しばらく前に、
「若い女性の肛門掻痒症が増えている」
「原因はシャワートイレでの“洗いすぎ”が多い」
というニュースを耳にしました。
先日、「おしりをかゆがるんです」と連れてこられた小学校低学年の男子。
見せてもらうと、肛門周囲が少し赤くなっている程度でした。
軽い湿疹ですから、塗り薬を処方しておしまい、でもよいのですが、
上記のニュースが頭をよぎり、お母さんに聞いてみました。
私「自宅ではウォッシュレットを使っていますか?」
母「はい、数ヶ月前から使うようになりました」
私「この子はおしりを洗うことにはまっていませんか?」
母「ええ、実はそうらしいんです」
そして「洗いすぎによる肛門乾燥〜かゆみ発生」を説明したところ、
母は合点した様子。
洗いすぎに注意することと、
保湿・保護剤のみの処方となりました。
そんな折、シャワートイレにまつわる、下記の記事が目にとまりました。
洗いすぎによる乾燥だけではなく、
シャワーの水圧を高くして肛門の中に入れて“浣腸もどき”として使用している人たちもいることを知り、
ちょっと驚きました。
目的外使用にご注意下さい。
■ 温水洗浄便座が肛門疾患の原因に? 肛門専門科の調査
※ 下線は私が引きました。
温水洗浄便座が登場してから50年以上が経過し、現在では日本人の大半が使用しているといわれる。排便後に洗浄することで肛門周囲や手指の衛生が保たれるなどのメリットがある一方、過度の使用は肛囲皮膚炎などの原因になることが報告されている。
◆ 皮膚症状あり群で強水圧使用者多い
対象は2017年10月に同院外来を受診した初診患者992人(男性603人、女性389人、平均年齢52歳)。男女とも40歳代が最多で、受診疾患は痔核(62%)、裂肛(10%)、肛囲膿瘍(9%)の順であった。
・・・アンケートの結果、738人(約75%)が温水洗浄便座を日常的に使用していると回答した。疾患別に見ると肛門瘙痒症、肛門痛、便失禁、肛囲皮膚炎の患者で割合が高かった(図)。温水洗浄便座使用後の肛門の変化については、約半数が「変化なし」と回答した。一方で、「排便しやすくなった」と回答した人が3割認められ、洗浄の刺激により排便している可能性が示唆された。
・・・さらに、回答結果を肛門周囲の皮膚症状の有無別に検討した。その結果、皮膚症状あり群となし群で温水洗浄便座使用の有無に差はなかったが、皮膚症状あり群において強い水圧で洗浄している人が多いことが明らかになった(表)。
なお、参考として肛門疾患がない同院職員242人にアンケートを行ったところ、日常的に温水洗浄便座を使用している割合は57%と、患者に比べて低かった。使用時間や利用している水圧の強さについては、患者と同様の結果だった。
◆ 適切な洗浄時間は10〜20秒
以上から、紅谷氏は「温水洗浄便座は使用方法によって肛門周囲の皮膚症状を引き起こす可能性が示唆された。肛門専門医として、正しい肛門周囲の洗浄法を指導する必要があると考える」とまとめた上で、次の通り考察を加えた。
温水洗浄便座の正しい使用法について、日本レストルーム工業会は、局部周辺に付着した汚れを落とすために、10〜20秒を目安に洗浄するよう推奨。長時間の洗浄や、習慣的に便意を促す用途では使用しないよう注意喚起している。これに関して同氏は、今回のアンケート対象者のうち、推奨時間が10〜20秒であることを知っていたのは患者、職員とも8%のみだったと指摘した。
(追加情報:2021.2.23)
■ 「温水洗浄便座で洗いすぎのお尻」が大変なワケ
皮膚表面のバリア機能が失われている可能性
佐々木 みのり : 肛門科医/大阪肛門診療所副院長
温水洗浄便座で「洗いすぎ」が原因?
お尻のトラブルで来院される方には、1つの共有点があります。それは、体やお尻をよく洗っていることです。トイレに行けば必ず温水洗浄便座の洗浄機能を使う。お風呂でせっけんをつけてしっかりこすり洗いをする。中には、肛門を消毒している方までいらっしゃいます。しかし、「お尻は清潔にしておかなくてはいけない」と意識を高く持って洗っている人ほど、お尻は汚れているかもしれません。
温水洗浄便座を愛用している方のお尻を診ると、
- ・肛門が真っ白
- ・肛門が真っ黒
- ・肛門がシミだらけ
- ・肛門プツプツ病
- ・肛門がつっぱる
- ・肛門がペタペタする
- ・肛門がテカテカする
- ・肛門ヒリヒリ病
- ・洗いすぎ切れ痔
- ・肛門に性病
といった悲惨な状態になっていることが往々にしてあります。ほかにも、下着に便がついている方や、肛門に紙がくっついている方までいらっしゃいます。これらは、お尻の洗いすぎが原因の場合があります。なぜ、お尻を洗いすぎると、さまざまなトラブルを引き起こしてしまうのでしょうか?
それは、お尻を洗いすぎると、「皮脂膜」がなくなってしまうからです。皮脂膜は、皮膚の表面を潤している天然の油分であり、とても重要な皮膚のバリア機能を担っています。
皮脂膜は外部から有害な物質を侵入するのを防ぐだけでなく、弱酸性のためバイ菌の増殖を防ぎ、皮脂膜の中にいる常在菌が肌を守ります。
また、皮膚の表面が皮脂膜という油分で覆われているので、皮膚内部の水分が蒸発せずにすんでいます。肌を守り、水分の蒸発を防ぐ皮脂膜は、洗いすぎると簡単になくなってしまいます。そのため、洗いすぎたお尻は免疫力が低下して、さまざまなトラブルを引き起こすのです。
皮脂膜がなくなると、皮膚の炎症がなかなか治まらず、ただれていきます。その結果、肛門周りに湿疹ができて真っ白になったり、炎症が慢性化・長期化して色素沈着が進み、皮膚が黒ずむこともあります。
さらに、メラノサイトというシミやホクロを作る細胞が活性化されて増殖するため、洗いすぎるとシミやホクロが増えたり、色素沈着を起こします。洗いすぎによる摩擦でプツプツ(稗粒腫)ができたり、乾燥を防ぐために過剰に皮脂が出てきてペタペタ・テカテカなお尻になったりするのです。
毎日、お尻を洗いすぎると、炎症が繰り返され、免疫力が低下した状態が続くため、皮膚組織から癌細胞が発生しやすくもなります。お尻のかゆみで悩まれていた患者さんが、実は皮膚癌だったというケースを何度も経験しました。
弊害が出始めたのは15年以上前のことですが、日本大腸肛門病学会で「温水便座症候群」という病名が提唱されました。これを受けて、医療の現場でも「お尻は洗いすぎないように」という指導方針に変わっています。
たかがお尻と思っていても、治らない症状や生死に関わる病気を発症してしまうことがあります。このようなお尻のトラブルを解消、予防するために、まずは以下のように「2週間、お尻を洗うのをやめてみる」ことが有効です。
- ・温水洗浄便座の洗浄機能を使わない
- ・お風呂で肛門に直接シャワーを当てない
- ・せっけんやボディソープで肛門近くを洗わない
- ・ボディスポンジやボディブラシ、タオルなどで肛門をゴシゴシこすらない
お風呂でのお尻の洗い方
お風呂でお尻を洗う場合は、手のひらでせっけんやボディソープを泡立てお尻(臀部)に優しくつけ(肛門にはつけない)、洗うときは手でお尻をなでるだけ。シャワーは、お腹や胸、背中、肩などに当てて流すだけで、お尻は十分キレイになります。
皮膚科医としての経験と約10万人のお尻を診てきた経験から、ボロボロになった皮膚の炎症が治まり、皮膚が再生するのに必要な期間が、2週間でした。
「温水洗浄便座があるから何となく使っていた」という方は、お尻を洗うのをやめるのは、難しいことではないでしょう。しかし、今では、携帯型のお尻を洗浄する機器も出ているほど、「温水洗浄便座なしでは生きていけません」という方が多くいらっしゃいます。習慣となっている行動をやめるのは、簡単ではありません。
はじめは洗わないと気持ち悪いと感じたり、物足りなさを感じたりするかもしれません。ところが、「洗わないこと」を習慣にすれば、むしろ洗うことがストレスに感じるようになるのです。お尻のトラブルで悩んでいるのであれば、まずは、2週間だけでもお尻を洗うのはやめてみましょう。