予防接種の目的として、
1.個人を感染症から守る
2.集団を感染症から守る
3.予防接種を受けられない人を感染症から守る(集団免疫)
4.感染症を撲滅する
の4ステップがあります。1からはじまり、究極の目標は4ですね。しかし4を実現したのは今のところ天然痘のみ。
さて、1と2は直接効果なので理解しやすいのですが、3はちょっとわかりにくい。
しかし、大切な考え方なので以前から繰り返し扱ってきました(最後にリンクしました)が、まだまだ理解が広がらないのでダメ押しで取り上げます。
今回、集団免疫の概念をわかりやすく解説している論文を見つけましたので紹介します。
「
若年層のインフルエンザワクチン接種率が高いほど、高齢者のインフルエンザ関連疾患の罹患率が低く抑えられた」という内容です;
■ 若年成人のインフルエンザワクチン接種が高齢者の予防作用を強化する
(
2015-09-17:Reuters Health)
アメリカの全国データの新たな分析によると、65歳未満の健康な成人がインフルエンザワクチンを接種すると、その地域の高齢成人のインフルエンザ予防にも役立っている可能性があるとのことである。
18歳から64歳の成人のワクチン接種率が最も高い群に居住する高齢者で、インフルエンザ関連疾患のオッズは、最も低い群に居住する高齢者よりも21%低かったことが判明した。
若年健康成人で広くインフルエンザワクチン接種を行うと、高齢者におけるインフルエンザ診断の5.9%までを回避できる可能性があることを研究結果は示唆していると、研究者らは9月9日付けのオンライン版Clinical Infectious Diseasesで記述している。
「高齢者に接触する成人は、インフルエンザワクチンを接種するよう特別に努力するべきであることが、我々の研究では示唆されている。これには、家庭内に高齢親族がいる人も高齢者と定期的に接触する人も含まれる」と、筆頭著者でオハイオにあるクリーブランドクリニックのGlen B. Taksler先生はReuters Healthへ電子メールで伝えた。
「ワクチン接種がその地域の他の人々に役立つように見えることから、肯定的な背後関係を示す我々の所見は、インフルエンザワクチンを取り巻く一般的イメージの再構築に役立つかもしれない」と彼は付け加えた。
米疾病対策センター(CDC)は、稀な例外を除き、生後6か月以上の全ての人にインフルエンザワクチンを年1回接種するよう推奨している。CDCの推定によると、アメリカでは平均で毎年約24,000件の死亡がインフルエンザにより引き起こされている。
CDCによると、インフルエンザ関連疾患による入院の約3分の2、そしてインフルエンザ関連死の約90%は、65歳以上の人々で発生しているとのことだ。高齢者の次に、インフルエンザに関連する合併症発症率と入院率が最も高いのは、年少の子供と特定の基礎疾患のある全ての年齢層の人々である。
「高齢者と免疫力が低下している人々においてはインフルエンザワクチンの効果は減少するため、これらの高リスクな人々がインフルエンザから自分を守る能力は限られている」とTaksler先生は述べた。
若年の健康な成人は大抵インフルエンザから回復できるが、その地域の高齢者や他の高リスクな人々へ感染を広げることがある。
若年成人のインフルエンザ感染の減少が高齢者への暴露を減少させ、高齢者を守ることになるかどうかを調査するため、研究者らは、313の都市周辺の群に居住する18歳から64歳の成人520,229人のインフルエンザワクチン接種率に関する情報を含むCDCの電話調査によるデータを取得した。このデータは、2002年から2010年までの8つのインフルエンザシーズンに及んでいた。
Medicareに対する保険の請求から、300万人以上のMedicare加入患者の同期間内のインフルエンザワクチン接種率とインフルエンザ関連疾患に関する情報を得た。
ワクチン接種をした若年成人の人数が多い地域で、高齢者のインフルエンザ関連疾患罹患率が全体的に低いことに加え、高齢者もワクチン接種をした方がベネフィットは一層大きいことも判明した。
ワクチン接種を受けた高齢者のインフルエンザ関連疾患リスクは、ワクチン接種を受けた若年成人の数が多いことと関連して33%減少したが、ワクチン接種を受けなかった高齢者のリスク減少は13%のみであった。
「これは、インフルエンザへの予防措置を取った高齢者が、地域全体でのワクチン接種からさらに利益を得ることを意味している」とTaksler氏は述べた。
高齢者の免疫システムがインフルエンザワクチンに反応する力は弱いとしても、インフルエンザワクチンを接種した高齢者がその地域でインフルエンザに感染するまでには、それに比例して多くの感染者と接触する必要があるだろうと研究チームは推測している。従って、地域でワクチン接種をした若年成人の数が多ければ、インフルエンザ症例数はワクチン接種をしていない高齢者よりも、ワクチン接種をした高齢者で迅速に減少すると予期できるだろうと彼らは記述している。
若年成人のインフルエンザワクチン接種率の高さと高齢者のインフルエンザ関連疾患罹患率の低さとは、インフルエンザシーズン中のピーク月、より厳しいインフルエンザシーズン中、そしてワクチンと主流のインフルエンザウイルスとがより適合した年において、より顕著に関連した。
「過去の研究で、学齢期の児童に対するワクチン投与で、成人のインフルエンザ感染率を減らし得ることが示されている」と、この研究には関与していない、シアトルにあるGroup Health Research InstituteのMichael L. Jackson先生は述べた。
「18歳から64歳の成人に関する群レベルのワクチン接種率の上昇が、高齢者におけるインフルエンザリスクの減少と相関することを、彼らは発見した。インフルエンザワクチン接種から影響を受けるはずがない(大腿骨近位部骨折や腰痛などの)対照となる転帰の使用を含め、数多くの感度分析をこの研究で行ったことは称賛すべきである」と彼は述べた。
「Taksler氏と同僚たちが実施したこの研究から、若年成人のワクチン接種は、高齢者に対し『集団免疫』という中程度の利点ももたらすというエビデンスが得られている」と彼はReuters Healthへ電子メールで伝えた。
★ Clin Infect Dis 2015.
さて、このような論文を読む度に思い出されるのが、
1960年代から約30年間行われた日本のインフルエンザワクチン学童集団接種です。上記中の下線部はこれを指しているものと思われます。
当時「効果がない、副反応が問題だ」と批判されて中止に追い込まれたものの、その後の統計学的分析で、集団接種期間は高齢者の死亡者数が低く抑えられていたことが判明し、世界的に再評価されたという経緯があります。
みんなでワクチンを接種することにより、高齢者のみでなく(ワクチンが許可されていない6ヶ月未満の)乳児をも守るという意義が広まって欲しいと思います。
<このブログ内で「集団免疫」を扱った書き込み>
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2015年03月21日)「われわれは自分たちだけのためにワクチンを接種しているわけではない」
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2014年12月08日)ワクチン賛成派・反対派どちらにも伝えたい「集団免疫」という考え方
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2014年02月17日)インフルエンザワクチンを毎年受けている日本人は、22.2%
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2013年06月20日)風疹流行を阻止できるワクチン接種率は85%
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2012年05月20日)百日咳対策を見直す~米国の「Cocoon Strategy」
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2012年05月20日)ワクチン「接種率」の重要性