徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

咳が止まらない・・・マイコプラズマ感染症?

2024年09月25日 06時35分55秒 | 小児科診療
ふつうの風邪による咳は発症後3〜4日目頃がピークで、それ以降は改善に向かうとされています。
でも、その後も悪化の一途を辿ることがあります。
私はその場合、マイコプラズマ感染症を疑い、抗生物質の投与を考えます。

マイコプラズマはTVで最近よく取りあげられるようになりました。
「歩く肺炎」と呼ばれることがありますが、これは必ずしも高熱が出るわけではなく、元気に社会生活を送れる状態にもかかわらず、気がつくとこじれて肺炎になっていることを表現しています。

そう、熱の勢いはないんだけど、発症後1週間経っても咳の勢いが止まらない・・・こんな時に疑う感染症です。

しかし、他の病気・・・例えば副鼻腔炎による後鼻漏で咳が続くとか、喘息がベースにあるとか、を除外した場合の話です。
なので勝手に「私は咳が長引いているからマイコプラズマだ」と判断するのは間違いです。
医師の診察を受けてください。

マイコプラズマに関するわかりやすい解説が目に留まりましたので紹介します。
他の風邪とは異なる特徴が列記されています。
気になる薬剤耐性に関しては、微妙な書き方をしてますね。


▢ 特効薬が効かない「耐性マイコプラズマ」が増えているって本当? 感染予防策は
倉原優:呼吸器内科医
2024/8/24:Yahoo!ニュース)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・
▶ マイコプラズマとは
 「マイコプラズマ」と聞くと、恐ろしい感染症のように思われるかもしれませんが、呼吸器感染症ではありふれた細菌です。インフルエンザや新型コロナなどのウイルスとは分類が異なり、マイコプラズマは「細菌」に位置付けられています。
 子どもに多い感染症ですが、家庭内で大人も感染する事例が増えています(図1)。ひどい場合、肺炎になってしまうことがあります。

図1.マイコプラズマ感染症の特徴(筆者作成、イラストは看護roo!)


▶ マイコプラズマ肺炎は実際に増えているのか?
 コロナ禍では、多くの感染症が低い流行水準に抑えられていました。この理由は、手洗いや手指消毒などの感染対策が強化されていたため、ヒトからヒトへの感染自体が少なかったからです。
 実際、新型コロナが5類感染症に移行してから、多くの感染症は急激に反転増加しました。子どもを中心に広がった、RSウイルス感染症、手足口病などがそうです。免疫の成立していなかった人が多かったため、感染が広がったと考えられます。
 さて、マイコプラズマ肺炎は確かに増加していますが、これもコロナ禍に抑え込まれていた部分が噴出したと考えられています。この10年の報告数を見ると、2016年の流行に次ぐ多さですが(図2)、過去経験したことがないほど激増しているわけではありません。肺炎になった症例だけが報告対象となっており、水面下には風邪どまりや気管支炎などの患者さんがたくさんいると考えられます。



 潜伏期が2週間と長い場合があること、無症状で保菌している子どもが多いことから、誰から感染したかわからないこともしばしばです。

▶ マイコプラズマの症状
 マイコプラズマに感染しても、簡単に肺炎になるわけではありません。風邪や気管支炎どまりのことも多いです。とはいえ、頑固な咳になりやすいので(図3)、気になるようなら早めに医療機関を受診してください。

図3.マイコプラズマの経過(筆者作成、イラストは看護roo!)


▶ 耐性マイコプラズマ
 乗用車にいろいろな車種があるように、抗菌薬にはいくつかの系統があります。微生物ごとに、その系統にあった抗菌薬を使います。
 たとえば、マイコプラズマ肺炎と診断された場合、マクロライド系という抗菌薬を使います。先ほど特効薬と書きましたが、この表現はいささか大げさで、この病原体に特化した治療薬ではなく、広く使われている薬剤です。
 実は、10年ほど前に、このマクロライド系が効きにくい、耐性マイコプラズマが流行しました(2)。当時は8割以上がマクロライド系に耐性でした。しかしその後、徐々に耐性率は下がっていきました(3)。これは流行する遺伝子型というものが変わったからと考えられています。
 今年の耐性マイコプラズマの比率はまだ不明です。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によると(4)、最新のデータでは、カナダで12%、中国で80%(最近の研究では100%だそうです(5))、ヨーロッパは5%(ただしイタリアは20%)、アメリカは10%です。
 CDCのウェブサイトには「日本は50%以上」と書かれています。実は国内では10~20年ごとに、2種類の遺伝子型のマイコプラズマが交互に流行を繰り返していることがわかっています。そのため、耐性マイコプラズマと耐性でないマイコプラズマが交互に流行していいます。現在は、おそらく耐性でないタイプが流行していると思われます。
 しかし、中国では耐性でないはずのタイプが耐性化しているなど、マイコプラズマの顔つきが変わっているという報告もあることから(5)、今回の流行のデータを集める必要があります。
 ただ、決してこれら耐性マイコプラズマはマクロライド系が効かないわけではなく、他剤より効果が劣るだけです(6)。
 とてもやっかいな敵に変貌したわけではないので、過度な懸念は不要です。マイコプラズマの感染に注意は払うべきですが、かといって毎日不安に感じて過ごすほどではないでしょう。

▶ マイコプラズマの感染予防策
 マイコプラズマは、基本的に飛沫感染・接触感染でうつります。新型コロナやインフルエンザの感染予防策とほとんど共通しています(図4)。異なるのは、マイコプラズマにはワクチンがないということです。

図4.マイコプラズマの感染予防策(筆者作成)


 マイコプラズマは家族内で発症することが多いので、家族全員がゴホゴホ咳をしていたら、これを疑う必要があります。

<参考資料>
(2) Kawai Y, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2013 Aug; 57(8): 4046–4049.
(3) Kenri T, et al. Front Cell Infect Microbiol. 2020 Aug 6:10:385.
(5) Chen Y, et al. Front Microbiol. 2024 Aug 6:15:1449511.
(6) 日本呼吸器学会. 成人肺炎診療ガイドライン2024. メディカルレビュー社.

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インフルエンザに対する痛くない(経鼻噴霧)ワクチン「フルミスト®」登場!

2024年09月01日 14時48分23秒 | 小児科診療
以前から米国で使用(2003年認可)されてきた「鼻に噴霧するインフルエンザワクチン」が、
2024/25年シーズンからようやく日本でも使えるようになりました。
その名は「フルミスト®」。

最大の特徴は鼻にスプレー噴霧するだけなので、痛くありません!
これまでインフルエンザが心配だけど、
とにかく注射が恐くてワクチン接種を避けてきたお子さんに朗報です。

ただし、鼻に噴霧するという性質からの注意点もあります。
・鼻炎で鼻水・鼻づまりがあるお子さん、
・鼻に噴霧した後に大泣きするお子さん、
・「フン!」と鼻をかむように出してしまうお子さん、
は効果が落ちますのでオススメできません。

同じ理由から以下のタイプのお子さんも無理だと思います。
・医院内、診察室に入るだけでギャン泣き幼児
・「予防接種」と聞いただけで拒否る子ども

その際に一つ気になるのが、ワクチンが入っている容器の形です。
…「注射器」そのものなのですよね。
もちろん注射針はついていませんが、
「注射器 → 恐い!」という先入観があると、
それを鼻に差し込むことに抵抗する子どもが出てきてもおかしくありません。
もっと子どもが受け入れやすいかわいい形にすればよかったのに…残念。

@DIMEより)

それから注射のインフルエンザワクチンは“不活化ワクチン”ですが、
経鼻ワクチンは“生ワクチン”です。
これは、弱毒化したウイルスをあえて鼻粘膜にくっつけることにより、
症状が出ない程度に感染させ、免疫だけつけるというシステム。
なので中には軽い風邪症状が出るお子さんがいます。
また、免疫不全状態のヒトは危険なので接種できません。

では、フルミストのポイントを概説します。

名称】フルミスト
性質】経鼻生ワクチン
接種方法】両鼻に0.1mLずつ噴射
接種回数】1回
効果持続】1年間
接種対象】2歳〜18歳
※ 鼻水等の症状のある方、泣いてしまって鼻汁でワクチンが流れ出てしまう可能性のあるお子様は接種できません(噴霧しても十分な効果が期待できません)。
接種できない方
・2歳未満、19歳以上。
・5歳未満の方で喘鳴(ゼーゼー)の歴があった方や、1年以内に喘息発作のあった方。
・免疫不全患者(抗がん剤治療を受けている人)や、免疫不全患者様をケアする立場にいる介護者の方
・心疾患、肺疾患・喘息、肝疾患、糖尿病、貧血、神経系疾患などの慢性疾患を持つ場合
・アスピリンを服用中の方
・妊婦の方
・重度の卵白アレルギーやゼラチンアレルギー、ゲンタマイシン、アルギニンアレルギーの方
・今風邪をひいていたり、鼻炎のひどい人
有効率】発症予防効果は3〜7割(注射ワクチンと同等)
副反応
・小児:鼻水、喘鳴、頭痛、嘔吐、筋肉痛、発熱、喉の痛み
その他の副反応についてはこちらでご確認ください。

生ワクチンというと、有効率(発症予防効果)が高いというイメージがあります。
麻疹・風疹ワクチンは90%以上ですから。
でもこの経鼻生ワクチンの有効率は不活化ワクチンとそう変わりません。
ちょっと残念・・・
ただ、有効期間が長く、不活化ワクチンの5ヶ月と比較して1年です。
これはいいですね。

最後に厚生労働省の説明会(2024年6月)で使用されたスライドから表を引用させていただきます。




表にあるように、米国では2003年、EUでは2012年に認可済みです。
日本は米国から遅れること20年で、ようやく認可されました。
厚労省というより日本の国民性でしょうか。

小児科医としては重症化が心配な乳児に接種したいところですが、
2歳未満では接種後の入院例・喘鳴頻度が上昇したため、「適応外」とされました。
日本もこれに準じています。

・・・当院でも導入を準備中です。

<参考>

<医療者用>


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