徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

夜尿症の治療について

2017年06月30日 06時35分30秒 | 小児科診療
 当院に相談に見える夜尿症患者さんの特徴は、
1.小学生になっても毎晩ある
2.検査すると膀胱型(膀胱が小さくて尿がためられない)
 などがあります。

 下記夜尿症の記事では、「夜尿症は小児科で治療できる」「効果が出るまで3ヶ月〜半年程度」とありますが、現場の印象ではそう簡単には解決しません。

私も長らく夜尿症の治療に関わってきましたが、難敵です。

効果が出やすいのはデスモプレシンという薬(抗利尿ホルモン)が有効な多尿型(尿量が多いタイプ)の話であり、膀胱型は家族の負担の多いアラーム療法を導入しないと効果が期待できません。

■ 夏の行事の前に今から夜尿症を治す
ケアネット:2017/06/14
 フェリング・ファーマ株式会社は、5月30日の「世界夜尿症(おねしょ)デー」を前に、夏のお泊まり行事の不安に関する親子アンケートを実施。その結果を発表した。
 夜尿症(5歳までは「おねしょ」)は、わが国の小中学生の罹病率が6.4%と推察され、アレルギー疾患に次いで頻度の高い慢性小児疾患である。その治療は保険診療の対象となっている。
 夜尿症の原因として、第一に、夜間の抗利尿ホルモンの分泌が不十分なため、就寝中に尿の生成が増加し夜間多尿となり、尿量が夜間の機能的膀胱容量を超えてしまうこと、第二に、就寝中の膀胱容量低下によるものが挙げられ、これらのいずれか、または両方、さらに尿意による覚醒ができないことなども原因として指摘されている。
 治療では、生活改善、薬物療法、アラーム療法(行動療法)などが行われている。生活改善指導として、規則正しい生活、水分/塩分摂取への配慮、就寝前の排尿といった取り組みを行うことで、1~2割程度の子供の夜尿が消失する。薬物治療は、抗利尿ホルモン製剤であるデスモプレシン(商品名同)などがあり、「夜尿症診療ガイドライン2016」では第1選択薬とされている。アラーム療法は、夜尿をセンサーが察知し、アラームや振動により覚醒を促す機器を用いるものである。前述のガイドラインでは、これらを組み合わせて治療することを記している。
 「おねしょに関する調査」は、2017年4月に全国の小学校1~3年生の子供とその保護者500組1,000名にインターネットアンケートで実施された。
 これによると子供(n=500)の27%が「おねしょ」について「とても心配/心配」と回答し、上位となった項目「ひとりで眠れるか」(同29.4%)、「ホームシックにならないか」(同28.4%)と比較しても割合に差がなく、心配の度合いが高いことが示された。そして、「おねしょが心配」と回答した子供の保護者(n=217)に対策の実施状況を聞いたところ、34.1%しか対策を実施していないことがわかった。具体的な対策(n=96)としては、(複数回答で)寝る前の水分の摂取制限(61.5%)が一番多く、おむつの使用(38.5%)、夜間起こしての排尿(25.0%)が挙げられ、病院へ連れていくという回答はわずか7.3%であった。
 保護者(n=500)に「小児科で相談・治療できることを知っているか」の質問では、44.6%が「知っている」と答え、「保険診療できることを知っているか」の質問では、32.0%しか「知っている」と回答しなかったことで、医療機関で受診できることが知られていない状況が明らかとなった。
 同社では、夜尿症という疾患啓発のためのプロジェクト「おねしょ卒業!プロジェクト」を企画運営し、情報提供WEBサイト「おねしょドットコム」上で正しい知識や対応方法について発信を行っている。
 通常、夜尿症は、治療を始めてから効果が表れるまで少なくとも3ヵ月~半年程度かかることから、夏の帰省旅行やキャンプなど子供たちの宿泊を伴う行事が始まる前に、早めに小児科医などに相談を行い、治療が必要なケースかどうかを確認してほしいと期待を寄せている。


<参考>
日本夜尿症学会HP〜「夜尿症診療ガイドライン2016
夜尿症(当院HP)
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日本脳炎ワクチンが足らなくなった理由

2017年06月28日 10時55分47秒 | 小児科診療
 当院でも日本脳炎ワクチンが手に入らず、現在予約を停止しています。
 そしていつも厚生労働省は「全国的には足りているはず」と高みの見物。
 ホント、ワクチン関係ではいつも振り回され、日本の管理体制の甘さにあきれるばかりです。

 さて、今回のワクチン不足の原因は「需要増加&供給減少」という構造で、具体的には下記記事によると2点あるようです;

1.推奨年齢(3歳以降)以外の年齢で希望者が増えた。
 2015年に千葉県で生後11ヶ月児が日本脳炎罹患しました。ワクチン推奨年齢の3歳より小さい子です。しかし実は、日本脳炎ワクチンは生後6ヶ月から接種可能です。推奨年齢まで待っていて罹ってしまっては元も子もない、と知識のある医師・親たちは積極的に低年齢でも受けさせるという動きを取りました。

2.熊本地震の影響で製造量が減った。
 ワクチン製造元の一つ「化血研」の工場が熊本にあり、地震で被害を受けたため出荷量が減ってしまった。

 ワクチン製造量が十分と仮定すれば、あと問題になるのは「偏在」です。
 ワクチン出荷から現場の医療機関まで流通経路をトレースすればわかることですが、なぜやらないのでしょうか?


■ 日本脳炎ワクチン品薄 医療機関、接種数量確保に苦労
毎日新聞2017年5月31日
 蚊が媒介する感染症・日本脳炎を予防するワクチンが、品薄状態になっている。厚生労働省は「全国的に足りている」としているが、安定した数量確保に苦労している医療機関もある。同ワクチンは予防接種法が定める重要性の高い「定期接種」の対象だ。医薬品の在庫や流通の管理が厳格な日本で、なぜこうした事態が起こったのか。【熊谷豪、野田武】
◇ 15年に千葉で発生、契機
 「いつ入荷するか分からない」「注文通り販売できるか分からない」。東京都内のある小児科診療所は、今年初めから日本脳炎ワクチンを注文するたび、医薬品卸売りの担当者から、そう言われているという。在庫がなくなりかけ、接種予約受け付けの中止を考えた時期もある。院長は「患者が殺到して、かかりつけ患者を断ることがなければいいけれど……」と気をもむ。
 品薄になったきっかけの一つは、2015年9月に千葉県で25年ぶりに、生後11カ月の乳児患者が確認されたことと言われる。



 日本脳炎はブタが持つウイルスがヒトに感染して起きるが、感染して抗体を持つブタの割合は西日本に多い。このため近年発生する患者の大半は西日本在住だ。
 それだけに、千葉県での患者発生は関係者にとって驚きだった。しかも国が示す標準的な予防接種スケジュール(初回は3~4歳)を下回る年齢。日本小児科学会員で予防接種に詳しい岡田賢司・福岡看護大教授(小児科)は「従来の流行地域でなく、患者が1歳未満だったこともあり、全国的に対策を取らねばと考えた」と話す。
 同学会は、ブタのウイルス抗体保有率が高い流行地域では、生後6カ月から接種するよう呼び掛けた。その結果、千葉では54市町村のうち47自治体が6カ月での接種を勧めるようになるなど、前倒しが広まった。
 さらに、全国で唯一、40年以上発症例がないことを理由に定期接種の対象外だった北海道でも、本州との往来が増えて感染リスクが高まったとして昨年4月から定期接種が始まった

◇ 熊本地震で製造施設被災 問題抱える供給側
 こうして需要が高まる一方で、供給側には問題があった。
 日本脳炎ワクチンのメーカーは2社しかない。その一つの「化学及(および)血清療法研究所」(化血研、熊本市)は、昨年4月の熊本地震で製造施設が被災して、稼働が2カ月ほど止まった。ワクチン製造には通常1年半かかり、再稼働後の製品が完成するのは来年1月。それまでは在庫の前倒し出荷でしのぐ予定だったが、5月上旬に底を突いてしまったのだ。
 もう1社の「阪大(はんだい)微生物病研究会」(微研、大阪府吹田市)は増産体制を取り、販売元の田辺三菱製薬も地域ごとに必要量を割り当てて、その本数以上を出荷しないようにした。化血研も微研も出荷量を公表していないが、厚労省によると流通量は医療機関への納入量を大きく上回る見通しで、品薄とはいえ大きな問題は起きていないという。
 ただ、医療機関が買い占めなどに走ると地域間で偏在が生じる恐れもあるため、厚労省は今月8日、卸売業者に地域間の在庫融通を求める通知を出した

◇ 厚労省、業界再編を促す 国際競争力強化にらみ
 定期接種対象のワクチンは、対象年齢を迎える子どもの数が把握できるため、計画的に生産しやすい。その分、余剰が少ないために、定期接種以外の需要が一時的に高まると品薄感が生まれやすい面もある。昨年、関西国際空港を中心に麻疹(はしか)患者が集団発生した際も、ワクチン不足が心配された。
 こうした状況を踏まえ、厚労省はワクチンの安定供給を目指した業界再編を目指している。昨年10月には同省対策チームが「競争力や経営基盤の向上のため、統廃合による企業規模の拡大を促す」との提言をまとめた。
 大学の研究所から出発し、化血研や微研のように一般財団法人の形態を取っている小規模メーカーが多いことにも触れ、経営基盤を強化した株式会社に変更するよう促した。これには予防医学の観点からワクチン産業の成長が世界的に見込まれる中、海外のグローバル企業に並ぶ競争力を国内メーカーに持たせたいとの狙いもある。
 化血研では15年、国の承認と異なる方法で血液製剤を長年作っていたことが発覚。厚労省は110日間の業務停止命令を出した上で「本来なら許可取り消しに相当する」として、製造部門を他社に譲渡するよう求めた。化血研は一時、アステラス製薬と交渉をしたが、自主存続の意向が強く、最終的に条件面で折り合えず決裂した。
 一方、微研は今月、ワクチン製造の株式会社「BIKEN」を設立した。同社は田辺三菱製薬の技術協力を受ける予定で「生産システムや管理手法を融合し、生産基盤の強化を加速させる。ワクチンの安定供給に貢献する」とうたっている。


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医師には労働基準法が当てはまらず、人権もない。

2017年06月19日 12時36分58秒 | 小児科診療
 先日のブログ「医師に残業代は払う必要がないと、最高裁が判断した」の関連記事を紹介します。
 予防接種で1人でも死亡者が出ると大変な騒ぎをしてメディア、それを受けてシステムを変更する厚生労働省。
 しかし医師の自殺者が100人出ても、何も変わらない ・・・いったい日本ってどういう国?

■ 激務の研修医 栃木県・匿名希望(主婦・54歳)
毎日新聞:2017年6月19日
 娘は大学病院で研修医をしています。一般病院からも当直を頼まれるため、月20日間近く当直し、心身共に疲弊しきっています。とても人間の生活ではありません。
 「上司の先生方も皆忙しく甘えられない」。深夜に電話をかけてくる娘の泣き声に、胸が張り裂けそうになります。医師たるものは定時に帰ってはいけない、との風土もあるようです。電通社員の過労死で、世間は残業規制に動き出しましたが、医療現場は何も変わりません。
 娘の勤め先に訴えるべきか、新聞に投書して世間に訴えるべきか……。「娘を亡くしてからでは遅い」ともんもんとしていたさなかの、新潟の女性研修医の過労死報道。でも、多くのメディアは取りあげていません。
 13日付の毎日新聞社説で、毎年100人を超える医師が自殺や過労による病死で命を落としていると知り、戦慄(せんりつ)を覚えました。私たち市民は、勤務医の非人間的な労働環境も、それによる多くの過労死も知らされず、知っている政府や現場は何も変えようとしていません。
 人数が少ないから仕方ない、と自分の命を削りながら働いている勤務医の世界は、どうみても変です。私は娘を失いたくありません。誰か、この狂気の医療現場を止めてください。


■ 女性研修医の死 医療現場の疲弊なくそう
(毎日新聞:2017年6月13日)
 長時間の勤務で健康を害し、死亡する勤務医が後を絶たない。命を守る現場の疲弊を何とか食い止めなければならない。残業時間を規制するなどして改善を図るべきだ。
 新潟市民病院の女性研修医(当時37歳)が2016年、自宅近くの公園で死亡しているのが見つかった。研修医として同病院で勤務していたが、救急患者対応の呼び出しが多く、心身の不調を訴えていた。月平均の残業は過労死ライン(80時間)の2倍を超える約187時間。251時間の月もあったといい、過労死として労災認定された。
 医師の自殺率は一般より高い。その多くは長時間の勤務が絡んでおり、過労による病死を含めると毎年100人を超える医師が命を落としていることになる。一つの医科大学の卒業生数に匹敵する数である。
 特に若い勤務医や研修医の多くは長時間労働が常態化している。仕事で緊張を強いられ、患者やその家族からの苦情でストレスを感じている医師も多い。研修医の4割近くが抑うつ状態との調査結果もある。
 一方、宿直勤務をしても患者に対応していない時間は労働時間に含まれないため、労災認定されることは少ない。研修医は「労働」とみなされない場合さえある。同病院は「医師としての学習が目的で、労働時間に当たらない」と主張していた。
 開業医に比べて勤務医の仕事量が多すぎる上に、救急や麻酔科など特定の診療科に突発的な仕事が集中していることにも原因がある。
 政府の「働き方改革実行計画」では残業時間を原則45時間(月)と定めたが、医師は規制の対象外とされ、5年間の猶予が認められた。
 医師には原則として診療を拒めない「応招義務」が課せられており、一律に残業時間規制をすると患者の診療に支障を来す恐れがあると医師会などは主張する。
 ただ、若い勤務医や研修医の過酷な長時間労働を前提にした勤務体制のままでは、今後も過労死は続出するだろう。診療に支障を来すどころではない。
 厚生労働省は勤務医の残業時間規制に関する検討会を設置する予定だ。多忙な診療科の医師の増員、開業医との連携も含めて、実態に即した対策を打ち出すべきである。


 開業医がもっと働くべきだ、という論調ですが、このように「勤務医 vs 開業医」という構図にして仲間割れさせようとする常套手段は昔からありました。
 私は開業医ですが、勤務医の激務を続けられなくなってドロップアウトした経歴の持ち主です。
 そんな私でも、研修医の頃は夜12時過ぎまで働いて、朝は7時に出勤して処置をしたものです。
 開業して感じたことは、24時間ゆるく拘束される勤務医の仕事が、昼間にぎゅっと詰め込まれるような印象。
 仕事が減ったというより、メリハリが付いてストレスが軽減されるという変化です。
 もう公務員でもありませんし、自分のペースで働かせてください。


■ 疲弊する勤務医 長時間労働が常態化 過労死ライン超6.8%
(毎日新聞:2017年6月18日)
 昨年1月、1人の女性研修医が過労による自殺で命を絶ち、労働基準監督署から今年5月末に労災認定を受けた。そこから見えてきたのは、労使協定を無視した長時間労働の常態化だった。患者の安全のためにも、患者の命を預かる医師の過重労働の是正が求められている。
 「自己犠牲によって自らの生活や将来を失ったりしてはならない
 これは4月、厚生労働省の専門家会議がまとめた「医師・看護師等の働き方ビジョン」の一節だ。新潟市民病院の後期研修医だった木元文さん(当時37歳)の過労自殺は、この1年3カ月前に起きていた。
 医師の過重労働は、長い間改善が進んでこなかった。勤務医を対象にした厚労省調査によると、昨年6月の時間外労働時間は約5割が20時間以上で、6・8%は「過労死ライン」の80時間超。当直も多く、7割が宿直明けに通常勤務をしていた。日本外科学会の会員調査(2013年)では、医療事故やその手前の「ヒヤリ・ハット」の原因の81%に「過労・多忙」があった。
 なぜ過重労働は解消できないのか。一つには「正当な理由なく患者を断ってはならない」という医師法上の「応招義務」がある。
 また、東京大医科学研究所の湯地晃一郎特任准教授(血液内科)は「医師は看護師と違い、交代制になっていない。受け持ち患者の容体が急変すると、当直医に加えて主治医も呼ばれる」と指摘する。
 だが、高齢化や医療の高度化が進めば、医師の負担はさらに増す。ビジョンをまとめた渋谷健司・東大教授(国際保健政策学)は「女性医師が増え、働き方を変えなければ医療は回らなくなる。他の医療スタッフと仕事を分担し、医師本来の仕事の生産性を上げるべきだ」と訴える。
 東京都中央区の聖路加国際病院でも月残業時間が45時間になるよう当直医師の人数を減らし、6月から土曜日の外来診療を一部取りやめた。
 一方、抜本的解決には「医師数を増やすしかない」との声もある。
 政府は1982年、将来的に医師が過剰になるとの予測から、医師数の抑制方針を閣議決定。00年代に地域医療の崩壊が叫ばれ、地域枠などを設けて医学部定員を増やしたが、今も人口当たりの医師数は経済協力開発機構(OECD)の加盟国平均より少ない。日本医師会は医師の偏在が問題だとし、増員そのものには消極的だ。



 労働組合「全国医師ユニオン」の植山直人代表は「入力作業などを他の職員に委ねても、医師の負担はあまり減らない。交代制勤務ができるよう医師数を増やすべきだ」と主張。聖路加国際病院の福井次矢院長は「救急や病理は医師不足が深刻で、国は診療科ごとに医師数の調整をしてほしい」と話す。
 政府が3月に公表した働き方改革実行計画は、医師については残業時間の上限規制適用を5年間猶予した。労働時間の短縮だけでは救急医療に支障が出るといった指摘もあり、議論は続きそうだ。
 木元さんが働いていた新潟市民病院は、医師にとって激務とされる総合病院の中でも過酷さが際立っていた。
 新潟労働基準監督署が認定した木元さんのうつ病発症1カ月前の残業時間は「過労死ライン」の2倍の160時間超。毎日新聞が情報公開請求で得た資料によると、同時期に後期研修医として在籍していた医師の7割以上の20人が、労使協定で定められた月80時間の上限枠を超える残業をしていた。
 病院側も手を打っていなかったわけではない。2009年に労基署から長時間労働の是正勧告を受けた後、医師数を2割増やし、医師の事務を代行する医療秘書も5倍以上に増員した。だが、外来患者も09年度の25万2753人から16年度は26万8703人に増加した。救急外来は過半数が軽症患者で「多くの市民が、うちに来れば何でも診てくれると思っている」(片柳憲雄院長)という状態だった。
 労災認定後の今月6日、市は同病院の「緊急対応宣言」を発表した。紹介状のない一般外来患者の受け入れ停止と、治療済みの患者を近隣病院へ回す対策が柱。篠田昭市長は「過重な負担が病院にかかり、これまで通り患者を受け入れて診察を続けるのは困難だ」と理解を求めた。
 同じく市内で3次救急を担う新潟大医歯学総合病院は、既に同様の対策を進めている。ここでは後期研修医の残業時間に労使協定違反がほとんどなく、過重労働の抑制に一定の効果が出ている。
 ただ市民病院は、地域住民の健康を守ってきた身近な存在だ。近隣病院が断った救急患者を「最後のとりで」として診てきた自負もある。「責任ある立場として患者を受け入れない選択肢はない」と複数の職員が語る。
 木元さんの夫は取材に対し「医師の使命感は分かるが、妻の死は病院による殺人だ」と訴えた。「全国過労死を考える家族の会」東京代表で、自らも医師の夫を過労死で亡くした中原のり子さんは警鐘を鳴らす。「医師の長時間勤務は、犠牲的精神など個人の力で解決できるものではない」


 「妻の死は病院による殺人だ」とありますが、殺人犯は病院ではなく、「医は仁術」として医師に人権を認めていない日本社会であり、そしてそこに暮らす国民1人1人だと思います。
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日本小児アレルギー学会による「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」

2017年06月19日 07時14分36秒 | 小児科診療
 一昔前までは「食物アレルギー発症が心配な赤ちゃんは、その摂取開始を遅らせた方がよい」という指導がされていました。
 近年、口から食べてもアレルギー反応を誘導せず、しかし皮膚から浸入するとアレルギー反応を起こすようになることがわかってきました。
 それを受けて、「避けるのではなく早期から食べさせた方がよいのではないか?」ということが検討され、実際に調査したらこれが正しいと証明されるに至りました。

 そして今回、日本小児アレルギー学会による提言につながりました。

 その内容は「アトピー性皮膚炎の赤ちゃんは、皮疹をコントロールできた状態で卵を早期開始すると卵アレルギーの発症リスクが減る」というものです。
 ここで注意すべき点がいくつかあります。

・「皮疹のコントロールできた状態」が重要です。湿疹で痒がっている状態では、皮膚バリア機能が低下しており、どうしてもそこからのアレルゲン侵入が阻止できませんので早期摂取開始の効果が期待できません。

・「卵アレルギーの発症リスクが減る」とは、ゼロになるわけではありません。また、卵以外(例:牛乳、小麦)ではまでデータがありませんので推奨できません。

・既に卵アレルギー症状がある赤ちゃん(卵を食べると蕁麻疹が出る、湿疹が悪化する)は対象外です。検査で陽性であっても、症状がでない場合は対象になります。

 というわけで、無条件に「食べさせてもいい」という単純なことではなく、やはり主治医(アレルギー専門医)の指導下に行うことが安全ですね。

■ 鶏卵アレルギー発症予防に「生後半年から鶏卵の微量摂取を」
2017/6/16:日経メディカル
 日本小児アレルギー学会は2017年6月16日、「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」を発表した。提言では、アトピー性皮膚炎の患児には、鶏卵アレルギーの発症を予防するため、生後6カ月から医師の管理下で鶏卵の微量摂取を開始することを推奨した。これは、アトピー性皮膚炎の乳児では、鶏卵の摂取が遅いほど鶏卵アレルギーを発症するリスクが高まるというエビデンスに基づいたもの。
 従来、食物アレルギーの検査として、特異的IgE抗体検査や皮膚プリックテストが行われているが、これらが陽性だったとしても、アトピー性皮膚炎が寛解していれば生後6カ月後から微量の鶏卵摂取を開始できる。「安易に離乳食から食物除去され、摂取開始時期が遅くなることで食物アレルギーを起こしている状況を変えたい」と日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会委員長の海老澤元宏氏は説明した。
 この提言は、成育医療センターなどが2016年に発表したPETITスタディーの結果などを踏まえたもの。PETITスタディーでは、アトピー性皮膚炎と診断された乳幼児を、生後6カ月から鶏卵を摂取させた群と生後12カ月までは鶏卵を除去した群とに分け、その後の鶏卵アレルギーの発症率を調査。その結果、12カ月群の発症率は37.7%だったのに対し、6カ月群では8.3%と有意に低かったことが報告されている。
 微量の加熱卵摂取が導入できたあとは、従来通り「授乳・離乳の支援ガイド」に準拠して鶏卵を含む離乳食の摂取を進める。経過中にアレルギーを疑う症状が出現した場合は、「食物アレルギー診療ガイドライン2016」に準拠した精査を進め、その後の摂取継続の可否を診断する。
 なお提言では、「鶏卵の摂取を開始する前に、アトピー性皮膚炎を寛解させることが望ましい」としているが、この「寛解」とは皮疹が消失した状態を指し、外用薬を使用しているかどうかは問わない。また、「すでに鶏卵アレルギー(即時型、食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎)の発症が疑われる乳児に安易に鶏卵摂取を促すことは極めて危険」とし、『食物アレルギー診療ガイドライン2016』に準拠した対応を求めている。
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CMを信じてイオン飲料を水代わりに飲むと、健康被害に遭うかもしれません。

2017年06月13日 09時37分51秒 | 小児科診療
 甘いジュースのみならず、イオン飲料も飲み過ぎると健康被害、とくに急性糖尿病である「ペットボトル症候群」の危険があることは以前から指摘されてきました。
 近年、糖分だけの問題ではなく、ビタミンB1不足による健康障害も問題視されるようになりました。

■ イオン飲料は栄養満点?
2017年5月29日:朝日新聞
 暑くなってくると、子どもに冷たいものを飲ませる機会が増えますね。近年、イオン飲料は栄養豊富だとか、健康に良いという誤解をしている人が多いようで、イオン飲料の飲み過ぎによる問題も起こっています。100%ジュースを子どもに飲ませることの是非もアメリカで最近話題になっています。子どもの飲み物についてぜひ知っておいてください。
 「イオン飲料」とは、カリウムやナトリウムなどの電解質が入っている飲み物のことです。成分や使い方などによってスポーツ飲料とか経口補水液などと呼ぶこともあります。
 虫歯がある子は、ジュースやイオン飲料を飲む習慣があることが多いと、医学雑誌で繰り返し指摘されています。イオン飲料には砂糖が含まれおり、酸性なので、歯のエナメル質が脱灰しやすいのです。特に、哺乳瓶で飲みながら寝るというのは虫歯の原因になることを覚えておいてください。脱水症状を改善するために飲む経口補水液も、糖分が含まれているので、飲んだ後に寝る際はうがいや歯磨きが必要です。哺乳瓶がないと寝ないという子には、カフェインの入っていないお茶か水をあげましょう。
 また、イオン飲料をたくさん飲むことで、水中毒によるけいれんを起こした例や、ビタミンB1欠乏症となり脚気(かっけ)やウェルニッケ脳症を発症した例も近年報告されています。日本小児科学会雑誌に報告されたまとめ(奥村彰久ら日児誌121(5), 2017)によると、調査期間5年9ヶ月のうち33例の症例が検討したところ、ビタミンB1欠乏症の発症は2歳未満の子が多く、イオン飲料の多飲は生後12ヶ月以内に始まり、中央値で3.5ヶ月間、1000ml以上の量を毎日飲んでいたということです。その後の経過が判明したお子さん27例中1例が死亡、12例に障害が残りました。どの症例も極端な偏食があったり、離乳食をほとんど食べていなかったりしました。
 ここまで深刻な例はなかなかないとは思いますが、日常的に多量のイオン飲料を飲むのはダメです。経口補水液に記載されている一日あたりの摂取の目安量は、乳児は体重1kgあたり30-50ml、幼児が300-600ml、学童から成人で500-1000mlです。1-2歳の子どもの体重は9-12kgくらいなので、治療を目的としないイオン飲料は1日に500ml以下にしましょう。
 年長児から成人に近い体格の子でも、イオン飲料や清涼飲料水を大量に飲むことで、「ペットボトル症候群」と呼ばれる急性の糖尿病を起こすことが知られています。そして、経口補水液は塩分が多いので、治療としてではなく日常的に飲むことで塩分の過剰摂取の原因になることがあります。
 こうしたことの背景には、保護者や子ども自身がイオン飲料に対して、いいイメージをもっていることがあるでしょう。イオン飲料は栄養が豊富であるとか、ビタミンが含まれていると思っている保護者がいるというアンケート結果があります(日児誌 同)。でも、成分表を見ると、入っているものは水、糖類、電解質、クエン酸、香料であり、栄養が豊富でもビタミンは添加されてもいません。
 Twitterで、保健師や看護師に「イオン飲料さえ飲んでいれば大丈夫だから」と乳児健診で言われたという人がいました。ビタミンB1を3週間摂っていないと欠乏症になることが分かっています。日常的にイオン飲料を飲むだけでは、ビタミンB1以外の栄養素も必ず欠乏します。その保健師や看護師がどのように話したのか分かりませんが、保護者の人がどこかを誤解してしまったのではないでしょうか。外来でもイオン飲料を飲むことを勧めることがありますが、医師たちも丁寧に説明しないと誤解されかねません。
 経口補水液が推奨されるのは、胃腸炎や熱中症のときで、脱水対策にとても効果があります。その際には、体液の成分に近くて吸収されやすい「経口補水液」や「ORS」と書いてあるものを使いましょう。大人用のスポーツ飲料など普通のイオン飲料は、治療効果が高くありません。そして、急速に水と電解質、糖質が必要でないときは、経口補水液を日常的に飲む必要はありません。お腹を壊しておらず、風邪で咳と鼻水があるというときは、水やカフェインの入っていないお茶で構いません。お腹を壊していても1-2回程度の嘔吐や下痢なら、普通の水分でいいのです。ただ、妊娠中でつわりがひどく特定のイオン飲料しか飲めないとか、発達障害に伴う極度の偏食でそれしか飲めないという際には、主治医と相談しましょう。点滴やサプリメント、代替食などの方法があるでしょう。
 同様に100%の果汁でできたジュースも注意が必要です。アメリカ小児科学会は、2001年と2006年に生後6ヶ月未満の子どもには、肥満や虫歯の観点から100%ジュースを飲ませるべきではないと表明しました。一番新しい勧告では、「1歳未満の子どもに推奨しない」とより厳しい内容になりました。
 100%と聞くと、健康的なイメージが浮かぶかもしれませんが、ジュースの栄養は、果物そのものより劣ります。ジュースでは食物繊維は摂れないし、低温殺菌されていない製品は、子どもにとってよくありません。お腹が張ったり、お腹が痛くなったりすることがあります。
 ニューヨーク・タイムズによると、アメリカでも保護者は子どもに100%果汁のジュースを与えることは必要だ、と思っている人がいるようですが、専門家に否定されています。糖分とカロリーの面で、100%ジュースは果物よりも清涼飲料水に似ています。子どもにとって、清涼飲料水は危険ではないけれど必要なものではありませんね。100%ジュースはおいしいので、飲みすぎて食事が減る危険性があるし、他の清涼飲料水に移行していく入口になることもあります。アメリカ小児科学会は100%ジュースの一日最大摂取量を1-3歳は4オンス(118ml)、4-6歳は4-6オンス(118-177ml)、7歳以上は(236ml)と言っているので、参考にしましょう。
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医師に残業代は払う必要がないと、最高裁が判断した。

2017年06月11日 22時27分57秒 | 小児科診療
 医師に残業代は払う必要がない、と最高裁が判断しました。

 医学生、医学部を目指す高校生、覚悟はいいですか?
 あなた方の目指している職業には、基本的人権がないのですよ。

 私もNICU勤務の研修医時代、無償の労働を強制されました。
 夜中に起こされて、市中の産婦人科医院から赤ちゃんを搬送し、寝ずに治療し翌日も勤務。
 これが月に数回ありましたが、残業代は上限10時間までしか出ず、超過する月が少なくありませんでした。
 眠い目をこすって人口呼吸を続ける救急車の中で、ふと「これでトラブルがあったら自分の医師免許はなくなるんだろうなあ」という思いが頭をよぎることが何度もありました。

■ 高額年俸の医師にも残業代支払うべき? 最高裁判断へ
2017年6月10日:朝日新聞
 高額な年俸を受け取る医師にも一般の労働者と同様に残業代を支払うべきかが争われた訴訟で、最高裁第二小法廷(小貫芳信裁判長)は9日、原告の医師と被告の病院から意見を聞く弁論を開いた。二審判決は「残業代は年俸に含まれている」として医師の請求を退けたが、弁論は結論を見直す際に開かれるため、二審の判断が見直される見通しだ。判決は7月7日。
 一、二審判決によると、神奈川県内の私立病院勤務だった40代の男性医師は2012年4月、年俸1700万円の雇用契約を病院と結んだ。病院の規定に従い、「午後9時以降か休日の必要不可欠な業務」には残業代は支払われていた。しかし、1日8時間を超える労働に残業代の支払いを義務づけた労働基準法の規定を根拠に、医師は「午後9時まで」の残業代などを求めて13年に提訴した。
 15年4月の一審・横浜地裁判決は「医師の仕事は労働時間に応じた賃金には本来なじまない」とした上で、高額な年俸も考慮し、「時間外手当は年俸に含まれていた」と判断。同年10月の二審・東京高裁判決も支持していた。
 この日の弁論で医師側は「医師の過重労働防止のため、労働者として保護する必要がある」と主張。病院側は「高給で、労働時間に相当な裁量がある場合、労働者として手厚く保護する必要はない」と反論した。



 ちなみに、欧米では医師でも9時5時の勤務です。
 救急患者は当直医ではなくERが担当しています。

 この前時代的な判決、世界の常識からして許されるのか、注視したいと思います。
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同時接種はよいけど、混合接種は禁!

2017年06月07日 17時23分07秒 | 小児科診療
 東京の小児科医院で行われた混合接種の事件に対応して、日本小児科学会が声明を出しました。

■ 複数ワクチン混ぜ接種「実施してはならない」
〜小児科学会、異なる部位への同時接種は「適切」
CBnews | 2017.06.06
 東京都内の小児科クリニックで複数のワクチンを混ぜ合わせて1回の注射で接種していた問題を受け、日本小児科学会は、「混注による接種に関するエビデンスはなく、実施してはならない方法」との見解をホームページに掲載した。
 この問題をめぐっては、品川区が5月16日、同区が予防接種事業を委託している小児科クリニックで、MR(麻疹・風疹)や水痘などのワクチンを混ぜて接種していたと発表。5年間で350人以上に誤った方法で接種していた。予防接種の効果を判断するため、同区では、誤った方法で接種された人たちへの血液検査を今後、実施する予定で、十分な免疫が得られていない場合は再接種を勧めるという。
 同学会は見解で、昨年にも東京都北区の小児科クリニックで同様の問題が報告されていたことを指摘。「異なるワクチンを1つに混ぜて接種することに関しては、その効果と安全性を保証するデータは存在せず、実施してはいけない医療行為」としている。
 その一方、複数のワクチンを上腕や大腿などの異なる部位にそれぞれ接種する同時接種については、「子どもたちが必要なワクチンを適切な時期に接種するための重要な医療行為」と説明。同時接種によって予防接種を効率良く進める必要があるとしている。


 調査の結果が気になります・・・ぜひ公開していただきたい。
 なお、耳にした情報によると、件のクリニックの小児科医は意外にもワクチンの専門家とのことです。
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乳幼児への不適切な抗菌薬処方は“小児科以外”で多い

2017年06月02日 06時11分59秒 | 小児科診療
 抗生物質関連の記事をもう一つ。
 日々実感している内容なので、ウンウン頷きながら読みました。

■ 未就学児への不適切な抗菌薬処方、小児科以外で多い
2017/06/02:ケアネット
 未就学児の上気道感染症(URI)への抗菌薬処方に関する、全国の診療報酬請求データベースを用いた京都大学の吉田 都美氏らの後ろ向き研究から、非細菌性URIへの不適切な抗菌薬処方が、年齢の上昇、男児、施設の特性、小児科以外の診療科、時間外診療に関連することがわかった。Journal of public health誌オンライン版2017年4月27日号に掲載。
 著者らは、わが国における2005年1月~2014年9月の診療報酬請求データベースから、外来での抗菌薬処方を特定し、各被験者の出生時から6歳までの処方パターンを調べた。また、ロジスティック回帰分析により、不適切な抗菌薬処方に関連する因子のオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を推定した。
 主な結果は以下のとおり。

・データベースにおいて小児が15万5,556人、うち男児が51.6%、女児が48.4%であった。
・コホートの66.4%に抗菌薬が処方されており、第3世代セファロスポリンが最も多く(38.3%)、次いでマクロライド系(25.8%)、ペニシリン系(16.0%)であった。
・非細菌性URIへの抗菌薬処方は、男児(OR:1.06、95%CI:1.05~1.07)、施設規模、小児科以外の診療科(OR:2.11、95%CI:2.08~2.14)、時間外診療(OR:1.64、95%CI:1.61~1.68)と関連していた。


<原著論文>
Yoshida S, et al. J Public Health (Oxf). 2017 Apr 27:1-7.
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