徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

インフルエンザ治療指針2019(日本小児科学会)

2019年10月27日 08時19分58秒 | 小児科診療
 待ちに待った、日本小児科学会のインフルエンザ治療指針が公表されました。

2019/2020 シーズンのインフルエンザ治療指針

 まず、抗インフルエンザ薬の種類と適応年齢の一覧表を;



 注意事項はこちら;

*)平成29年3月24日に公知申請により承認されたオセルタミビルの投与は生後2週以降の新生児が対象である。体重2500g未満の児または生後2週未満の新生児は使用経験が得られていないため、投与する場合は、下痢や嘔吐の消化器症状やそのほかの副作用症状の発現に十分注意する。原則、予防投与としてのオセルタミビルは推奨しない(海外でも予防投与については1歳未満で検討されていない)。ただし、必要と認めた場合に限り、インフォームドコンセントのもと予防投与(予防投与量:2mg/kgを1日1回、 10日間内服)を検討する。

**)就学期以降の小児・未成年者には、異常行動などの有害事象について注意を行った上で投与を考慮し、少なくとも発熱から2日間、保護者等は異常行動に伴って生じる転落等の重大事故に対する防止対策を講じること、について患者・家族に対し説明を行うことが必要である。平成30年日本医療研究開発機構(AMED)研究班の検討によりインフルエンザ罹患後の異常行動がオセルタミビル使用者に限った現象ではないと判 断し、全ての抗インフルエンザ薬の添付文書について副作用の項に「因果関係は不明であるものの、インフルエンザ罹患時には、転落等に至るおそれのある異常行動(急に走り出す、徘徊する等)があらわれることがある。」と追記している。

***)ラニナミビル懸濁液「イナビル吸入懸濁用160mgセット」が2019年6月に承認され、 使用可能となる見込みである。同薬の使用については当委員会では十分なデータを持 たず、現時点では検討中である。



 昨年(2018年)、10代への使用が再開されたタミフルは、全年齢に推奨される薬になりました。
 吸入剤(リレンザ®、イナビル®)は具体的な年齢は書かれておらず「吸入が出来ると判断された 場合に限る」という表現にとどまります。当院では小学生以上に推奨しています。
 点滴剤のラピアクタ®(ペラミビル)は「内服・吸入剤の使用が困難なときに考慮する」とあり、第一選択になっていません。

 さて、興味は「ゾフルーザ®」(バロキサビル)の扱いです。
 解説は長文ですが、結論は以下の文章に簡潔にまとめられています。

同薬の使用経験に関する報告が少ない事や薬剤耐性ウイルスの出現が認められることから、当委員会では 12 歳未満の小児に対する同薬の積極的な投与を推奨しない。

 使用は許可されているが、お勧めはしない・・・
 これを読んで私は苦笑してしまいました。
 予防接種における「積極的勧奨の停止」と同じスタンスに思えたからです。

 例えば、現在問題になっている子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)。
 定期接種として無料接種可能ですが、国(厚生労働省)はお勧めはしない・・・

 この姿勢を、小児科医は非難してきました。
 しかし今回、自ら同じような方針を発表するという行為に出たのです。

 なんだかなあ・・・。

 結局、日本感染症学会の提言も日本小児科学会の方針も、「現場の判断&自己責任でやってください」以上の情報は得られませんでした。
 こんなに宙ぶらりんな方針しか出せないなら、認可する前にもっと十分な検討が必要だったのではないか、と批判されても仕方がありません。

 ゾフルーザ®とHPVワクチンの認可に際して共通することは“見切り発車”的要素が見え隠れすることです。
 ゾフルーザ®は発売前から耐性化が懸念される情報がありました。
 講演会では「その傾向はあるが、臨床的に問題にならない」との説明を私を含めた全国の小児科医が聞いたはずです。
 私は「大丈夫かなあ」と一抹の不安を覚えていました。
 そして蓋を開けてみると、結局“耐性化問題”で振り回されるというありさま。

 HPVワクチンも、その認可は“寝耳に水”的タイミングでした。
 小児科医は長らく肺炎球菌ワクチン、ヒブワクチン、B型肝炎ワクチン、水痘ワクチン、おたふくかぜワクチンの定期化を厚生労働省に申請していました。
 しかしそれらに先んじて、いきなりHPVワクチンが定期接種になったのです。
 まあ、ついでに肺炎球菌ワクチン、ヒブワクチンも定期接種化というオマケがありましたが。
 多くの小児科医は「HPVワクチンって何?」と感じました。
 つまり、接種を受ける子ども達だけでなく、接種を行う小児科医にも周知されていないワクチンでした。
 それを一部の情報を元に認可してしまうなんて、うまくいくはずがありませんよね。
 現状がそれを如実に表しています。


 前項目で扱った、日本感染症学会の提言がHPにアップされました;

日本感染症学会提言「~抗インフルエンザ薬の使用について~」(2019年10月24日)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ゾフルーザ®使用指針 2019

2019年10月17日 06時55分19秒 | 小児科診療
 待っていた、日本感染症学会からのゾフルーザ使用指針が発表されました。
 内容は、

・12歳未満の子どもは耐性ウイルスが大人より多く検出される傾向にあるため「慎重に投与を検討する」
・12歳以上については「データが乏しく、現時点では推奨するかどうかは決められない」


 らしいです(まだ学会HPにアップされていません)。
 まあ、想定内の内容ですね。
 言い方を変えると、
 「ゾフルーザ®は耐性化しやすいので、第一選択薬にすべきではない
 ということです。

 日本小児科学会からも提言が発表されるはずですが、準じた内容になるのでしょう。


インフル新薬「ゾフルーザ」12歳未満への投与は慎重に
2019年10月17日:NHK
 昨シーズン、最も多く使われたインフルエンザの新しい治療薬「ゾフルーザ」を服用した患者から、この薬が効きにくい耐性ウイルスが出ていることを受け、日本感染症学会は12歳未満の子どもについては投与を慎重にするなどとした提言を新たにまとめました。
 インフルエンザの新しい治療薬「ゾフルーザ」は、耐性ウイルスが出やすいことが課題となっており、日本感染症学会は使用の在り方について議論してきました。
 学会が新たにまとめた提言によりますと、ゾフルーザについて、12歳未満の子どもは耐性ウイルスが大人より多く検出される傾向にあるため「慎重に投与を検討する」としたほか、12歳以上については「データが乏しく、現時点では推奨するかどうかは決められない」としています。
 塩野義製薬が開発したゾフルーザは、1回の服用で効果が得られるとして、去年、販売が始まると、最も多く使われるようになり、半年間だけでおよそ600万人分が出荷されました。
 ゾフルーザについて、学会は、広く使われてきた「タミフル」とは異なる効果があり、タミフルが効かない場合や、重症化が懸念される患者に使えるため、慎重に使用することで耐性ウイルスを広げないことが重要だとしています。
 新たな提言は、学会のウェブサイトに近く掲載されるということで、学会の関係者は「ゾフルーザが緊急時にも使えるよう使い方を考えるきっかけにしてほしい」としています。


 
 インフルエンザに関してはご意見番の菅谷先生も同意見で、
「ゾフルーザ®は外来診療レベルでは基本的に使う薬ではない」
 とコメントしています。


インフルエンザ 今季は早くも流行の兆し ワクチンや手洗いの徹底で感染予防を
2019年10月16日:読売新聞)より一部抜粋
・・・・・
◇ ゾフルーザ®は耐性ウイルスや副作用への注意
 また昨年には、新しいタイプの抗インフルエンザウイルス薬「ゾフルーザ」が登場した。従来薬とは作用の仕方が異なる「キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬」という薬で、タミフルが5日間服用するのに対し、ゾフルーザは1回の服用で済むこともあり、昨季は多くの患者に使われたとされる。
 しかし、ゾフルーザにはウイルスのアミノ酸変異を引き起こしやすい問題点が指摘されているほか、今年3月には、25例の出血関連症例(うち因果関係が否定できない症例13例)が発生して3例が死亡(同0例)したとの報告があり、添付文書の重大な副作用として「出血」が加えられた。
 ゾフルーザを販売する塩野義製薬は9月、海外の学会で発表した内容として、変異は低年齢小児患者で高く、ウイルスの型としては、成人・青少年・小児ともH3N2で高かったことなどを公表。流行するウイルスはシーズンによって異なり、耐性ウイルスの頻度もシーズンによって異なることが知られていることから、引き続き更なるデータ取得が必要であり、適切な情報開示に取り組むなどとしている。
 菅谷さんは、「ゾフルーザは効果の面ではタミフルと変わらないが、ウイルスの変異を起こしやすく、特にA香港型(H3N2)では小児の約25%、成人の約10%で耐性(低感受性)ウイルスが出現するうえ、出血の副作用などの問題もあり、私としては外来診療レベルでは基本的に使う薬ではないと考えている」と話している。


 ところがシオノギ製薬は猪突猛進中、使用制限など目に入らず、予防投与の適応を申請したというニュースも同時に流れています。


塩野義「ゾフルーザ」予防適応の追加を申請
2019.10.16:AnswersNews
 塩野義製薬は10月16日、抗インフルエンザウイルス薬「ゾフルーザ」(一般名・バロキサビル マルボキシル)について、予防適応の追加を日本で申請したと発表した。申請は、インフルエンザ患者の同居家族または共同生活者750人を対象に行った国内臨床第3相(P3)試験の結果に基づく。塩野義の発表によると、同試験でゾフルーザはプラセボに比べてインフルエンザの発症を86%減少させた。


<追記>
日本感染症学会の提言がHPにアップされました;
日本感染症学会提言「~抗インフルエンザ薬の使用について~」(2019年10月24日)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2019/20シーズンの「抗インフルエンザ薬」動向

2019年10月09日 05時44分41秒 | 小児科診療
 経済誌「日経ビジネス」でも、抗インフルエンザ薬「ゾフルーザ」について取りあげています。
 昨シーズンベストセラーになったものの、耐性化問題から(特に小児に対して)使用が制限される可能性に言及しています。
 ただ、私が待ち望んでいる学会の指針発表は10月末になりそう、と流行に対して後手に回ってしまいました。
 抗インフルエンザ薬に関して、今シーズンのポイントは、

① ゾフルーザの処方制限
② イナビル吸入懸濁液の登場

 が現場でどう扱われるか、ですね。

①に関しては、流行の型がA(H3N2)つまりA香港型の場合は処方を避けるべきでしょう。

②に関しては、5歳未満の乳幼児、また高齢者に使用されると思われますが、一つ困ったことが。
院内感染という問題が新たに発生するのです。
イナビル吸入混濁液はネブライザーを使用して吸入する薬です。
処置室で行うことになりますが、喘息の吸入同様、5〜10分時間がかかります。
そして流行期には、複数の患者さんが同時に吸入する状況も出てきます。
インフルエンザの型が同じならよいのですが、異なる場合(例えばA型とB型)、付き添い家族は感染してしまうリスク大(吸入している患者本人は守られますが)。
空間ではなく時間で隔離しようとすると、イナビル吸入を待つ行列ができそうです。
小児科医院の処置室が、インフルエンザ流行拡大の起点になるなんて、感染対策上許されません。

どうしたものか・・・。

インフル早期流行の裏で治療薬市場の勢力図に異変
2019年10月9日:日経ビジネス
古川 湧(日本経済新聞証券部記者)
 厚生労働省の10月4日の発表によると、沖縄県など6県でインフルエンザが流行の目安を超えている。例年より早いインフルシーズンの到来に製薬業界も対応を急ぐが、治療薬市場の勢力図は変わるかもしれない。昨シーズン、トップシェアの塩野義製薬の「ゾフルーザ」が失速するとみられているからだ。
 冬場の病気のイメージが強いインフルエンザが、早くも流行の兆しを見せている。厚生労働省の10月4日の発表によると、流行の目安を超えているのは沖縄県や鹿児島県、佐賀県など6県。前週発表時点で入っていた東京都は抜けたものの、「今年は例年に比べて、流行入りする時期が早まっている可能性がある」(感染症の専門家)。原因は定かではないが、海外旅行客の増加などが指摘されている。
 医療現場で強まる警戒。出番が早まるインフル治療薬に注目が集まるが、見逃せないのは市場での勢力図に変化が起きそうなことだ。
 インフル治療薬の国内市場は中外製薬の「タミフル」と第一三共の「イナビル」、塩野義製薬の「ゾフルーザ」の3剤で全体の約8割を占める。中でも2018年3月に発売したゾフルーザは、「1回飲むだけで効く」という手軽さから昨シーズンに需要が急増。予想の約2倍となる263億円を売り上げ、一時は工場を24時間稼働させても生産が追いつかないほどだった。
 タミフルやイナビルの売上高に対するインパクトも大きかった。タミフルは18年12月期に前期比36.7%減の107億円、イナビルは19年3月期に同28.1%減の182億円まで落ち込んだ。
 今シーズンも快進撃を続けるとみられた塩野義だが、目算が狂った。ゾフルーザが効きにくい「耐性ウイルス」に対する懸念が強まっているのだ。

◇ 医学会も投与抑制呼びかけへ
 インフル治療薬では一定の割合で耐性ウイルスが出現するが、ゾフルーザはその検出率が比較的高い。塩野義も低年齢の小児患者で耐性ウイルスの検出率が高かったとする調査結果を9月2日に公表している。仮に耐性ウイルスが市中に広がれば、どの薬を使用すべきか医師が判断しづらくなり、治療が遅れる可能性もある。
 こうした懸念から感染症に関する複数の医学会が10月末にも「小児患者へのゾフルーザの投与は慎重にすべき」との声明を出す見通し。これでゾフルーザは昨シーズンほどは使用されない公算が大きくなった。
 そうした中で、「ゾフルーザ越え」を虎視眈々(たんたん)と狙うのが第一三共だ。同社のイナビルはゾフルーザが登場する前は売上高でトップを走っていた。イナビルは口から吸い込むタイプの粉末薬で、1回吸うだけで効くのが最大の特徴だ。中外のタミフルは朝夕2回、5日間にわたって飲み続ける必要があり、利便性ではイナビルが上回る。しかも、タミフルでは、昨年から沢井製薬のジェネリック医薬品(後発薬)が参入し、以前よりも売り上げを見込みにくい状況になっている。
 さらに第一三共は、吸い込む力の弱い子供や高齢者でも吸引がしやすい新製品のイナビルを10月25日に発売する予定だ。液体のイナビルを霧状にして吸い込ませる製品で、同社の広報担当者は「寝たきりになっている患者の方など、従来掘り起こせていなかった市場を開拓していきたい」と語る。
 経済活動にも大きな影響を与えるインフルの大流行。治療薬を巡る健全な企業間競争が、大流行を防ぐ手立てとなるに越したことはない。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2020年10月、ロタウイルスワクチン定期接種化

2019年10月07日 17時27分33秒 | 小児科診療
 現在任意接種という設定のロタウイルスワクチンが、来年秋に定期接種化することが決まりました。
 乳幼児が罹ると嘔吐下痢の末に脱水になって入院することもあるウイルスです。

 ただ、朝日新聞の記事の中に「2種類のうち、どちらか一つのワクチンを接種することを原則、転居など事情がある場合は、2種類を組み合わせて接種してもよい」という文章を見つけて驚きました。
 現在使用できるロタウイルスワクチンは、ロタリックス®とロタテック®の2種類。
 この二つは「互換性がない」として、同じワクチンで接種を完了することが求められています。
 しかし、記事では混在してもよいという書き方。

ロタワクチン、0歳児に無料で定期接種 来年10月から
(2019年9月26日:朝日新聞
 乳幼児の重い胃腸炎の原因になるロタウイルスのワクチンについて、厚生労働省の部会は26日、来年10月から原則無料で受けられる定期接種とする方針を決めた。対象は2020年8月以降に生まれた0歳児で、計2~3回接種する。
 定期接種の対象となるワクチンは、「ロタリックス」と「ロタテック」の2種類で、いずれも飲むタイプ。2種類のうち、どちらか一つのワクチンを接種することを原則とした。転居など事情がある場合は、2種類を組み合わせて接種してもよいとした。
 それぞれの接種対象と方法は、ロタリックスは生後6~24週に4週間以上の間隔をあけて2回、ロタテックは生後6~32週に4週間以上の間隔をあけて3回接種する。ほかの予防接種の開始時期や副反応のリスクを踏まえ、初回の接種はいずれも生後2カ月~14週を推奨するとした。
 ロタウイルスは感染力が強く、5歳までにほぼ全ての子が感染する。患者の便に触った手などから口に入り、下痢や嘔吐(おうと)、腹痛などを起こす。抗ウイルス薬はない。通常1~2週間で自然に治るが、免疫がない子どもは重症化しやすい。(土肥修一)


 次に、医療関係者限定のHPから一部を抜粋します。
 上記と同じく、ワクチン接種開始後、転居などにより他の自治体で接種継続することになった場合、その自治体が別の種類のワクチンしか用意していなかったら・・・という疑問に対する答えの部分。

定期接種では、原則としてどちらか1種類の製剤で接種を完了することとしている。ただし、自治体によってはどちらか1種類の製剤だけを備蓄している可能性もあるため、初回接種後に、別製剤のみを備蓄している自治体に転居した場合など、同一製剤で接種を完了できなくなった場合は例外となる。ワクチンの互換性に関して安全性と有効性が確立されていない組み合わせもある。事務局は「基本的には自治体にご判断いただきたい」としつつも、どちらの製剤を接種したか不明だった場合などを含め、再度整理するとした。

 こちらも2種類のワクチンが混在することを否定していません。
 そしてなんと、責任は現場に丸投げ!?
 1年後に開始するまでに、ぜひ現場が納得して接種できるよう整理していただきたいと思います。


ロタウイルスワクチンの定期接種化、来年10月に開始
第34回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会

2019/9/27:日経メディカル
・・・・・
 ロタウイルスワクチンの定期接種化については、ワクチンの科学的な評価としては「定期接種化が妥当」とされていたが、費用対効果が「良好ではない」とされ、製造メーカー2社にワクチン価格の引き下げについて打診していた(関連記事:ロタウイルスワクチンの定期接種化は費用が課題)。これは9月13日に開催された第33回の同部会において、非公開で話合われた結果、一定の価格低減には応じるとの旨の回答があったため、2020年10月1日から定期接種化を開始することとなった。今回は、具体的な規定や接種の実施方法について審議した。

 事務局が提示した論点は、表1の通り。


表1 ロタウイルスワクチン定期接種化に当たっての論点
(出典:同部会資料1「ロタウイルスワクチンについて」より)

 定期接種の対象者や接種方法については、添付文書通りとなっている。標準的な接種期間について、案で「初回接種は生後2カ月から」となっていることについて、独立行政法人国立病院機構本部総合研究センター長の伊藤澄信氏は「保護者の仕事の都合などで、2カ月に数日満たない時期に接種しに来てしまった場合、定期接種として認めない自治体もあると聞いている。標準的な接種期間の開始時期も、添付文書の生後6週に合わせてはどうか」という意見があった。
 これに対し、国立感染症研究所感染症疫学センター第三室長の多屋馨子氏は、「法的には生後6週からの接種が認められているので、問題にはならないことを伝えていきたい。ただし、ヘモフィルスインフルエンザ菌b型(Hib)ワクチンや小児の肺炎球菌ワクチンなどの接種時期が生後2カ月からとなっているので、同時接種などで間違いが起こりやすくなったり、生ワクチンの接種間隔調整のため他のワクチン接種に当たって混乱が起こると考えている。標準的な接種期間は生後2カ月とし、生後6週で接種しても問題ないことも併せて伝えるのがいいのではないか」と話した。この点を踏まえて、標準的な接種期間は案通りで了承された。
 継続審議となったのは、同一の製剤で接種を完了できなかったケースの対応についてだ。ロタウイルスワクチンはロタリックスとロタテックの2製剤があり、接種期間や接種回数が異なる。定期接種では、原則としてどちらか1種類の製剤で接種を完了することとしている。ただし、自治体によってはどちらか1種類の製剤だけを備蓄している可能性もあるため、初回接種後に、別製剤のみを備蓄している自治体に転居した場合など、同一製剤で接種を完了できなくなった場合は例外となる。ワクチンの互換性に関して安全性と有効性が確立されていない組み合わせもある。事務局は「基本的には自治体にご判断いただきたい」としつつも、どちらの製剤を接種したか不明だった場合などを含め、再度整理するとした。
 また、ロタウイルスワクチンを接種後に吐き出した場合の対応について、案では「再投与の有効性などについて検討されていないことを含め、再接種は行わないこととしてはどうか」と提示されていた。これについて日本医師会常任理事の釜萢敏氏は「吐き出した場合はメーカーや医療機関の厚意によって再接種が行われることが多かった。定期接種では再接種は行わないという方針を打ち出すのであれば、これまでの現場での運用とは異なるため、しっかり周知しなければならない。現場としては、吐き出した場合に再接種できる仕組みが必要という印象ではある」とコメント。事務局が再度検討を行うこととなった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

何歳まで小児科でいいんですか?

2019年10月06日 22時25分47秒 | 小児科診療
 よく患者さんから受ける質問です。
 開業医の私は「20歳までOKです」と答えています。
 その心は「成長過程は小児科、体が完成してから徐々に壊れていく過程は内科」というもの。

 ただし、勤務医の時は違いました。
 病院では「中学生までは小児科、高校生以上は内科」と自動的に振り分けられてしまいます。

 なんだか中途半端ですね。
 つまり、大人でもない子どもでもない思春期のティーンズは、受診する科が定まっておらず、さまようことになってしまいます。
 視点を変えると、腰を据えて思春期を診る医者がいない、という事実があぶり出されます。

 はて、諸外国ではどんな風になっているんだろう、と素朴な疑問が頭をもたげます。
 こんな記事を見つけました。

小児科受診は何歳まで? 115カ国の小児科医に聞いてみた
2019年10月04日:MedicalTribune
 医療における小児の定義は何歳までなのか。この疑問に答えるべく、オーストラリア・Murdoch Children's Research InstituteのSusan Sawyer氏らによる国際チームが、小児科医療の対象となる上限年齢について、世界の小児科医にオンライン調査を行い、結果をLancet Child Adolesc Health(2019年9月18日オンライン版)に発表した。それによると、各国で上限年齢が大きく異なっていたが、多くの国で理想とされる19歳に届いておらず、世界的に思春期層の医療需要に応えられていないという実態が明らかになった。

◇ 臨床実態の把握を目指し1,300人以上から回答を得る
 これまでの研究から、世界の医療システムは思春期層の需要に十分対応していないことが示されている。Sawyer氏は「しかし、小児科医は思春期層に対して年齢に適した医療を提供できる立場にある。思春期医療の訓練を受けている場合は特にそうだ」と指摘。同氏によると、世界保健機関(WHO)は、思春期(adolescents)を10~19歳と定義しているが、小児科で実際に診療している年齢層が各国・地域でどのように異なるのかに関する研究はほとんどないという。
 今回の研究では、世界中の小児科医に電子メールで調査への参加を呼びかけ、115カ国の1,372人から回答を得た。各国の小児科関連団体に問い合わせて一義的な回答を得るという方法を取らずに、できるだけ多くの小児科医から回答を得て、臨床における実態と各国・地域内での認識のばらつきについても把握することを試みた。

◇ 南アの11.5歳から米国の19.5歳まで大きなばらつき
 小児科医の回答を集計した結果、小児科診療の平均上限年齢について、国により著明な差が認められた。上限が最も低かったのは南アフリカの11.5歳で、同国では思春期は小児科領域に含まれないようであった。一方、最も上限が高かったは米国の19.5歳であった。また、オーストラリアとニュージーランドは医療システムが類似しているにもかかわらず、平均上限年齢はそれぞれ17.8歳、15.6歳と格差が見られた。日本を含む東アジアでは18.1歳であった。高所得国においては、上限年齢が高いことと、思春期層の疾患負担が幼児(5歳未満)に比べて高いことが関連していた。
 望ましいとされる上限年齢については、各国の医師の間でも意見の相違が見られた。過去20年間に小児科診療の平均上限年齢は上昇しているが、現在の世界の平均上限年齢は17.4歳(±2.5歳)で、現状では望ましい上限年齢の平均18.7歳(±2.6歳)に追い付いていない(P<0.0001)。上限年齢の経時的上昇の主な理由として、思春期層の健康に対する認識の高まり、専門団体による指導などが挙げられた。Sawyer氏は「上限年齢について、国により著明な差が見られ、残念なことに平均上限年齢が(WHO定義の)19歳であった国はごくわずかであった」と述べている。

◇ 思春期医療の教育は世界的に不十分
 今回の調査からは、小児科研修における思春期医療教育の質が、大半の国で不十分であることも分かった。Sawyer氏は「小児科領域は歴史的に幼小児に焦点を当てており、思春期層は軽視されることが多かった。しかし、公衆衛生上の介入と医療の進歩により著明な低下が見られるものの、思春期層の疾患負担は小児より複雑で、以前からあまり変化していない。WHOの推計によると、年間100万人以上の思春期の若者が死亡している」と指摘している。
 現在、若者は糖尿病や喘息などの慢性疾患、精神障害、貧血、肥満の増加、対人暴力、下痢性疾患、気管支疾患、薬物・アルコール乱用、性感染症、交通外傷など、小児と成人双方の健康上の負荷に直面している。同氏は「思春期医療研修への投資が最も必要な国は、上限年齢が低い国、思春期人口が多い国、上限年齢がごく最近上昇した国だろう。しかし、世界的に思春期医療研修の質は低く、その向上に対する投資は不可欠である」と述べている。


 世界の状況も同様なのですね。
 将来を担う若者達が身体の不調を抱えていても、それを診療する科が決まっていないというのは問題です。
 とくに思春期はこころの問題が絡んでくるので、専門性も要求されます。
 私のようなアラ還世代の小児科医は、子どもの体の病気は教育を受けて経験もありますが、正直申しまして、“こころの問題”は不得手です。
 これからの医学教育に反映させる必要があると思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2019.10.6、早くもインフルエンザ流行がはじまる

2019年10月06日 19時28分19秒 | 小児科診療
 流行が始まりつつある2019年のインフルエンザ。
 当院では明日10月7日からワクチン接種をはじめる予定です。

 関連記事を2つ紹介します。
 やはり「流行開始の早さ」「始まりは沖縄」を問題視していますね。

 また、現時点での流行型は、
・A(H1N1)pdm:73%
・A(H3N2)亜型:17%
・B型:10%

 という情報も得られました。

インフルエンザワクチンを早く打つべき人は?
2019.10.6:ヤフーニュース
忽那賢志 | 感染症専門医
◇ 今年のインフルエンザは2ヶ月早い
 今年はインフルエンザが例年よりも早く流行の兆しを見せています。
特に沖縄県では定点あたりの患者報告数が34.72と警報レベルとなっており目立っていますが、東京都も第38週(9月16日から9月22日)の患者報告数が、流行開始の目安となる定点当たり1.0人を超えました。
 例年インフルエンザは12月から3月にかけて流行しますが、今年は約2ヶ月早いペースで流行が始まっており早めの対策が必要です。毎年インフルエンザワクチンは12月くらいに打っている、という方も今シーズンは早めの接種をお勧めします。

◇ インフルエンザワクチンの効果の考え方
 私は毎年患者さんにインフルエンザワクチン接種をお勧めしていますが、ときどき「インフルエンザワクチンを打ってもどうせインフルエンザには罹るから毎年打っていない」とおっしゃる方がいらっしゃいます。
 確かにワクチンを接種してもインフルエンザになる方はいらっしゃいますが、ワクチンを打っていないヒトよりもインフルエンザにはなりにくいことが分かっています。
 例えばですが、ワクチンを打っていない集団300人と打った集団300人とを比べた場合に、その年最終的にワクチンを打っていない集団では100人がインフルエンザに罹ったけど、ワクチンを打った集団では40人しかインフルエンザに罹らなかったという場合に、この60人の差がワクチンの効果ということになります(数字は例えです)。人によってはワクチンの効果を感じにくいことがありますが、広い目で見ればワクチンには間違いなく予防効果があるのです。
 また、インフルエンザワクチンは接種することによって、罹ったとしても重症化を防ぐことができます。
 10月からインフルエンザワクチンの接種が全国の医療機関で開始されていますが、まずは特に重症化するリスクの高い高齢者、妊婦さん、ステロイドなどの薬を飲んで免疫が弱っている方などはインフルエンザワクチンを接種することが強く推奨されます。

インフルエンザに罹ると重症化しやすいためワクチン接種が強く推奨される方

米国疾病予防管理センターの推奨(MMWR Recomm Rep 2013; 62:1.)を元に筆者作成


◇ 集団免疫とは
 またこのような重症化しやすい方と一緒に住んでいる人、接する頻度の高い人も自分の家族や大事な人にインフルエンザをうつさないためにワクチン接種が推奨されます。ワクチンには集団免疫と言って自分がワクチンを接種することによって自分だけでなく周りの人を守る効果もあります。
 持病のない若い人のワクチン接種率が高い集団では高齢者のインフルエンザ発症率が低くなるとされています。自分のためだけでなく、自分の家族や大事な人を守るためにもインフルエンザワクチン接種しましょう。

集団免疫の効果

(Wikipediaの画像を翻訳)



今年の「インフルエンザ」ちょっと気になる兆候が
2019.10.6:ヤフーニュース)より抜粋
石田雅彦 | ライター、編集者
 そろそろ秋風も冷たくなってきた。季節の変わり目で体調を崩す人も増えているが、今年のインフルエンザは例年より早めに流行するかもしれない。過去10年の患者報告数から気になる兆候が見えてきた。

◇ 2009年と同じような傾向
 厚生労働省は2019年10月4日のプレスリリースで、インフルエンザの発生状況について発表した。それによれば、2019年のインフルエンザは例年より早い定点当たり報告数(※1)の増加が見られ、インフルエンザ流行レベルマップを通した情報提供の開始を早めることにしたという。
 厚生労働省(国立感染症研究所)の調査によれば、2019年39週(9/22~9/29)の定点当たり報告数は0.92で前の38週の1.16より減少した。減少しているのになぜ情報提供の開始を早めるのだろうか。
 これは今年と例年との違いが理由だ。今年は世界的なインフルエンザのパンデミックに襲われた2009年ほどではないが、8月下旬あたりから定点当たり報告数が増えている。これは過去10年間を比較したものだが、2009年以外の年は早くても43週(10/27~11/2)あたりから増え始めているので、今年は約2ヶ月も早くインフルエンザの発生増加が始まっていることになる。
 確かに、今年は夏休み明け前後から全国の小中学校でインフルエンザによる学級閉鎖が行われた。例年にはないことで、厚生労働省もインフルエンザ・ワクチンの早めの手配にも動き出したようだ。

◇ 早めのワクチン接種が肝要
 では、なぜインフルエンザは今年、早く流行の兆しを見せているのだろうか。これは沖縄県での発生数が大きく増えたことが影響していると考えられる。
 インフルエンザの流行パターンは、沖縄のような亜熱帯・熱帯と本州のような温帯のように、気候帯によって地域的な違いがあることが知られている(※2)。また、感染者が増える冬場に例年より感染者が少なかった場合、温かくなってもインフルエンザウイルスに感染しなかった人が多くなり、流行が維持されて発生が早まることもあるようだ(※3)。
 沖縄県では、夏休みに入る頃からインフルエンザの定点当たり報告数が増え始めている。感染した旅行者がインフルエンザウイルスを持ち帰り、本土でも発生数が増えてきたのかもしれない。
 厚生労働省によれば、今年の国内のインフルエンザウイルスは、ヒトA型のAH1pdm09が73%、AH3亜型が17%、ヒトB型が10%だという。AH1pdm09は2009年に世界的なパンデミックを起こしたウイルスで、2009年は上のグラフにあるとおり、10~12月に発生のピークがある。こうした点でも今年は要注意だ。


※1:定点当たり報告数:医療機関数に応じた感染症の平均報告数のこと。感染症法に基づいて報告される感染症のうち、インフルエンザや流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)などの24種類に関しては、医療機関の中から選んで報告の協力をしてもらっている定点医療機関からの報告を算定している。対象となる感染症について、1つの定点医療機関当たりの平均報告数が定点当たり報告数ということになる。例えば、東京都には419カ所(2019年10月現在)のインフルエンザ定点医療機関があるが、ある週のインフルエンザの報告数が500人だった場合、500/419=1.19というのが定点当たり報告数
※2:Satoko Sunagawa, et al., "An Epidemiological Analysis of Summer Influenza Epidemics in Okinawa." Internal Medicine, Vol.55, 3579-3584, 2016
※3:久場真由仁ら、「沖縄県における2016/17シーズンのインフルエンザ流行の特徴」、沖縄県衛生環境研究所所報、第51号、2017


 細かいことですが、インフルエンザの型の表記がちょっと・・・正確には、
 A香港型→ A(H3N2)
 2009年パンデミック型→ A(H1N1)pdm
 です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2019年10月25日、「イナビル吸入懸濁用160mgセット」登場

2019年10月06日 19時08分00秒 | 小児科診療
 イナビル®は2010年に発売された抗インフルエンザ薬です。
 1回吸入で完結する製剤ゆえ、患者さんに好まれています。
 しかし、うまく吸入できない就学前の小児や高齢者には使いづらい。
 1回吸入ということは、失敗がゆるされないことを意味します。

 このジレンマを解決する製剤が2019年6月に承認されました(発売は10/25予定)。
 その名は「イナビル吸入懸濁用160mgセット」。
 これは、懸濁液を電動吸入器(ネブライザー)で時間をかけて吸入する製剤です。
 喘息の吸入と同じ方法ですね。
 つまり、乳児から可能であり、病院で吸入することになります。
 そして、使用量は年齢にかかわらず同一量。

 発売されて普及すると、インフルエンザ流行期の小児科外来は吸入する乳幼児であふれる光景が目に浮かびます。
 しかし感染対策上、問題が発生します。
 隣り合わせで吸入していると、付き添い家族がインフルエンザをもらってしまう可能性があるからです。
 かといって、個室をいくつも用意できないし・・・。
 普及するには、ハードルがありそう。 
 現場での混乱必至!

□ 【NEWS】イナビル吸入懸濁用160mgセット 製造販売承認 2019.6
2019.6.24:SAGASU-DI
 現在、抗インフルエンザ剤として「イナビル吸入粉末剤20mg」が発売されています。しかし、吸入力が弱い患者であれば、吸入が不良になるとの報告がいくつかあり、吸入製剤特有の問題がありました。例えば、「イナビル吸入粉末剤20mg」は4〜6歳の患者において、製薬メーカーから提供されている吸入確認笛を用いても粉末剤の吸入が不良となり罹病期間が延長するなどの報告がありました。
 これらの背景から、2019年6月18日に「イナビル吸入懸濁用160mgセット」が製造販売承認を取得しました。この新剤型である「イナビル吸入懸濁用160mgセット」は生理食塩液を加えると白色の懸濁液となり、ジェット式ネブライザを用いて単回吸入投与するという薬剤です。「イナビル吸入懸濁用160mgセット」にはネブライザ吸入器が付属しており、事前にコンプレッサーとの適合性を確認する必要がありそうです。どのようなネブライザ吸入器が付属してくるのかは現在のところ不明です。 
 「イナビル吸入粉末剤20mg」は薬剤師が薬局内で吸入させるケースが多かったとは思いますが、「イナビル吸入懸濁用160mgセット」はネブライザーがある病院内で吸入させることが多くなる??のでしょうか。
 ネブライザー式のため、「イナビル吸入粉末剤20mg」が吸入できない5歳未満の小児や高齢者など吸入力が弱い患者が対象となります。また「イナビル吸入粉末剤20mg」は苦味が強かったため、ネブライザーであれば、そのあたりも改善されそうです。
 さらに「イナビル吸入粉末剤20mg」は添加剤として乳糖水和物を含有していたため、乳製品に対し過敏症の既往症がある患者は、慎重投与とされていたが、「イナビル吸入懸濁用160mgセット」は添加されておらず、慎重投与扱いにはならないこともポイントの一つになりそうです。

イナビル吸入懸濁用160mgセット
・1バイアル中 ラニナミビルオクタン酸エステル水和物 166.1mg(ラニナミビルオクタン酸エステルとして 160mg)
・添加剤 チロキサポール
・生理食塩液を加えると白色の懸濁液となる。
・A型又はB型インフルエンザウイルス感染症の治療
・成人及び小児には、ラニナミビルオクタン酸エステルとして160mgを日本薬局方生理食塩液2mLで懸濁し、ネブライザを用いて単回吸入投与する。
・本剤を吸入する際には、ジェット式ネブライザを使用すること。添付のネブライザ吸入器を使用する際に、事前にコンプレッサーとの適合性を確認すること。
・1包装 : 5バイアル(ネブライザ吸入器 5個添付)
・海外での販売はなし
・ネブライザーに懸濁した薬液を投入し、霧状にし、自発呼吸で薬剤を吸入
・5歳未満の小児や、気管支喘息など肺機能が著しく低下している呼吸器疾患を合併する患者などを対象
・既存薬では添加剤として乳糖水和物を含有していたため、乳製品に対し過敏症の既往症がある患者は、慎重投与とされていたが、今回の新製剤には添加されておらず、慎重投与扱いにはならない。
(参考 : 薬事・食品衛生審議 イナビル吸入懸濁用160mgセット)



自発呼吸での単回吸入で治療が完結する抗インフルエンザ薬
2019/10/4:日経メディカル)より抜粋
北村 正樹(東京慈恵会医科大学附属病院薬剤部)
 2019年9月4日、抗インフルエンザウイルス薬ラニナミビルオクタン酸エステル水和物(商品名イナビル吸入懸濁用160mgセット)が薬価収載された。本製剤は6月18日に製造販売が承認され、10月25日に発売が予定されている。適応は「A型又はB型インフルエンザウイルス感染症」、用法用量は「成人及び小児には、160mgを生食2mLで懸濁し、ネブライザを用いて単回吸入」となっている。なお、同一成分の薬剤としては、2010年10月より吸入粉末製剤が臨床使用されている。
 ノイラミニダーゼ阻害薬ラニナミビルは、インフルエンザウイルスのノイラミニダーゼを選択的に阻害し、新しく形成されたウイルスの感染細胞からの遊離を阻害することにより、ウイルスの増殖を抑制する。ただし、既存の吸入粉末製剤は、5歳未満の小児、肺機能が著しく低下している呼吸器疾患(気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患[COPD]など)を合併する患者、吸入手技の理解が不足している患者などでは使用が困難であった。また、添加剤として乳糖水和物を含有していることから、乳製品に対する過敏症の既往歴のある患者には慎重投与となっていた。
 本製剤は、添加剤に乳糖水和物を含まず、既存の吸入粉末製剤の使用が困難な患者でも自発呼吸での吸入が可能な懸濁用製剤である。医療現場での利便性および感染予防対策を考慮し、単回使用のネブライザ吸入器を梱包したコンビネーション製品となっている。インフルエンザ感染症患者を対象とした国内第3相試験において、本製剤の有効性と安全性が確認された。2019年9月現在、海外では販売されていない。
 薬剤投与による副作用として、嘔吐(0.5%未満)などが認められている。重大な副作用としては、ショック、アナフィラキシー、気管支攣縮、呼吸困難、異常行動、皮膚粘膜眼症候群、中毒性表皮壊死融解症、多形紅斑を生じる可能性がある。
 薬剤使用に際しては、本薬剤は既存の吸入粉末製剤とは異なり、インフルエンザ感染症の予防には適応を有していない。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

スギ/ヒノキ花粉症予想(2020年春)

2019年10月06日 11時39分10秒 | 小児科診療
 少々早いのですが、来シーズンの春の花粉症の記事を見つけましたので、紹介します。

 花粉の飛散数は、前年夏の気温の影響を大きく受けるとされています。
 猛暑なら花粉が増え、冷夏なら減ります。
 今年の夏は冷夏が続いたことから、来春のスギ花粉は少ないと予想されています。
 私自身、患者なのでホッとしています。

 なお、「花粉飛散開始日は、全国的に例年並みか例年よりやや遅くなり、東京都では2月18日前後になる」そうです。

来年の花粉は"半減"の地域多い 今年の冷夏による日照不足が影響
2019年10月03日:MedicalTribune
 多くの花粉症患者を診療する医師にとって、毎シーズンの花粉飛散量は重症度や受診数に影響を及ぼす重要な情報である。NPO花粉情報協会理事で気象予報士の村山貢司氏は9月25日、東京都で開催した同協会のセミナーにおいて、来年(2020年)のスギ・ヒノキ花粉飛散量に関する予測結果を発表。今年7月の記録的な冷夏による日照時間の短さなどが要因となり、来春は多くの地域で過去10年の平均(10年平均)と比較して、40~70%程度の花粉飛散量にとどまる地域が多くなると報告した。ただし、花粉症症状の発現には十分な飛散量であるとし、患者には例年通りの対策を求めている。

東日本:東海地方ではヒノキ花粉の減少が多く
 村山氏によると、花粉飛散量は前年の飛散量や夏季の気象条件(6~8月の日照時間や気温など)に影響を受ける。
 今年は33年ぶりに東京都心で7月の前半に30℃以上の真夏日が観測されないなど、記録的な冷夏により、東北南部から九州にかけて日照時間は過去10年間で最も短く、気温も低めだった。そのため、スギやヒノキの雄花の成長が阻害され、遅延しているという。また、8月は東北から東海にかけて記録的な猛暑となったことも、雄花の成長を阻害した。
 こうした要因から、同氏は東北地方では多くの地域で飛散量が今年や10年平均の半分以下にとどまると予測。大船渡市(岩手県)では30%前後(約3,500個/cm2/season、以下、個)、いわき市(福島県)では約20~30%(約4,200個)となる見込みだ。ただし、今夏の日照時間がさほど短くなかった東北北部の秋田市については、今年とほぼ同じで10年平均よりやや少ない程度(約1,800個)と予測されるという。
 関東地方の飛散量も軒並み今年および10年平均より大きく減少する。水戸市では約30~40%(約4,200個)、壬生町(栃木県)では約40~50%(約4,000個)、高崎市(群馬県)では30%前後(約4,200個)と予測された。千代田区(東京都)は約40~60%(約2,800個)の模様だ。
 東海・北陸地方でも今年および10年平均の半分以下となる観測地点が多く、特にスギ花粉だけでなくヒノキ花粉の減少量も多い東海地方の飛散量は目立って少なくなるとみられる。例えば名古屋市では、今年の飛散量の10%を少し上回る程度(約1,000個)とされた。

西日本:近畿地方の減少幅が顕著
 今年および10年平均の飛散量に比べ、最も大幅な減少が予測されているのが近畿地方である。具体的には、奈良市で約15~30%(約1,200個)、天理市(奈良県)で約15~20%(約3,000個)、大津市で約10~30%(約2,000個)となりそうだ。同地方の観測地点のうち、天理、大津両市以外の飛散量は2,000個を下回る見込みという。
 一方、10年平均と比べてそれ程飛散量が減少しないのは中国・四国・山陰地方で、岡山市は約80%(約1,900個)、広島市は約70%(約1,100個)となりそうだ。同地方の他の観測地点でも飛散量は約50~70%と推算された。
 また九州地方では、今年の30%前後、10年平均の50%前後となる地域が多くなるとされた。福岡市の飛散量はここ数年約6,000~7,000個と多かったが、来年は2,000個前後と大きく減少する見込みだ。

飛散量の増減と患者数はあまり相関せず
 このように、現状では全国的に今年および10年平均と比べ大幅に減少すると予測される来年の飛散量だが、今後、全国の花粉研究者が実施する雄花数の調査結果により予測値は変化する可能性もあるという。
 村山氏は「花粉飛散量が前年の半分になっても、花粉症の初診患者数は前年の65%以上だったという報告が医療機関から寄せられている。加えて、ここ数年は飛散量が多かったため、花粉症患者の過敏性が高いままであることも推定される」と述べ、「予測飛散量の増減にかかわらず、患者には例年通り早めの対策を呼びかけてほしい」と訴えた。
 なお、現時点で想定される花粉飛散開始日は、全国的に例年並みか例年よりやや遅くなり、東京都では2月18日前後になるという。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

秋の花粉症のお話

2019年10月06日 08時01分54秒 | 小児科診療
 最近、花粉症症状(くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目の痒み)を訴えて来院される患者さんが散見されます。
 秋は雑草系の花粉が飛ぶ季節。
 ただし、スギやヒノキ花粉のように遠方までは飛ばないので、雑草がたくさん生えている場所で活動すると症状を自覚するというパターンが多いですね。
 わかりやすい花粉カレンダーを載せた記事を紹介します;

鼻水やクシャミ、目のかゆみ… 秋の花粉症対策
2019/09/18:ウェザーニュース)から抜粋
 夏の終わりから、クシャミ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみなどに悩まされているという声を耳にします。
 実はこのような症状が続いたら、秋の花粉症かもしれません。イネやブタクサやヨモギなど、自宅近くや通勤・通学の経路にある空き地や河川敷に繁殖する草が引き起こす花粉症です。
ブタクサやヨモギの花粉で発症する
 「私のクリニックの近くを多摩川が流れ河川敷が広がっていて、そこにブタクサやヨモギが生えているので、8月の半ばくらいから秋の花粉症の患者さんが来院しています」と語るのは、せたがや内科・神経内科クリニック(東京都世田谷区)の久手堅司院長です。
 秋の花粉症を起こすのは、ブタクサ、ヨモギ、セイタカアワダチソウといったキク科の植物のほか、イラクサ(イラクサ科)、カナムグラ(クワ科)、カモガヤ(イネ科)などもあります。8~9月頃から花粉が飛び始め、10月の終わりから11月初旬まで続きます。





血液検査で何に反応するか調べる
 「春の花粉症の原因になるスギやヒノキは大規模に植林され、花粉が風に乗って遠方まで飛散するのに対し、秋の花粉症の原因になる雑草は高さがせいぜい2mで、花粉が飛散する範囲は数十m程度と狭いのが特徴です。浴びる花粉が少なければ症状は軽いのですが、群生地で花粉を大量に吸い込むと、顔が腫れ上がるなどショック症状を起こすことがあります」(久手堅院長)


 文中のセイタカアワダチソウ(≒アキノキリンソウ)は風媒花ではなく虫媒花なので、花粉症の原因になる得るのか、専門家の間でも議論があります。
 また、秋はダニが一番舞う季節でもあり、喘息の悪化因子になり得ます。
 屋外より部屋の中(特に布団の上)で活動すると症状が悪化する例では、ダニ/ホコリアレルギーの可能性も考える必要があります。
 もっとも、ダニ/ホコリは一年中ありますので、通年性に悩まされることが多いのですが。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2019年10月初旬、インフルエンザ流行状況

2019年10月06日 07時41分17秒 | 小児科診療
 2019/20年シーズンのインフルエンザは、9月初旬に小流行がありました。

前橋市内の幼稚園でインフル学級閉鎖 異例の早さ 園児4人感染
2019/09/06:上毛新聞
 前橋市内の幼稚園で複数の園児がインフルエンザに感染し、同園が3、4の両日、学級閉鎖を実施していたことが5日、分かった。県内では今季初。インフルエンザは例年11~12月に流行が始まり、この時季での集団感染や学級閉鎖は異例だ。前橋市保健所などは流行が早まる恐れもあるとして、手洗いやうがいなどの予防対策の徹底を呼び掛けている。
9月に入り東京や千葉、和歌山などでも
 同保健所や県保健予防課などによると、同園でインフルエンザの感染が発覚したのは8月末。診断を受けたのは園児4人で、全員快方に向かっているという。園は医師の判断なども踏まえ、一部の学級を閉鎖し、5日に解除した。
 同保健所は、市内の他の地域では発生していないことから、同園など限られた範囲で一時的に感染したものの、「まだ流行という水準ではない」とみている。インフルエンザの発生動向調査を始めるのは毎年9月以降であることなどを理由に、「今回の発生動向や園の名称などは発表しない」としている。
 季節外れの感染となったルートや原因について、同課は「流行している地域や海外からの感染が考えられる」と指摘する。
 インフルエンザの感染は例年10~11月から報告数が増え、12~2月に流行のピークを迎え、3~4月に終息する。シーズン前の現時点ではワクチンが流通しておらず、例年10月以降に実施される予防接種を受けることはできないという。


 その後小休止。
 しかし9月下旬になってまた流行のニュースが目立つようになりました。
 群馬県内でも、前橋市の中学校で学級閉鎖の記事が;

インフル今季初、群馬県内で学級閉鎖 前橋の中学校
2019.10.1:産経ニュース
 前橋市は30日、市立第七中でインフルエンザの集団感染が発生し、今月1~3日に1年生の1クラスを学級閉鎖にすると発表した。県内のインフルエンザによる学級閉鎖は今季初で、昨季より約2カ月早い。
 市保健予防課によると、クラスの生徒35人のうち1人が9月25日に発熱を訴え、30日に8人が欠席。6人が簡易検査でインフルエンザA型と診断され、2人がインフルエンザのような症状を訴えた。


 A型ですね。
 しかし、当院の近隣の小中学校ではB型が出ています。
 どの型がメインに流行するのか、注視する必要があります。
 なぜかというと、流行する型により、抗インフルエンザ薬を使い分ける必要があるかも知れないからです。
 しかし待てども待てども、学会レベルの指針は公表されていません(早くしてくれないかなあ)。

 さて、全国レベルでも今年は流行の立ち上がりが早いという情報;

インフル、2カ月早く流行の兆し、ラグビーW杯で感染拡大恐れ 
2019.10.5:産経ニュース
 インフルエンザが例年より2カ月近く早く流行の兆しを見せている。9月に沖縄や九州を中心に患者数が急増し、東京でも一時、流行の目安とされる1医療機関当たりの患者数が1人を上回った。国内で開催されているラグビー・ワールドカップ(W杯)にはインフルエンザが流行中の南半球の参加国が多く、来日した外国人患者から感染が拡大する可能性もあり、警戒が必要になりそうだ。
 厚生労働省によると、全国約5千の定点医療機関から報告された1機関当たりの患者数は、9月の2週目に1・17人と流行の目安の1人を超え、3週目も1・16人となった。都道府県別では1人以上が10都県に上り、東京は3週目に1・06人だった。
 9月に患者数が特に目立ったのが沖縄だ。1週目に34・10人と1機関当たり30人を上回る「警報レベル」となり、3週目には52・22人まで増えた。国立感染症研究所(東京)によると、A型H1N1亜型が主に検出されている。
 感染研感染症疫学センター第2室の砂川富正室長は「若年層でよく報告される型で、新学期に学校が始まり、感染が拡大したのではないか」と推測。国内での流行は例年12月上旬ごろだが、「亜熱帯地域などでは1年を通して、インフルエンザウイルスが見つかる。沖縄でも近年夏に流行することがあった」と話す。
 9月の4週目は全国平均が0・92人とやや落ち着いたものの、昨年同時期(0・21人)と比べると4倍を超え、例年より患者数が多いことに変わりはない。砂川氏は「沖縄の患者数が突出して多いため、全国的な流行とはまだ言えない」とした上で、「最近は国内外の人の移動が活発で、海外の流行地からウイルスが持ち込まれることもあり得る」と指摘する。
 W杯観戦など人出が見込まれる場所に行く際は注意が求められる。東京都立駒込病院感染症科部長の今村顕史(あきふみ)医師は「10月は文化祭や運動会などイベントが多く、行楽シーズンでもある。子供や高齢者ら重症化しやすい人や流行地近くに住む人は早めにワクチンを接種してほしい」と呼びかけている。


 従来、冬のインフルエンザは渡り鳥が運んでくると説明されてきました。
 しかしグローバル化した現代社会では、外国から来日する人間が運んでくることが多いような気がしてきます。
 沖縄旅行、外国人観光客、ラグビーワールドカップ、
 などがキーワードでしょうか。

早くもインフルエンザの流行中! 暖かくなる10月以降はどうなる?
2019/10/05:ウェザーニュース
 東京都感染症情報センターは9月27日、都内のインフルエンザ患者報告数が増加し、「流行開始」の目安となる数値を上回ったことを公表しました。
 例年の流行開始時期より2ヵ月ほど早く、都はこまめな手洗いや室内の加湿など、例年の冬場並みの予防策を早めに取るよう呼びかけています。
例年より10倍の流行
 国立感染症研究所の速報データによると、第38週(9月16日〜22日)の全国のインフルエンザ患者報告数は5716人で、定点あたりの報告数は1.16人となりました。過去3年の同時期の報告数(定点あたり)は、0.14(2018年)、0.18人(2017年)、0.12人(2016年)なので、10倍前後の流行状況となっています。
 患者数が多い都道府県を見ると、特に沖縄県が52.22人と突出して多く、佐賀県(2.03人)、宮崎県(1.63人)、福岡県(1.60人)、長崎県(1.14人)、鹿児島県(1.08人)、大分県(1.03人)と、九州各県が続いています。
 九州以外では石川県(1.44人)、東京都(1.06人)、高知県(1.04人)が1.0人を超え、「流行開始」状態となりました。

気象との関連性はいまのところ不明
 例年より早いインフルエンザの流行に、「異常気象のせいでは」「日照時間が短かったのが原因?」など、不安の声も上がっています。
 これについて岡山理科大学生物地球学部の大橋唯太(おおはし・ゆきたか)教授は、「9月の気温が例年に比べて低いとはいえず、気象と今年のインフルエンザの早い流行との関連性は、いまのところ説明がつきません」と話しています。
 気象庁の10~12月の3ヵ月予報によると、平均気温は北・東・西日本で高い確率が50%、沖縄・奄美で平年並みまたは高い確率がともに40%と、暖冬傾向を示しています。大橋教授は「10月以降は比較的暖かい気候が続きそうなため、気象の観点からはインフルエンザの流行がこれ以上の状態で進むとは考えにくいですが、さらなる流行は12月以降の気候がカギになってきます」といいます。
 「12月には例年空気中の水蒸気量が落ち込む時期があり、それがインフルエンザの流行と同期しています。今後も気温や湿度が落ち込むタイミングを注意深く見守っていきたい」と話しています。


 厚労省はワクチン対策を指示しました。

インフル患者、昨年同時期の4倍超 厚労省、ワクチン供給前倒し依頼
2019.10.4:産経ニュース
 厚生労働省は4日、全国約5千の定点医療機関から9月29日までの1週間に報告されたインフルエンザの患者数が4543人だったと発表した。1医療機関当たり0・92人で、前の週の1・16人を下回り、流行入りの目安となる1人を切った。一方、昨年同時期(1021人)の4倍超と例年より患者数が多いため、同省は4日、ワクチン製造メーカーなどに供給の前倒しを文書で依頼した。
 厚労省によると、1医療機関当たりの患者数が1人を超えたのは6県。沖縄が34・72人と突出して多く、鹿児島2・16人、佐賀1・69人と九州が多かった。前の週に1・06人だった東京都は0・96人に減ったが、学級閉鎖は、9月2日からの累計で40施設になった。
 インフルエンザは例年12月上旬に流行入りすることが多いが、今シーズンは9月に沖縄を筆頭に九州で患者数が急増した。
 医療機関では、今月1日からワクチンの接種を開始。厚労省によると、今シーズンのワクチン供給量は、昨年の使用量(2630万本)を上回る約2933万本を見込んでいる。同省健康課は「例年より流行入りが早い可能性に備え、メーカーや卸売業者は在庫分も医療機関に納入し、ワクチン不足を防いでほしい」と話している。


 なぜ早く流行が始まったのか、考察している記事はこちら。
 やはり、訪日外国人が多いことを指摘しています。

沖縄県のインフル夏季流行から見えるもの 変革を迫られる令和時代のインフルエンザ対策
2019/10/3:日経メディカル
 夏休み明けからインフルエンザの大流行が続く沖縄県。9月には、この時期としては10年ぶりとなるインフルエンザ警報が発令された。夏季のインフルエンザ流行では高齢者の重症化が懸念されており、今回の沖縄県での流行を通じて、現行のインフルエンザ対策をシフトチェンジしていく必要性も浮かび上がってきた。
 今シーズンのインフルエンザは異常な立ち上がりを見せている。第38週(9/16~9/22)時点で、既に10都県で流行期入りした(関連記事:今期のインフルエンザ、異常な立ち上がりに)。その中でも、患者総数の過半数を占める沖縄県では、8月に注意報が、9月に警報が発令された。さらに、第37週には定点当たりの患者報告数が50人を超え、この時期としては2000年以降の最高値を記録する異例の事態となっている。
 いったい何が起こっているのか。
 同県における夏季のインフルエンザ流行は、今年に限った話ではない。沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科の高山義浩氏は「沖縄では、2005年のサーベイランスで初めて夏季のインフルエンザ流行が確認されて以来、数年に1度のペースで夏季に大きな流行を認めている」と話す。一方で、今年はこれまでの沖縄県におけるインフルエンザの流行パターンから逸脱している点が複数みられるとも指摘する。
 1つは流行曲線の違いだ。これまでは、夏と冬の流行期以外は流行が落ち着くような二峰性を示していたが、今年は「春先に鎮静しないまま夏季の大流行につながったという印象」と高山氏は話す。
 また、罹患者の年齢分布も異なっている。これまで冬季は15歳未満の感染が多く、夏季の流行の中心は高齢者だった。だが、今夏の流行では15歳未満の感染が過半数を占めている。

夏季のインフルエンザは海外からの持ち込み例か
 沖縄県において夏季にインフルエンザが流行するメカニズムの詳細は明らかになっていない。高山氏は「インドネシアやシンガポールのような赤道直下では年間を通じて流行しており、6月から9月に吹くモンスーンとともに北上し、他の東南アジア諸国へ拡大していく。こうした地域からの旅行者がウイルスを沖縄に持ち込むことで、沖縄での夏季の流行が起きている可能性がある」と分析している。
 加えて近年、沖縄県ではエアコンの普及が進み、閉めきった乾燥寒冷環境が増えているという指摘もある。夏季のインフルエンザが海外からの輸入感染症であるならば、他の地域で流行する可能性も否定できない。実際、今年の夏は東京でも定点当たり報告数が1.06人となっており、外国人旅行者の影響である可能性もある。「沖縄でなぜとりわけ夏季のインフルエンザ罹患者が多いのかについては、今後も引き続き検討していく必要がある」と高山氏は話す。

夏季のインフルエンザは重症化しやすい
 では、この夏季に流行するインフルエンザに対して、医療現場ではどのように対応すればよいのだろうか。
 夏季の流行においては、ワクチンの効果が減弱していることに注意が必要だ。ワクチンの免疫持続期間は約5カ月といわれており、10~12月に接種した場合、夏前にはワクチンの効果が薄れている。そのため、ワクチン株と夏の流行株が一致したとしても、ワクチンによる集団免疫効果は期待できないし、重症化予防効果もほとんど期待できない。
 中でも留意しなければいけないのは高齢者の重症化だ。「インフルエンザはもともと高齢者にとってインパクトの大きい疾患。当院でも、65歳以上の患者がインフルエンザで入院した場合の死亡率は約5%に上る」と高山氏。実際に、就学児の罹患率が例年よりも高かった沖縄でも、入院患者に占める割合は高齢者が高い。
 高齢者の中でも「生活習慣病のコントロールが不良の患者は、重症化しやすい傾向にある」(高山氏)。新規のワクチン供給がない夏季において高齢者をインフルエンザの重症化から守るためには、「手洗いの徹底やマスクの着用はもちろんのこと、生活習慣病のコントロールが何よりも重要」と訴えている。

令和時代のインフルエンザ対策は変革が必要
 高山氏は、高齢者施設におけるインフルエンザ対策が不十分であることも指摘する。学校や幼稚園・保育所では、学校保健安全法によりインフルエンザの蔓延予防策がとられているが、高齢者施設においては同様の法律は存在しない。各施設での感染対策は現場の判断に任せられており、施設間で感染対策にばらつきがあるのが現状だ。
 「公衆衛生学的な対応が取りにくい高齢者施設で、子どもたちよりも圧倒的に重症化しやすい高齢者が感染の危機にさらされているのが、令和時代のインフルエンザ対策で注目すべきポイントではないか」と高山氏は話す。
 もっとも、高齢者は子どもよりも活動量が少ないため、ウイルスの持ち込みルートを特定し、遮断することは学校よりも容易なはず。「高齢者施設においては、介護職によるインフルエンザウイルスの持ち込みが最も懸念される。介護職に対する公衆衛生学的な介入を行政が主体となって行うことが、救急指定病院や地域医療を守ることにもつながるはずだ」と高山氏は話している。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする