徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

インフルエンザ大流行中

2009年01月23日 22時18分57秒 | 小児科診療
当地域ではインフルエンザが大ブレイク中です。
A型がほとんど。
ここ数年は小流行で収まっていたので、免疫のない子どもたちがたまっていたのでしょう。
残念ながらワクチン接種者も少なからず罹患しており、例年より目立つ印象があります。
ただ、高熱でぐったりしてお母さんが抱えてくる子どもはやはりワクチン未接種者に多いですね。

その「高熱でぐったり」というのが従来のインフルエンザのイメージでしたが、迅速診断が普及してから軽症例もたくさんいることが判明しました。
ですから「微熱でそんなにつらくないからインフルエンザではないだろう」という思いこみは危険です。
本人は軽く済んでも人に伝染させる能力はありますので、学校(大人では会社)を休むほどではない軽症患者が広告塔となってインフルエンザ流行を広げているカラクリがわかってきたのです。

インフルエンザの迅速診断は発熱当日では陽性に出ないことがあります。
兄弟が陽性だからこの子も・・・と思って検査したけど陰性、帰宅後高熱となり翌日再検査すると陽性!という例を少なからず経験します。
というわけで、待てるようなら翌日検査するよう勧めています。

流行中の保育園・幼稚園では、子どもに風邪症状があると園側から「インフルエンザかどうか調べてもらってください」とプレッシャーがかかります。
仕方なく検査しますが・・・言われるとおり行っていると、冬の間子どもは風邪を引くたびに鼻をグリグリされるのでかわいそうです。
綿棒を鼻から入れて、喉の奥の壁部分に突き当たるところをこするのが標準法で、手加減して手前で止めてしまうと陽性率が落ちますので、私は検査の時は非情になってグリグリやってしまいます。
この「鼻グリグリ」を繰り返していると私を見るだけで泣くようになり、その後の診療に支障が出る始末。
冬は子どもたちの鼻にとって受難の季節です。

裏技として、ふだんから鼻血が出やすい子どもは大量出血になることがあるので、口から綿棒を入れて口蓋垂(いわゆるノドちんこ)の裏側あたりをこすっています。
また、昨年からかんだ鼻汁をつかって検査できるキットも出ました。
当院でも採用しており、鼻がかめる年代のお子さんに勧めています。

それにしても、現行の不活化インフルエンザワクチンの有効性の低さには困ったものです。
休診時間をつぶして、苦労して接種したのに。
2回接種する患者さんの経済的負担も大きいのに。
アメリカでは不活化ワクチン以外に「経鼻生ワクチン」が2歳から使われています。
なんと有効率90%以上!
なぜ日本に導入しないのでしょうか。
なんでも、臨床治験を担当する製薬会社がひとつも名乗りでないとか・・・。
「ひたすらトラブル回避」という日本の腰の引けた予防接種行政の影響を感じます。

最近、「新型インフルエンザが疑われたらどうしますか?」というアンケート記事をニュースで読みました。
ほとんどの人が「とりあえず病院へ行く」と回答しましたが、これは不正解です。
正解は「保健所へ連絡して指示をもらう」こと。1割しかいませんでした。
日本人の危機管理意識は低いのか?
いや、そうとは言い切れません。
単に日本の医療システムの特徴を反映しただけのこと。
だって日本では子どもが熱を出せば「とりあえず病院へ」という習慣があるでしょう。
諸外国では数日間は自宅で様子を見て、いよいよ「熱が下がらない、これは変だ!」という段階で初めて医療機関を受診するのだそうです。
ですから、インフルエンザ罹患48時間以内に使用しなければ効果が期待できない抗インフルエンザ薬を使うタイミングがありません。日本が全世界の7割のタミフルを消費している理由がここにあります。

「熱が出たらすぐ受診」という日本の習慣は「子どもの命を守る」という視点では利点でしたが、一方「小児科医を守る」という視点では小児救急を疲弊させ、小児医療を崩壊に導いた一因でもあります。
今後は患者教育・啓蒙活動とともに時間外診療を自己負担化し、「家族で病気を診る」能力を身につけていかないと・・・勤務医のみならず、開業小児科医さえもいずれ日本から消えていくことでしょう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

医療崩壊の現場から

2009年01月18日 07時30分25秒 | 小児科診療
 2009年4月に街の総合病院小児科が閉鎖することになりました。
 この地域から「入院する場所が無くなる」「救急車の受け入れ先が無くなる」という一大事です。
 言い換えれば、この地域では安心して子育てができなくなります。

 「病院から小児科が無くなるかもしれない」というニュースが流れたのが2008年11月末、その後市町村が中心となり署名活動を始めて最終的には約13万人の署名を集め、大学学長と県庁に提出しました。
 しかし「常勤医派遣を現在の2名から0名へ減員」、つまり小児科閉鎖の決定は覆りませんでした。

 いつかはこうなるだろうなあと薄々感じてはいましたが、ついにこの時がきたかという印象です。
 私の視点から、背景を探ってみたいと思います。

 総合病院の小児科医はふつう大学小児科から派遣されています。
 大学は先端医療・教育機関という役割のほかに「人材派遣会社」としての役割も担ってきました。
 大学小児科医局に所属する医師数が減れば派遣能力が低下し維持できなくなります。
 そして今回の撤退騒ぎの直接原因は純粋に「大学医局に所属する小児科医の数が減った」ことです。
 なぜ減ったのか?
 いくつか理由が考えられます。

① 医療費抑制政策
 病院が赤字で倒産する時代ですから、予算を人件費に割けずギリギリの人数しか医師を雇えない、これは勤務医の過酷な労働環境につながり、体調を崩すなどの脱落者が出てくるリスクが増えます。これは色々なところで既に指摘されてきたことです。

② 新臨床研修医制度
 「研修医死亡事件」以降大学医局の人材派遣機能が非難され、これを解体する目的で厚生労働省が設けた制度です。皆さんご存じのようにこの制度が施行されてから小児科に限らず全ての診療科で「医師が足りない」状況が発生しています。
 従来は卒業した出身大学に残って研修することが多かったのですが、この制度開始以降は大都市近辺の有名大学や大病院へ研修医が流れ、地方の大学に医師が残らなくなりました。そして大学医局は人材派遣能力を失いました。取りも直さず、厚生労働省の目的が達成されたことになります(喜ばしいこと?)。
 しかし、大学医局解体後の医師の動向をシュミレーションすることができなかったのでしょうか、現在のところ「失策」と評価せざるを得ません。

③ 教授交代
 教授が代わると先代教授の元で働いていた中堅医師たちは大学勤務を辞して開業する習慣が昔からあります。アメリカで大統領が代わると多くのスタッフが入れ替わるのと同じことです。

 ①と②は全国共通です。③は今回特有の事情となります。
 つまり、今回の背景は①と②で風前の灯火となった地域医療が③でダメ押しされたのだと思います。

 これ以降は①②について、私なりに検証してみます。
 陳情に当たった市長もマスコミも「大学が苦情を聞き入れてくれなかった」とあくまでも医師を責める論調になっているのはお門違いも甚だしい。
 このような状況に追い込んだのは医療費抑制政策を継続しつつ新臨床研修医制度を導入した日本の医療行政の失敗です。
 そこへの言及なしには解決不能であることを認識していただきたいと思います。

・「医療費抑制政策」への疑問
 日本の医療費は高いのか?
 素朴な疑問ですが、意外にも先進国の中では最低レベルです。

※ 参考HP: 
http://www.gaihoren.jp/gaihoren/public/medicalcost/html/index.html
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1900.html

 以前はイギリスが最低でしたが、その方針は医療崩壊を招いて失敗と判断され、現在は医療費増大させて再生を図っているのは報じられる通りです。

※ イギリスの窮状の一例
「1997年に就任した労働党ブレア政権は以下の3つの目標を掲げ、医療改革に乗り出した(朝日新聞2008.6.8)。
・病院外来の診療は(かかりつけ医の紹介から)13週以内に
・入院待ちは26週間以内に
・救急患者は4時間以内に診察」

 日本では考えられない事態ですね。日本もここまで医療崩壊するのを待つのでしょうか。
 マスコミは「医療費増大」ばかりはやし立て、上記内容を近年まで報道してきませんでした。まるで隠すかのように。

 「最低レベルの医療費で世界最高の平均寿命を達成した日本の医療は奇跡だ」と世界から注目されています。
 おそらく、現場の医師・看護師の献身的な働きが支えてきたのでしょう。
 しかしそれもすでに限界を越え、体調を崩して退職したり、中には自殺に追い込まれる例も出てきました。

※ 参考HP: http://www5f.biglobe.ne.jp/~nakahara/index.htm

 必要十分な医療には必要十分なお金が必要なことは誰が考えても当然のこと。
 では高齢化社会で多くの老人を抱えているにもかかわらず、日本は医療費を抑制してまで何にお金をかけているのか?
 それは「公共事業」です。
 先進国の中では公共事業費が突出し、平均の2倍以上!

※ 参考HP: http://www.khk-dr.jp/gurafu/g6_4.htm

 医療崩壊が叫ばれる中、あちこちで道路工事は依然と続けられていますね。
 産科・小児科がなくなれば、その道路を使う人間そのものがいなくなるのに・・・。
 このゆがみを直さない限り、先は見えません。

・「新臨床研修医制度」は必要か?
 新診療研修医制度開始後、全国のあちこちで医療崩壊が始まりました。
 そのとき、TVのニュース番組で厚生労働省の役人へのインタビューが放映されました。
 「医療崩壊は新臨床研修医制度の弊害であるとの指摘がありますが、いかがですか?」
 「より良い医療のための痛みです。」
 今でも鮮明に覚えている光景です。
 
 彼に再度質問したい。
 「より良い医療とはどこにあるのですか?」

 最後に「13万人の署名の効果について」
 ここまで読んでいただければわかると思いますが、署名をたくさん集めても県内の小児科医が増えるわけではありませんので解決には至りません。この地域の病院小児科が残れば、他の地域の小児科が消滅するだけです。
 ただ、市民運動が盛り上がる中「小児科医を守ろう!」という動きが皆無だったのが私としては残念です。
 全国を見渡すと、閉鎖寸前の病院小児科が住民運動で継続、いや逆に小児科医が増員した例もあります。

※ 参考HP: http://www.mamorusyounika.com/

 この運動は「私たちが困るから小児科医を派遣しろ!」ではなく、
 「こどもを守るためには小児科医を守ろう」という視点です。
 地域住民の認識もこのように変われば、光が見えてくるかもしれません。

 当院は昨年末の当番医を担当しました。来院患者数は182人という驚異の数字です。
 持病の発作が起きないかビクビクしながら何とか切り抜けました。
 「小児科医の健康なんて誰も考えてくれないんだなあ」と独り言。
 このままでは小児科開業医さえもいずれ居なくなるでしょう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

愛しのアンティーク・ウォッチ

2009年01月09日 08時26分41秒 | 日記
古い時計が好きです。
クォーツ出現前の1960年代までの機械式時計。
1950年前後の時計は大量生産ではなく手作り感が残っていて、古くなると捨てたくなるどころか良い雰囲気を纏ってきます。
懐中時計に至っては100年以上前の時計でさえ現役です。
昔の時計は使い捨てではなく、修理して長く使えるように造られていたと聞きます。
自分が生まれる前から「チッチッチッ」と時を刻んできたことに想いを馳せると得も言われぬ至福の気分になれます。

東京へ出かけた際はアンティーク・ウォッチ・ショップを見て歩くのが楽しみです。
先日は「銀ブラ」(死語?)しているときに、アップルストアからほど遠くない場所に小さな時計店を見つけ、ショーケースに並んでいる時計達に釘付けになりました。
新しい時計は皆無で、中古からアンティークばかり。
若者がたむろするロレックスのスポーツ系は置いていない。
吸い寄せらるように中に入ると、なんと懐中時計までラインナップ。
工芸品のような美しいムーブメントが展示されています。
店主と波長が合い時計談義に花が咲きました。

なんでも、店主は元々時計修理が専門で、とくに懐中時計の複雑系(ミニッツ・リピーターなど)を得意としているとのこと。
今は時計雑誌で有名な某ショップをその昔立ち上げたメンバーのひとりであること、などを知りました。

最近はデカ時計ブームですが、年のせいかその感覚について行けません。
雲上ブランドのパテック・フィリップでさえケースを大きくし、しかしムーブメントはそのままなのでスモールセコンドの配置が崩れてしまうという、昔からの時計ファンからすると悲しいご時世。
「パテックよ、お前もか」と店主と一緒に嘆きました。
また、ヴァシュロン・コンスタンタンのある時期の自動巻はスイス本国にも部品がないため買わない方がよい、などのアドバイスも受けました。

楽しいひとときを過ごしました。
昔の良い時計は高価なのでおいそれとは買えませんが、挨拶代わりにIWCのポートフィノのOHをお願いしました。
長い付き合いになりそうな予感。

コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする