徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

クローズアップ現代「助けてと言えない~孤立する30代」

2010年01月31日 22時00分18秒 | 日記
 タイトル名のNHK番組を見ました。
 昨年10月に放映され、大きな反響を呼んだそうです。

 内容はリストラで社会からはじき出された30歳代の若者が、家族や友人に相談できず自滅していく例が多発しているというもの。
 ホームレスを長年サポートしてきた牧師さんは、近年その年齢層の変化を感じていました。
 以前は平均年齢が50代後半以降だったのが、近年は20~30代も珍しく無くなってきたというのです。

 番組が問題点として取り上げたのは「自分が悪い」という自己評価の低さ。
 話は「社会・隣人がサポートしていくべきだ」という方向へ進みました。

 でも、なぜ自己評価が低くなってしまうのか、という根本の議論はなされませんでした。

 私にはわかります。

 その根源は「子育て」。
 善悪をひっくるめて子どもの人格を抱き留める存在のはずの母親が、子どもの良いところだけを認めて悪いところは受け入れられなくなってきています。
 
 「母性」の喪失。

 親に自分の存在価値を認めてもらえなかった子ども達は、生きていけません。
 親に大切にされなかった子どもは、他人を大切にする術をも知り得ません。
 昨今の若者の凶悪犯罪のベースにある病理は「低い自己評価」と専門家が分析しています。

 これは社会全体の病理でもあります。

 社会に出て働いている大人も、実績を評価し、失敗を許してくれない会社の方針にもがき苦しんでいるのです。
 じわじわと浸透し、耐えられなくなるヒトが出てきます。
 自分が扱われているようにしか、他人(この場合は子ども)を扱うことができません。
 親が苦しんでいるから子どもも苦しい、という悪循環。

 古来、社会に出て働き、家族を守り養うのは男性の役割でした。
 動物社会を観察していると、家族の単位はメスと子どもが基本で、オスはオプションに過ぎません。

 ヒトの社会で初めて父親が家族に組み込まれました。画期的なことです。
 逆に、約100年前から女性も社会に参加し、男性と同じストレスを抱えるようになりました。

 社会で受けたストレスまみれの大人たちが、子どもを無条件の愛情で包んであげられるでしょうか?
 難しいのではないかと思います。
 どうしても社会のルールを押しつけがちなり「これはいけない、あれもダメ!」となるのではないでしょうか。

 せめて、遺伝子をつなぐ子育ての基本は失わないよう守らないと・・・誰かが「母性」を担わなくては。


 宮崎駿監督の映画「風の谷のナウシカ」に出てくる一場面を思い出します;
 外敵から攻撃を受けた時、防空壕のようなところに女と子どもは避難し、男は家族を守るために命をかけて果敢に戦う。
 わかりやすい役割分担。


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「アインシュタインの目ー弓道ー」を見て漢方に想いを馳せる

2010年01月17日 14時00分45秒 | 小児科診療
NHKに「アインシュタインの目」という番組があります。
高感度・高性能カメラを駆使して様々な事象の仕組み・カラクリを解明しようという内容。
以前見た「テニス」「相撲」も面白かった~。

今回のテーマは「弓道」(再放送らしいですけど)。
歴史が培ってきたその技に脱帽する思いでした。

■ 弓矢の威力:金属製のバケツを射貫く!

■ 「角見」の理由:矢を射た後に弓本体を外側に回転させる基本動作のことを云います。身体の保護と標的を正確に狙うために必須なこと。

■ 弓を持つ位置は下1/3部分:素人考えだと真ん中が良さそうですが、そこを持って射ると身体が揺れるほど反動があり耐えられません。下1/3の位置が一番衝撃が少ないのです。そしてこれは弥生時代の銅鐸に描かれている狩猟絵も同様であり、さらにあの『魏志倭人伝』にも書かれていて驚かざるを得ませんでした。1700年前から経験として会得していたのですね。

■ 矢の秘密:尾についている羽は表すべすべ・裏ザラザラの空気抵抗の差により飛行中回転(風車の原理)し軌道を安定させる・・・羽なしではコントロールが定まらないことがわかりました。さらに、現代の合成素材の金属やグラスファイバーより「竹」の自然なしなり具合の方が軌道が安定するとのこと。
 放たれた矢の軌道を超高速カメラで追うと、緩やかに回転しながら体をしならせて空気の中を泳いでいく魚のように見えました。まるで生きているかのよう。

 いやはや参りました。
 経験的に会得した技の積み重ねで完成した「弓道」。
 現代科学で分析すると驚くべき技術が詰め込まれていることが証明されました。しかも、現代の最先端の素材が「竹」にかなわないとは・・・恐るべし日本の伝統!

 この番組を見終えて、私は現代医学と東洋医学のくすりの違いを連想せざるを得ませんでした。
 両者とも伝統がありますが、性質が異なります。

■ 西洋医学:分析的。単独物質を抽出・合成して薬を造る。
■ 東洋医学:経験的。草根木皮からなる生薬をさらに組み合わせて薬を造る。

 西洋医学では新たな有効成分が発見されれば、それが薬となり得るのか動物実験・人体実験(いわゆる治験)で確認して新薬完成、効果に切れがあるが副作用も無視できない。

 東洋医学薬(漢方薬)は経験的に「この生薬とこの生薬を組み合わせると、こんな体質の人のこんな状態を改善してくれる」という気の遠くなるような積み重ねの結果、医術のレベルに達した匠の技。当然、効かない薬(組み合わせ)や危険な薬は淘汰されて残っていない。

 漢方薬を「現代科学の手法で効果が証明されていない」と批判する人がいますが(かつて私もそうでした)、2000年の人体実験が済んでいるとも考えられ、使い方を習得すれば役に立つこと間違いなし! 
 近年、漢方薬の分析が進み、その有効性を示す科学的データが集積しつつあります。肝は「元々ヒトの体に備わっている能力を調整して病気に対応できる状態にする」ということ。
 そこに完成された体系があり、科学的裏付けが後から追いついてくる、という点で『弓道』と共通するものを感じたのでした。

 話は脱線しますが、昨年末に「事業仕分けによる漢方薬保険外し」が話題になりましたね。
「薬店で買えるからよいではないか」という素人判断です。
しかし、薬店で販売している漢方薬は医師が処方するものより成分量が少なく「安全だけど効果不十分」つまり「毒にも薬にもならない」という代物です。
 実際に自分の家族で、同じ名前の漢方薬でも処方薬は有効でしたが市販薬は無効だった経験があります。
 むしろ中途半端な市販漢方薬の販売を中止すべきだと私は考えます。

 さて、話ついでに。
 漢方薬と「民間薬・民間療法」を混同されている方も多数いらっしゃいます。
 この二つはどう違うのでしょう?
 民間薬は単独の薬草を使うだけですね。漢方薬は複数の薬草(草根木皮)を複雑に処理・組み合わせて効果を高めたものです。
 さしずめ木彫りの人形であれば「民間薬=大量生産のおみやげ工芸品」「漢方薬=芸術品」に例えられるでしょうか。
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