予後は悪いものでは無いことが有り難い点です。ただしこれは、あくまでも専門家がしっかりと治療した場合ですので、その体制作りが大切になります。

 いずれにしましてもこの積極的勧奨接種の中止がワクチン全体の信頼性に影響を及ぼして、他のワクチンの接種率が下がることが懸念されます。

※ HPVワクチンの安全性について
 米国では、接種後の被害救済制度であるVICP(Vaccine Injury Compensation Program)の、補償基準の一覧表には、HPVワクチンでは対象になる副作用はないと記載されております。しかし、実際には接種行為により失神などが起こった際も拡大適応されているようです。

 日本での副作用問題の続きとしまして、アデムとギラン・バレー症候群が重大な副作用として、時期はずれましたが、両ワクチンの添付文書に記載された件です。米国の中立的医学団体であるIOM(Institute Of Medicine of American Academy) が副作用問題に関して幅広く詳細に調査をしております。厚い報告書の本もありますが、インターネットで要約だけを見ることも簡単にできます。
 ここでは、ワクチンとこの両疾患に関して、確実に関係するとは記載されておりません。また、今年の医事新報の3月30日号のワクチン特集号の中に、岡田賢司先生がワクチンの安全性に関して記していますが、「この両疾患とワクチンとの関係に関しては、必ずしも明らかでない」と記載されております。

 すなわちアデムで言えば、どのワクチン接種後に見られております。しかしワクチンの内容は総て違い、共通成分は水分だけです。また接種後の発生頻度は、小生の知る限り、自然発生頻度とほぼ同じで、少なくとも有意に超えるものではありません。2005年の日本脳炎ワクチン接種後のアデムに関して、WHOの専門家委員会から、「日本政府の言う旧型日本脳炎ワクチン接種とアデムの発生の関係に関して、エビデンスは無い。」との声明文が出されましたが、政府は方針を長い間変えなかった事実があります。
 ギラン・バレー症候群も多くの種類のワクチン接種後に見られ ます。ただし、これも知る限りは、自然発生頻度を超えるものでは無いので、「関係は必ずしも明らかでない」になるのです。すなわち、紛れ込み事故の可能性が極めて高いものです。

 これらの点をご理解いただき、日本の子どもを予防可能の子宮頸がんから守るためにご尽力いただければ有り難いです。また希望者への接種時には、子宮頸がん検診の大切さも合わせてご指導下さい。また、失神による障害の防止にもご注意下さい。

 なお、接種を開始した方が、今回のことで次の接種の時期が遅れる場合の対処法です。遅れた場合はなるべく早く追加接種を行いますが、回数はすでに接種した分を含めて合計3回です。2回目と3回目の間隔はブースター効果で抗体価を高めるために、原則として各ワクチンの規定間隔通りにします。


■ CRPS 複合性局所疼痛症候群の理解について 薗部私案
(2013年6月18日、文責:薗部友良先生)

 極めて簡単に記しますので、詳しくはCRPSの文献などをご参照下さい。あくまでも専門家でない、小生の理解(私案)です。

 原因は何であれ、この病気を持たれた方及びご両親に深く同情致し、早期の回復をお祈りします。

 ある痛み刺激で、それと比較して極めて強い痛みとその他の症状を長く伴うものをCRPS1と呼びます。その引き金になる痛みには、強いものだけでなく、いわゆる軽度の痛みのこともあります。ですので、あらゆる種類のワクチン接種、採血、日常でも起こる痛みでもその引き金になり得るのです。
(神経損傷があった場合は、CRPS2と分類されます。)

 成人の場合も世界中で統一的な分類は一応ありますが、実際は色々複雑で、未確定の部分も多いと日本の専門家も話されております。

 成人の診断基準は、触られた時に起こる強い知覚過敏(アロディニア)、皮膚や左右の腕の温度差、腕や指の太さが異なる、浮腫や発汗、可動域制限などで、客観的に変化をとらえることが出来るとされます。
 また、治療研究の施設のネットワークもあります。

 この判定基準から見ると、5月の副作用検討会で、報告されたHPV接種後のCRPS疑い例は、参考人である成人の慢性疼痛の専門家の委員から、「 総てその基準に当てはまらない」 とされました。
 ではどういう診断名が的確なのでしょうかとの質問に対して、「明確な病名を付けられないが、類似疾患でしょう。」とお答えになっていたと小生は理解し ています。

 それに対して、子どものCRPSの専門家のご意見を記します。診断の基準は、大人のものとは異なるとされ、適応範囲が広いと思われます。

① きっかけになる事件(種類を問わないワクチン接種、採血、その他)がある
② それにより起こった痛みよりも、その後の痛みは異常に強く、長く続く
③ 手のむくみ、赤くなる、汗の異常などが見られる
④ ほかの病気では、この病状を説明できない

 その他の特徴としては、

・痛みは移動して、全身に広がることもあり、緊張、気温の変化、運動などで強まる
・普通の血液検査や画像検査などでは異常はでない
・治療は簡単でなく、現時点では運動療法を中心にいろいろな治療法を組み合わせるのが良いとされる
・治療に時間はかかるが、予後は良さそうである

以上です。
 
 ですので、世界中でHPVワクチン接種後例 (当然他のワクチン接種後例も)が報告されていますが、診断基準も、その他の状況も違うと思いますので、その発生頻度を単純には比較できないのは事実だと思います。
 今回日本で 精密な調査を行うことは極めて大切で、その実態がある程度ですが明らかになると思います。ですが、その際も診断基準をある程度明確にして、この病気を診ておられる小児関係の先生の診察も必要かと思います。

 いずれにしましても、現在は子どものCRPSの正しい概念を多くの医師に知っていただくことがまず大切です。また、医師がこの病気を疑われても、どの医療機関に紹介したら良いのかが分からないの が現状です。その理由は、子どもの専門医が少ないとされますので、専門医を増やす努力、政府の慢性疼痛の研究班などでの子どものCRPSに対する研究体制の充実が早急に望まれます。

 痛みの問題は人類の宿命で、広い意味で慢性疼痛の方は国民の15%に見られて、 その半数以上は、原因が画像診断を含めて判明しないとされますので、大変難しいと感じております。



 私が感じる今回のHPVワクチン副反応問題の根っこは、
・接種担当医師がこの病態を理解していないので十分な対応ができておらず、有症状者が医療不信に陥っている要素が少なからず存在する。
・CRPSは「痛み」が原因でありワクチン成分が原因ではないことを国民が理解していない。

 という接種者・被接種者双方の理解不足だと思います。

 対策は「理解を深めること」に尽きます;
・医師がCRPSを理解し、発生した場合は迅速で適切な措置を取れるよう啓蒙が必要である。
・HPVワクチン中止を訴える方は「有害事象」と「副反応」を区別して冷静に考えていただきたい。「副反応」による接種中止は当然あり得るが、「有害事象」をもって接種中止を叫ぶと、本来の意義を理解して接種を希望する方々の権利の剥奪につながることを認識して欲しい。


 以上です。

★ CRPS(複合性局所疼痛症候群)に関する参考資料;
子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)副反応報道について(日本産婦人科医会)
複合性局所疼痛症候群(堀内行雄)
CRPSの診断と治療(厚労省CRPS研究班、2008年)
注射・採血時の神経損傷に注意!(民医連)
RSD あるいは CRPS の認定・評価について(藤村和夫)
CRPSに関する講義スライド資料(大阪大学)
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HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)、積極的勧奨中止

2013年06月17日 06時23分48秒 | 小児科診療
 2013年6月15日に件名のニュースが流れました。

 HPVワクチンについては、従来から接種後の「失神」が話題になっていましたが、これは注射という痛みを伴い医療行為に対する不安の結果であり、元々失神を起こしやすい年齢の女子に行うため避けがたい有害事象と考えられてきました。
 注射するワクチン成分が原因ではないので「副反応」とは呼ばず、接種後のトラブル全般を指す「有害事象」というわかりにくい用語をあえて使うのですね。
 
 今回の「積極的勧奨中止」という措置は2005年に日本脳炎ワクチンになされたものと同じで、「希望すれば無料で接種可能、でも国が勧めているわけではないので自分で判断して受けてください、何かあっても恨まないでね」という腰の引けたスタンスです。
 
 では、今回はどうしてHPVワクチンが「積極的勧奨中止」になったのでしょうか?
 その理由を説明できる人は少ないと思われます。
 厚労省作成のリーフレットを読んでもよくわかりません。

 その原因は「慢性局所疼痛症候群」(Chronic Rigeonal Pain Syndrome, CRPS)という有害事象です。
 この病気と診断された患者さん家族たちが被害者連絡会を立ち上げ、厚労省に抗議したのが始まりです。

 この病名、私も初耳でした。
 調べてみると「外傷・骨折・注射針などによる組織損傷後に、原因の程度とは不釣り合いな強い痛みが長期にわたって持続する慢性頭痛症候群」と定義されています。
 ちょっと言葉が硬いですが、痛みが発生した場所だけではなく全身に広がり長く続くという不思議な病態です。症状も痛みだけにとどまらず、むくみや皮膚温の変化、汗の出方も変わるようです。

 定義によると、予防接種だけではなく採血でも起こりますし、ネットで検索すると交通事故例も多いようです。
 つまり、この病態もワクチン成分が直接の原因ではなく「注射行為」が原因となります。
 日赤の献血では50万人に1人の頻度(0.0002%)で起こると報告されています。
 HPVワクチンでは今のところ830万接種で3例(0.000036%)

 小児科医である私の視点では、ワクチン成分が原因なら「接種中止」も頷けますが、違うのに中止とはいかがなものか、と考え込んでしまいます。
 ま、その辺の事情が「完全中止」ではなく「積極的勧奨中止」という玉虫色の方針にとどまった理由なのでしょう。

 振り返るとHPVワクチンが認可された経緯は、学会が強く要望したものではなく民間から(女優の訴え?)始まったものであり、医師からみると見切り発車的要素がないわけではありません。
 一度立ち止まって「本当に必要なのかどうか」を国民1人1人が考えるよい機会と捉えることも可能かと。

 さてこのCRPS、当然海外でも報告されています。
 しかし現実として、欧米では定期接種化後5年が経過し億を超える回数が接種されてきましたが、安全性への懸念により承認が取り消された国はありません。
 「KNOW*VPD」の顧問で今回の厚労省専門会議の委員でもある園部先生のコメントには、

接種後のCRPSに関しては世界中で報告されており、英国では接種後に6例でているとのことです。しかし、自然発生のCRPSと比べて、発生頻度に差がないとのことので、接種中止にはなっていません.米国では、多分同じ症状の人を、CRPSでは無く、RSD(reflex sympathetic dystrophy)と分類しており、7例報告が有り、その他の国でも起こっております。

 という文言があります。

 自然発生と比較して差が無い・・・ピンとこない表現ですねえ。
 言葉を換えると、ワクチンを接種した人達と接種しなかった人達の間で、問題となっている病気の頻度に差が無いということです。
 すると誰が考えても「その病気はワクチンが原因ではない」という判断になりますね。
 これはMMRワクチンと自閉症との関連が疑われた際にも使用された統計学的手法です。

 日本でも冷静かつ科学的に判断可能なデータを提示し、国民が納得して接種できるようにしていただきたいと思います。
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磯山神社のあじさい祭り

2013年06月17日 06時00分33秒 | 日記
 昨日、宇都宮へ行く用事があり、帰り道途中にあった磯山神社のあじさい祭りに寄りました。
 満開とまではいきませんが、梅雨の季節の風情を楽しめました。
※ 磯山神社は、大ヒット映画「恋空」のロケ地にもなりました{新垣結衣さん主演(公開2007年)}。









 また、「茅の輪くぐり」で健康を祈願してきました。

 この神社は氏子さん達の活動が盛んで、数ヶ月前に御神木(樹齢500年のスギ)を見に来た時もおじさん達が境内の掃除をしていました。しあわせな神様ですね。

 拝殿前に小さな土俵を見つけたので氏子さんに尋ねると、秋には子どもたちの奉納相撲もあるそうです。
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