徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

WHOがアメリカを「麻疹根絶」と認定(「排除」ではありません)

2016年09月29日 08時09分18秒 | 小児科診療
 日本では2015年に「麻疹排除国」とWHOが認定しました。
 が、ご存じの通り、現在も「輸入麻疹」があちこちでくすぶっています。
 予防接種では先んじているアメリカでは、WHOが「麻疹根絶」を認定したというニュースが流れました;

■ 米大陸で世界初の麻疹根絶、WHOが宣言
2016年09月28日:AFP
【9月28日 AFP】世界保健機関(WHO)は27日、南北米大陸が世界初の麻疹(はしか)根絶地域となったと宣言した。数十年にわたる予防接種運動が奏功した形だ。
 感染力が非常に強い麻疹は、世界の子どもの主な死因の一つで、WHOによると2014年には世界中で11万5000人近くの命を奪った。これは1時間に13人が亡くなった計算だ。予防接種が世界各国で実施されるようになる前は、年間の死者は約260万人に達していた。
 WHOのマーガレット・チャン(Margaret Chan)事務局長は米大陸における「麻疹のエンデミック伝染の根絶」を宣言。これは、麻疹ウイルスが同地域内に広まっている状態ではなくなったことを意味するが、ウイルスが外から持ち込まれた場合には限定的に感染が広がることはあり得る。
 ただ専門家らは、根絶に成功したとはいえ、予防接種を怠ってもよいということではないと警告。麻疹ウイルスを排除し続けるためには、予防接種を引き続き徹底していかなければならないとしている。


ん? 「根絶」と「排除」ってどう違うの?

こちら(麻疹排除に向けた進捗状況の評価-WHO、IASR)に定義がありました;

□ 言葉の定義
1.麻疹根絶(measles eradication)1) :質が高いと判断されるサーベイランス存在下での世界的な麻疹伝播の遮断
2.麻疹排除(measles elimination):質が高いと判断されるサーベイランスが存在するある特定の地域において12カ月以上にわたり麻疹の伝播がないこと
3.麻疹流行(endemic measles transmission):ある特定の地域において、12カ月以上にわたり固有のあるいは輸入例に起源する感染伝播が継続すること
4.麻疹流行の再興(re-establishment of endemictransmission):以前に麻疹が排除されていたある特定の地域において、ある麻疹ウイルス株2) の感染伝播の存在が、12カ月以上にわたり途切れることなく継続していると、疫学的かつ実験室的エビデンスが得られたとき


とりあえず「排除」状態が維持されると「根絶」に至るということでしょうか。
こちら(WHO西太平洋地域事務局における麻疹対策、IASR)にはもう少し詳しく記載してありました;

□ 麻疹排除の定義と判断基準
麻疹の排除(elimination)とは、2003年10月に行われたWHO/CDC/UNICEFによる麻疹専門家会議においての合意が定義として用いられる。そこには「広大な面積と十分な人口を有する地理的領域において、麻疹ウイルスの常在的伝播が起こり得ず、また輸入症例により麻疹ウイルスが再度持ち込まれても持続的伝播が起こり得ないような状態で、弧発例および連鎖的に伝播する症例はすべて輸入症例に関連づけられ、それを維持するために地域はワクチン接種による高いレベルの人工免疫を維持することが不可欠な動的な状態」とある。

この会議での提議、合意事項などを踏まえて、WPROでは以下のような麻疹排除のための判断基準を2004年に提案している。

確定麻疹症例数:1年間に報告される確定麻疹症例数が人口100万人当たり1未満であること(輸入症例を除く)。

集団免疫:すべての地区(district)の各年齢コホートにおいて、麻疹に対する集団免疫が95%以上に維持されていることが、以下の指標により証明されていること。
 a)麻疹を含むワクチンによる2回の予防接種率が95%以上であること
 b)輸入症例による集団発生が小規模なものであること(症例数100未満、持続期間3カ月未満)

サーベイランス:すべての発熱発疹症例およびウイルス伝播の連鎖を、包括的に報告し調査することのできる優れたサーベイランスが存在しているということが、以下の指標により証明されること。
 a)80%以上の地区において、1年間に報告される麻疹疑い症例が人口10万当たり1以上であること
 b)麻疹IgM抗体を検出するのに十分な血清サンプルが80%以上の麻疹疑い例から採取されていること(実験室診断による確定例と疫学的リンクの明らかな症例はこの百分率の分母の中には含まない)
 c)(ウイルスの由来の同定に役立つ遺伝子配列解析のため)すべての確認された感染伝播の連鎖からウイルスが分離されていること


<参考>
麻疹排除の基準に関する国際的な状況について(国立感染症研究所、2011年)
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RSウイルス感染症、早くも流行

2016年09月22日 06時33分54秒 | 小児科診療
 例年、9月は夏休み明けでしばらく小児科は閑古鳥が鳴くシーズン。
 しかし今年は患者さんの数が減らずに、咳や熱が続く子どもが多いなあ・・・と感じていました。
 と、そんなタイミングで「RSウイルスが流行中」というニュースが流れました;

■ RSウイルス患者増、過去10年同期で最多〔CBnews〕 〜33都府県で前週上回る
2016年9月20日:CBnews
 乳幼児に肺炎などを引き起こすRSウイルス感染症の患者報告数が、過去10年の同じ時期と比べて最も多くなっていることが20日、国立感染症研究所がまとめた5日から11日までの週の患者報告で分かった。33都府県で前週の報告数を上回っており、患者が増加傾向の自治体では手洗いやマスクの着用といった予防策の徹底を求めている。

◇ 全国患者報告数は4週連続で増加
 国立感染症研究所や各都道府県がまとめた5日から11日までの週の患者報告(小児科定点医療機関約3000カ所)によると、全国の定点当たりの報告数は前週比約23%増の1.06人。4週連続で増加した。
 都道府県別では、新潟が3.45人で最多。以下は宮崎(2.56人)、岩手(2.18人)、群馬(2.14人)、徳島(2.09人)、福島(1.96人)、富山(1.76人)、東京(1.71人)、石川(1.66人)、宮城(1.63人)、千葉(1.39人)、青森(1.33人)などの順だった。
 前週比約1.6倍に増えた新潟県では、魚沼保健所管内で全国平均の40倍近い42.0人を記録。東北地方でも流行中の地域が増えつつある。岩手県の奥州(12.0人)や二戸(7.5人)、山形県の置賜(2.83人)、仙台市(2.52人)などの保健所管内で多かった。4週連続で増えた福島県では、郡山市と県中、相双、いわき市の保健所管内で流行が続いているという。

◇ 東京で報告増、過去5年平均上回る
 東京など関東地方の7都県では、軒並み前週の報告数を上回った。東京都は「定点当たり報告数は増加を続け、過去5年平均を上回っている」と指摘。荒川区(6.5人)や中央区(4.67人)、多摩小平(3.8人)、池袋(3.75人)などの保健所管内で多く、都内の年齢別では2歳未満が全体の7割超を占めた。
 群馬県では昨年より2カ月以上早く流行期に入っており、前橋市と高崎市(共に4.33人)や渋川(3.25人)などの保健所管内で多かった。前週比で2倍近く増えた埼玉県も「過去4年の同時期と比較して多い状況」として警戒を強めている。
 RSウイルスは、呼吸器感染症の1つで、感染から2-8日後に上気道炎、気管支炎、細気管支炎、肺炎などの症状が現れる。患者のほとんどは軽症で済むが、小児を中心に重症化するケースもある。


 小児科医にとって、RSウイルス感染症は「薬が効かない風邪」というイメージの病気。
 対症療法で回復を待つのが基本ですが、ときに重症化して入院する例もあります。
 現時点では、予防するワクチンもありません(対象を限定したモノクローナル抗体の注射剤はあります)。

 保育園で流行すると大変です。
 一人でもRSウイルスによる細気管支炎入院者が発生すると、園関係者はピリピリして「風邪症状があるときは病院でRSウイルスかどうか調べてもらってください」と受診を誘導します。
 しかし「RSウイルスの検査は3歳未満の入院患者しか保険適応がない」(※)ので基本的に外来患者さんにはできないのです。

(※)2011年10月より、外来でも1歳未満に限り、RSウイルス迅速検査が保険適応になりました。正確には以下の患者さんが保険適応となります;
・1歳未満の子ども
・入院中、あるいは入院が必要と判断された患者
・パリビズマブ製剤(シナジス®)の適用となる患者


 1歳未満でRSウイルス感染症に罹ると、約3割の赤ちゃんがゼーゼー(気管支炎)します。
 でも、残り7割の赤ちゃんはふつうの風邪症状のみ。
 つまり、ゼーゼーする赤ちゃんの周りには、その数の倍以上のふつうの風邪症状のRSウイルス感染症患者さんがいると考える必要があります。
 検査で白黒付けることにこだわっても、問題は解決しません。
 手洗い、タオルの区別、マスク着用などの感染対策を徹底して、流行を乗り切るしかありません。

<参考>
RSウイルス感染症(当院HP)
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原因のわからない腰痛は8割?いや2割?

2016年09月21日 15時32分46秒 | 小児科診療
 私を含めた“腰痛持ち”に朗報(?)です。
 最近、「腰痛の原因は8割が不明で、その場所の異常ではなく脳が作り出している」という話をよく聞くようになりました。
 しかし、整形外科専門医が診察すれば、「原因不明の腰痛は2割で、残り8割は病名が付く」と数字が逆転すると、日本腰痛学会で報告されたそうです;

■ 丁寧な診察で腰痛症の8割は原因を特定できる
2016/9/12:日経メディカル
 これまで腰痛症のうち、原因を特定できるのは20%程度だと言われてきたが、専門医が丁寧に診察を行えば、80%で腰痛の原因部位を特定できることが報告された。山口県の整形外科を受診する患者の実態を検討した「山口県腰痛study」で明らかになった。山梨県甲府市で9月2~3日にかけて開催された第24回日本腰痛学会で山口大学整形外科の鈴木秀典氏が発表した。
 一般に腰痛症の8割は、原因が特定できない「非特異的腰痛」だとされてきた。しかし、この見解は、腰痛診療をプライマリケア医や救急医が担う欧米諸国からの報告に基づくもので、整形外科医を中心に腰痛診療が行われている日本とは実態が異なっている可能性が以前から指摘されていた。
 そこで鈴木氏らは、山口県内の整形外科を受診した腰椎症患者の特徴と診断の実態を検討する「山口腰痛study」を実施した。腰痛の定義は、腰部(腰背部~臀部、下肢への放散痛を含む)の疼痛、不快感、硬さ、違和感などを有するものとし、労災補償対象やアンケートに回答できない症例は除外した。
 対象は、2015年4月~5月に山口県内の整形外科を受診した323人の初診患者。平均年齢は55.7%(20~85歳)で、性別は男性が160人、女性が163人、平均腰痛罹病機関は433日(1~7369日)だった。初診時に問診、身体診察、アンケートを実施。ブロック療法を用いて確定診断を行い、再診時の診察とアンケートで治療の効果判定を行った。
 評価に当たっては、身体所見、日本整形外科学会腰痛疾患質問票(JOABPEQ)、 腰痛疾患治療判定基準のJOAスコア、健康関連QOL尺度のSF-8などを用いた。
 診断分類では、腰椎圧迫骨折、腫瘍性病変、腰椎椎間板ヘルニア、感染、腰部脊柱管狭窄症、強直性脊椎炎、内科・泌尿器科・婦人科疾患に起因する腰痛など、原因が明らかなものを「特異的腰痛」に分類。これら以外の原因疾患を特定できない腰痛症を「非特異的腰痛」に分類した。
 その結果、調査対象となる腰痛患者のうち、特異的腰痛は21%(68人)で、それ以外の非特異的腰痛は79%(252人)だった。この比率は従来報告と同等だが、非特異的腰痛に分類された患者のうち、およそ4分の3の症例(182人)は、整形外科医が行う丁寧な診察により腰痛の原因部位を特定することが可能だった。
 鈴木氏は「これまで『原因を特定できない腰痛は8割』と言われてきたが、専門家である整形外科医が診断を行うことで、その多くで原因部位を特定できた。原因が分からなかった腰痛は20%にすぎない」と説明。「きちんと診断がつけば、適切で効果的な治療に結びつく。これまで腰痛は診断があいまいだったために治療成績が今一つだったが、しっかり診察すれば治療可能な腰痛は多い」と鈴木氏は話している。
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「副反応のないワクチンは存在しない」を受け入れられますか?

2016年09月19日 10時09分03秒 | 小児科診療
 ワクチン接種を避ける方々の意見を見聞きしてきて「反対する根本の理由は何だろう?」と常々考えてきました。
 その究極は、件名がキーワードになるのではないか、という私なりの結論に至りました。

 ワクチンは医薬品であり、その宿命として「有効率100%&副反応0%のワクチン(=医薬品)は存在しない」のが真実です。
 ワクチンが認可される条件は、「自然感染のインパクト(重症度・合併症)」と「ワクチンの有効性と副反応」を比較検討することにより、有用であると判断されること。その過程で開発途中で消えていったワクチンも少なからず存在します。

 さて、社会問題化しているHPVワクチン(=子宮頸がんワクチン)について考えてみると・・・
 現在報告されている副反応発生率は、0.007%。
 裏返せば、99.993%は安全に接種可能なワクチンということになります。

 これは医薬品の中でも驚異的に安全な数字です。

 さて、この0.007%を許せるか、許せないか。
 言葉を柔らかくすると、低いと感じるか、高いと感じるか。
 それは立場により変わりますし、いろいろな要素により影響を受けます。
 
 例えば、子どもの数。
 多産社会(日本でも戦後は兄弟が5人以上いるのがふつうでした)で乳児死亡率が高い社会では、受け入れやすいかもしれません。
 しかし、現代日本の少子化社会では、少なく産んで完璧な(?)大人に育てるというプレッシャーから、受け入れがたいかもしれません。

 このジレンマ、解決は不可能なのでしょうか?

■ 子宮頸がん予防のために"0.007%"を母親にどう説明するか 〜第19回日本ワクチン学会学術集会で勧奨メッセージを発表
2015.11.23:Medical Tribune
 子宮頸がんの予防を目的としたヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンは,副反応をめぐる報道や国の積極的勧奨の中止を受けて接種率が低迷している(関連記事)。HPVワクチン接種対象年齢の娘を持つ母親にアンケートを行った大阪大学大学院産科学婦人科学病理研究室の八木麻未氏らは,娘へのワクチン接種に対する母親の意向を向上させるためには,重篤な副反応の発生率である0.007%*の伝え方を変えることが有用であると報告した。なお,今回の報告は第19回日本ワクチン学会学術集会(11月14〜15日,会長=江南厚生病院こども医療センター顧問・尾崎隆男氏)で行われた。

* 製造販売業者と医療機関からの報告のうち,医師が重篤と判断した,接種回数当たりの副反応件数(第10回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会,平成26年度第4回薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会資料〔資料7 各ワクチンの副反応報告件数〕)

◇ 現時点で接種させる意向のある母親はわずか0.2%
 八木氏らは,HPVワクチンの接種を促進するためには,母親の意識を変える働きかけが重要であることをインターネット調査で既に明らかにしている(関連記事)。今回は,HPVワクチンの普及に必要な勧奨手法を検討するため,ワクチン接種に対する母親の意向や条件などについて,小学6年から高校1年のワクチン未接種の娘を持つ母親2,060人を対象に調査を行った(調査期間2015年5月25〜26日)。
 その結果,厚労省の積極的勧奨が中止となっている現在,娘にHPVワクチンを条件なく接種させる意向のある母親は0.2%にすぎなかった。一方,「勧奨再開したらすぐに接種(させる)」と答えた母親が3.9%,「周りや知り合いが接種してから(接種させる)」と答えた母親が16.9%だったことから,積極的勧奨が再開された後の接種率はこれらの合計である21.0%まで自然に伸びると見込まれた。これに対し,「同世代の多くの子が接種してから」などの,接種により厳しい条件を課す母親が63.5%で,「接種しない」と答えた母親が15.5%だったことから,これら計79.0%の母親らにワクチン接種の啓発活動をいかに行うかが重要であると示唆された。

◇ 勧奨再開と"99.993%が健康"で接種率は27.3%に上昇?
 次に,母親らに対し,「子宮頸がん予防ワクチンは,世界120カ国で接種されており,効果と安全性の高さが証明されています。日本でも,接種を受けた方のうち99.993%の方は,重篤な副反応などなく,健康に暮らしています」などの,接種を勧奨するメッセージを見せた。すると,メッセージを見せた後の,厚労省による積極的勧奨が再開された場合の接種率は27.3%まで伸びることが見込まれ,メッセージを見せる前の21.0%に比べ有意に上昇した(P<0.001,Fisherの正確検定)。また,母親らがワクチン接種を決めるときに考慮する情報について検討したところ,ワクチン接種に消極的だった前述の79.0%の母親らは,副反応の情報を特に重視することが分かった。
 勧奨メッセージを"重篤な副反応の発生率は0.007%"ではなく"99.993%は重篤な副反応がない"とした理由について同氏は「行動経済学におけるフレーミング理論では,同じ情報でもどの部分にフォーカスを当てるかによって与える印象が変わるとされる。この理論に基づくメッセージで,恐怖感を与えずに副反応情報を提供し母親を行動変容させることで,HPVワクチン接種率を向上させられる可能性がある」などと述べている。


 何回目になるかわかりませんが、「予防接種行政のスタンス」について私の考えを書いてみます。

 まずは、ワクチンの「定期接種」「任意接種」という枠を外す。
 そして、「希望者には無料で接種可能」というルールにする。
 すると、ワクチンの価値を知る人だけが接種するという行動に出る。


 いかがでしょう?
 こうすれば、ワクチンの副作用も知った上での接種希望になりますから「そんな副反応が出るなんて聞いてないよ!」という人は出てこないはず。

 でも、現時点では非現実的です。
 なぜなら「ワクチンの価値を知る機会が日本では存在しない」から。
 義務教育では感染症やそれを予防するワクチンに関する授業はありません。
 結婚して子どもが生まれると、「予防接種と子どもの健康」という冊子を「これ読んでくださいね」と渡される。
 一読しても、よく理解できない。
 でも「定期接種」が目白押しで、どんどん接種していかないといけないみたい・・・。

 予防接種の予診票には「予防接種の効果を理解し、副反応について理解し、副反応救済制度について理解したので接種を希望します」という欄にサインさせられます。
 でも、現実にはほとんど理解できていません(当院で行ったアンケート調査)。
 アンケート後に保護者の感想を聞くと、

「全然わかっていなかったので勉強になりました」
「回答集を保管して繰り返し読もうと思います」
「冊子に目を通しましたが、あらためて質問されるとわかっていないことがバレてしまいますね」
「冊子を説明してくれる機会があれば、もっと理解できるのに」

等々の声が聞かれました。
 皆さん不勉強なのではなく、「知りたいけど知る機会がない」のが現状で、情報提供を希求しているのです。

 つまり、日本では予防接種・ワクチンに関する知識の教育・啓蒙をなおざりにしてきたために、副反応騒ぎは起こると不安が膨らみやすい傾向があると考えます。
 これは厚生労働省・文部科学省の手抜き行政の結果です。

 解決策は、ワクチンに関する知識を義務教育レベルでしっかり行い、副反応が問題になったときに、それを冷静な目で評価・判断することができるよう知識を底上げすること、に尽きると思います。

 世界を見渡すと、英国ではHPVワクチンの教育を保護者ではなく接種を受ける子どもたちに行っており、その結果、接種率80%維持しているという現実があります。

■ 「HPVワクチンにみる日米欧のリスクコミュニケーションの比較研究」(くすりの適正使用協議会)

 現在の日本の予防接種制度の欠点は「定期接種」という名前だけで国民に安心を与えると共に思考停止状態を誘導していることだと思います。
 「子どもの命を守るために、その必要性を家族で考え判断してワクチンを接種するかどうか決める」という日が、果たしてくるでしょうか。
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アメリカにおける水痘ワクチン2回接種の効果

2016年09月19日 06時16分07秒 | 小児科診療
 日本ではつい最近(2014年10月)、水痘ワクチン2回が定期接種に設定されました。
 その結果、水痘患者が激減していることを日々の診療で実感しています。

 アメリカの状況は一歩先を行っています。
 1996年に1回接種が導入され、水痘患者が10年間で90%減りました。
 しかし、流行がなくならないため、2006年に2回接種を導入しました。
 すると、そこからさらに85%が減少した・・・という報告を紹介します:

■ 水痘ワクチン2回接種の開始で患者85%減―米CDC
提供元:HealthDay News(2016/09/19:ケアネット
 米国では、水痘ワクチンの2回接種が推奨されるようになった2006年以降、水痘帯状疱疹ウイルスを原因とする水痘(水ぼうそう)の減少が続いていると、米国疾病管理予防センター(CDC)が報告している。2005~2006年から2013~2014年までの間に水痘は85%減少しており、特にワクチンの2回接種を受けている比率の高い5~14歳の小児に大幅な減少が認められているという。
 CDCによると、水痘の症状はかゆみ、水疱状の発疹、倦怠感、発熱など。乳児、成人、免疫系の低下している人では重症になる傾向がある。予防接種が始まる前は、水痘はよくみられる疾患であり、1990年代はじめには米国で年間平均400万人が水痘に罹患し、1万3,500人が入院、100~150人が死亡していた。予防接種の実施により年間350万人以上の水痘を予防し、入院9,000件、死亡100件を阻止できるようになったと、CDCは報告している。
 ワクチンによってすべての人の水痘を予防できるわけではないが、予防接種を受けた人が水痘に罹った場合、通常は予防接種をしていない人よりも水疱の数が少ないなど、軽症ですむ傾向があるという。監視すべき症例数が減少した現在、州の保健当局は新たな流行の特徴(症状の重症度、入院件数、予防接種の有無など)を十分に調査できるようになったと、CDCは指摘する。
 今後は、依然として重症例が発生している理由と、予防接種を受けた人にも重症例がみられるのか否かを解明することが不可欠だという。研究責任著者のAdriana Lopez氏らは、「水痘の症例数をさらに減らすことにより、各州が水痘に関する調査を強化し、予防接種プログラムの効果を監視するための報告の完全性を高められる可能性がある」と話している。
 米国では1996年に水痘ワクチンの1回接種が開始され、症例数が10年間で90%減少した。しかし、流行は引き続き発生していたため、2006年に2回接種スケジュールが開始された。CDCは、生後12~15カ月に1回目、4~6歳で2回目の接種を受けるよう勧告している。2014年までに40州が水痘に関するデータを報告しているが、予防接種プログラムの開始以来、毎年データを提出しているのはイリノイ州、ミシガン州、テキサス州、ウェストバージニア州の4州のみである。
 今回の報告は、CDCが発行する「Morbidity and Mortality Weekly Report(MMWR)」9月2日号に掲載された。
<原著論文>
Lopez AS, et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2016; 65: 902-905.


 この記事を読んで、「あれ、日本の接種スケジュールと違う?」と気づいた方はするどい!
 そう、下線を引いた「CDCは、生後12~15カ月に1回目、4~6歳で2回目の接種を受けるよう勧告」という部分です。
 日本では「1歳以降、3ヶ月以上の間隔を開けて2回接種」となっています。
 この違いをわかりやすく説明しているビケンの記事を見つけましたので紹介します:

□ 水痘ワクチン2回接種スケジュール2013年12月:ビケンワクチンニュース

 アメリカはすでに1回接種を導入してある程度流行がコントロールされていたのでSVF防止目的、日本は水痘ワクチン接種率40%と低いままいきなり2回接種を導入したので、PVF対策を重視し、ドイツ型の短期間接種スケジュールを採用したのですね。

<参考>
□ 水痘(みずぼうそう)ワクチンknow-VPD
□ 水痘ワクチン2回接種の必要性IASR Vol. 34 p. 296-298: 2013年10月号
□ 水痘ワクチン定期接種化がもたらすもの(ラジオNIKKEI:2014.9.14
□ 日本での水痘の流行と2 回接種の有用性についてVaccine Digest:2014年4月

 そして、日本における水痘ワクチン2回接種定期化の成果も報告されはじめています;

□ 水ぼうそう定期接種化で子どもの患者が減少2015年06月05日:NHK
□ 水痘ワクチン定期接種化後の患者数の変化(2015年10月:ビケンワクチンニュース
□ <速報>水痘入院例全数報告の開始と水痘ワクチン定期接種化による効果
(IASR Vol. 36 p. 143-145: 2015年7月号)

 2015年以降は、それ以前と比較して患者数が激減している様子がグラフから読み取れます。
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抗菌ハンドソープは「無効」の製品あり。

2016年09月18日 15時35分10秒 | 小児科診療
 ある抗菌ハンドソープが、米国で販売禁止になりました。
 日本でも同じ成分を含む製品が販売されています。
 どうする厚生労働省!?

■ 抗菌ハンドソープ、販売禁止へ...FDA 〜トリクロサンなど19種類の成分を含む製品が対象
2016.09.06:Medical Tribune
 米食品医薬品局(FDA)は9月2日、抗菌作用があるとして一般向けに販売されているせっけんやハンドソープなどのうち、トリクロサントリクロカルバンなど19種類の殺菌剤が含まれる製品の販売を禁止すると発表した。
 FDAは2013年に殺菌剤が含まれる製品の規制案を発表し、販売企業に対して長期の安全性と有効性に関する臨床試験などのデータの提出を求めていたが、「通常のせっけんに比べ、これらの製品を使った手洗いが細菌やウイルスへの感染予防効果に優れるとのエビデンスはないことが分かった」としている。
 販売企業には1年以内に指定の成分が含まれる製品の販売を中止するか、同成分が含まれない製品に切り替えて販売することが求められている。なお、トリクロサンなどが配合された薬用せっけんや抗菌ハンドソープはわが国でも販売されている。

◇ 「通常のせっけんと流水で手洗い」がベスト
 FDAは2013年12月、トリクロサンを含む液体せっけんやトリクロカルバンを含む固形せっけんなどの殺菌剤を含むせっけんに長期間曝露することが、抗菌薬耐性菌の発生や甲状腺ホルモンあるいは生殖ホルモンへの悪影響に関係する可能性があるとの研究報告を受け、規制案を発表。殺菌剤が含まれている一般向けのせっけんやボディーソープなどの製品を販売する企業に対し、安全性と有効性の追加データを提出するよう求めていた。
 しかし、提出されたデータを検証した結果、これらの製品が通常のせっけんに比べ感染症リスクや感染リスクの低減に優れているとのエビデンスはなかったという。
 最終的に販売の中止が決定されたのは、わが国でも一部のハンドソープやせっけん、マウスウォッシュなどに配合されているトリクロサントリクロカルバンの他、クロフルカルバン(ハロカルバン), フルオロサランヘキサクロロフェンヘキシルレゾルシノールヨウ素含有化合物など19種類の殺菌剤が含まれる一般向けのせっけんやハンドソープなどの製品。ただし、一般向けの手指の除菌用ローションやジェル、手ふき用ウェットティッシュ、医療機関で使用されているせっけんおよびハンドソープは規制の対象外としている。
 なお、2013年に規制案が発表されたのを受け、米国では既に一部の企業がこれらの殺菌剤の使用を中止している。また、規制案で検証すべき成分として挙げられていた塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、クロロキシレノールの3種類については、安全性と有効性のデータの提出期限を1年間延期。データ収集期間中は、これらの成分が含まれる製品の販売は許可されるという。
 今回の規制に関し、FDA医薬品評価研究センター(CDER)のJanet Woodcock氏は、プレスリリースで「抗菌作用があるとされる石けんやハンドソープを使用している人は、細菌などの感染を予防する効果が高いと考えて使っているかもしれない。しかし、通常のせっけんと流水で手を洗うよりも優れているとの科学的根拠は全くない。それどころか、これらの成分は長期的には利益よりも有害な作用をもたらす可能性を示すデータがある」とコメント。
 また、FDAは「通常のせっけんと流水で手を洗うことは、自分自身や他者への感染予防において最も重要なステップ。せっけんと流水が利用できない場合に除菌用ローションを代用する場合には、アルコールが60%以上含有されているアルコールベースのローションの使用が米疾病管理センター(CDC)によって推奨されている」としている。


 


  
   


★ 記事に出てきた化学物質を含んだハンドソープをamazonで検索してみました;
□ 「トリクロサン&ハンドソープ」 ・・・ビオレU®などメジャーな製品も。
□ 「トリクロカルバン&ハンドソープ」 ・・・これもメジャーなミューズ®。
□ 「クロフルカルバン&ハンドソープ
□ 「フルオロサラン&ハンドソープ
□ 「ヘキサクロロフェン&ハンドソープ
□ 「ヘキシルレゾルシノール&ハンドソープ」 ・・・該当製品なし。
□ 「ヨウ素含有化合物&ハンドソープ」 ・・・該当製品なし。
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ワクチンで赤ちゃんをインフルエンザから守るには?

2016年09月18日 08時58分10秒 | 小児科診療
 現行のインフルエンザワクチンは生後6ヶ月から接種可能となっています。
 それ以前の赤ちゃんは・・・家族がワクチンを接種して家の中にインフルエンザウイルスを持ち込まないという原始的な方法しかありません。

 「赤ちゃんは生後半年間はお母さんからもらった免疫が残っているので風邪をひきにくい」というイメージがありますが、これは「お母さんに免疫がある感染症」に限定されます。
 インフルエンザに関しては、過去に罹っていても何回も感染する感染症ですから、お母さんの免疫が胎盤・臍帯を介して移行したとしても不十分といわざるを得ません。

 もうひとつ方法があります。
 お母さんが妊娠中にインフルエンザワクチンを接種して免疫を獲得し、それが赤ちゃんへ移行するのを期待する方法です。
 そうすれば約半年有効で、めでたしめでたし・・・とはいかないようです。
 紹介する下記論文では、有効な免疫は8週間しかもたないと報告されています。やはり一般に考えられている自然感染による持続期間よりは短くなってしまうのですね。

■ 母親の抗体が乳児を守るのは生後8週まで 〜南アで妊婦のインフルエンザワクチン接種のRCT
2016/8/1 :日経メディカル
 妊婦がインフルエンザの予防接種を受けると、出産後の乳児にはどのくらいの予防接種の効果が続くのか。南アフリカWitwatersrand大学のMarta C. Nunes氏らは、二重盲検のランダム化プラセボ対照試験を行い、ワクチンの予防効果は生後8週くらいまでしか続かないようだと報告した。詳細は、JAMA Pediatrics誌電子版に2016年7月5日に掲載された。
 現在利用可能なインフルエンザワクチンは、生後6カ月以降の乳児から使用できるとされている。しかし、インフルエンザの流行期には生後6カ月未満の乳児患者も多く死亡率も高い。そこで著者らは、2011年と2012年の流行期が始まる前に、HIVに感染していないことを確認した上で、妊娠第2期と第3期の妊婦にWHOの推奨株の3価不活化インフルエンザワクチンを摂取し、ワクチンの効果と安全性を確かめ、生まれた乳児の予防効果を調べる研究を計画した。プラセボ群に割り付けられた妊婦には、ワクチンの代わりに生理食塩水が接種された。
 追跡期間は出生後第24週まで。乳児は、生後7日以内、8週後、16週後、24週後に採血してヘマグルチニンに対する抗体(HAI)の力価を調べた。また参加者には毎週来院してもらい呼吸器疾患を調べ、一部の乳児からは鼻咽頭液を採取してRT-PCRでウイルスRNAが検出されるかを確認した。
 ワクチン群の女性から生まれた1026人(47.2%が女児)の乳児と、プラセボ群の女性から生まれた1023人(47.3%が女児)を分析対象にした。接種群の小児は、妊婦への接種から平均81.0日(全体の範囲1~175日)で出生しており、その時点から中央値172日(四分位範囲168~175日)の追跡が行われていた。ベースラインでは両群の乳児の特性(早期産や低体重児の割合など)に差はなかった。
 出生時(第1週)にHAI抗体の力価が1:40以上あった乳児の割合は、ワクチン群(H1N1pdm09株78.3%、H3N2株56.6%、B型ビクトリア株81.1%)の方が有意に高く、プラセボ群では(H1N1pdm09株33.6%、H3N2株17.3%、B型ビクトリア株41.8%)だった。しかし、高い抗体価を保っている乳児の割合は、どちらの群でも生後24週まで時間経過とともに減っていった。ワクチン群では生後16週で39.5%、19.1%、40.0%、生後24週には10.0%、6.7%、9.4%まで減った。抗体価を保っていた乳児が最も少なかったのはプラセボ群の24週後で、それぞれの株に対して3.5%、0%、1.7%だった。
 追跡期間中にRT-PCRでインフルエンザ感染を確認された患者は、ワクチン群の19人とプラセボ群の37人だった。ワクチン群では、生後8週以内で発症した患者が2人、8~16週は12人、16~24週は5人で、プラセボ群はそれぞれ14人、16人、7人だった。
 感染が確認された乳児のうち、発症しなかった乳児の割合をワクチン有効例と判定すると、ワクチンの効果は生後8週以内の乳児で85.6%(95%信頼区間38.3-98.4%)と最も高く、生後8~16週では25.5%(-67.9から67.8%)、16~24週では30.3%(-154.9から82.6%)と低かった
 妊婦への予防接種は乳児をインフルエンザから守るが、生後8週を超えると母親由来の抗体価が下がっていき、予防効果が薄れていくと著者らは結論している。
<原著>
・「Duration of Infant Protection Against Influenza Illness Conferred by Maternal Immunization」(JAMA Pediatrics)
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稲田防衛大臣の蕁麻疹は抗マラリア薬の副作用 〜ワクチンはないの?

2016年09月18日 08時07分56秒 | 小児科診療
 先日、稲田防衛大臣が蕁麻疹が出たため海外視察を中止したというニュースが流れました。
 その原因は「抗マラリア薬に対するアレルギー」だそうです。
 具体的な薬剤名は公表されていません;

■ 抗マラリア薬副作用でアレルギー症状…稲田防衛相、南スーダン訪問を中止
2016年9月16日:読売新聞
 防衛省は15日、稲田防衛相が17日に予定していた南スーダン訪問を中止すると発表した。
 国連平和維持活動(PKO)に従事する陸上自衛隊部隊を視察する予定だったが、事前に服用した抗マラリア薬の副作用によるアレルギー症状が出たため、中止を決めた。


 なんとなく、「感染症対策にはワクチン」というイメージがありますが、残念ながらマラリアに対するワクチンは現時点で存在しません。
 開発は着々と進んでおり、日本の研究が一歩リードしているようです。

■ 世界初のマラリアワクチン誕生か?! 阪大がブルキナファソで臨床
2016-06-13:ganas
 世界初のマラリアワクチンが5年後にも日本から誕生するかもしれない。ワクチンの名は「BK-SE36」。BK-SE36の開発者である大阪大学難治感染症対策研究センターの堀井俊宏教授は「新ワクチンのマラリア予防効果は72%。承認に向け、本格的に動いている」と自信をのぞかせる。阪大は2015年から、西アフリカのブルキナファソで、このワクチンの臨床試験をスタートさせた。
 マラリアを予防するには現在、錠剤しかなく、ワクチンは存在しない。薬剤耐性をもつマラリア原虫も増えるなか、効果的な予防法がないのがとりわけアフリカで暮らす人にとって脅威となっている。BK-SE36の臨床試験の責任医師を務めるブルキナファソ国立マラリア研究センターのシリマ・エグゼクティブディレクターも「BK-SE36への期待は大きい」と語る。
 臨床試験の期間は15年6月~17年2月の1年9カ月。試験の対象となるのは、マラリア感染で最も重症化しやすい5歳以下の幼児およそ100人。BK-SE36は、マラリアの中でも致死率が高い熱帯熱マラリアに有効とされる。「熱帯熱マラリアは、5歳以下の幼児がかかると4人に1人が死亡する危険な病気だ」(堀井教授)
 BK-SE36は3~4週間の間隔をあけて2回にわたって接種する。マラリアの予防効果は1年間続くという。「ワクチン効果を高めるCpG-ODN(K3)という成分を添加すれば、有効期間を2~3年に延ばせる可能性もある」と堀井教授は話す。
 マラリアワクチンの研究は欧米を中心に進んでいる。だがこれまでのところ十分な効果が得られた報告はない。英国の医学雑誌ランセットによれば、12年に英製薬会社グラクソ・スミスクラインが開発した「RTS,S/AS01A」も予防効果は31.3%。米国食品医薬品局(FDA)への承認申請はまだで、WHOも推奨していない。
 世界保健機関(WHO)によると、全世界で15年に約2億1400万人がマラリアに感染。43万8000人が命を落とした。この7割(30万6000人)が5歳未満児だ。
 「マラリアワクチンの承認に課されるプロセスは厳しい。BK-SE36も、2年近くかかる臨床試験をあと1回は実施する必要がある。その際のスケールは7000人程度。それを終える5年後に、まずはFDAの承認を得ることを目指したい」(堀井教授)
 持続可能な開発目標(SDGs)は、2030年までにマラリアを世界から撲滅するという目標を掲げている。堀井教授は「72%の予防効果をもつBK-SE36を世界中に届けることができれば、目標達成に大きく貢献できる」と意義を強調する。
 BK-SE36の開発費は現在までに約15億円かかっているという。「承認までには合計で20億~30億円かかりそうだ。それでも民間企業の新薬開発に比べ格段に安い」と堀井教授。日本製薬工業協会と医薬産業政策研究所による製薬企業55社への調査では、1つの新薬の開発にかかる費用は484億円(2009年調べ)。臨床試験から承認に至る成功確率は18%と低い。


<参考>
□ マラリアについて
マラリアに注意しましょう(FORTH、厚生労働省検疫所)(ファクトシート
□ 抗マラリア薬
抗マラリア剤(JOHAC 海外勤務健康センター 研究情報部)
抗マラリア薬(旅行者のブログ)
抗マラリア薬研究の進歩(日本化学療法学会)
□ マラリアワクチン開発
世界を救う初のマラリアワクチン開発成功となるか?(2015.6.4:グローバルヘルス)
マラリアワクチンはなぜできないのか(三菱化学メディエンスFORUM、2007)
日本で開発されたマラリアのワクチンがアフリカで大活躍する可能性が大いに期待できます!!(五本木クリニック院長ブログ)
マラリアワクチンの臨床開発(Drug Delivery system, 25-1, 2010)
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世界標準の「虫除け剤」発売へ

2016年09月18日 07時31分33秒 | 小児科診療
 「日本の虫除け剤は有効成分量が少なくて海外旅行には不十分、現地で購入しましょう」というのが日本渡航医学会での常識です。
 この「有効成分」とはディート(ジエチルトルアミド)を指します。
 昨年、私の長男が東南アジアへ行く際に、虫除け剤を持たせようと探したところ、amazonで入手可能な虫除け剤は低濃度(確か12%が最高)のものばかりでした。
 高濃度のものは皮膚への刺激も強くなり、乳幼児には使えないため、蚊が媒介する感染症の危険が少なかった時代は安全性を優先したのでしょう。

 しかし昨今、蚊を媒介する感染症(デング熱、ジカ熱)が社会問題になり、虫除け剤にもメスが入り、十分な濃度の製品(30%)が発売されるようになりました。
 これでやっと世界標準!

■ 【新製品】最高濃度の虫よけ成分配合‐「サラテクト」から新製品 アース製薬
2016年9月14日:薬事日報

医薬品サラテクトEXWミストプレミアム30


 昨今では、蚊が媒介するデングウイルス感染症や、ジカウイルス感染症の国内感染、またダニ媒介性脳炎などが懸念されることから、厚生労働省では6月15日付で「人体用害虫忌避剤(虫よけ剤)において有効成分の高濃度製品の審査期間短縮を行う」との通知を発出。これを受けて有力殺虫剤メーカー各社が製品化を進めていたが、アース製薬では8日から有効成分ディートを国内最高濃度の30%配合した医薬品の人体用害虫忌避剤を新発売した。
 アース製薬の「医薬品サラテクトEXWミストプレミアム30」(第2類医薬品)は、有効成分ディートを30%配合した、確かな効き目の医薬品虫よけ剤。保湿成分としてヒアルロン酸ナトリウム、ビタミンC、モモの葉エキスを配合し、肌にやさしいウォーターイン処方で、肌がベタつかず、さっぱりした使用感も特徴。逆さにしても噴射できる“正倒立噴射トリガー”を採用している。
 蚊、ブユ(ブヨ)、アブ、ノミ、イエダニ、マダニ、サシバエ、トコジラミ(ナンキンムシ)の忌避のために使用する場合は、肌から10~15cm離して適量を肌の露出面に万遍なくスプレーする。顔や首筋には、適量を手のひらに一度スプレーしてから肌に塗布する。ツツガムシの忌避のために使用する場合は、肌から10~15cm離して適量を肌の露出面および履き物やズボンの裾などに万遍なくスプレーする。顔や首筋には適量を手のひらに一度スプレーしてから肌に塗布する。


 この製品発売に至る経緯;

■ フマキラーとアース、高濃度の虫よけ剤を申請…感染症対策で審査迅速に
2016年7月4日:読売新聞
 大手殺虫剤メーカー「フマキラー」と「アース製薬」は1日、有効成分の濃度を高めた虫よけ剤の製造販売の承認を、厚生労働省に申請した。
 ジカウイルス感染症(ジカ熱)やデング熱など、蚊が媒介する感染症対策のため、同省が高濃度の虫よけ剤の承認審査を、従来の半分程度の時間で迅速に行うことを決めたのを受けたもの。9月末までに承認される見通し。
 池田模範堂や大日本除虫菊なども、同様の製品開発を進めている。
 虫よけの代表的な有効成分には、「ディート」と「イカリジン」がある。一般に、濃度が高いほど、効果が高く、長続きすることが期待できる。現在、国内で流通している製品の濃度は各12%以下と5%以下だが、海外では、さらに高濃度の製品が販売されている。同省は先月、各30%と15%に濃度を高めた製品について、迅速な承認審査を行うことを通知した。


 この背景を解説した記事も紹介します;

■「蚊よけ剤」の上手な選び方
2016年9月9日:読売新聞
 現在、シンガポールでジカウイルス感染症(ジカ熱)が流行しています。シンガポールへは、毎年多くの日本人が旅行や仕事で訪れるため、今後の影響も心配されています。ジカウイルス感染症は、蚊が媒介する感染症です。日常的な対策は、蚊を減らすことと、蚊に刺されないようにすること。今日は、「蚊よけ剤」についての耳寄り情報をお伝えしましょう。

◇ シンガポールでジカ熱が流行中
 シンガポールでジカウイルス感染症(ジカ熱)が流行しています。9月5日の時点での報告では、感染者は258人まで増加しているとのことです。これまでは、ブラジルを中心とした南米での流行が話題になっていました。しかし、米国フロリダのマイアミ市、そして今回のシンガポールと、他の地域での流行も起こり始めています。今のシンガポールでの流行は、ちょうど東京の代々木公園でデング熱が流行した時と同じような状況です。これまでは、一部の狭い地域での発生でしたが、次第に他の地域からも報告され始めているそうです。シンガポールへは、毎年多くの日本人が旅行や仕事で訪れるため、今後の影響も心配されています。

◇ ジカウイルス感染症への予防策
 ジカウイルス感染症は、性行為による感染も問題となっていますが、やはり「蚊」がウイルスを媒介して起こる感染が中心であることは間違いありません。したがって、日頃から蚊を減らしておくこと、蚊にできるだけ刺されないようにすることが、重要な予防対策となります。
 蚊に刺されないようにするためには、長袖や長ズボンなど、肌が出にくい服を着ることも有効です。しかし、蚊が多い場所は、暑い場所が多いため、長袖や長ズボンを着ることもなかなか大変というのが正直なところでしょう。そこで、ぜひ検討したいのが「蚊よけ剤」の利用です。

◇ おすすめ「蚊よけ剤」がなかった日本
 これまで日本で認可されていた蚊よけ剤は、「ディート(DEET)」という成分を含んだ製品でした。このディートは、本来は十分な効果を期待するためには、30%以上の濃度であることが望ましいとされています。しかし、皮膚への刺激性が高いことなどの問題も指摘されていたことから(高濃度のクリーム剤を塗るとピリピリするような感じもします)、日本では乳幼児への使用を避けること、年齢によって使用制限することについての記載もありました。そして、このような経緯もあってか、これまで日本にはディート濃度が、多くの製品では5%程度、最大でも12%までの製品しかありませんでした。

◇ ディートではない「蚊よけ剤」
 「蚊よけ剤」に使われている有名な成分には、「ディート(DEET)」以外にも「イカリジン(英語ではpicaridin)」というものがあり、こちらも米疾病対策センター(CDC)などで正式に承認されていました。「イカリジン」の特徴は、「ディート」よりも子どもへの影響が少ないとされていることです。
 さらに、「イカリジン」の濃度5%で、「ディート」濃度10%と同等の効果が期待できるとの基礎実験での報告があります。実は、イカリジンという成分を含んだ製品は、日本でも2016年3月から発売されていました。しかし残念ながら、発売された製品の「イカリジン」の濃度は5%のものばかりだったのです。つまり、子どもへの影響が少ないという利点はあるものの、効果では「ディート」濃度10%と同程度という可能性が高かったわけです。

◇ より高濃度の製品が発売に
 しかし、この状況も近年の蚊が媒介する感染症の流行によって大きく変わることになりました。蚊よけ剤の需要は、東京の代々木公園で発生したデング熱の国内発生を機会に高まりました。そして、今回のジカウイルス感染症の流行によって、さらに蚊よけ剤の大切さが認識されるようになっています。
 蚊よけ剤を販売していた企業側でも「ディート(DEET)」の濃度に関する問題は指摘されており、いよいよ高濃度の蚊よけ剤の申請が行われ、感染症対策のために迅速審査によって認められる流れとなっていました。

  『フマキラーとアース、高濃度の虫よけ剤を申請…感染症対策で審査迅速に

◇ やっと日本でも有効な「蚊よけ剤」が入手可能に
 これまでは、本当に効果の高い「蚊よけ剤」を入手するためには、海外で購入するか、海外から輸入した製品を手に入れるしかありませんでした。しかし、この申請によって国内でも効果の高い「蚊よけ剤」ができるようになったことになります。そして、まずは先陣を切って有名なフマキラーというメーカーから、この新しい申請によって作られた製品が発売されています。



 この製品の内容をみると、「イカリジン」濃度15%となっていることがわかると思います。単純な比較はできませんが、イカリジン濃度が、ディートに換算すると倍の濃度にあたるとすれば、ディート濃度30%程度と同等ということになります(実際に効果を比較するためには、この濃度での両者を比較した調査も必要ですが……)。より効果の高い濃度で、これまでの製品よりも子どもに使いやすい、日本では新しいタイプの「蚊よけ剤」です。これからも、各社から同様な製品が発売されていくことを期待しつつ、みなさんにご紹介してみました。
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医師も罹る麻疹〜感染予防対策はなされていたのか?

2016年09月17日 08時27分21秒 | 小児科診療
 関西国際空港での麻疹発生の広がりに、患者を診療した医師も巻き込まれています。

■ 大阪市立大病院の女性医師ら3人院内感染、関空での感染患者に対応後
2016.9.16:産経新聞
 関西国際空港の従業員を中心にはしか(麻疹)の感染が相次いでいる問題で、大阪市立大は14日、医学部付属病院(同市阿倍野区)で、関空で感染した患者が受診した後、いずれも20代女性の医師と看護師ら3人がはしかに院内感染、もしくはその疑いがあると発表した。現時点で重症者はおらず、別の患者への感染は確認されていない。
 同大によると、患者は関空利用後の8月下旬、高熱で病院を受診し、検査の結果、はしかと診断された。今月9日、女性医師が高熱を出したため、検査するとはしかと判明。その後、事務職員も感染し、看護師も感染の疑いがあることが分かった。
 医師は患者との接触はなかったが、事務職員は受付でカウンター越しに対応していた。3人は完治するまで自宅待機する。


 この医師・看護師の感染対策が行われていたかどうかを知りたいです。
 一般に、我々小児科医は感染症の診療が中心になるので、医師に成り立ての時に血液検査で麻疹などの抗体をチェックし、低値であればワクチン接種するのが常識です。
 当院ではスタッフを採用したときも、同様の感染予防対策を行っています。

 大人を相手にする内科はどうなんだろう?
 今回感染した医師は、上記の抗体チェック・ワクチン接種を済ませても罹ったのか、それともやらずに罹ったのか・・・今後の予防対策を考える上で重要な情報です。

 もうひとつ、朝日新聞掲載の関連記事を紹介します。
 いろいろ詳しい情報が読み取れます;

■ はしか引き続き拡大に警戒 関西空港と尼崎の集団感染
2016年9月16日:朝日新聞
 関西空港と兵庫県尼崎市で発生したはしか(麻疹)の集団感染。大阪市立大学医学部付属病院(同市阿倍野区)にも飛び火し、関係者は警戒を緩めていない。はしかは国内で「排除状態」とされているが、海外渡航者が行き来する関空で集団感染が起きたことで、国際空港としての対応も迫られている。




◇ ワクチン2回接種の人も感染
 「世界にはしかの流行国はあり、そこへ行った人が空港を通る」「今後も海外から入ってくることは十分考えられる」。大阪府が15日に開いた有識者を交えた対策会議。参加者から空港での対策強化が必要という声が上がった。
 府などによると、関空関連の感染者は、従業員33人と、利用者や接触した医師ら14人。従業員の間では8月9日に最初の1人が発症し、潜伏期間の10日程度がたった8月21日から9月2日にかけて32人に症状が現れた。その後、従業員に新たな感染者はなく落ち着きつつあるとみられている。
 だが関空従業員の感染者が受診した大阪市立大学医学部付属病院で、14日に医師と事務職員2人の感染が明らかになり、外部への拡大は収束していない。尼崎市でも15日時点で市民17人が感染。大阪府幹部は「引き続き注意が必要だ」と気を引き締める。
 府によると、感染した関空従業員33人のうち、検査結果が判明した27人のウイルスの遺伝子型は全て中国で流行する「H1」。7月末に最初に感染したとみられる従業員と関空利用者3人もH1だった。感染拡大を防ぐため、関空では8日以降、はしかワクチン未接種か接種歴不明の30代以下の従業員300人にワクチンを接種している。
 一方、従業員のうち「過去にワクチンを2回接種した」と申告した人は府の集計で12人に上るという。記憶に基づく申告もあり、精査が必要だが、ワクチンは2回接種で十分な免疫がつくとされ、国は2006年から子どもの定期接種を1回から2回に増やしている。
 ワクチンを製造する阪大微生物病研究会(大阪府吹田市)によると、ウイルスへの免疫が得られるのは一般的に95~98%。接種率が上がっても一定数の発症者は出るという。今回のはしかの検査をした大阪府立公衆衛生研究所ウイルス課の倉田貴子主任研究員によると、2回接種で抗体がある場合は、熱が高くなかったり、発疹があまり出なかったりと症状が軽い「修飾麻疹」となるといい、今後分析するという。府の担当者は「2回接種した人も、発熱や発疹があれば、はしかを疑って」と話す。
 尼崎市では、四つの保育施設・幼稚園で園児ら計14人のほか、これらの施設と接点が見つからない中学生~60代3人が感染した。うち2人は8月23日と26日に関空を利用したが、集団感染があった市立保育所で最初の園児に症状が現れたのはその前の8月22日ごろ。関空利用者2人と保育所での集団感染は別ルートの可能性がある。市はウイルスの分析を兵庫県に依頼し、感染経路の解明を急ぐ。

◇ 空港の集団感染「盲点」
 「盲点だった」。様々な国の人が集まる関空での集団感染について、国立感染症研究所(東京)の研究者は語る。
 国内でのはしかの感染は、海外から持ち込まれたウイルスによるものとなり、昨年、世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局に「排除状態」と認定された。国立感染研は医療機関向けに「麻疹対応ガイドライン」で職員のワクチン接種を推奨しているが、空港向けのものはない
 今回、関空での集団感染は20、30代に集中した。運営会社の関西エアポートによると、30代以下の従業員約9千人のうち、ワクチン未接種や接種歴不明で感染経験もない人は1割の約900人。府は今後、関空内の事業者に新入社員の接種歴を確認するよう依頼するという。
 訪日外国人が増える中、関西エアの広報担当者も「感染リスクは他の施設より高い。入ってくる前提で二次、三次感染をどう防ぐかが重要」と話す。関空で日本航空の旅客サービス業務を受託するKスカイなどは従業員のワクチン接種を推奨するため、当面、接種費用を会社負担とした。
 成田空港の運営会社も「発熱などはしかが疑われる場合は医療機関に相談する、といった注意喚起を従業員に始めた」という。国立感染研は今回の集団感染を受け、民間企業や官公庁向けに対策のガイドラインづくりを始めた。担当者は「東京五輪を控えており、早急に進める」と話す。


 「2回接種歴があっても安全ではない」と考えた方がよさそう・・・感染予防対策強化(麻疹ワクチンを10年ごとに繰り返し接種)が必要ですね。

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