5年前に日本で風疹が流行し、45人の赤ちゃんが先天性風疹症候群(以下CRS)を発症し、その16%が死亡したというブログを書きました。
■ (2015年08月13日)「風疹流行による先天性風疹症候群は45例、そのうち7例死亡」
<その他のCRS関連の過去ログ>
(2014年02月19日)「2013年,風疹が最も流行した国ワースト3」に日本
(2014年01月23日)40例目の先天性風疹症候群が発生
(2013年12月31日)34例目の先天性風疹症候群が発生
(2013年12月20日)33例目の先天性風疹症候群が発生
(2013年12月07日)30例目の先天性風疹症候群が発生
(2013年11月08日)26例目の先天性風疹症候群が発生
(2013年10月31日)22例目の先天性風疹症候群が発生
(2013年10月11日)20例目(19+2-1)の先天性風疹症候群が発生
(2013年09月21日)19例目の先天性風疹症候群
(2013年09月05日)18例目の先天性風疹症候群
(2013年08月29日)17例目の先天性風疹症候群
(2013年08月01日)14例目の先天性風疹症候群
(2013年04月26日)風疹流行止まらず・・・10人目の先天性風疹症候群
そして2018年現在、風疹が流行しています。
CRSも発生していると耳にしました。
5年前の流行から、日本人は何を学んだのでしょうか?
日本政府・医療は風疹を征圧する能力が無いのでしょうか?
アカデミズム(専門学会)系の発言を集めてみました。
■ 「風疹流行対策に関する要望書」より抜粋(2013.7.29:日本小児科学会)
厚生労働省が 2013 年 1 月以降に発出した種々の注意喚起だけでは流行征圧には不十分です。 風疹流行の征圧と先天性風疹症候群の予防にはワクチン接種が極めて有効、かつ唯一の方法です。 成人層への風疹ワクチン(または麻疹風疹混合 MR ワクチン)の公費助成を行う自治体が増えつ つありますが、財政的な問題等からその数は非常に限られています。
日本小児科学会は、風疹流行の征圧と先天性風疹症候群の予防のために、厚生科学審議会予防 接種・ワクチン分科会において、成人のワクチン接種に直結する緊急施策と中期的な施策とを早 急に検討して厚生労働大臣に提言されるよう強く要望します。
■ 2020年度までの風しん排除のために、実効ある施策を要望しますより抜粋(2015.12.4:日本産婦人科学会他)
2020年度までの風疹排除を現実化するためには、「本邦成人男性感受性者約500万名中の400万名程度がワクチン接種を受けることが必要」と私どもは考えております。
しかしこの後行われたことは「抗体検査の費用補助」のみで、あとはワクチンの“勧奨”です。
肝心のワクチン接種のハードルを下げる施策はありませんでした。
そして現在の流行につながっています。
■ 「風疹流行の兆しあり!!!」より抜粋(2018.8.17:日本小児科学会)
速やかに風疹の抗体検査を受けて免疫の有無を確認してください。 妊娠中は風疹を含むワクチンの接種を受けることができません。風疹に対する抗体価が陰性あるいは低かった場合は、人混みを避け、ご家族や職場の同僚など、周りにいる人には罹患歴・予防接種歴を確認していただくようお願いします。もし風疹の罹患歴がなく、1 歳以上で 2 回の予防接種の記録がない人が周囲にいた場合は、急ぎ【麻疹風疹=MR】ワクチンの接種を受けてもらってください。
・・・・・
成人女性、夫、パートナー等を対象とした風疹抗体検査の費用助成事業が行われています。お住まいの市区町村保健担当部署に問い合わせをして、積極的に利用してください。
・・・・・
30~50 代の男性は、風疹への抵抗力が弱い人が多いので、ぜひ【麻疹風疹 =MR】ワクチンを接種してください。 詳細は、かかりつけ医、職場健康相談で尋ねてください。
現在の日本小児科学会のHPでも、①抗体検査、②ワクチン接種、という順番を崩していません。
そして費用助成は「成人女性、夫、パートナー等を対象とした風疹抗体検査」に限定され、流行の中心となっている30〜50代男性にはワクチン接種(費用助成なし)を呼びかけているだけです。
進歩がありません。
(例)「風疹の抗体検査・予防接種(成人)」(栃木県医師会のHPより)
<風疹抗体検査の対象者>
・栃木県内に居住する次のいずれかに該当する方
(1) 妊娠を希望する女性
(2) (1)の配偶者(※1)などの同居者(※2)
(3) 風しんの抗体価が低い妊婦の配偶者(※1)などの同居者(※2)
※1 婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある方を含む。
※2 同居者とは、生活空間を同一にする頻度が高い方をいう。
・・・つまり、妊婦さんと縁の無い30〜50代男性は、ハイリスクにもかかわらず放置されているのです。
予防接種に至っては、実施医療機関を紹介しているだけ。
■ 「首都圏における風疹急増に関する緊急情報」より抜粋(2018.8.20:国立感染症研究所)
風疹はワクチンによって予防可能な疾患である。今回報告を受けている風疹患者の中心は、過去にワクチンを受けておらず、風疹ウイルスに感染したことがない抗体を保有していない集団である。予防接種法に基づいて、約5,000人規模で毎年調査が行われている感染症流行予測事業の2017年度の結果を見ると、成人男性は30代後半[抗体保有率(HI抗体価1:8以上):84%]、40代(同:77~82%)、50代(同:76~88%)で抗体保有率が低い。今回報告を受けている風疹患者の中心も成人男性であることから、この集団に対する対策が必要である。
・・・・・
30~50代の男性で風疹に罹ったことがなく、風疹含有ワクチンを受けていないか、あるいは接種歴が不明の場合は、早めにMRワクチンを受けておくことが奨められる。風疹はワクチンで予防可能な感染症である。
ここでも「風疹はワクチンで予防可能な感染症である」と繰り返し強調しています。
しかし、やるべき事は「ワクチン接種」であることは明白なのに、そこにたどり着かないのはなぜなのでしょう?
3つの要因があると私は思います。
1.国民の無関心(自分には関係ない)
2.ワクチン不足・予算不足
3.ワクチン反対派の存在
1については、妊娠早期の妊婦さんが罹ると子どもに障害が発生する可能性がありますが、ハイリスクである「30〜50代の男性」が風疹にかかっても3日で回復します・・・だから“他人事”でしかないのですね。
そのために会社を休んで抗体検査に行ってお金を払い、結果を聞きに行くためにまた会社を休んで、抗体値が低ければ自費でワクチンを接種する・・・これでは気が進まないでしょう。
社内の健康診断のように、費用は会社持ちで医療者が会社に出張して抗体検査・ワクチン接種となってはじめてスムーズに事が運ぶと思われます。
2については、現在定期接種となっている1歳と就学前の子ども分しかワクチンは生産されていません。ですから「30〜50代の男性」に一斉にワクチンを打ちましょうと言い出すと、途端にワクチン不足になり子どもが接種できなくなることは明らかです。
また、「対象者4800万人全員に接種となると4800億円の予算が必要」だそうです。このお金をどこから捻出するかも問題です。
3については「ワクチンはすべて悪」と考える人たちがいるので、これはもう説得できません。10万回接種して1人の副反応がでてもダメ出しされてしまいます。
ワクチンは医薬品です。サプリメントではありません。
医薬品には効果と副作用があり、副作用を考慮しても効果が十分勝ると判断されれば認可されます。ワクチンもこのような審査を受けて認可され製品化されています。ワクチンに副反応はつきものですから、それを理解して接種を考えることが基本になります。しかし日本は「お任せ文化」があり、病気の知識・ワクチンの知識を学ばずに医者任せになる風潮があります。すると「信じて受けたのに・・・」ということになりがちです。
私は予防接種に関わって30年になる小児科医ですが、この「お任せ文化」に嫌気がさすことがあります。
① 病気の怖さを知る
② ワクチンの効果を知る
③ ワクチンの副反応を知る
①②③をクリアして初めてワクチン接種に望むのが理想です。
しかし日本では①が教育されておらず、③だけが強調される傾向があります。病気の怖さを知らずに、副反応を強調されれば、誰だって怖くなりワクチン接種に尻込みするのは当然です。
<参考>
■ 「間違いだらけの予防接種」
これらをクリアするアイディアはあるのでしょうか?
現在、年齢を区切ってワクチンを臨時接種するという案があちこちから出てきました。
過去には「高齢者男性に対する肺炎球菌ワクチン」「2008年から5年間行われた中学1年生・高校1年生相当年齢への3期、4期の追加接種措置」が行われました。
一斉にするのは予算・ワクチン準備に無理があるので、例えば「今年は30歳・35歳・40歳・45歳・50歳男性対象」とし、毎年1歳ずつずらすとか・・・あ、これでは5年罹ってしまうので「東京オリンピック(2020年)までに風疹撲滅」に間に合わないか・・・ま、他に名案があればいいのですが。
昨今、一部の自治体でワクチン接種費用助成が始まりつつあります。
望ましい方向ですが、これが全国一斉に行われると、やはり「ワクチン不足」が問題になりますね。
■ (2015年08月13日)「風疹流行による先天性風疹症候群は45例、そのうち7例死亡」
<その他のCRS関連の過去ログ>
(2014年02月19日)「2013年,風疹が最も流行した国ワースト3」に日本
(2014年01月23日)40例目の先天性風疹症候群が発生
(2013年12月31日)34例目の先天性風疹症候群が発生
(2013年12月20日)33例目の先天性風疹症候群が発生
(2013年12月07日)30例目の先天性風疹症候群が発生
(2013年11月08日)26例目の先天性風疹症候群が発生
(2013年10月31日)22例目の先天性風疹症候群が発生
(2013年10月11日)20例目(19+2-1)の先天性風疹症候群が発生
(2013年09月21日)19例目の先天性風疹症候群
(2013年09月05日)18例目の先天性風疹症候群
(2013年08月29日)17例目の先天性風疹症候群
(2013年08月01日)14例目の先天性風疹症候群
(2013年04月26日)風疹流行止まらず・・・10人目の先天性風疹症候群
そして2018年現在、風疹が流行しています。
CRSも発生していると耳にしました。
5年前の流行から、日本人は何を学んだのでしょうか?
日本政府・医療は風疹を征圧する能力が無いのでしょうか?
アカデミズム(専門学会)系の発言を集めてみました。
■ 「風疹流行対策に関する要望書」より抜粋(2013.7.29:日本小児科学会)
厚生労働省が 2013 年 1 月以降に発出した種々の注意喚起だけでは流行征圧には不十分です。 風疹流行の征圧と先天性風疹症候群の予防にはワクチン接種が極めて有効、かつ唯一の方法です。 成人層への風疹ワクチン(または麻疹風疹混合 MR ワクチン)の公費助成を行う自治体が増えつ つありますが、財政的な問題等からその数は非常に限られています。
日本小児科学会は、風疹流行の征圧と先天性風疹症候群の予防のために、厚生科学審議会予防 接種・ワクチン分科会において、成人のワクチン接種に直結する緊急施策と中期的な施策とを早 急に検討して厚生労働大臣に提言されるよう強く要望します。
■ 2020年度までの風しん排除のために、実効ある施策を要望しますより抜粋(2015.12.4:日本産婦人科学会他)
2020年度までの風疹排除を現実化するためには、「本邦成人男性感受性者約500万名中の400万名程度がワクチン接種を受けることが必要」と私どもは考えております。
しかしこの後行われたことは「抗体検査の費用補助」のみで、あとはワクチンの“勧奨”です。
肝心のワクチン接種のハードルを下げる施策はありませんでした。
そして現在の流行につながっています。
■ 「風疹流行の兆しあり!!!」より抜粋(2018.8.17:日本小児科学会)
速やかに風疹の抗体検査を受けて免疫の有無を確認してください。 妊娠中は風疹を含むワクチンの接種を受けることができません。風疹に対する抗体価が陰性あるいは低かった場合は、人混みを避け、ご家族や職場の同僚など、周りにいる人には罹患歴・予防接種歴を確認していただくようお願いします。もし風疹の罹患歴がなく、1 歳以上で 2 回の予防接種の記録がない人が周囲にいた場合は、急ぎ【麻疹風疹=MR】ワクチンの接種を受けてもらってください。
・・・・・
成人女性、夫、パートナー等を対象とした風疹抗体検査の費用助成事業が行われています。お住まいの市区町村保健担当部署に問い合わせをして、積極的に利用してください。
・・・・・
30~50 代の男性は、風疹への抵抗力が弱い人が多いので、ぜひ【麻疹風疹 =MR】ワクチンを接種してください。 詳細は、かかりつけ医、職場健康相談で尋ねてください。
現在の日本小児科学会のHPでも、①抗体検査、②ワクチン接種、という順番を崩していません。
そして費用助成は「成人女性、夫、パートナー等を対象とした風疹抗体検査」に限定され、流行の中心となっている30〜50代男性にはワクチン接種(費用助成なし)を呼びかけているだけです。
進歩がありません。
(例)「風疹の抗体検査・予防接種(成人)」(栃木県医師会のHPより)
<風疹抗体検査の対象者>
・栃木県内に居住する次のいずれかに該当する方
(1) 妊娠を希望する女性
(2) (1)の配偶者(※1)などの同居者(※2)
(3) 風しんの抗体価が低い妊婦の配偶者(※1)などの同居者(※2)
※1 婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある方を含む。
※2 同居者とは、生活空間を同一にする頻度が高い方をいう。
・・・つまり、妊婦さんと縁の無い30〜50代男性は、ハイリスクにもかかわらず放置されているのです。
予防接種に至っては、実施医療機関を紹介しているだけ。
■ 「首都圏における風疹急増に関する緊急情報」より抜粋(2018.8.20:国立感染症研究所)
風疹はワクチンによって予防可能な疾患である。今回報告を受けている風疹患者の中心は、過去にワクチンを受けておらず、風疹ウイルスに感染したことがない抗体を保有していない集団である。予防接種法に基づいて、約5,000人規模で毎年調査が行われている感染症流行予測事業の2017年度の結果を見ると、成人男性は30代後半[抗体保有率(HI抗体価1:8以上):84%]、40代(同:77~82%)、50代(同:76~88%)で抗体保有率が低い。今回報告を受けている風疹患者の中心も成人男性であることから、この集団に対する対策が必要である。
・・・・・
30~50代の男性で風疹に罹ったことがなく、風疹含有ワクチンを受けていないか、あるいは接種歴が不明の場合は、早めにMRワクチンを受けておくことが奨められる。風疹はワクチンで予防可能な感染症である。
ここでも「風疹はワクチンで予防可能な感染症である」と繰り返し強調しています。
しかし、やるべき事は「ワクチン接種」であることは明白なのに、そこにたどり着かないのはなぜなのでしょう?
3つの要因があると私は思います。
1.国民の無関心(自分には関係ない)
2.ワクチン不足・予算不足
3.ワクチン反対派の存在
1については、妊娠早期の妊婦さんが罹ると子どもに障害が発生する可能性がありますが、ハイリスクである「30〜50代の男性」が風疹にかかっても3日で回復します・・・だから“他人事”でしかないのですね。
そのために会社を休んで抗体検査に行ってお金を払い、結果を聞きに行くためにまた会社を休んで、抗体値が低ければ自費でワクチンを接種する・・・これでは気が進まないでしょう。
社内の健康診断のように、費用は会社持ちで医療者が会社に出張して抗体検査・ワクチン接種となってはじめてスムーズに事が運ぶと思われます。
2については、現在定期接種となっている1歳と就学前の子ども分しかワクチンは生産されていません。ですから「30〜50代の男性」に一斉にワクチンを打ちましょうと言い出すと、途端にワクチン不足になり子どもが接種できなくなることは明らかです。
また、「対象者4800万人全員に接種となると4800億円の予算が必要」だそうです。このお金をどこから捻出するかも問題です。
3については「ワクチンはすべて悪」と考える人たちがいるので、これはもう説得できません。10万回接種して1人の副反応がでてもダメ出しされてしまいます。
ワクチンは医薬品です。サプリメントではありません。
医薬品には効果と副作用があり、副作用を考慮しても効果が十分勝ると判断されれば認可されます。ワクチンもこのような審査を受けて認可され製品化されています。ワクチンに副反応はつきものですから、それを理解して接種を考えることが基本になります。しかし日本は「お任せ文化」があり、病気の知識・ワクチンの知識を学ばずに医者任せになる風潮があります。すると「信じて受けたのに・・・」ということになりがちです。
私は予防接種に関わって30年になる小児科医ですが、この「お任せ文化」に嫌気がさすことがあります。
① 病気の怖さを知る
② ワクチンの効果を知る
③ ワクチンの副反応を知る
①②③をクリアして初めてワクチン接種に望むのが理想です。
しかし日本では①が教育されておらず、③だけが強調される傾向があります。病気の怖さを知らずに、副反応を強調されれば、誰だって怖くなりワクチン接種に尻込みするのは当然です。
<参考>
■ 「間違いだらけの予防接種」
これらをクリアするアイディアはあるのでしょうか?
現在、年齢を区切ってワクチンを臨時接種するという案があちこちから出てきました。
過去には「高齢者男性に対する肺炎球菌ワクチン」「2008年から5年間行われた中学1年生・高校1年生相当年齢への3期、4期の追加接種措置」が行われました。
一斉にするのは予算・ワクチン準備に無理があるので、例えば「今年は30歳・35歳・40歳・45歳・50歳男性対象」とし、毎年1歳ずつずらすとか・・・あ、これでは5年罹ってしまうので「東京オリンピック(2020年)までに風疹撲滅」に間に合わないか・・・ま、他に名案があればいいのですが。
昨今、一部の自治体でワクチン接種費用助成が始まりつつあります。
望ましい方向ですが、これが全国一斉に行われると、やはり「ワクチン不足」が問題になりますね。