新型コロナウイルスの感染対策、どこまでやればいいのか・・・。
医療者も抱える疑問です。
教育現場でも、教員の方々は悩まれていると思われます。
不足でも過剰でも保護者からのクレームが来ます。
例えば、マラソン中に突然死した小学生のニュースが流れました。
その時にマスクをしていた、いやしていなかったで、
学校側の対応責任を問う声が大きくなりました。
先日読んだこの本、
非常に丁寧に詳しく説明されている良本ですが、
「やりすぎ?」コーナーがあるのが特徴でもあります。
その辺を中心に是非紹介したいと思います。
■ 夏場のマスクは必要?
→ 屋内でソーシャルディスタンス(1-2m)が取れないときは必要、屋外では2mの距離が確保できるのなら外してもOK
■ 空間除菌は必要?
→ 必要なし、というより体に害を及ぼす危険を伴う。換気の徹底を優先。
■ 教室の窓は常に全開にしておく?
→ 十分な換気(※)を心がければ必要なし。
※ 1時間に1回、5分以上、対角線上のドアと窓を全開にする。
■ 三密空間(更衣室や放送室、狭い会議室など)は絶対に避けるべき?
→ 可能な限り避けるべきであるが、滞在時間が短ければ(15分を目安)感染リスクは低い。
■ 手洗いのしすぎで手が荒れて痛い、それでも手洗いが必要?
→ 保湿成分の入ったアルコール消毒で代用可能。
■ 学校にいる間、ずっとマスクをしていなくてはいけない?
→ マスクはソーシャルディスタンス(1-2m)が取れないときに必要な飛沫感染対策で、室内で密になるときは必要、屋外では外せる場面もある。
■ 運動するときもマスクをするの?
→ 運動中はマスクを外し、運動後の会話する時はマスクを着用。運動中のマスクは熱中症や脱水のリスク。マスクはあくまでも距離を取れない場合の代用感染対策。
■ 夏のプールはダメ?
→ プールの水でうつるリスクは以下の理由(⇩)で低く、プールを利用した事による感染例は報告されていない。基本的な感染対策(更衣室やプールサイドでおしゃべりしない)を守れば問題ない。
・新型コロナウイルスは水温20℃の水道水では1-2日間生存できるが、塩素で消毒されているプールでは30分以内に失活する。
・プールの水の量に対して人が排出するウイルス量は非常に少ない。
・新型コロナは肺に吸入することで感染が成立するウイルスで、飲み込むことで感染することはない。
■ 子どもに教室などの掃除をさせない方がいい?
→ 掃除中はマスクを着用し、掃除後に手洗いを励行すれば大丈夫。掃除中の接触感染に関する目立った報告例はない。
■ 給食時のパーテーションは必要?
→ マスク着用(食べるときは外す)、会話なしであれば必ずしも必要ではない。換気を優先すべし。
■ 文部科学省推薦の「6つの場面での手洗い(※)」をすべてやるのは大変、絶対にやらないとダメ?
※ 手洗い場面6つ;
・外から中に入るとき
・咳やくしゃみ、鼻をかんだとき
・食事前
・掃除後
・トイレ後
・休み時間後、共有物に触れた後
→ ウイルスは手についただけでは感染しない。ウイルスがついた手で口や鼻を触ると感染する。原則は以下の2点;
・明らかに手が汚れているとき
・手で顔に触るような行為(食事など)の前
■ 通学の満員電車は感染リスクが高いので利用しない方がよい?
→ 停車時のドアの開閉で換気され、人の入れ替わりも多いため、会話をしなければ感染リスクは低いので、利用可。
■ 集団で登下校する際、他の人と1-2m開けて歩く?
→ 会話をしないで静かに歩いている場合は間隔を大きく開ける必要はない(人との距離を開けすぎると交通事故のリスクが増す)。
■ 図書館の貸し出し用の本は、全ページ消毒しないとダメ?
→ 本についたウイルスは約24時間で感染力を失うので、使用前後の手指衛生を行えば利用可。
■ 家庭でも完璧な感染対策(※ 1)をすべき?
→ 家庭は“密な空間での集団生活”ですが、完璧な感染対策は無理です。可能な範囲で基本的な感染対策(※ 2)を。
※ 1)家庭での完璧な感染対策例;
・話をするときはマスクを着用
・一切おしゃべりをしない
・食器は別
・お風呂も一人ずつで毎回洗う
・洗濯も寝室も別
※ 2)可能な範囲の基本的な感染対策;
・三密空間を作らないために部屋の換気をよくする
・タオルなどの物品を共用しない
・帰宅時やご飯を食べる前は必ず手を洗う
その他に基礎的なことで目に留まったポイントを。
やや専門的になりますので、興味のある方だけどうぞ。
■ 感染症流行の表現方法いろいろ
・エンデミック(endemic:地域流行):特定の地域で定期的に繰り返し感染者が出ること。
・エピデミック(eidemic:流行):特定の感染症が例年の感染者数や範囲を一時的に大きく超えて発生すること。
・アウトブレイク(outbreak:特定の場所での大きな流行):一定の期間に、特定の地域・集団の中で、突発的に多くの感染者が予想をはるかに超える規模で発生すること。
・パンデミック(pandemic:世界的大流行):国境や大陸を越えて世界的に感染が広がり、多数の感染者が出ること。
・・・これらの感染の終息の定義は「潜伏期間の2倍の期間、新たな感染者の報告がないこと」、今回の新型コロナで考えると、最長14日間の潜伏期と言われているので、28日間新規患者が発生しなければ「終息」宣言を出すことができる。
・・・2009年当時の新型インフルエンザの報道を思い出します。メキシコで発生し世界的に注目を集めたものの、致死率が思ったほど高くないことが徐々に判明し、大騒ぎする必要があるのかな、という声も聞こえ始めた頃に「パンデミック宣言」がなされたのです。確かに複数の国に渡って感染拡大したので、そのタイミングで発令されたのですが・・・。
■ 過去のパンデミックの終わり方
・SARS:終息
・新型インフルエンザ(2009):定着
・MERS(2003):残存
・新型コロナ(2019):定着?
■ マスクとソーシャルディスタンスの関係
飛沫感染対策は2m以上距離を取ることが基本です。2m開けられないときにマスクが必要になる。つまり、マスクは距離が取れないときの飛沫感染対策のグッズ。逆に2m距離が取れればマスクは必要なくなり、これが屋外ではマスクが必要ない理由になる。
■ マイクロ飛沫感染(エアロゾル感染)を理解してますか?
現在も「飛沫感染」に分類するか、「空気感染」に分類するかは専門家の間でも意見が分かれている混乱状態だが、おおむね「飛沫感染と空気感染のあいだ」と落ち着きつつある。
マイクロ飛沫感染は、空気感染ほどの感染距離はないものの、ウイルスは2-3mでは落下せず、空気中にしばらく滞在することが判明している。空気が滞留する状態(つまり“三密”)では数時間空気中に浮いているともいわれている。三密の条件を満たす空間では、感染リスクが18倍になるという報告もある。
しかし飛沫感染と比べると、マイクロ飛沫感染は密閉空間では飛散距離が長くなり得ることに注意が必要。
マイクロ飛沫感染の対策は、ずばり「三密回避」。ソーシャルディスタンス〜マスクのみでなく、徹底した換気が最も有効。
■ 学校の教室の換気方法
教室などの一般的な環境では、
・1時間に5-10分程度換気をする(休み時間に窓やドアを開放する)。
・持続的な換気をするのであれば、対角線上の窓やドアを10cmくらいずつ開けておく。
ので十分。
■ 新型コロナウイルスは「空気感染」するのか?
「空気感染」を「病原体の付着した飛沫核が空気中をどこまでも浮遊し続けて感染する」と定義した場合、「新型コロナウイルスは空気感染しない」ということになる。これを満たすのは水痘、麻疹、結核の三疾患のみ。
新型コロナではマイクロ飛沫(エアロゾル)感染が起こることはあっても空気感染は起こらず、結核や麻疹ほどの感染範囲はない。
■ 消毒剤の空間噴霧(空間除菌)、首かけ消毒剤は有効? → 無効かつ危険です!
次亜塩素酸の空間噴霧や紫外線照射、オゾンなどによる「空間除菌」と言われるものを見かけるが、科学的な根拠に乏しく、噴霧された次亜塩素酸を吸入することによる肺炎や紫外線照射による皮膚障害を起こした例や、首からぶら下げるタイプの商品で化学熱傷を起こして商品回収に至った例も報告されている。
無効であるばかりか、かえって健康被害を引き起こすものもあるので、使用の際は十分な注意が必要(私はお勧めしていません)。それよりも、しっかり換気した方が有効で安価。
■ 二酸化炭素濃度
会話が多く、換気の悪い空間では二酸化炭素濃度が高くなるため、その空間の空気のよどみを評価できる。厚労省の基準は「1000ppm以下」。
■ アルコールが新型コロナウイルスを死滅されるメカニズム
新型コロナウイルスは外側に「エンベロープ」という脂質の膜を持ち守られている。アルコール消毒はこのエンベロープを壊してウイルスを失活してくれる。アルコールを手に付けるとすぐに揮発するが、この揮発するときにエンベロープが破られる。
アルコールは「洗い流す」のではなく、手指にこすりつけて「揮発させる」ことが重要で、流水による手洗いの100倍の効果を期待できる。
ただし、物理的な汚れは落とせない、(開封後1年以上経過して)アルコール濃度が60%未満になると効果が落ちる、などの弱点がある。
インフルエンザウイルスもエンベロープがあるのでアルコール消毒が効く。一方、ノロウイルスにはエンベロープがないので、アルコール消毒が効きにくい。
■ 「通気性がよいマスク」=「感染防止効果なし」
通気性がよいマスク=ウイルスが出入りしやすいマスク、である。
■ マスクの性能表示:BFE、VFE、PFE
(BFE)細菌飛沫捕集効率
(VFE)ウイルス飛沫捕集効率
(PFE)微小粒子濾過効率
・・・これらが95%以上であることが、医療用マスクの一般的な条件。
これらの指標が記載されていないマスクは、いくら効果があると書いてあっても眉唾物。
医療関係者は、不織布でできた「サージカルマスク」以外は効果がないと考えている。
■ 運動・スポーツの際の感染は、運動中ではなく控え室・更衣室で起きている
スポーツにおけるクラスター事例のほとんどは、同一空間である程度の時間会話を伴う行動をしたり、あるいは移植をともにしていたというケースが多い。
■ 共用する道具の消毒
(調理実習)
・調理器具は各自1つずつ使用
・調理台の使用は1台2名まで
・食器や調理器具は使用前後に洗い消毒
(掃除)
・通常の接触感染対策(マスク、使用後の手洗い)
(トイレ)
・蓋のあるトイレの場合は、便に付着しているウイルスが飛散しないよう“念のため”トイレの蓋を閉めて流すことが推奨される。
(運動会)
・大玉送り、玉入れなどの共用物を使う競技においては、競技後の手洗いや手指のアルコール消毒に加え、使用後の道具の消毒を徹底する
(音楽祭)
・ピアノなどの楽器を共用する際は、手指衛生や楽器の消毒を徹底する
・・・ココで矛盾が発覚!
調理実習の調理器具、運動会、音楽祭での共用物は消毒が必要、
一方、掃除道具、トイレでは使用後の手指消毒、としか書いてありません。
混乱するので、統一していただきたいものです。
■ トイレでの感染リスク
「糞便からもウイルスが検出されるから、感染源となり得る」という報告があるが、「ウイルスが検出されただけであって、実際にこれを介して感染した」証明にはならない。
■ 合唱の感染リスク
「声を出す=飛沫が飛ぶ」ので感染リスクが高い行為だから、「歌をうたう」ことも当然ハイリスク。合唱などの発生で飛沫がどの程度飛散するかという検証では、言語にもよるが約1-2mとされている。
全日本合唱連盟のガイドラインによると、
・体調管理がしっかりできていること
・感染を疑われる人が参加していないこと
・合唱当日、会場が密でないこと
・換気がしっかりできていること
・マスク着用、手洗いなどの基本的な感染対策を行っていること
・マスクをせずに歌う場合は、発生する前方向に1.5m程度、左右は三津が発生しない程度に離れること
と明言されている。実際には練習中も本番時も、
・マスクなしの場合は向かい合う配置は避け、前後に1-2m、左右は密が発生しないよう(1m程度)距離を置いて歌う
ことになる。
■ 交通機関(電車/新幹線、バス、飛行機)での感染リスクは低い
・定期的に停車しドアを開閉するため、その都度換気される。
・会話をしないため、飛沫が飛ばない。
・満員電車であっても人の入れ替わりは多く、長時間同じ人と顔を近づけていることが少ない。
・飛行機内では数分間に一回空気が入れ替わるため、感染リスクは2700万分の一。
※ ただし、移動中の会話、複数人で大騒ぎする、観光バス内でのカラオケなどは感染リスクが高まる。
■ 図書館での感染リスク
・貸し出し用の本は「不特定多数の人が触れるもの」であるが、紙や段ボールの表面では24時間程度(プラスチックでは72時間)でウイルスは失活するため、本に付着したウイルスは1日程度で消失すると考えてよい。
・日本図書協会は、図書館の本の消毒について「アルコールによる消毒」や「紫外線照射」は本を傷めるだけで感染リスクを下げる明確な根拠がないとして推奨していない。
・図書館および本の利用前後でしっかり手洗いすることが感染リスクをさらに減らすことができる。
・設置してあるパソコンは、使用後にキーボード等直接触れる場所をアルコール消毒することでウイルスを除去できる。
■ 映画館・劇場での感染リスクは低い
・天井が高く換気もしっかりされているため、滞在期間が長くても三密空間になりにくい。
※ ライブハウスや舞台のある居酒屋では、大きな声+三密空間になるため感染リスクが高い。
■ 衣服の感染リスクと洗濯
・新型コロナは衣服に付着した状態で1-2日間生存する可能性があるが、実際に衣服からの感染が疑われた事例はなく、布などの無生物に付着したウイルスが空気中に舞うこと通常はない。
・よって、清潔を保てる洗濯サイクルのままでよい(毎日?)。
さて、以前から疑問に思っていることがあります。
それは、
「ウイルスで汚染された食べ物・飲料を食べたり飲んだりすると、感染するのか?」
です。この本の中では、
・汚染された手で口に触ると感染する
・飛沫の付着した食べ物を口にすると感染成立(p78)
→ 汚染された食べ物でも感染する
・汚染された水を飲んでも感染しない(p75)
→ 飲料は安全?
と矛盾した記述があり、残念ながら私の疑問は解決しませんでした。
★ 追記;
世界各国での子どものマスク着用に対する考え方を紹介します。結構バラバラですね。
米国CDC:2歳未満は不要
WHO:5歳以下は必ずしも必要なし
欧州CDC:13歳未満は必要なし
厚労省:未就学児には一律にマスク着用を求めず、特に2歳未満は不要
日本小児科学会:2歳未満は不要