徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

「森永ヒ素ミルク中毒事件」の記憶

2018年11月06日 14時15分44秒 | 小児科診療
 BCGワクチン溶解液にヒ素が混入・・・医療関係者が「ヒ素中毒」を聞くと、古い人間は「森永ヒ素ミルク中毒事件」を思い出します。
 昭和30年、育児用ミルクにヒ素が「溶けやすいように」と危険性の検討をせずに添加され、それを飲んだ赤ちゃんに急性中毒症状が発現し、後遺症も残ったという事件です。
 西日本を中心に、死亡者130人、被害者1万3000人。
 例に漏れず、ミルクを製造した森永乳業は自分の非を認めようとせず、政府に近いお抱え大学教授は「赤ちゃんの症状の原因はヒ素によるものではなく先天性の病気」と言い逃れをして、ほとぼりが冷めるのを待つのでした。
 しかしその後、疫学的手法により科学的にひ素中毒が証明され、森永乳業はとうとう事件から18年後に認めるに至りました。

 BCGに混入していたヒ素のことから事件を思い出し、昔録画してあったこの事件を扱うドキュメンタリーを見てみました。

 歴史的にこの類いの事件は、加害者側の会社は自分の罪を認めたがりません。
 被害者側が粘り強く訴えを長年続けて、初めて救済されるのが常です。
 その間、被害者である患者さんは、病気に悩まされ、かつ、世間からの批判的な視線にさらされるというつらい日々を送ることになります。
 森永ヒ素ミルク中毒事件の場合は、生まれて間もない赤ちゃんに生じた異常症状のため、先天的な病気と疑われて親族からも母親が非難されて追い詰められるという悲惨さもありました。
 この悲しさは、被害者が赤ちゃん、加害者が森永乳業ですが、ミルクを飲ませた母親が罪の意識に一生さいなまれたこと。
  
 忘れてはいけない事件として、取りあげさせていただきました。

■ ETV特集「母と子 あの日から 〜森永ヒ素ミルク中毒事件60年」
2016.7.23:NHK
 母親が赤ちゃんに与える粉ミルクに猛毒・ヒ素が混入した「森永ヒ素ミルク中毒事件」。少なくとも130人の乳幼児が死亡、全国で1万3000人以上の被害者を出した。被害者の中には、脳性まひなど重い障害が残った人も。しかし後遺症の存在は、事件から10年以上認められなかった。国、森永乳業、被害者団体が昭和48年に「恒久救済」に合意した後も、母親たちの自責の念は消えていない。被害者と親たちの60年をみつめる。


<参考>
□ 「森永ヒ素ミルク中毒事件60年 ~母と子 あの日から~|ETV特集


 さて、会社と政府が「ヒ素中毒」を認めざるを得なくなった根拠は「疫学調査」です。
 一般に、化学物質と人体への障害を証明するのは難しい。
 そこで「疫学」の出番です。
 森永ミルクを飲んだ赤ちゃんと、飲まなかった赤ちゃんを比較して、症状が明らかに飲んだ赤ちゃんに多ければ、そのミルクが原因と間接的に証明されるわけです。
 このデータを証拠として森永乳業と政府に提示し、非を認めさせたのでした。

 さて、この疫学的手法はワクチンの副反応の評価にも使われます。
 ワクチンの成分が副反応症状の原因になっているかどうかを証明するのは難しい。
 ここでも「疫学」の出番です。
 問題となるワクチンを接種した子どもと、接種していない子どもを比較して、その症状の発生頻度を比較します。
 差があれば関係あり、差がなければ関係なし。

 ヨーロッパでMMR(麻疹・おたふく・風疹)ワクチンが自閉症発症と関係があるという論文が発表され、そのためにワクチン接種率が下がり、あちこちで麻疹が流行して社会問題になったことがありました。
 そのデータが本当かどうか検証する目的で、MMRワクチンを接種した子どもと接種しない子どもにおける自閉症の頻度を比較したところ、差がありませんでした。
 つまり、MMRワクチンは自閉症の原因にはならないことが証明されたのです。
 この論文はその後、データのねつ造が発覚し、掲載が取り消しになりました。
 論文の著者であるイギリス人のアンドリュー・ウェイクフィールド医師は医師免許を剥奪され、現在米国で「反ワクチンキャンペーン運動」を続けているそうです。
 先日彼が監督した映画「MMRワクチン告発」が日本で上映されそうになりましたが、「問題あり」として上映が中止されました。

 HPVワクチン(子宮頚癌ワクチン)でも、ワクチン成分が副反応とされる症状の原因になっているかどうか、判断が難しい。
 そこで「疫学」の出番です。
 HPVワクチンを接種した女性と、接種していない女性で、症状の発現頻度を比較したところ、差がありませんでした。
 つまり、HPVワクチンは副反応とされる症状の原因ではない、ということ。

 さて、森永ヒ素ミルク中毒事件では、被害者側が疫学データを持って因果関係を証明し、加害者側に罪を認めさせました。
 一方、MMRワクチンとHPVワクチンでは、加害者(?)側が疫学データを持って因果関係がないことを証明し、被害者(?)側に提示しました。
 当然、ここで問題は解消するはず。

 しかし、現在も完全に解決しているとは言えない状態です。
 ワクチン被害者(?)側は、提示された疫学データを認めないのです。
 自分の都合で科学的データに頼ったり、逆に自分の都合で科学的データを無視したり・・・人間ってしょうもない生き物です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

BCGワクチン溶解用生理食塩水から基準を越えるヒ素を検出。

2018年11月04日 13時36分36秒 | 小児科診療
 BCGワクチンに関する問題発覚です。
 はじめにお断りしておきますが、ワクチンそのものの問題ではありません。
 
 BCGワクチンの箱には溶解用の生理食塩水が一緒に入っています。
 今回の問題はこちらです。
 ワクチンを溶解するための生理食塩水を入れる容器にはヒ素が含まれており、熱をかける工程で溶け出したため、生理食塩水から基準を超えるヒ素が検出された、とのこと。
 
 下記記事を読むと、この事実は8月には既に判明して出荷停止しているとありますね。
 実際にBCGワクチンを患者さんに対して接種している臨床現場には何の情報もきていません。
 どういうことなんでしょう? 

■ BCGワクチン出荷停止=溶剤からヒ素、安全性問題なし-厚労省
2018/11/03:JIJI.com
 厚生労働省は2日、日本ビーシージー製造(東京)が製造する、BCGワクチンを溶かすための生理食塩液から基準を超えるヒ素が検出され、8月からワクチンとともに出荷を停止していることを明らかにした。出荷され、接種されたものもあるが、安全性には問題のないレベルとしている。
 生理食塩液を入れる容器にヒ素が含有されており、熱をかける工程で溶け出たのが原因という。同社は判明後、他の容器に変更して生理食塩液の製造を始めており、11月中旬にも出荷を再開する予定。


 こちらの記事の方が少し詳しいですね。
 問題がないなら、何のための“基準”なのでしょう?
 ・・・腑に落ちないことばかり。

■ BCGワクチン出荷停止 ヒ素検出、安全性問題なし
2018/11/3:日本経済新聞
 子どもの結核予防のため乳児を対象に接種しているBCGワクチンを溶かすための生理食塩液から、定められた基準を超えるヒ素が検出され、製造業者の日本ビーシージー製造(東京)が8月からワクチンと共に出荷を停止していることが3日までに、厚生労働省への取材で分かった。
 ごく微量で、この量以下ならば一生の間、毎日注射しても健康に悪影響が出ないとされる国際的な許容量の数十分の1だったため、ワクチンの安全性に問題はないという。食塩液を入れるガラス製の容器からヒ素が溶け出したのが原因で、11月中に別の容器に取り換えて出荷が再開される見込み。
 厚労省は、今月5日に開かれる有識者の会合で報告する。「安全性に問題はなく、他に代替品がないことから回収はせず、すぐには公表しなかった」と説明している。
 厚労省によると、8月9日に食塩液の基準の0.1PPMを超える0.26PPMのヒ素が検出されたとの報告がビーシージー製造からあり、ワクチンの出荷を停止した。
 このワクチンは、国内では同社だけが供給。1歳未満の乳児が定期接種の対象となっており、毎年100万人近くが接種している。停止後も出荷済みのものが流通しており、基準値超えのワクチンが接種されている可能性がある。新しい製品での出荷が再開すれば、ワクチンは不足しない見込み。


 追加情報です。
 2018.11.5に共同通信社から以下の記事が発信されました;

■ BCG、10年前からヒ素混入か 厚労省報告
 子どもの結核を予防するBCGワクチンを溶かす生理食塩液から微量のヒ素が検出された問題で、厚生労働省は5日、同じ製法となった2008年以降の製品にはヒ素が混入していた可能性があるとの見方を示した。ただ安全性に問題はないと強調している。
 食塩液をガラス製の容器に入れ、加熱する工程で容器からヒ素が溶け出たのが原因で、容器に入れる前の食塩液を検査していたため、長年発覚しなかったという。
 厚労省は専門調査会に問題発生の経緯などを報告。製造業者の日本ビーシージー製造は16年にも厚労省から業務改善命令を受けており、調査会の委員からは管理体制を問題視する声が上がった。


 予防接種行政への信頼が崩れていく音が聞こえてきそうです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

風疹対策で明暗〜オーストラリアと日本〜

2018年11月04日 13時09分14秒 | 小児科診療
 風疹対策でモタモタしている日本は不名誉にも、米国CDCから「妊婦は渡航に注意」と指摘されてしまいました。
 その昔、日本は“麻疹輸出国”と米国から非難されたことを思い出しますね。

 一方、諸外国では堅実にワクチン接種が進み、今回オーストラリアで「風疹根絶」が達成されたそうです(米国では既に達成済み)。

 麻疹輸出国を非難されたことに反応し、MRワクチン2回接種を導入して麻疹を根絶した日本ですが、風疹対策では未だに“モタモタ”しています。
 理由を教えて欲しいものです。

■ オーストラリア、風疹根絶を宣言 米は日本への渡航自粛を勧告
2018.11.01:CNN
 世界保健機関(WHO)は10月31日、オートラリアで風疹が根絶されたと発表した。一方、米疾病対策センター(CDC)は日本での風疹の流行を受け、日本への渡航に関する警戒情報を出している。
 風疹は米大陸では既に根絶されており、オーストラリアでの根絶について、同国のハント保健相は「公衆衛生上、極めて重要な功績」と位置付ける。
 風疹は感染性の強い疾患だが、ワクチン接種で予防できる。妊婦が感染すると、障害を持つ子どもが生まれたり、流産したりする恐れもある。
 CDCは、妊婦や予防接種を受けていない人などに対し、風疹が流行している間は日本への渡航を控えるよう呼びかけている。
 WHOによると、アフリカや東南アジアではまだワクチンの接種率が低く、風疹の問題が続いている。世界194カ国中152カ国が風疹の予防接種を国の制度に取り入れており、症例数は2000年~2016年にかけて97%減少した。
 オーストラリアでは5歳児の予防接種率が全土で94%を超え、過去最高を達成しているという。
 感染者数は最も多かった1958年で約5000人、1990年代でも4000人に上っていた。ハント保健相は「予防接種は命を救い、命を守る。健全な社会の一環として欠かせない」と強調している。
 WHOでは2020年までにはしかと風疹の根絶を目指す目標を掲げている。


 もう一つ記事を紹介します。
 CDCの動きについてはこちらの方が詳しいですね。具体的には、
「予防接種を受けていない妊婦や、以前に風疹に感染した明確な記録のない妊婦は、感染が拡大している間は日本への渡航を自粛するよう勧告」
 です。

■ 日本で風疹急増 アメリカの CDC(疾病対策センター)が旅行前の予防接種を勧告
2018年10月23日:JUNGLE CITY.COM
 米国の CDC(疾病対策センター)は22日、日本で風疹(Rubella)の感染が広がっていることを受け、旅行前に MMR(measles(麻疹)、mumps(流行性耳下腺炎/おたふく風邪)、rubella(風疹)の三種の生ワクチンが混合されたワクチン)を接種しておくよう勧告しました。
※ 「Rubella in Japan」(CDC)
 CDC によると、風疹の感染ケースの大半は関東地域(東京、千葉、神奈川、埼玉)で報告されています。
 特に、妊娠中に風疹に感染した場合、流産、死産、胎児に先天性風疹症候群 (CRS)と総称される重度の先天異常を引き起こすことがあるため、予防接種を受けていない妊婦や、以前に風疹に感染した明確な記録のない妊婦は、感染が拡大している間は日本への渡航を自粛するよう勧告(Alert – Level 2, Practice Enhanced Precautions)しました。
 日本の国立感染研究所の公式サイトで「風疹急増に関する緊急情報」を確認できます。特に、「妊娠中は風疹含有ワクチンの接種は受けられず、受けた後は2ヶ月間妊娠を避ける必要があることから、女性は妊娠前に2回の風疹含有ワクチンを受けておくこと、妊婦の周囲の者に対するワクチン接種を行うことが重要である」とされていますので、妊娠を試みている方もご一読ください。


<参考>
■ 2020年度の風しん排除に向けて(IASR Vol. 37 p. 78-80: 2016年4月号


<追記>
同じ系統の記事が「livedoor news」にありました。
日本政府がやるべきことははっきりしているのに、相変わらず腰が重い・・・いつになったら動き出すのでしょうか?

■ 「米、風疹激増の日本へ妊婦の渡航自粛を要請。渡航警戒レベルをエボラ出血熱と同等に」より抜粋
2018.11.6:livedoor NEWS
 国立感染症研究所の発表によれば、2018年に入ってからの感染者数が1486人にのぼり、すでに2017年の15倍以上になっている。10月21日までの1週間で風疹に感染した人は、首都圏を中心に174人。
 感染者が多いのは30~50歳、とりわけ男性が多い。風疹はくしゃみや咳などのしぶきでうつる。感染力はインフルエンザの比ではないほど強い。風疹はウイルス性で潜伏期間は2~3週間。発熱や発疹、リンパ節の腫れが主な症状として出る。

◆アメリカではエボラ出血熱と同じ警告レベル、深刻なワクチン不足
 米CDC(疾病対策センター)は日本の風疹流行を「レベル2」にランクづけした。3段階の警告レベルのうち、2番目の重要度のもので、これはエボラ出血熱と同じ警告レベルだという。「予防接種や過去の感染歴がない妊婦は日本に渡航しないよう」という自粛勧告まで出している。日本では危機意識があまり高くないが、米国政府はかなり深刻な状況とみているようだ。
 これらの事態を受けて、東京都は10月26日に、いままで妊娠を希望する19歳以上の女性に限定していた抗体検査や予防接種への補助を、妊婦や妊娠を希望する女性の同居者にも広げると発表した。
 ただ、都道府県や厚生労働省はワクチン接種を勧めているが、肝心のワクチン自体が深刻な品不足になっている。北海道在住の20代男性は病院にワクチン接種をしに行ったら、「混合ワクチンが不足していてありません。いつ入荷する見込みかも分からない」と言われたという。
 北海道だけではない。感染者の多い東京の医療機関でも、ワクチン不足が深刻化している。東京都がワクチン接種を勧めてきたのに、肝心のワクチンが品薄なのだ。「しばらく接種を見合わせる」という医療機関が続出している。これでは、感染拡大が止められない。
 東京都の対応は後手後手に回っている。ある医療関係者は「まずはメーカーにワクチンの増産を指導すべきだったのではないか。ワクチン増産なしに接種だけ推奨すれば、品薄になるのはわかりきったことではないか」との恨み節が聞こえてくる。
 国や都の無策に業を煮やした医療機関にはMMR(麻疹、おたふくかぜ、風疹)ワクチンを輸入して希望者に接種する医療機関も出てきた。
 筆者は10月26日に風疹・麻疹の混合ワクチンを接種した。税込み8640円。アメリカ政府が妊婦の日本渡航自粛を呼びかける深刻な事態なので、早期にワクチンを接種することが肝要だ。


 下線部のことは私も少し前に書きました
 医療現場の実感ですね。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

インフルエンザワクチンの効果を整理してみました。

2018年11月03日 13時29分46秒 | 小児科診療
 何かと話題のインフルエンザワクチン。
 小児科医は毎年なんだかんだで振り回されます。
 もう慣れっこになっていて、今年(2018年)も「ワクチンが足りない、いや足りるはず」と騒いでいますが、ただただあきれるだけです。
 先日のブログ「インフルエンザ情報アップデート2018」では菅谷憲夫先生の文章から引用したインフルエンザワクチンの効果が以下のようになっていました;

<小児>
① 小児では全体的に50%程度の発病防止効果がある。A(H1N1)pdm09では高く、B型はやや低めであるが、変異したA香港型においても30〜40%の効果が期待できる。
② ワクチン接種により、50%以上の高い入院防止効果がみられる。
③ 1歳未満の乳児には効果がない。

<成人>
① A(H1N1)pdm09とB型には50%前後の発病防止効果があるが、A香港型には低い(特に高齢者)。
② 健康成人であっても、発病防止効果は30〜40%と高くはない。


 いずれにしても、麻疹ワクチン、風疹ワクチンなどと比べると有効率がとっても低いですね。

 さてこれとは別に、やはりワクチン界のご意見番である中野貴司Dr.(川崎医大小児科教授)の文章もありましたので、メモ&引用してみます。

■ 「インフルエンザワクチンの効果」中野貴司、月刊薬事 2018.10(Vol.60 No.13)-53(2405)

 ワクチンのデータってたくさんあるので、どれを重視して選択するかで印象が変わってくるのです。
 なので何となく記憶しているだけでは混乱して訳がわからなくなります。
 インフルエンザのサブタイプ、対象年齢、研究方法などにより、数字が微妙に異なってきますので、そこを抑えておく必要があります。

・日本のコホート研究によるワクチンの有効率は、
<65歳以上の高齢者>
①「発症予防」34〜55%。
③「死亡回避」80%以上。
<6才未満小児>
①「発症予防」22〜25%。

・日本の診断陰性例コントロール試験(test-negative case-control design)による研究では、
<6歳未満小児>
①「発症予防」41〜60%

※ 海外での成績・報告
・米国における不活化スプリットワクチンによる高齢者での有効率は、
①「発症予防」30〜40%
②「入院回避」50〜60%
③「死亡回避」80%


 菅谷先生はA型、B型に区別していますが、中野先生はインフルエンザ全体で語っているところが異なります。
 また、聞き慣れない「コホート研究」「診断陰性例コントロール試験(test-negative case-control design)」などという研究方法の名前も出てきました。
 詳細は省きますが、簡単に説明すると、

【コホート研究】
 接種者と非接種者を追跡して発病率を比較する方法。

【診断陰性例コントロール試験(test-negative case-control design)】
 インフルエンザ様疾患で医療機関を受診した者を対象に、インフルエンザの検査診断陽性者(症例)と陰性者(対象、test-negative control)に分類し、過去にさかのぼってワクチン接種状況を比較する。

 ということらしいです。
 某講演会では、「診断陰性例コントロール試験」がメジャーになりつつあると講師の先生がコメントされていました。

<参考>
・「 小児におけるインフルエンザワクチンの有効性について」福島若葉(大阪市立大学公衆衛生学教室)2014.10.15
・「Test-negative case control design による成人の インフルエンザワクチン効果」(感染症誌 90:486〜492, 2016)
・「これからのワクチン効果判定法 ─test-negative case-control design(診断陰性例コントロール試験)─」菅谷憲夫、インフルエンザ 17(1), 35-38, 2016-01、メディカルレビュー社
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「スペイン風邪」の記憶〜100年前の読売新聞記事から〜

2018年11月03日 13時11分01秒 | 小児科診療
 ラジオNIKKEI「100年前のスペイン風邪を新聞はどう報じていたか」(読売新聞:森井雄一)を聞いて読んでみたら、興味深い文章に出会いました。

“1920年1月16日には「流行性感冒から起こる精神病」という記事があります。患者の中には、大声でわめき立てる、器物を壊す、家族を殴る、家出をする、刃物で自殺するといった行動を起こす人がいるということが紹介されています。”

 これって、近年問題視されている「異常行動」のことですよね。
 もちろん、1918年にはタミフルはありませんでした。

 先日、タミフルをブログに取りあげました;

2018年冬から、タミフルが10歳代にも使用できるようになりました

 私が医者になった30年前から「インフルエンザは高熱でうなされる病気」と考えられていました。
 2000年頃にタミフルが登場し、「タミフルを服用後に異常行動が起こる」という都市伝説が生まれて広まりました。
 メディアが不安を煽り社会問題化したため、政府はほとぼりが冷めるまで「10歳代のタミフル使用禁止」とせざるを得ませんでした(2007年)。

 そして11年後の今年(2018年)、タミフルの疑惑が晴れて、10歳代へも使えるようになりました。
 メディアはその社会的影響に対する責任を矜持しつつ、報道していただきたいと切に願います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする