徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

日本の新型コロナ対策は失敗したのか 〜世界各国との比較〜

2021年01月27日 16時56分36秒 | 小児科診療
昨日(2021.1.26)のBS放送で、中国、台湾の状況と日本の新型コロナ対策を比較した番組を見ました。

大きな差は、中国・台湾は国民を強力に管理する法律をすでに作っていたことです。
これは、SARSで大変な打撃を受けたため、それを教訓として法整備をした結果です。
中国も台湾も、新型コロナ窩の当初は国民の抵抗に遭ったそうですが、国の真摯な態度で事の重大さを徐々に認識して従うようになったそうです。
特に台湾の初動は早く、現在でも感染者1000人未満、死者7人と世界の中で奇跡的な数字を残しています。

その番組のゲスト解説者は、「感染対策と経済活動のどちらを優先するか」ではなく「感染対策を優先し、押さえ込んだら経済活動再開が正しい方法」とコメントしていました。

それを聞いて、確かにワクチン開発が成功して接種がはじまった現在はそう言えるかもしれませんが、もしワクチン開発が不発に終わり、治療薬開発もままならない状況だったら、中国と台湾はず〜っと鎖国政策とも言える水際検疫を続けなければならず、経済活動の足を引っ張ったはずなので、まあ結果オーライというところかなと私は感じています。

日本の感染対策は、どう評価されるでしょうか。
途中までは「まあまあいい線行ってる」という認識もあったかと。
しかし現在は、緊急事態宣言を発効しても抑制力が鈍くなってきて破綻を来しつつあります。

ただ、医療の末端で感じることは、感染対策が失敗というより、新型コロナウイルスの方が一枚上手、ということ。

実は感染対策として行っている「三密を避ける」「マスクをする」「手洗いをする」で新型コロナ以外の感染症は激減しています。
今シーズン、インフルエンザ流行も影を潜めていて話題に上りませんよね。

だから、現在行っている感染対策は間違っていない。
しかし、新型コロナウイルスは従来の感染対策では足りない、そこをすり抜ける賢いウイルスとあることを意味します。
その特徴は、

・唾液の中にいて、ふつうの会話でも感染してしまう。
・感染しても無症状の人・時期でも感染してしまう。

で表現されます。
つまり、「マスクなしの会話はアウト」ということです。
ふつうにマスクなしの会話を3〜5分間したときの飛沫と、
1回咳をしたときの飛沫は同じ量になり、感染のリスクがあると。

マスクをするのが暑くて難しくなる夏を迎える前に、
流行を押さえ込まないと・・・国民の健康も経済もボロボロになります。

ふつうの生活を取り戻すための最短の方法は、
国民全員がワクチンを接種することです。

ワクチンの副反応が不安を煽るようにマスコミから連日流れてきますが、

「ワクチンをするリスク」と「ワクチンをしないリスク」
を天秤にかけて判断するという段階に入っていると思います。

世界各国の新型コロナ対策を比較した記事が目に留まりましたので、紹介します;

COVID-19規制から緩和へ、各国医療政策の教訓
西伊豆健育会病院病院長 仲田 和正

 Lancet(2020; 396: 1525-1534)に「新型コロナウイルス(COVID-19) 規制から緩和へ、世界の医療政策の教訓」と題した総説がありました。
 ・・・日本の立ち位置もよく分かりました。欧州よりはるかにうまく感染コントロールができたけど、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器(MERS)を経験したアジア諸国には劣ります。世界各国、いまだにパンデミックは終息しそうにありません。この1年、世界はどのように対応してきたのか比較検討され非常に興味深く読みましたので共有いたします。
 Lancet「COVID-19制限から緩和へ、世界の医療政策の教訓」要点13。
  1. SARS、MERSを経験したアジア諸国には既に堅牢なヘルスケアシステムが構築されていた
  2. アジアではマスク着用文化があった。マスクでCOVID-19増加は40~60%減る
  3. 出口戦略の枠組み4つ:疫学指標、コミュニティーの取り組み、公衆衛生能力、ヘルスケア能力
  4. 疫学指標は基本再生産数(R)、1週累積感染率など。指標のない国も
  5. 出口戦略に指標が必要だが、各指標の明確な重み付けがなく曖昧だった
  6. 質の高いエビデンスを追究すると意思決定が遅れる
  7. 対人距離は国により1~2mと異なる。ニュージーランドではsocial bubble model考案
  8. ルールを理解できる高校生は授業再開、しかし小学生はどうする?
  9. アジアでは1回限りの給付金支給。欧州は社会的セーフティネット強化(分割支給)
  10. PCRは日本、欧州では重症者に、韓国では感染地域全住民に。ドライブスルー有効
  11. アジアではmanual・アプリによる感染追跡、香港はスパコンによる犯罪者追跡奏功
  12. アジアでは確定例は病院、施設に、欧州では軽症は自宅隔離が多かった
  13. アジア太平洋地域では入境制限が厳格、欧州では制限は緩やか
 この総説で比較されたのは、
(アジア太平洋地域)ニュージーランド、シンガポール、香港、日本、韓国。
(欧州)ノルウェー、英国、ドイツ、スペインです。
 アジア太平洋地域と北欧は比較的成功裡に感染をコントロールしています。最も模範的なのは台湾ですが、この総説には残念ながら台湾は含まれていません。・・・失敗例としては特に英国とスペイン、ドイツが挙げられます。
 この総説ではアジア太平洋地域が成功し、西欧が失敗したのはなぜかを検討しているのですが、大きな要因として3つ挙げています。

1) アジアではSARS(2003年)、MERS(2015年)を経験しこの時に堅牢(robust)な公衆衛生、ヘルスケアシステムが構築され次のアウトブレイクに備えていた
2)アジアでは特に日本、韓国、香港にはマスク着用の文化があり広く行われた。一方、欧州ではマスクの文化がなく懐疑的で着用が遅れた
3) アジアでは患者追跡が成功、確定例は施設に隔離し感染が少なかった。欧州では追跡がうまくできず軽症者は自宅隔離が多かった

1.SARS、MERSを経験したアジア諸国には既に堅牢なヘルスケアシステムが構築されていた
 この総説で比較されている各国の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染者数、死亡者数を小生調べてみました。 台湾はこの総説の比較に含まれていませんが、台湾の感染者数は720人、死者7人 と信じられぬくらい低い数字です。

【各国SARS-CoV-2感染者数、死亡者数。2020年12月8日現在】
ニュージーランド  感染者 2,088    死亡者 25
シンガポール    感染者 5万8,291  死亡者 29
香港        感染者 7,180    死亡者 113
日本        感染者 16万7,000  死亡者 2,334
韓国         感染者 3万9,432   死亡者 556
台湾        感染者 720      死亡者 7
英国        感染者 175万    死亡者 6万2,033
ドイツ       感染者 123万    死亡者 2万0,002
スペイン      感染者 170万    死亡者 4万6,646
ノルウェー     感染者 3万9,163  死亡者 361

 上記の感染者数、死者数を比較すると、確かに欧州諸国に比べアジア太平洋地域の罹患の少なさに驚きます。
 その最大の原因としてLancet総説では、アジアがSARS(2003年)、MERS(2015年)を経験したことを挙げています。このときに堅牢なヘルスケアシステム、公衆衛生のインフラが構築され次のアウトブレークに備えていたからだというのです。
 またアジア各国では経済力があり公衆衛生、ヘルスケアのハード構築が可能でした。しかし欧州ではパンデミックの経験がなく追跡システムも立ち遅れ、また10年以上にわたる緊縮財政(austerity measures)によりこの方面の投資がなされていませんでした。それがこれだけの差を生じた最大原因だというのです。
 欧州では個人防具(PPE)の不足、呼吸器不足などによりスタッフは難しい選択を迫られました。スペインではCOVID-19患者の実に10%が医療スタッフだったのです。
 香港、韓国、シンガポールではSARSの経験から十分なPPEの蓄積があり、またPPEの適切な装着トレーニングがなされていたため医療者を守ることができたというのです。日本でもCOVID-19治療に関わった自衛隊の医官、看護官の感染はありませんでした。最悪の細菌戦に地道に備えてきた彼らの日ごろの訓練の賜物でしょう。
 またアジアの国民は危機の場合、個人の権利や公共の利益(public good)を制限し、厳格なルールや侵襲的調査を理解、協力する準備ができていました。この点がパンデミックを経験しなかった個人主義的な欧州諸国と違うとのことでした。
 香港では強権的政治により民衆の政府不信が高まっていますが、2003年のSARSの教訓からコロナ政策はうまくいっています。また香港では警察の犯罪者追跡システムが有用でした。中央集権国家の国民監視システムはこういうときは大変役立つのです。韓国もSARSの教訓から患者に対する詳細情報を公にして国民の参加を呼びかけ透明性のある広報を行っています。
 一方、日本ではSARSもMERSも発生せず、過去のパンデミックから学ぶことはできませんでした。では他のアジア諸国は過去のSARSやMERSから何を学んでいたのか、小生調べてみました。下記は2003年に出た「公衆衛生情報」です。台湾でSARSが2003年3月から5月までアウトブレークした後、日本人医師3人が台湾を視察した当時書かれたものです。

2003年新型肺炎SARS台湾視察報告「公衆衛生情報」
(新規格出版社2003年10月)
国立仙台病院臨床研究部病因研究室長 西村秀一、成田赤十字病院第四小児科部長 野口博史、財団法人交流協会総務部副長 高山美果
 当初、日本の進んだ感染症コントロールのノウハウを指導するつもりだったのですが、教えることはほとんどなく台湾の方がはるかに先進的なソフト、ハードが整備されていたのに驚愕しています。総括として「もし日本でSARSが発生した場合、流行を食い止めることができるかと言えば残念ながら現状ではノーだと思う。台湾のように流行が始まったときそれをどのように収拾するか具体的計画を持つことが重要だ」と2003年に結論しています。
 台湾では2003年3月から5月までSARSが346例発生、死亡者は37例でした。上記の報告によると、無防備な救急外来が感染の場になりやすく、救急外来がSARS院内感染防止のポイントです。
 発熱患者を安易に院内に入れないことが最重要であり玄関で体温測定し、外来に陰圧個室をつくり発熱外来を行い放射線、検査機器を備えます。陰圧個室には経過観察のための仮入院施設まであったというのです。外来に陰圧個室があるというのにはたまげました。 当西伊豆健育会病院の発熱外来なんて入口が玄関でないだけの「なんちゃって発熱外来」です。
 2003年5月中に台湾全土で1,000室の陰圧個室がつくられ、計1,700室の陰圧個室が稼働していました。
 台湾大学病院ではSARS病棟と同じ構造のシミュレーション教育専用フロアも設けられ、陰圧室への入り方、マスク、PPE、ゴーグルの装着・脱着、手洗いの教育が行われました。また医学生もSARS治療現場にあえて参加させました。
 SARSとは数年単位の闘いになると予想し医療従事者養成を行い、卒後すぐ医療現場で対応できるようにしたのです。
 対策は衛生署長(厚生大臣)の陳建仁がトップダウン方式でリーダーシップを発揮しました。また省庁の枠を越えた支援体制が取られました。具体的問題に「誰が」「いつまでに」やり遂げるかを明確にしました。SARS教育のためのテレビコマーシャルを試写し署長は、国民にどのように伝わったかを検証すべきと指摘、それを誰が行うかまで決めていたというのです。
 また防護用品の国家的供給システムが構築され、N95マスクは中規模病院で数千個、大病院では数万個の在庫があり20日前後の備蓄が一般的で、日本とは比べものになりませんでした。

 今年(2020年)現在の台湾の國家衛生指揮中心(National Health Command Center; NHCC)の陣容を調べてみました。
 厚生大臣の陳時中が歯科医、副総統の陳建仁(SARS当時の厚生大臣)は台湾大学、米・ジョンスホプキンス大学公衆衛生出身、同じく副総統の頼清徳は台湾大学、米・ハーバード大学公衆衛生院出身、副首相陳其邁は産婦人科医という具合で、トップに疫学のエキスパート、医師がそろっており感染防御には最強の布陣だと思いました。SARSに懲りてこれだけのソフト、ハードを充実させていたのです。
 また今回、IT担当大臣の天才、唐鳳(オードリー・タン)が大活躍しました。オードリーは鳳の日本語読み「おおとり」から来ています。唐鳳は幼少時からプログラミングに熱中しました。高校へ進学しても古い知見しか学べぬことから中学を中退して米国に渡り16歳で会社を立ち上げました。その後米・Apple社のデジタル顧問としてSiriの多言語対応に取り組み時間給1ビットコイン(当時5~6万円、現在は190万円)の契約で雇われました。・・・
 実際今回、台湾のCOVID-19対策の立ち上がりは極めて迅速でした。
 同じ中国語圏だけあって、COVID-19が武漢で発生した情報を早くも昨年12月の暮れごろにはつかんでおり、なんと12月31日に武漢からの旅行客に対し検査官が機内で発熱、気道症状のチェックを開始していたのです。今年1月11日に台湾で第1例が発生、22日には武漢からのツアーを取り消します。
 確か中国は猛烈に抗議したと思います。1月27日、国民健康保険のデータと入国検疫データベースをわずか1日でリンクし感染分析のためのビッグデータとしました。病院で入国検疫データが分かるようにしたのです。
 また空港チェックインカウンターでQRコード読み取りにより報告書をスマホにダウンロード、症状と過去14日間の旅行歴をオンライン報告できるようにしました。このシステムはわずか3日で完成させました。

2.アジアではマスク着用文化があった。マスクでCOVID-19増加は40~60%減る
 またこのLancet総説では、アジア、特に日本、韓国、香港にはかぜのときに以前からマスク着用の文化があり広く行われたことも大きな要因として挙げています。一方、欧州ではマスクの文化がなく懐疑的で着用が遅れたのです。
 以前から欧米人が冬に日本に来て驚くことの1つは、多くの日本人がマスクをしていることでした。このような文化は欧州にはなくマスクをするのは銀行強盗をやるときくらいです。・・・
 マスクについて世界的なコンセンサスがなかったのは、各国の文化とエビデンスの不明確さによります。シンガポールでは今年4月に外出時のマスクを義務化しました。ドイツ、スペインでも距離を取ることができない場合、公共交通機関や店でのマスクを義務化しました。一方、ニュージーランドではマスクを義務化していません。メッセージの混乱、右往左往する政策により多くの国で混乱を招きました。
 マスクの効果は今年6月になってようやくドイツの下記の論文でその有用性が明らかになりました。マスク着用によりCOVID-19の日々の増加を実に40~60%減らせるというのです。この総説に取り上げられています。
・Face Masks Considerably Reduce COVID-19 Cases in Germany: A Synthetic Control Method Approach. IZA institute of Labor Economics. Proc Natl Acad Sci USA 2020 Dec 3; 202015954.
 IZA instituteとはドイツ、ボンにあるForshungsinstitut zur Zukunft der Arbeit(労働の将来に関する研究機関)という公的機関です。
 ドイツのJena(イエナ)市で4月6日にマスクが導入された瞬間から新感染はほぼゼロとなったのです。以後の20日間で予想感染増加直線(synthetic control group)よりも25%減少し、日々の増加率はマスクにより60%減少しました。予測としては増加を40~60%減らすことができるというのです。・・・

3. 出口戦略枠組み4つ:疫学指標、コミュニティの取り組み、公衆衛生能力、ヘルスケア能力
 規制から緩和を行う出口戦略(撤退戦略、exit strategy)に当たっては公衆衛生の4つの枠組み(framework)が必要です。

1)感染の現状の把握:疫学指標の作成
2)コミュニティーでの取り組み:social distance、マスク、学校・職場の予防方法、国民への広報、老人・虚弱者の防御、経済的サポートなど 
3)公衆衛生の能力(capacity):検査、追跡、隔離、専門家の参加
4)ヘルスケアの能力(capacity):治療施設、医療装備、医療従事者
 この総説では上記の4つに加えて国境コントロールを追加して各国の現状が比較されました。総説のAppendixに各国別の詳細があります。

4.疫学指標に基本再生産数(R)、1週累積感染率など。指標のない国も
 まず感染の現状を把握する疫学指標ですが、これは各国とも異なりました。疫学指標に従って活動フェーズを上げ下げします。感染状況を密接にモニターする強固なシステムなしに制限解除は不可能です。
 R(Reproduction number、基本再生産数:1人の患者が何人に感染させるか)を用いたのは香港、イングランド、ドイツ、ノルウェーでした。基本再生産数(R)の計算にはリアルタイムの質の高いデータが必要であり、疫学の深い理解が必要です。例えば、局地のアウトブレイクでRが増加したからと言って国全体のロックダウンは不要です。規制解除にはRが1未満でなければなりません。
 感染状況の指標がなかったのはニュージーランド、スペイン、シンガポールでした。日本は過去1週間の累積感染率<0.5/10万人を目標とし、対策に当たり感染状況、医療供給体制監視体制のdashboards(必要最低限の指標)を考案しました。東京都の公式サイトを開くとこれと似たdashboardsがあります。
 ドイツでは各州で7日間にわたり10万人当たり50例の発生があればロックダウン再開としました。香港も同様の方法を用いました。しかしこの方法だとアウトブレークが1つの工場やコミュニティーに限られていても、州全体に制限をかけることになり問題があります。

5. 出口戦略に指標が必要だが、各指標の明確な重み付けがなく曖昧だった
 ロックダウンや規制の緩和に当たっては、政府はそのゴールを明示し、意思決定は透明性がなければなりません。また対策は全体の明確な戦略に基づくものでなければなりませんが、必ずしもそうなっていませんでした。Go Toキャンペーンではそのゴールが明示されていないのではないでしょうか。
 スペインでは疫学的、社会・経済的パラメーターの指標を考案しましたが、 意思決定に当たり指標の明確な重み付けがありませんでした。 シンガポールでは前もって3つの許容活動フェーズを決定していましたが、 どのリスクを基準にするかエビデンスもなく明確でありませんでした。
 シンガポール、韓国、英国でもアラートレベルを定めましたが、レベルに応じた対策が明白(explicit)ではありませんでした。英国の4地域(イングランド、ウェールズ、北アイルランド、スコットランド)はそれぞれ方法が異なりました。この英国の狭い地域で方法が異なるのでは、かなりの混乱が生じたことでしょう。

6.質の高いエビデンスを追究すると意思決定が遅れる
 この総説で小生、最も印象に残ったのは次の文でした。
「予防施策の際、質の高いエビデンスを追究することは重要な意思決定を遅延させてしまうのだろうか?」
 マスク着用が劇的な効果があるのが分かったのは、やっと6月のドイツの論文が出てからなのです。マスク着用を義務化しようとしても、エビデンスを示せと言われては果敢に実行できず対策は遅れてしまいます。初めてのパンデミックで、一体何が真実なのか分からぬ中で、ともかくも走りながら対策を決めなければなりません。政策担当者も本当に大変だなあとつくづく思いました。
 香港、日本、ニュージーランド、スペイン、英国では公衆衛生、疫学、臨床医学の専門家達による委員会(panel)を立ち上げ勧告を行いました。日本では専門家委員会のアドバイスと政府の決定との関係がはっきりしませんでした。英国では専門家グループの委員のアナウンスの遅れ、勧告のエビデンスが曖昧なことが批判されました。ノルウェーの専門家グループ委員長は時折、政府決定に公然と反対しました。ドイツではRobert Koch研究所と国立公衆衛生研究所は名目上独立しており、不確実な中での意思決定の際に価値ある疑問を提言しました。

7.対人距離は国により1~2mと異なる。ニュージーランドではsocial bubble model考案
 対人距離(physical distance、social distance)は次のように国により異なりました。

・香港、シンガポール:1m
・ノルウェー、ドイツ、スペイン:1.5m
・日本、韓国:2m
・イングランド:6月まで2mでしたが以後1m、しかし英国の他地域では2mのままです。
・ニュージーランド:公共地域では2m、学校・職場では1m、レベル1の場合は距離を決めていません。

 各国これほどマチマチだとは思いませんでした。対人距離1mなんてエビデンスがありそうに思えません。しかし香港のように人口密度の高い所では仕方がないのでしょう。
 COVID-19の死亡率はケアホーム居住者、黒人、アジア人、マイノリティーなど社会経済的に困窮しているグループで高いのです。シンガポールでは5万8,000例の確定例中、95%が過密アパート居住の移民労働者です。政府はそこの45歳以上の住民をより人口の少ない施設へ移しました。
 ニュージーランドでは「social bubble model」を考案し世界から注目されました。密接触可能なグループを許容する一方、他のグループとは距離を保つものです。ロックダウン下では家族のバブル(泡)内のみで密接触を許し、シャボン玉の泡が融合していくように、ゆっくりと他の小さな排他的グループ、友人の泡と融合させていきます。英国も今年6月からこれに習っています。交流しつつ感染を防ぐことができます。・・・
 ニュージーランド首相と健康省大臣はテレビ中継による断固とした、しかし共感的なブリーフィング、ストリーミングにより世界的な称賛を得ました。

8.ルールを理解できる高校生は授業再開、しかし小学生はどうする?
 学校の再開は香港、スペインでは15~18歳の高校生は複雑なルールを理解でき手指衛生、物理的距離を取ることが可能なので授業を再開しました。シンガポール、韓国、ドイツも15~18歳の学生の教育に極力混乱のないようにしました。
 ニュージーランド、ノルウェー、イングランドでは小学生(5~12歳)の教室での授業を開始しましたが、児童のためなのか、両親の職場復帰のためなのかはっきりしません。しかし、この辺りは政策担当者も悩むところでしょう。自宅に子供がいたら親も職場に行けません。
 シンガポールと韓国では職場での予防策、雇用者の健康をモニターする責任者を定めました。アジア各国では職場、学校ではマスク着用、体温チェックを行っています。
 女性がリーダーの国々は男性がリーダーの国々よりも、国民の信頼、新政策への移行がうまくいっています
 イングランドではロックダウン中に首相のアドバイザーが旅行をしたことが物議を呼び国民の信頼をなくしました。

9.アジアでは1回限りの給付金支給。欧州は社会的セーフティネット強化(分割支給)
 全9カ国で政府により経済的サポートが行われました。アジア5カ国では1回限りの給付金(one-off cash handouts)が施されました。日本ではGDP(gross domestic product:国内総生産)の42%を使って国民全員に10万円が給付されました。これは世界の中ではGDP比率が飛びぬけて大きいです。しかし給付の法的根拠がはっきりせず雇用調整助成金導入と給付が遅れたことで批判されました。
 しかし毎年3月の復興税みたいに3月になると、ある程度の所得者は税金でドカーンと取られるんだろうなあと思っています。
 欧州では一時給付金(subsidy)よりも現存の社会的セーフティネットの強化による長期サポートプログラム充実に重点を置いています
 スぺインでは貧困層250万人に500ドル/月(1ドル103.97円換算で5万1,985円)の最低収入を保証しました。これは年間30億ユーロ(3,780億3千万円)のコストがかかります。
 英国もUniversal Credit(低所得者給付制度)とWorking Tax Credit(勤労者タックスクレジット:女王陛下の歳入関税庁から支給される低所得者向け公的扶助)を約1,320ドル(13万7,240円)/年増額し、600万人の一時解雇(furloughed)労働者に今年10月31日まで分割で支払いました。

10.PCRは、日本、欧州では重症者に、韓国では感染地域全住民に施行。ドライブスルー有効
 出口戦略(exit strategy)の中核には、まず感染例発見、感染疑いの全患者検査、その接触者追跡、そして確定例の隔離と支援があります。
 ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査施行のクライテリアは世界各国異なりました。日本や欧州では検査は重症例に限りました。日本では検査のキャパシティーは広がりませんでした。主に保健所で行われましたが仕事量が激増しました。
 ノルウェーも感染率が低く偽陽性も多いことから検査は老人施設のスタッフと居住者、確定例との密接触者に限りました。しかし8月からは医師の診察なしでも感染を疑う希望者にも検査しています。
 韓国では症状にかかわらずSARS-CoV-2感染地域住民に対し公的会場(public venue)で集団検査(mass tests)を行っています。全国638のスクリーニングセンターと、118の公的、私的施設で行っています。韓国のドライブスルー、ウオークスルーの方法は症例発見に安全で効果的です。
 また韓国やドイツではドライブスルーによるテスト、英国や香港では家庭での検査が行われ混雑や病院での感染を避けています。
 PCRを全員にやればよいのか、重症者だけにやればよいのかは正解がありません。PCRの偽陰性率は20~67%であり、サンプル採取の方法、曝露からの時間、サンプル源によって違うのです。陽性であれば隔離できますが、陰性であってもCOVID-19を否定できないのです

11.アジアではmanual・アプリによる感染追跡、香港はスパコンによる犯罪者追跡奏功
 総じて感染者追跡は欧州よりアジアでうまくいったようです。アジアでの初期感染コントロールの成功は保健所職員(health workers)の感染者追跡によるものが大きいとのことです。地域をよく知る者によるShoe-leather epidemiology (靴底をすり減らしながらの戸別調査)の重要性が分かります。また韓国では電子カルテ、クレジットカード使用歴、スマホによる位置追跡、CCTV(closed circuit television)などから位置を特定し感染者の記憶の曖昧さを補っています。
・・・香港では警察の犯罪用スーパーコンピュータにより追跡、マッピングを行いました。香港や中国のような中央集権的な国での国民監視体制は、このようなパンデミックでは大変役立つようです。 日本、ドイツ、シンガポール、ニュージーランド、ノルウェーは位置追跡記録にCOVID-19患者に近づくと注意喚起するアプリを開発しました。アプリによる患者追跡(contact tracing)は、もし人口の56%がアプリをダウンロードすれば感染を減らすことができるとのことです。
 英国も同様のアプリを開発しましたがApple-Google systemに変更しました。スコットランドはこのアプリに基づくNHS Protect Scotland appsを立ち上げました。英国では電話による追跡を行いましたがうまくいきませんでした。

12.アジアでは確定例は病院、施設に、欧州では軽症は自宅隔離が多かった
 アジア各国では確定例は病院や施設に収容しましたが、欧州では軽症例は自宅隔離が多かったとのことです。欧州のように軽症例を自宅隔離するよりアジア諸国のように施設隔離した方がより感染防御に効果的だったようです。
 ロックダウン終了後の感染増加に対応するには十分なヘルスシステムの容量が必須です。治療施設〔集中治療室(ICU)のある病院から、ステップダウンのための施設まで〕、医療用具(呼吸器、PPEなど)、そして十分な医療者です。パンデミック収束前に十分な予算処置を講じないと失敗に終わります。
 ドイツではCOVID-19発生前から10万人当たり34の重症ベッドを有していました。スペインでは9.7、日本は5.2です。そのためドイツでは流行のピークにおいても他の欧州諸国と違い十分な余裕がありました。
 ドイツを除き全ての国で患者のトリアージが行われ重症患者は指定病院に入院、軽症患者は即席(makeshift)の施設や家庭に収容されました。
 香港、シンガポール、韓国、英国ではカンファレンスセンターなどが収容施設として代用されました。 香港、シンガポール、韓国、ノルウェイ、英国では不必要な対面診療を減らすため、teleconsultation、遠隔モニタリングも行われました。

13.アジア・太平洋では入境制限が厳格、欧州では制限が緩やか
 アジア太平洋5カ国では厳格な国境コントロール(border control)を行いました。香港、ニュージーランド、シンガポールでは国境を閉鎖、これら3カ国と韓国では入境者はCOVID-19テストと14日間の隔離(quarantine)を義務付けました。日本でもリスク国からの入国を拒否し、入境者は14日間隔離しました。
 一方欧州ではアジアに比べ入境は寛容でした。またルーチンの検査も導入が遅れました。今年6月スペインでは欧州連合(EU)市民は隔離を免除、7月1日から全ての国からの入国を許可しました。自己申告書をコンピュータ化、入国者のサーモカメラによるモニターを行っていますがこれは香港、シンガポールではとっくに行われていることです。EUも6月末より国境を開いています。
 ノルウェーでは北欧諸国は感染者が少ない(10万人当たり20例以下、過去2週内でテスト陽性率5%未満)ことから隔離を免除し、7月15日にはこの免除をSchengen area(ヨーロッパ26カ国。英国は入らない)に拡大しました。ドイツではリスク国からの入国者は隔離を行っています。英国は入国者に14日間の自宅隔離を一時中止しましたが再開しました。



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“反ワクチン”報道で稼ぐマスコミ

2021年01月27日 08時39分49秒 | 小児科診療
新型コロナウイルス感染症流行拡大に歯止めが利かず、
現在2度目の「緊急事態宣言」中です。

しかし、人間の行動を制限することには限界があり、終息のスピードは鈍いのが現状。
それを解決するのは、
① ワクチン接種
② 特効薬開発
であることは誰の目にも明らかです。

そして、②の開発が足踏み状態の現在、
①のワクチン開発が先発して開発され、新型コロナウイルス登場から一年を起たずに実用化されました。

このスピードは、今までのワクチン業界では考えられなかった速さです。
そして有効率が軒並み90%以上と高い数字です。
ワクチン専門家はワクチンが実用化されるまで少なくとも1年以上、有効率については季節性インフルエンザワクチンと同程度(50〜70%)と予想していたようです。
この2点に関しては、ワクチン業界の常識をよい意味で破りました。

その理由として、ワクチンの種類が異なることが挙げられます。
市場に出回っている、例えばファイザー社のワクチンは「mRNA」を使用した、人類が初めて使うタイプです。

初めての試み、未知のものだから危険?

というと、そういうことはありません。
ワクチンが開発されるまでには動物実験や治験など厳しい項目をクリアすることが義務づけられていますが、それを成し遂げたワクチンだけが認可されるので、安全性は検証済みです。
現在の最先端の科学を信じましょう。

しかし、新型コロナワクチン、「◯◯人にアナフィラキシー症状が出た」など、不安を煽るマスコミ情報が連日報道されています。

ああ、またマスコミの悪いクセが始まった・・・
と医療関係者はあきれています。

偏った情報ではなく、メリットもデメリットも省略せずに正確に報道し、
各個人に判断を委ねる、というスタンスが望ましいですね。
例えば・・・

新型コロナワクチンは期待された以上に有効である、
たしかに100%安全とは言えない、
でも従来の他のワクチンと比較して危険度が高いわけでもない、
十分な体制を整えて接種すれば心配ない、
そして現時点ではワクチンが新型コロナ窩を抜け出す最善の方法である

といったところでしょうか。
マスコミは、

① 接種する事によるリスク(まれな健康被害)
② 接種しない事によるリスク(感染拡大〜経済崩壊)

を正確に伝えて、読者・視聴者に判断を仰ぐ姿勢を貫いていただきたい。

そんな中、メディアでもようやく自浄作用が働き始めたようです。


新型コロナ「反ワクチン報道」にある根深いメディアの問題
 ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(1月22日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。2月中旬に日本に届く新型コロナウイルス感染症ワクチンについてのメディアの報道姿勢について論じた。

□ 新型コロナウイルスのワクチン~第1弾は2月中旬に到着

 政府関係者は1月21日、確保を進める新型コロナウイルス感染症ワクチンの第1弾として、ファイザー製1万回分超が2月中旬に日本に届く見通しであることを明らかにした。また、菅総理大臣はこれに先立つ参院本会議の代表質問で、「全体として3億1千万回分を確保できる見込みだ」と述べている。この量は1月20日に正式契約を発表したアメリカのファイザー製を含め、政府が契約した欧米3社の合計の供給量を意味する。 

飯田)ファイザーから1億4400万回分、アストラゼネカ1億2千万回分、モデルナ5千万回分ということです。 

佐々木)1人2回打たなくてはいけないので、2億4千万回分くらい必要と考えると、それを上回っているのでいいのではないでしょうか。若干遅れ気味なのは心配ですね。アメリカは12月から打ち始めて、イギリスは2月までに1500万人に打つと言っています。アメリカとイギリスは人口の2%くらいですが、イスラエルは20%に達しています。しかも効果が出て来ていて、感染者が減っているということです。全世界で4千万~5千万はすでに打っているのです。バイデン大統領も打っているし、ローマ法王も打っている。そこでいまのところ報告されている副反応というのは、いわゆるワクチン一般にあるようなアナフィラキシーショックとか、発熱、悪寒、患部の痛みなどです。深刻な副反応はいまのところ報告されていません。日本人口の半分くらいの人が打っているのに、その程度で済んでいる。しかも、このスピードで開発するということは驚異的な話なのです。 

飯田)そうですよね。


□ 各メディアから続々と登場する「反ワクチン」報道

佐々木)とても素晴らしいのですが、なぜか日本国内ではメディアの報道が異常な方向に進みつつある。

 AERAが、 『医師1726人の本音、ワクチン「いますぐ接種」は3割』 ~『AERA』2021年1月25日号(1月18日発売) ……という記事を出しました。“お医者さんなのにわずか3割しか打つ人がいない”ということを書いています。

 週刊新潮は、 『コロナワクチンを「絶対に打ちたくない」と医師が言うワケ』 ~『週刊新潮』2021年2021年1月28日号(1月21日発売) ……と言う記事を出しました。

 毎日新聞が、(配信)元の記事はオリコンニュースなのですが、 『新型コロナワクチン、6割超「受けたくない」女子高生100人にアンケート』 ~『オリコンニュース』2021年1月20日配信記事 ……と。女子高生に聞いてどうするのかと思うのですが。 

飯田)サンプルも100人では全体を表しませんし。 

佐々木)さらにTBSは、 『「自分たちは実験台?」ワクチン接種優先の医療現場から不安の声』 ~『TBS NEWS』2021年1月21日配信記事 ……という報道をしています。
 毎日新聞、TBS、AERAは朝日新聞です。そして週刊新潮という、いわゆる新聞、雑誌、テレビから続々と反ワクチンの記事が登場しているという異常な状況になっているのです。 

飯田)多いですね。

□  世論の反発にそれぞれ反ワクチン記事を削除
佐々木)これには医療業界の人が猛反発をして、みんなすごく怒っているのです。その背景には、子宮頸がんワクチン、HPVワクチンですね。これに対して2010年代前半に朝日新聞が「副反応で人が死んでいる」というようなキャンペーンをやった結果、厚生労働省が接種勧奨、要するに接種をおすすめするのをやめてしまって、結果的に日本だけが子宮頸がんで死ぬ人が年間何千人もいるということになってしまったのです。その強い反省があるから、「今回は反ワクチンにならないようにしよう」とみんなが言っていたのに、朝日新聞のAERAがまた同じことをやり始めたということで、みんなすごく怒っています。結果的にAERAは見出しを差し替えました。 

飯田)「見出しがネガティブに見られるとは思わなかった」という編集者のツイートがありましたが、「思わなかったのかい!」という。 

佐々木)「~ワクチンすぐ接種3割」とあったものを、 『医師1726人の本音 コロナ「夏までに収束」1割未満、ワクチン「接種」「種類により接種」は6割』 ~『AERA.dot』2021年1月21日配信記事 より 佐々木)……に変えています。
 元のデータはそうなのです。自分よりも先に打って欲しい、「重症者の人や高齢者の人を優先して欲しい」と言っている人が3割くらい。そして「自分がすぐ接種したい」人が3割なので、合わせると6割と。それを当初の見出しでは、わざわざ「ワクチンを接種したい人は3割しかいない」という見出しにしていたということです。
 毎日新聞は掲載したオリコンニュースの記事を(毎日新聞WEBサイトから)削除し、ツイッターも削除。新潮も「コロナワクチンを『絶対に打ちたくない』と医師が言うワケ」という記事を(WEBサイト『デイリー新潮』から)削除。さすがに今回は世論の反発に抗しきれずに、皆さん撤退しつつあるという状況です。

□ マスコミが反ワクチン報道になった理由~歪んだ社会正義の問題
佐々木)なぜ新聞、テレビ、雑誌のマスコミがここまで反ワクチンなのか。これは誰もわからない、不思議で仕方がありません。ツイッターなどを見ると、皆さんおっしゃっているのが、「視聴率を稼ぐためならそれでもいいのか」とか、「新聞を売るためならそれでいいのか」と言っている人がいます。 

飯田)そうですね。 

佐々木)もちろん会社としては儲けなくてはいけないというのはありますが、毎日新聞出身でずっと社会部で記者をやっていた身からすれば、そこまで金のことは考えていません。それぞれの記者、もしくはデスククラス、彼らがいちばん重心を置いているのは「社会正義」なのです。ですから、今回の問題はお金や利益のためという話ではなくて、「歪んだ社会正義の問題」なのです。 

飯田)なるほど。

□ 高度経済成長期の経済大国へのメディアの批判姿勢
佐々木)ではなぜこの歪んだ社会正義、反ワクチンに行ってしまうのかは、なかなか分析が難しいのです。個人の経験から言うと、高度経済成長があった1960年~1970年の時代、日本は「電子立国」という言葉もあるくらい、テクノロジー中心で社会を回していた。1970年の大阪万博で「人類の進歩」、「科学万歳」と謳った世界で来たわけではないですか。それはそれで、我々の国に豊さをもたらし、経済大国になったのだけれども、それに対して批判的な姿勢を持つメディアというのが、当時の基調だったのです。 

飯田)豊かさは物質だけではないと。

□ テクノロジー分野で位置を失った日本
佐々木)そうです。物質的豊かさ、テクノロジーをガーンと駆動させる、それは少しやり過ぎなのではないかという批判的精神は、それはそれとして当時有効だったのです。あまりにも社会が科学万能主義になっていましたから。しかし、2000年に入るころから、これが失速して、もはや科学、テクノロジーに関して、例えばAIなどはすべて中国やアメリカに行ってしまって、日本のエレクトロニクスは惨憺たる状況になり、いまやテクノロジー分野で日本が消費財として生き残らせているのは自動車だけという状況です。 

飯田)そうですね。 

佐々木)その上、日本はテクノロジーが嫌いな人が増えてしまった結果、AIも産業界に浸透せず、いろいろなものが遅れてしまっている。いまこそ我々はもう1回科学的な視点を持ち直して、テクノロジーを駆動して行くという社会をつくり直さなくてはいけないということが言われ続けているのです。そういう状況なのに、未だに「テクノロジーはけしからん」と言っていれば、何となく済んでしまっているのがメディアなのですよ。

□ 批判しやすいところに向かってしまうメディアの問題
飯田)なるほど。80年代に薬害エイズとか、ある意味「テクノロジーの暴走ではないか」というような議論があって、あの辺りの成功体験というようなものがメディアの根底にありますか? 

佐々木)ありますね。副反応の問題もそうなのですが、少しでも被害が出ていれば、それは追及しやすいのです。今回のコロナも同じです。すぐ「後手後手だ。政府は何をやっているのだ」と言うのですが、後手後手になるのは当たり前です。先手を打ったら皆さん褒めるのかと。安倍首相が昨年(2020年)2月の時点で、学校の休校を要請したら、皆さん怒っていたではないですか。 

飯田)怒っていましたね。 

佐々木)結果的にそれで悪かったかというと、それほど悪い施策ではなかったと思うのですよね。だから、結局先手を打てないし、リアルタイムでジャストな政策を打てるはずがないのだから、すべて後手後手になる。それを「後手後手だ」と言っておけば、何となく「言った気になってしまう」というのがメディアの問題です。批判しやすいところをどんどん批判しようとすると、すぐに副反応などという方向に行ってしまうところが問題なのではないかと思います。これはかなり根深いですよ。

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アレルギーの病気があると、新型コロナワクチンは危険?

2021年01月26日 11時31分02秒 | 小児科診療
新型コロナワクチン接種後にアナフィラキシーの報告がある度に、
「アレルギーの病気のある人は要注意!」
とのコメントがテレビから流されています。

小児科医は「誤解を招く言い方をするなあ・・・」と困っています。

なぜって、医師の間では「アレルギーの病気 ≠ ワクチンが危険」であることは常識です。
正確には、「ワクチン成分にアレルギーのある人=ワクチンが危険」です。

アレルギーの病気には花粉症も含まれます。
日本国民の50%は花粉症の症状が出ますから、
単純に考えると国民の半分はワクチン接種が危険?
という理解になりかねません。

ふつうの会話で使われる“アレルギー”と医学用語の「アレルギー」は、
その意味で温度差があります。

医学用語の「アレルギー」は、「特定のアレルゲンに反応して症状が出る体質」を意味します。
例えば、食物アレルギーと一口に言っても、食べると何でも反応して症状が出る人はまずいません。
「特定の食材(アレルゲン)」、例えば卵や牛乳、そばや魚介類や果物などいろいろありますが、
人それぞれで反応する食材が異なります。
卵アレルギーの人が全員リンゴを食べて症状が出るわけではないのです。

なので、「アレルギーのある方は要注意」という表現は、不安をかき立てるだけで不適切です。
正確に「ワクチン成分にアレルギー反応が出たエピソードがある方は要注意」と言い換えていただきたい。

さて、具体的な話です。

ワクチン成分でアレルゲン(アレルギーを起こす物質)となり得るのは、ワクチン液の安定性や保存、効果増強目的などで添加されている化学物質が多いです。

今回の新型コロナワクチンでは以下の物質の可能性がすでに報告されています;
ポリエチレングリコール(別名:マクロゴール)
ポリソルベート
聞き慣れない単語ですね。

でも、医療関係者には馴染みのある化学物質です。
ポリエチレングリコールは、医師にとっては「便秘薬」として有名です。
「腸管洗浄薬」として以前から使用されてきましたが、
最近「モビコール」として発売され、多用されています。
当院通院中の便秘のお子さんでもこの薬を使っている人が数十人います。

また、ポリエチレングリコールは軟膏の基剤としても用いられ、
たくさんの種類の軟膏に使用されています。

医薬品以外でもいろいろな製品に使用されています。
例えば「化粧品」。
リンク先を見ると、たくさんの化粧品に含まれていることがわかります。

ぬり薬や化粧品が合わない、かぶれた経験のある方は、
ワクチン接種の際の問診・予診で申請する必要があります。

下に紹介する堀向Dr.の解説記事では、ポリエチレングリコールに似た「ポリソルベート」という物質も要注意であると挙げています。

それから、添加物ではなく、新型コロナワクチンそのものに反応する人もゼロではないと思われます。
新型コロナワクチン液が体に入るのは誰もが初めての経験ですから、これは予想不可能です。
ですから、アレルギー反応(とくにアナフィラキシー)が出ても対応できる体制を整えて、接種に臨む必要があります。
さらに、接種後はアレルギー反応が出ないかどうか、会場に30分は居残って様子を観察する必要があります。

もっとも、アナフィラキシー対策は従来のすべてのワクチンに共通するものであり、
現在接種を担当している医療機関はそれを遵守しているはずです。
予防接種後「すぐ帰っていいですよ」と言われるクリニックは危険です。


新型コロナのワクチンは、アレルギーの病気を持っていると接種できないの?
堀向健太 (小児科医)

□ 新型コロナワクチンは、アレルギーの病気があると接種できない?

・・・『コロナのワクチンって、アレルギーがあると打てないんですよね?私(患児の保護者さん)もアレルギーを持っているのですが、接種してはいけないんでしょうか?』という質問を受けることがあります。
 はたして、アレルギーの病気を持っていると、コロナのワクチンは接種できないのでしょうか?
決してそうではありませんので、その経緯を説明しましょう。

□ 『アレルギーの病気』は、決して少なくありません。

 例えば食物アレルギーは、全年齢を通して1~2%程度のひとが持つと考えられていますし、それこそ、国民病ともいえるスギ花粉症は、半数近くの成人がもつ時代になってきています。
 つまり、アレルギーがあると接種できないとなると、多くの方が接種できなくなってしまいます。しかし、コロナのワクチン接種における推奨は、『アレルギーの病気を持っている人が打てない』にはなっていません。

□ 『アレルギー疾患のある人への接種は見合わせ』は、すでに変更されている

 確かに、12月上旬に医療従事者2人にアナフィラキシーが認められたことから、重篤なアレルギーの病気を持っている方に対する新型コロナのワクチンの使用は、一時的に中止されていました。
 日本でもそれを受けた報道もありました。
しかし、それ以降の続報がほとんど報道されていないため、現在も『アレルギーのある人は接種できない』と思われている方もいらっしゃるようです。
 しかし、英国・北米で100万回以上接種された結果、2020年12月30日にその見解が修正されました。
 そこでは、重症のアレルギーがある(もしくはあった)としても、コロナのワクチンそのものに対するアレルギーや、その成分に対するアレルギーを起こしたことがない限りはワクチンの接種を妨げるものではないとされています。

 つまり、簡単にいうと、

1) 1回目のコロナのワクチンを接種してアナフィラキシーを起こした
2) アレルギーを起こしやすいと考えられている成分(下記)でアレルギーを起こしたことがある(1回目のワクチンで明らかになるケースが多いと思われます)

場合に、接種を控える必要性がでてくるということであり、アレルギーの病気を持っているひとがすべて控えないといけないわけではないということです。
 
□ コロナのワクチンに含まれる成分で、アレルギーを起こしやすいものは分かっている?
 今のところ、ファイザー/ビオンテック社のワクチンに含まれているポリエチレングリコール(polyethylene glycol; PEG)が、アナフィラキシーの原因のひとつとして推測されています。そして類似した(科学的には“交差した”と表現します)成分であるポリソルベートが注意するべき成分と考えられています。
 つまり、過去、新型コロナのワクチン接種でアナフィラキシーを起こした方、そしてポリエチレングリコールやポリソルベートにアレルギーがある方以外は、接種可能と考えられているということです。
 なお、ポリエチレングリコールは本来、安全性の高い成分であり、さまざまな医薬品にも含まれる成分です。

・・・

 2021/1/24現在、16歳未満への新型コロナのワクチンは接種できません。あくまで臨床試験が16歳以上で実施されていたからであり、必ずしも16歳未満だから危険という意味ではありません。

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「筋肉注射」って痛いの?

2021年01月26日 08時16分02秒 | 小児科診療
最近、テレビで新型コロナワクチンを接種する映像がたくさん流れるようになりました。

肩にブスッと深めに刺して、
シュッとワクチン液を注入して、
はいおしまい!

てな感じです。
それを見て、ちょっと違和感がある人、少なからずいるんじゃないでしょうか。

そう、この接種法は「筋肉注射」(略して「筋注」)です。

日本で多く行われている方法は「皮下注射」(略して「皮下注」)で、
腕(上腕)の下の方に斜めに浅く針を刺してワクチン液を注入する方法。
お子さんの予防接種ではお馴染みですね。

「筋肉に深く刺す」なんて痛そうで怖いですよね。
しかし現実はそうでもありません。

当院ではHPVワクチン、B型肝炎ワクチン(10歳以上)などを筋肉注射していますが、実際に筋肉注射したお子さん達は口を揃えて、
「あれ、思ったほど痛くない」
とつぶやきながら帰って行きます。

世界で流通している新型コロナワクチンはすべて筋肉注射です。
「痛そうだから私は皮下注射でお願いします」
と希望しても、
「皮下注射が有効であるデータはありませんからダメです」
と却下されることでしょう。

実は筋肉組織には痛覚点が乏しく、
痛みを感じにくいのです。
気絶するほどの痛みはありませんから、大丈夫ですよ。

「皮下注と筋注」を解説した記事が目に留まりましたので紹介します。

日本のワクチン接種が「皮下注射」中心になったのは、それなりの歴史と理由があります。
1970年代に、某病院で治療を受けた患者さん達に跛行(びっこを引く)方が多数発生し、その原因を検索したら「ふとももに何回も筋肉注射」をしていることが判明しました。
これが「大腿四頭筋拘縮症」として社会問題になりました。

ただし「何回も筋肉注射」した薬は、ワクチンではありません。
解熱鎮痛剤や抗生物質です。
筋肉拘縮の原因は、筋肉注射という手技よりも薬液の問題だったと分析されています。

しかし、一度問題視された筋肉注射は、その後汚名返上できずじまいで今まで約50年も経ってしまいました。

今回の新型コロナワクチン接種を機会に、
小児科医は世界標準の接種方法に戻ることを期待しています。


新型コロナワクチンは筋肉注射に 皮下注射と違いは?
酒井健司(内科医)

 近頃はニュースで海外での新型コロナワクチン接種のシーンをよく見ます。みなさまになじみのあるインフルエンザワクチンとは打ち方がちょっと違うのにお気づきでしょうか。
 日本ではインフルエンザワクチンは皮下注射です。皮膚をすこしつまんで注射針は斜めに角度をつけて浅く刺します。一方、新型コロナワクチンは筋肉注射といって上腕の筋肉に注射針を直角に深く刺して打っています。筋肉は皮下組織より深いところにあるからです。ニュースでワクチン接種のシーンが流れたときに注意して見てください。
 実は、インフルエンザワクチンも海外では皮下注射ではなく筋肉注射です。日本では「ワクチンは原則皮下注射」というローカルルールがあり、インフルエンザワクチンに限らず、海外では筋肉注射されているワクチンの多くが日本では皮下注射されています。
 日本で筋肉注射が避けられているのには歴史的な背景があります。不適切な筋肉注射のせいで「大腿四頭筋拘縮症」という副作用が多く起こったことからだそうです。1970年代と言いますから私が子供のころです。抗菌薬や解熱薬を何度も大量に筋肉注射したためであって、ワクチンの筋肉注射ではそのような副作用は起こりません。
 ワクチンの種類にもよりますが、皮下注射よりも筋肉注射のほうが免疫がつきやすく局所の副作用も小さいという報告があります。たとえば、B型肝炎ワクチンは皮下注射よりも筋肉注射のほうが抗体が付きやすいという海外のデータがあります。添付文書上では皮下注射でも筋肉注射でもどちらでもいいことになっていますが、日本ではたいていは皮下注射されます。規定通り3回のワクチンを接種しても10%ぐらいは十分な抗体がつかない人がいますが、追加接種を筋肉注射で行ったりします。
 「ワクチンは原則皮下注射」というローカルルールにさしたる根拠はありません。見直すよう専門家からの提言もあり、徐々に改善されてきています。新型コロナワクチンも海外の標準通り、筋肉注射でされるでしょう。というか、新型コロナワクチンを皮下注射したときの安全性や有効性のデータはまったくないので、皮下注射という選択肢はありません。
 いまのところ、2月下旬に医療従事者に、3月下旬ぐらいから高齢者への接種がはじまる予定です。筋肉注射をはじめて受けるという方もいらっしゃるでしょう。深く刺すので見た目は怖いですが、筋肉注射だからとくに痛いということはありません(薬液にもよります)。海外では標準的な接種方法ですので怖がらなくても大丈夫です。


(追加情報:2021.2.23)

新型コロナワクチンはなぜ筋肉注射なのか?
紙谷聡 | 小児感染症科医師、ワクチン研究者
 今回はワクチンの打ち方について、特に筋肉注射と皮下注射の違いについて解説して、新型コロナワクチン(特に今回導入されたmRNAワクチンを例に)はなぜ筋肉注射をする必要があるのかを考えていきます。

皮下注射と筋肉注射のやり方の違い

 それでは、まず皮下注射と筋肉注射の実際の打ち方の違いについてです。皮下注射とは、その字のごとく皮膚の下、すなわち皮下脂肪があるところに斜め45度から注射します。一方で、筋肉注射とは、皮膚や皮下脂肪のさらに奥にある筋肉に注射を垂直に注射します。
 皮下注射は日本では慣習的に古くからおこなわれており、インフルエンザの予防接種などでも馴染みが深いかと思いますが、筋肉注射はどうでしょうか。今、筋肉注射は話題になっていますが、やはり日本では一般的でなく馴染みが薄いでしょう。しかし日本の常識とは裏腹に、実は海外の多くの国々では不活化ワクチンの予防接種の打ち方として筋肉注射が一般的なのです(※生ワクチンは皮下注射です)。

 なぜ多くの国で筋肉注射が一般的なのか?皮下注射と比べて何が違うのか?

そのなぞを紐解いていくために、まずその違いについて主に効果や安全性を中心に解説します。
 まず一番気になる安全性についてですが、結論から言いますと、多くのワクチンにおいて筋肉注射の方が皮下注射と比べて実は局所の反応(痛み、腫れなど)が少なくなることが知られています。
 「え?筋肉注射の方が痛みや腫れが少ないのは想像していたこととちがう!?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、これは実は考えてみると自然な体のしくみなのかもしれません。身近な体験として例えば、皮膚を思いっきりつねられるとするどい痛みを感じて、イタタっと叫びたくなるくらい痛いですよね。
 一方で、いわゆる運動のしすぎなどで起こる「筋肉痛」ってもっとにぶい痛みではないでしょうか?もっと、じわっとくるにぶいもので、筋肉痛で叫びたくなるほどの痛みというのはあまり聞かないです。実は、筋肉という組織は、表面の皮膚に近いところよりも「鈍感」であり、筋肉は痛みを感じる神経が少ないともいわれています。
・・・さらに詳しく安全性について考えていきます。実は、安全面において皮下注射の方がよりリスクが高いワクチンもあります。特にアジュバントといったワクチンの効果を高める成分が入ったワクチン(4種混合ワクチン、13価肺炎球菌ワクチン、ヒブワクチンなど)は、局所の反応がでやすいため、皮下注射をするとより多く痛みや腫れ、そして強い炎症や肉芽を生じる可能性があることが知られています。そのため、このようなワクチンでは、こうした不快な局所の反応を「軽減」するために皮下注射ではなく「筋肉注射」で投与することが世界では推奨されています。

今回日本に導入されたmRNAワクチンはなぜ筋肉注射なのか?

 さて、今回導入されたファイザー・ビオンテック社製や導入予定のモデルナ社製のmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンは特に、この筋肉注射での接種が極めて重要となります。これは、筋肉の中は血流が豊富で免疫細胞も多く分布するため、筋肉に注射されたワクチンの成分を免疫細胞が見つけやすく、その分その後のワクチンによる免疫の活性化が起きやすくなると考えられているからです。 
 一方で、皮下の脂肪組織の部位は、血流は多くなく免疫細胞の分布も少ないため、ワクチンの成分が免疫細胞に発見されづらくなります。さらに、脂肪組織の部位は吸収が遅いためワクチンの成分をその場に留めて停滞させてしまいやすく、ただでさえ壊れやすいmRNAワクチンは、免疫細胞を活性化するという仕事を全うすることなく分解されてしまうリスクがあります。
 また、mRNAワクチンは効果が抜群な分、局所の反応も起きやすいため、なおのこと局所の反応を抑えやすい筋肉注射をすることが重要になります。

筋肉注射をする際に注意しなければならない方は?

 主に病気やお薬の影響で出血をしやすい方です。すなわち、ワーファリンなどの血をさらさらにするお薬を飲んでいらっしゃる方や、もともと血が止まりにくい病気をお持ちの方は、新型コロナワクチンの筋肉注射をする前に必ず医師や看護師に伝えて、通常より細めの針を使用したり、接種後に少なくとも2分ほど接種部位を圧迫するなどの処置が血種の予防として重要となります。新型コロナウイルスワクチンの予診票にも、血が止まりにくい病気があるかどうかなどの質問項目があるので安心ですね。他に、進行性骨化性線維異形成症を持つ児に筋肉注射は打てません。

シリンジを引く逆血の確認は必要か?

 ちなみに、これは医療者向けの知識ですが、ワクチン接種をする三角筋などの筋肉注射では通常大きな血管はないため、海外では逆血確認のシリンジを引く必要はないとされています(※あくまで予防接種についてのみ)。予防接種において、筋肉注射でも皮下注射でもシリンジを引くと「痛い」ので不利益の方が多く、有名なプロトキン先生のワクチンの教科書にも、米国疾病予防管理センター(CDC)の予防接種ガイドラインにも逆血確認は必要ないとしています。 
・・・
 こうした知見から、世界の多くの国々では、生ワクチン以外のワクチンはこの筋肉注射での予防接種が広く一般的に行われています。痛みも少なめですし、ワクチンによっては効果もより高いのであれば、それを選ばない理由が見つかりません。
 ただ、昔から慣習的に行っていることを急に変えるという事に躊躇する気持ちや不安になる気持ちもよくわかります。しかし、ワクチン接種が多い小児科の分野では、実はこうした筋肉注射への理解や知識を深めようとする動きはすでに以前から行われており、日本小児科学会では小児に対するワクチンの筋肉内接種法の詳細について医師向けに解説をしています。

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「ワクチン接種後アナフィラキシーが○○人発生!」 〜新型コロナワクチンは危険なのか?

2021年01月24日 07時17分25秒 | 小児科診療
新型コロナワクチン接種が世界各国ではじまりました。

そこでまず話題になっているのが、副反応の「アナフィラキシー」です。
「○○社ワクチン接種後、アナフィラキシーが〇人に発生した」
などと報道されていますが、多いのか少ないのか、今ひとつピンとこない人が多いと思います。
皆さんの関心事になっていることと思いますので、まとめてみました。

ちなみに、毎年接種が勧奨されているインフルエンザワクチンの副反応としてのアナフィラキシーの頻度は、約76万人に1人(0.00013%)と報告されています。

さて、新型コロナワクチンによるアナフィラキシーの頻度は多いのでしょうか、それとも少ないのでしょうか?

ファイザー・ビオンテック社ワクチン:9万人に一人(0.001%)
モデルナ社ワクチン:40万人に一人(0.00025%)

インフルエンザワクチンと比べると少し多いといえば多いような・・・でも%にするとあまりにも低く、ピンときませんね。
アメリカのデータベースによるとワクチン全体での頻度は、

ワクチン接種(アメリカ):100万回あたり1.31回(0.00013%)

なので、従来のワクチンより新型コロナワクチンは少し多いという数字です。
ただ、今回は世界中が注目する中で、厳重に副反応が監視され拾い上げられたデータなので、今までの調査法より多い数字が出てもおかしくないとも解説されています。

さて、他の医薬品による副作用としてのアナフィラキシーの頻度と比較してみましょう。

セフェム系抗菌薬:100万人に1人〜1000人(0.0001〜0.1%)
解熱鎮痛剤:100万人に20〜500人(0.002〜0.05%)

ワクチン以外の医薬品は病気の人に投与するのが前提なので、単純比較に意義を唱える人もいるかも知れませんが・・・
いずれにしても、新型コロナワクチンによる副反応としてのアナフィラキシーの頻度は従来のワクチン、薬品と大きな差は無く、中止する判断には至らない、と解説されています。

これらの数字は、以下の記事から抜き出しました;


(ナショナル・ジオグラフィック:2021/1/18)より
・・・
ファイザー・ビオンテック製ワクチンの接種で重篤なアナフィラキシーが起きた21人のうち、19人は女性で、半数は41~60歳(残りの半数は27~40歳)だった。17人は、食品、薬や他の種類のワクチンのほか、ミツバチやスズメバチの刺傷により過去にアレルギー反応を起こしたことがあった。7人にはアナフィラキシーの既往歴があった。
21人のうち18人は、接種後30分以内にアナフィラキシーの症状が現れた。そのほぼ全員が、ただちにエピネフリン(アナフィラキシーの一般的な治療薬であるエピペンの有効成分)の投与を受けた。入院が必要になったのは4人だけだった。21人のうち少なくとも20人は、20年12月23日までに完全に回復したか、退院していた。
これらの症例に地理的な集中は見られず、ワクチンのロットもばらばらであったため、ワクチンの汚染が問題だったという証拠はない。症例の研究はまだ初期段階にある。女性の症例が多いのは、実際に生物学的原因があるせいなのかもしれないし、調査期間中に接種を受けた189万人のうち62%が女性だったという事実を反映しているのかもしれない。
・・・
「1回目の接種で即時反応があった人は、2回目を受けるべきではありません。また、このワクチンの成分や、よく似た化合物に対してアレルギーがあることがわかっている人は、最初からワクチン接種を受けないことをお勧めします」。ワクチンの成分にアレルギーがあるかどうか不明な人は、接種を受ける前に医師に相談するとよい。
ファイザー・ビオンテック製とモデルナ製の新型コロナワクチンはどちらもメッセンジャーRNA(mRNA)とそれを保護するポリエチレングリコールを含んでいる。CDCは、ポリエチレングリコールにアレルギーのある人は、このタイプのワクチン接種は受けるべきではないとしている。ポリエチレングリコールに化学的に似ているポリソルベート(乳化剤として食品や化粧品などに使われる)にアレルギーのある人も同様だ。


(NHK、2021年1月23日)より
 アメリカCDC=疾病対策センターは22日、アメリカの製薬会社モデルナが開発した新型コロナウイルスのワクチンを接種したおよそ400万人のうち、アナフィラキシーと呼ばれる激しいアレルギー反応を示した人は10人だったとする報告書を公表しました。追跡できた人は全員すでに回復したということです。
報告書によりますと、アメリカの製薬会社モデルナが開発したワクチンを接種した人は先月21日から今月10日までに全米でおよそ404万人で、性別は61%が女性、36%が男性で、残りは不明だとしています。
 このうち健康に関する報告は、ワクチンと関係があるかわからないものも含めて、1266件、0.03%だったということです。
 また、激しいアレルギー反応であるアナフィラキシーの症状を示した人は10人、100万人当たり2.5人で、このうち9人は、過去に薬や食べ物などでアレルギー反応が出たことがあったということです。
 症状を示した10人はすべてが女性で、9人は接種後15分以内で症状が出たということです。
 10人のうち、その後の経過が追跡できた8人は全員すでに回復しているということです。
 CDCは「モデルナのワクチン接種後のアナフィラキシー症状はまれな出来事とみられる」としたうえで、念のため激しいアレルギー反応に備えて接種を行うよう求めるとともに、健康への影響を注意深く検証していくとしています。


ちなみに、すでにアメリカ人の1000人に一人以上が、今回の新型コロナウイルス感染で死亡しています。
ワクチンの有効性が十分であれば、自然感染とワクチン接種を秤にかけると、ワクチンの方が安全、という判断になりますね。

もう一つ、アレルギー専門医の堀向先生の意見を紹介します。


(堀向健太 | 日本アレルギー学会専門医・指導医。日本小児科学会指導医。2020/12/21)より
セフェム系抗菌薬(=抗生物質)によるアナフィラキシー:100万人に一人(〜報告により1000人)
解熱鎮痛剤によるアナフィラキシー:100万人に20〜500人
ワクチン接種(アメリカのデータベースより):100満開あたり1.31回
→ 『新型コロナのワクチンは、ややアナフィラキシーの頻度が他のワクチンより高い可能性があるかもしれないけれども、中止するような確率ではないだろう』
・・・
むしろ、発熱や接種部位が腫脹したりする率が高いことが少し心配です。
たとえば新型コロナのワクチンは、接種後に発熱(38度以上)が若年者で16%、高齢者では11%にあったとされています(※4)。
これらの副反応は、『重篤でない副反応』にあたりますが、予防接種に対して慎重な姿勢の方が多い日本では敬遠される理由にならないかを懸念しています。
事前に、その頻度を心得ておく必要がありそうです。
(※4) N Engl J Med. 2020 Dec 10. doi: 10.1056/NEJMoa2034577. Epub ahead of print. PMID: 33301246.


堀向先生は、アナフィラキシーは従来のワクチン・医薬品と差が大きくないので対策を十分に取れば問題ない、むしろ軽度の副反応に分類される局所反応を日本人は気にするのではないか、と心配されていますね。

さて、ワクチンの副反応はアナフィラキシーだけではありません。
それに言及した記事を紹介します。

私が注目しているのは、ADE(抗体依存性感染増強)です。
これはワクチンで獲得した抗体が、その後の自然感染を予防するのではなく、なんと自然感染を重症化させかねないというありがたくない副反応です。
記事のポイントを抜粋すると・・・


現在使用されている新型コロナワクチンの種類
・mRNAワクチン:ファイザー社(アメリカ)、モデルナ社(アメリカ)
・ウイルスベクター:アストラゼネカ社(英国)

現在使用されている新型コロナワクチンの有効性
・ファイザー社:95%
・モデルナ社:90%以上
・アストラゼネカ社:90%以上

副反応は3種類に分けられる
① 接種後数日以内に出現するもの:アナフィラキシーなど
→ 上記
② 接種後2-4週間後に出現するもの:脳炎、Guillain-Barre症候群など
→ 今回のワクチンでは報告はない
③ ワクチン接種者が自然感染した場合に出現するもの:ADE(抗体依存性感染増強)
→ ワクチン接種後に抗体ができ、その抗体のために新型コロナ感染症が悪化する現象。せっかく獲得した抗体が、再び感染した際に悪く作用して重症化につながる効果とは真逆の現象。まだデータが無い・・・。

宮坂昌之・大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授インタビュー
(ダイヤモンド編集部、2021.1.11)


ADE(抗体依存性感染増強)、あるいはワクチン関連疾患増悪(VDE, Vaccine associated diesase enhancemento syndrome)の過去の事例は次の通り;
SARS-MERSワクチン
RSワクチン:1960年代に開発された不活化RSVワクチン試験で、接種後に自然感染した場合80%が入院を要し、子どもの死亡例2例が報告された。
デング熱ワクチン

これらのワクチンは危険と判断され中止に追い込まれています。

もう一つ記事を紹介します。ちょっと専門用語が多くて難しいのですが、比較的詳しく書かれています;


(紙谷 聡:医学書院、2020.10.19)
・・・
 現在COVID-19ワクチンで最も懸念される副反応は,ワクチンによって逆に感染が悪化してしまう病態であるVaccine-enhanced diseaseであり,抗体依存性感染増強現象(Antibody-dependent enhancement:ADE)およびワクチン関連増強呼吸器疾患(Vaccine-associated enhanced respiratory disease:VAERD)の2つに分けられます。
 ADEは,ワクチンによって産生された抗体がウイルスの感染を防ぐのではなく,逆にFc受容体を介してウイルスが人間の細胞に侵入するのを助長し,ウイルス感染を悪化させてしまう現象です。これは,ウイルスに対する中和作用の低い抗体が多く産生される場合に生じる現象で,デング熱に対するワクチンなどで報告されています。
 一方,VAERDは1960年代にRSウイルスや麻疹に対する不活化ワクチンで認めた現象ですが,やはりワクチンによって中和作用の低い抗体が産生され,その抗体がウイルスとの免疫複合体を形成し,補体活性化を惹起して気道の炎症を引き起こすものです。さらに,この不完全な抗体はTh 2細胞優位の免疫反応も惹起して気道内にアレルギー性の炎症を引き起こします。これらの病態によって,より重症なRSウイルス感染をワクチン接種者に認めたのです。
 ADEやVAERDを防ぐには,高い中和作用を有する抗体を産生させ,かつTh 1細胞優位の免疫反応を惹起するワクチンの開発が必要だと考えられています。
 そのためには立体構造的に正しくかつ安定した,質の高いスパイク糖たんぱく質(抗原)をワクチンによって作りあげることが重要です。現時点で学術誌に報告されているワクチン(mRNA-1273, ChAdOx 1, Ad 5 vectored vaccine, BNT 162 b 1など)は,いずれも高い中和抗体反応を認め,一部はT細胞性免疫反応も確認できており(mRNA-1273はTh 1細胞優位の反応も確認),この基準を満たしている可能性があります。
 また,9月上旬までに医学誌に発表された報告では,接種部位の痛みや倦怠感,発熱などの反応はあるものの,深刻な有害事象は認めておらず,安全性に一定の期待が持てる結果となっています。しかし,ADEやVAERDの可能性を正しく評価するためには,ワクチン接種者が実際に新型コロナウイルスに感染したときにどのような反応が起きるかを対照群と比較する必要があり,今後の第III相試験を含めた安全性評価および後述するワクチン認可後の安全性モニタリングが鍵となります。
・・・


この副反応の検証が不十分なまま、新型コロナ感染症の勢いが強いため、見切り発車的に始まったという印象が、私には拭いきれません。
今後の情報発信にアンテナを張り続け得たいと思います。


<参考>
(京都大学 ウイルス・再生医科学研究所、2020年11月13日)
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新型コロナに罹れば“無敵モード”が歌舞伎町の流儀

2021年01月23日 20時20分48秒 | 小児科診療
・・・という記事を読んで、ビックリすると共になるほどと頷いている自分がいます。
以下に紹介します(下ネタ系で申し訳ありません)。
まあ部数を競う週刊誌の記事ですから、誇張されている部分も無きにしも非ず、話半分で読んでください(^^;)。


「キスもします。仕事だから」コロナ感染の歌舞伎町セクキャバ嬢が告白した“おっぱいクラスター”の現在

「・・・風俗もセクキャバも、欲に負けたお客さんが絶対来るからね。緊急事態宣言が出た今だって賑わってるよ」
 1月7日に出た2度目の緊急事態宣言が、1度目ほどの効果と緊張感を生み出せずにいる。日本最大の歓楽街、新宿・歌舞伎町も人出が戻り、“濃厚接触”が売りの風俗店にも客足が戻ってきているという。

▢ 一度かかったので“無敵モード”に
 昨年秋には、歌舞伎町のセクキャバでもクラスターが発生している。取材班は新型コロナウイルスに感染した経験がある歌舞伎町のセクキャバ嬢・A子さんに話をきいた。
「うちのお店は春から夏の終わりにかけて、ほとんどのキャスト、黒服がコロナに感染しています。皆がコロナ経験者なので『抗体があるからもうかからない』と“無敵モード”で余裕かましてますね。コロナにかかったときの対応もさまざまで、しっかりPCR検査を受けて2週間休む子もいれば、『匂いや味がない』と言いながら、PCR検査も受けず、4~5日休んですぐに復帰する子もいました。私は高熱がでてインフルエンザのように体の節々が痛くて、症状が重かった。体の調子が落ち着いてもかなり長い間嗅覚も味覚も戻らず、自分は何を食べているんだろうという状態でした」
・・・
▢ 「一度かかったこと」が最大の対策?
 そもそも店内での感染対策はどうなっているのか。
「一応、コロナ対策でお客さんにはイソジンでうがいをしてもらっています。私たちも接客前には透明のボトルに入った『次亜塩素酸水』をおしぼりにつけて、胸や口、耳を消毒しています。何度も消毒してるとピリピリして肌が荒れるので、消毒後はおしぼりで拭き取ってる子が多いです。
 対策はそれくらいで、ディープキスもするし、おっぱいも舐められる。それが仕事だからね。まあ一番の対策は、すでに一度コロナにかかってること。2部の営業は女の子だけじゃなくてお客さんもスタッフもほとんどがコロナ経験者だから、誰も気にしてませんよ(笑)」
・・・
▢ 「まだコロナとか言ってるの?」
 生活のために店を開けて何が悪い、という開き直りにも似た“空気”は歌舞伎町で働く多くの人に共通している。


新型コロナに関しては、
若者も合併症や後遺症が話題になるものの、
命に関わることは非常に希なので、
罹って抗体ができれば無敵モード
キャバクラ嬢もスタッフも客も皆感染済みなのでもう気にしない
という雰囲気が歌舞伎町に蔓延している、と読み取れます。

困ったもんだ・・と思いつつ、実は一理あると思います。

感染症は罹っても軽く済めば御の字”とは誰しも思うこと。
新型コロナの場合、若者はそれで済みますが、
高齢者はそれで済むわけでは無く、一定の比率で重症化して命に関わります。

誰しもが軽く済んで治ってほしいと願います。
それをクスリで実現できないだろうか・・・
実はその考え方から生まれたのが、“ワクチン”なのです。

ワクチンの目的は、
弱毒化した病原体をあえて体に入れて感染させ、症状を軽く済ませて抗体を獲得させる
というもの。

典型的なのが「生ワクチン」です。
現在用いられている生ワクチンには以下のものがあります;

(例)
MR(麻疹・風疹)ワクチン
水痘ワクチン
おたふくかぜワクチン
ロタウイルスワクチン
BCG

ただ、欠点があります。
<ワクチンのデメリット>
自然感染と比較してワクチンは症状が出ない分、獲得できる免疫の強さと持ち(持続期間)が悪く、10年くらいで弱くなって罹ってしまうことがあります。
現在は2回あるいは3回接種することになっています(BCGを除く)。

そして大きなメリットもあります。
<ワクチンのメリット>
自然感染とワクチンの大きな違いが“感染力”です。
自然感染では他人から感染症をもらい罹ると“被害者”ですが、
同時に“加害者”になるリスクも発生します。

若い自分は軽く済んでも、
同居している祖父母に移してしまうと命の危険があるのです。

しかしワクチンを接種した場合、軽く症状が出ることはあっても他人に感染させることはありません

問題視されて不活化ワクチンに変更され解決しました。

加害者になり得るかどうかは、流行制御という視点で見ると、大きな大きな違いです。
現在、「若者は新型コロナウイルスの運び屋」と危険視されているからです。

気になるのがワクチンの副反応ですが、こう考えてみてください。

自然に感染すると症状もひどいし合併症も重い、
ワクチンを接種すると症状は出ない、合併症(副反応)もまれ

副反応が問題視され、マスコミが煽るのは、
ワクチンが健康者に接種するものだからです。

ワクチンが有効なら何も起こらない(感染しない)ので、ありがたみを感じにくい。
しかし副反応が発生すると、
「健康人に使用する薬に副作用(副反応)が出るなんて許せない」
という攻撃対象にもってこいなのです。
攻撃対象は国ですから、他人から批判されるリスクも少ないですし。

実は、自然感染の合併症よりワクチンの副反応の頻度・程度はとても少なく済むのですが、
ふだん、なかなか一般の人はそこまで思いを馳せることができません。

もし、「症状も重く出てしまうし、合併症のリスクも高い」ワクチンがあったら、あなたは接種しますか? 
・・・しませんよね。
それが“自然感染”という名のワクチンです。
自然感染は、ワクチンという視点から見ると「最強&最悪」のワクチンなのです。

さて、現在話題になっている新型コロナワクチンの重篤な副反応である“アナフィラキシー”は100万人に数人程度と報告されています。

これを多いと感じますか、それとも少ないと感じますか?
日本人では多い・危険を感じる人が多いかも知れません。
平和な日本では“ゼロリスク”を求めがちですから。

アナフィラキシーとは複数の症状が一度に出るアレルギー反応のことです。
程度によりショックに至り命に関わることがある危険な症状です。

さてここで、匿名の“クスリ”をクイズ的に紹介させていただきましょう。

その“クスリ”は、誰でも飲んだことがある身近なものです。
しかし、小中学生がそれを飲むと、1000人に一人の頻度でアナフィラキシーが発生すると報告されています。

すごく多いですよね。

でもこの“クスリ”、薬店やドラッグ・ストアで簡単で手に入りますし、
実はスーパーやコンビニでも販売されています。
この“クスリ”の名前、おわかりでしょうか?

答えはなんと「牛乳」です。

牛乳アレルギーで1000人に一人の学童がアナフィラキシーを起こすのです。
数年前に死亡事故も発生しました。
しかし「そんな危険なものをスーパーで販売しているなんておかしい」
とは誰も言いません。
もし、1000人に一人の頻度でアナフィラキシーが起こるクスリが開発されても、日本政府が認可することはあり得ないでしょう。

その事実を知る私には、
100万人に数人の頻度でアナフィラキシーが発生するより安全な薬って作れるのだろうか・・・と素朴な疑問が湧き上がります。

言い方を変えると、
副反応ゼロのワクチンは存在しない
のです。
もしあるとすれば、それは“効かない”ワクチンですね。

作用があれば副作用がある、
副作用が無いクスリは作用も期待できません。

ではどう考えるべきか?

要は「アナフィラキシーが起きても対応可能な体制で接種に臨む」ということに尽きると考えます。

従来、予防接種を受けた後は、
「30分程度、その場所に待機して副反応の有無を確認してから帰宅する」
というルールが予防接種ガイドラインや啓蒙書に記載されてきました。
しかし待合室が狭かったり、患者さん側が忙しかったりで、いつの間にか守られなくなることが増えてきたようです。

副反応が心配な割には、その有無を確認する時間を待っていられないなんて、日本人はワガママですねえ。

先日、新型コロナワクチンの説明会が地元医師会でありました。
その質疑応答で、ある医師から、
「ワクチン接種した後、何分くらい医院で観察すればよいのですか。インフルエンザみたいにすぐ帰ってもらうわけにはいかないですよね。」
という質問が出ました。

私は耳を疑いました。
インフルエンザワクチン接種後、すぐ帰宅している?
危ない橋を渡ってます・・・。

当院では開院以来、愚直に上記30分ルールを守っています。
なので、初めて知る患者さんは驚いたり、待たないことになれていない患者さんは怒って当院以外の医療機関に流れることもあります。

私って青臭いのでしょうか?
今回、ワクチンのリスクを再認識して、ルールを守るようになればいいな、と思っています。

それから新型コロナワクチンは「筋肉内注射」です。
これは、副反応が問題になったHPVワクチン(子宮頸がんワクチン)と同じく、針を深く刺して接種する方法です。

そう聞くとすごく痛そうですが、実はあまり痛くありません。
筋肉には痛覚点が少ないからです。
もし、痛みが強い場合は、接種医の腰が引けて筋肉まで到達していない可能性が指摘されています。

他のワクチン(10歳以上のB型肝炎など)で筋肉注射することがありますが、
接種前に怖がった子ども達でも、
「あれ、思ったほど痛くなかった」
と平気な顔をして帰って行きますよ。
大丈夫、大丈夫。
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新型コロナウイルスと家庭内感染

2021年01月18日 06時46分59秒 | 小児科診療
2回目の緊急事態宣言は発効され、自宅で過ごす時間がまた多くなりました。
しかし一方で、家族に患者が発生すると、家庭内感染のリスクが増えるという面もあります。

家庭内ではどんな経路・タイミングで感染するのでしょうか。

COVID-19の家庭内感染のリスク因子~54研究のメタ解析
ケアネット:2021/01/18)より一部抜粋
 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の家庭(同居世帯)内の感染リスクは、他のコロナウイルス(SARS-CoV、MERS-CoV)より2~4倍高く「初発患者が症状あり」「接触者が18歳以上」「初発患者の配偶者」「家庭内の接触人数が1人」がリスク因子であることが、米国・フロリダ大学のZachary J. Madewell氏らのメタ解析で示された。JAMA Network Open誌2020年12月14日号に掲載。
 著者らは、PubMedにおいて2020年10月19日までの論文を検索し、系統的レビューおよびメタ解析を行った。主要評価項目は、SARS-CoV-2および他のコロナウイルスにおける、共変量(接触者が家庭もしくは別居家族を含めた家族、初発患者の症状の有無、初発患者が18歳以上もしくは18歳未満、接触者の性別、初発患者との関係、初発患者が成人もしくは子供、初発患者の性別、家庭内の接触人数)で分類し推定した2次発症率。

・家庭内2次発症者7万7,758例を報告した54研究を特定した。
・SARS-CoV-2の推定家庭内2次発症率(95%信頼区間)は16.6%(14.0~19.3)で、SARS-CoVの7.5%(4.8~10.7)およびMERS-CoVの4.7%(0.9~10.7)より高かった。
・家庭内2次発症率(95%信頼区間)に差がみられた共変量は以下のとおり。
 - 初発患者の症状:あり 18.0%(14.2~22.1)、なし 0.7%(0~4.9)
 - 接触者の年齢:18歳以上 28.3%(20.2~37.1)、18歳未満 16.8%(12.3~21.7)
 - 初発患者との関係:配偶者 37.8%(25.8~50.5)、他の家族 17.8%(11.7~24.8)
 - 家庭内の接触人数:1人 41.5%(31.7~51.7)、3人以上 22.8%(13.6〜33.5)

この報告は「メタ解析」といってたくさんの関連論文から客観性のあるものを選んでそれをまとめたものであり、信頼性が高いと評価されます。
以下のように、予想通りという結果ですね。

① 症状がない人よりある人のほうが感染力が強い。
② 子どもは大人より感染力が弱い。

また、意外なリスク因子も確認されました。

③ 夫婦間ではリスクが高い

これは、接触が濃厚なのか、夫婦だから一蓮托生という開き直りがあるのか、不明ですが・・・。
あ、外国では夫婦は同じベッドで寝ることが基本(NHKの「Cool Japan」でやってました)ですから、睡眠中(たぶんマスクなし)はハイリスク状態ということですね。

④ 家庭内の接触者が一人の場合は多人数よりリスクが高い

これはどういうことなのか、ちょっとわかりません。③と④を一緒に考えると、老夫婦の世帯はハイリスクとなるのでしょう。

■ COVID-19、家庭・職場で感染リスクが高い行動は?
 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染リスクを減らすには何に注意すればよいのだろうか。シンガポール・National Centre for Infectious DiseasesのOon Tek Ng氏らが、COVID-19患者の濃厚接触者におけるSARS-CoV-2感染に関連する因子を調べた結果、家族内では「寝室の共有」「COVID-19患者から30分以上話されること」が、家族以外では「2人以上のCOVID-19患者への曝露」「COVID-19患者から30分以上話されること」「同じ車への乗車」が関連していた。一方、「間接的な接触」「一緒に食事すること」「同じトイレの使用」については独立した関連がみられなかった。Lancet Infectious Disease誌オンライン版2020年11月2日号に掲載。

この報告では、

・寝室の共有(つまり夫婦)
・患者から会話に伴う飛沫を30分以上浴びること

がハイリスクであり、一方で、

・間接的な接触
・同じトイレの使用

はリスクにならなかった、とされています。
単純に考えると、接触より飛沫のほうが感染力が強く、感染機会も多いということになりますね。
「トイレは要注意」とテレビで再三報道されていますが、接触感染対策(手洗いをしっかり)すれば、リスクは高くないのかもしれません。
なぜって便中にPCRで検出されるウイルスにはすでに感染力がないことがほとんどですから。
ただ「一緒に食事すること」がリスク因子になっていないのが不思議ですが。

これらの情報をもとに、では実際には家庭内の感染対策はどうすべきか、を考えましょう。
港区のHPにわかりやすい記載がありましたので、一部引用させていただきます;

□ 家の中での感染予防(5つの工夫)
(1)他の人の食べ残しを食べないようにしましょう。
(2)みんなで一緒に使うものは、使用後によく洗いましょう。
(3)直接口をつけるものの共有は避けましょう。
(4)家に帰ったら手を洗いましょう。
(5)換気をしましょう。
□ 体調が悪くなった場合に行うこと
(1)適切な距離をとりましょう。
(2)互いにマスクを着用しましょう
(3)来客はお断りしましょう。
(4)ティッシュ等のごみを捨てる時はごみ袋をしばりましょう。
(5)シャワーやお風呂は体調が悪い人が最後に入りましょう。

リーフレットはこちら
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新型コロナは唾液の中にいる

2021年01月18日 06時28分09秒 | 小児科診療
新型コロナウイルス対策をしたら、ほかの感染症は激減したけど、新型コロナだけが残っている、という不思議な現象が発生しており、現在の対策で十分なのか?という素朴な疑問がわいてきます。

新型コロナの特徴の一つに「唾液中にウイルスがたくさんいる」ことがあげられます。
テレビで放送されているように、新型コロナの検査では鼻の中の検査のほかに、唾液を使った検査がありますよね。
これは唾液中にウイルスがたくさん出ていることの証拠です。

一方、インフルエンザを含めた他の感染症で、唾液を使った検査はできません。
つまり、唾液中にウイルスはいない(あるいは少ない)のです。

唾液の中にいるということは、くしゃみや咳をすると飛び散った飛沫が感染力を持つことは当然ですが、先日テレビで「ふつうの会話を3分間すると、1回咳をしたときと同じだけ飛沫が飛ぶ」ことがわかったと放送していました。

だから、「マスクなしの会話・会食で感染する」のですね。

会食の際、横並びは合い向かいよりリスクが高いそうです。
合い向かいでも、正面より斜め前にずらした方がリスクは減るそうです。

<参考>
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