徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

抗生物質、正しい使い方広めよう(朝日新聞社説)

2017年05月29日 05時10分15秒 | 小児科診療
 繰り返し紹介している内容です。
 朝日新聞の社説がわかりやすい表現で伝えていました;

■ 抗生物質 正しい使い方広めよう
2017年5月13日:朝日新聞
 かぜの治療に抗菌薬(抗生物質)は必要ない――。
 厚生労働省が開業医などに向けてつくる抗菌薬の「適正使用の手引き」に、こんな方針が明記されることになった。
 発熱や鼻、せき、のどの痛みを伴うかぜのほとんどは、ウイルスが原因で起きる。抗菌薬は細菌には効くが、ウイルスには効かない。それどころか、吐き気や下痢、アレルギーなどの副作用をもたらす恐れがある。
 にもかかわらず、外来診療の現場で広く使われているのが現実だ。処方する医師の責任が大きいのは言うまでもないが、患者やその家族も、正しい知識を身につける必要がある。
 かぜは基本的に自然に治る。だが、抗菌薬を飲み、それが効いたと思う患者が少なくない。「抗菌薬を処方してくれるのが良いお医者さん」ということになれば、医者も患者の希望を無視できず、効かないと知りつつ処方する。
 実際、東北大学のグループが14年に行ったネット調査では、「かぜで受診したら抗菌薬を処方してほしい」との項目に、約2割の人が「そう思う」と答えた。「抗菌薬はウイルスに効く」という説明に「はい」と答えた人も半数近くいた。同じことを聞いた別の調査で、日本の大人の正答率は米国などに比べて低いとの結果も出ている。
 むだな投与がなくなれば医療費の抑制になるが、それよりも今回、厚労省が手引をつくる背景には、抗菌薬の効かない耐性菌の広がりがある。世界保健機関(WHO)によると日本は耐性菌が検出される割合が高く、中耳炎や膀胱(ぼうこう)炎といった身近な病気でも見つかっている。
 抗菌薬の歴史は、1928年に青カビから発見されたペニシリンにさかのぼる。以来、新しい抗菌薬が開発されると、それに耐える菌が現れる「いたちごっこ」が繰り返され、新薬の開発は難しくなりつつある。
 耐性菌への対応は、いまや世界的な課題で、昨年5月の伊勢志摩サミットの首脳宣言にも盛りこまれた。厚労省は、20年に抗菌薬の使用量を「13年比で3分の2」にまで減らす計画を掲げている。
 これまで抗菌薬になじんできた人は、処方されないと不安に思うかもしれない。そんなときは、医師に疑問をぶつけてみればいい。逆に、細菌性の病気と診断されて抗菌薬を処方された場合は、飲み切って菌を完全に殺す。それが、新たな耐性菌の登場を防ぐことにもつながる。
 患者も医師も正しい認識をもち、正しい使い方を進めたい。


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扁桃摘出の適応

2017年05月27日 06時45分58秒 | 小児科診療
 子どもが扁桃炎による発熱を繰り返すと「この子は扁桃腺を取った方がいいのでしょうか?」という質問をよくされます。
 「手術適応は最終的には耳鼻科の先生が決めることです」とお断りした上で、私は「扁桃があることにより日常生活に支障が出る場合は手術が必要性を検討すべき」と説明し、ご希望により耳鼻科専門医へ紹介しています。
 具体的には、
1.反復性扁桃炎:扁桃炎を繰り返して園・学校を休みがち
2.睡眠時無呼吸:扁桃および周囲組織(ひっくるめて「ワイダイエル輪」と呼びます)が腫れていることによりいびきがひどく睡眠時無呼吸があり、慢性的に睡眠不足なので昼間もだるそうにしている
 等々。そして手術をすれば、以下のことが期待されます;
1.扁桃炎を起こさなくなる
2.夜熟睡できて昼間シャキッとする

 さて、日経メディカルに「どうなってるの? 扁桃摘出の適応」(2017/5/25 横林賢一先生)という記事がありましたので紹介します。

 驚いたのですが、日本では「扁桃摘出の適応」が確立していないとのこと。
 つまり、各施設・医師の考えにより微妙に異なるのが現状らしいのです。
 ですから、あちらの開業医では「手術が必要」と言われても、別の病院では「まだ大丈夫、様子を見ましょう」と言われる可能性があります。
 記事の中で紹介された扁摘の適応は以下の通り;



 さらに(1)反復性扁桃炎に関する適応(Paradise Criteriaより一部改変)



 なんだそうです(上記は米国/英国のガイドラインで推奨)。

 小児科医的には、溶連菌による扁桃炎を繰り返す子どもは時々見かけます。
 当院通院患者で最高記録は15回。
 当然、耳鼻科へ「手術適応のご検討をお願いします」と紹介しました。
 しかし本人が「手術は絶対イヤ!」と戻ってきて「薬で何とかなりませんか?」と困ったことをおっしゃる。
 仕方なくいろいろ調べた結果、漢方薬が効くかもしれないことがわかり、試しに飲んでもらったら、あれだけ反復していた扁桃炎がピタリとなくなって患者さんがビックリ(私もビックリ)。
 「こんないいクスリがあるならもっと早く使って欲しかった」とさえ言われました。

 溶連菌性咽頭炎の治療は抗菌薬が基本ですが、上記エピソードを経験してから反復例には漢方薬を併用するようになりました。
 考えてみると、100年前までは「扁桃摘出」なんてことはできなかったわけです。
 でも一定数の患者さんは存在したはずで、それに対して薬で対応してきたのでしょう。

<参考>
□ 「扁桃摘出術の安全性と合併症-扁桃を病巣とするIgA腎症の治療の進歩」(2017年5月26日:Medical Note」
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日本の医療の質は世界11位。

2017年05月25日 08時14分24秒 | 小児科診療
 世界中の国における「医療へのアクセスと質」ランキングを紹介します。
 医療機関にフリー・アクセスの日本、ドクターショッピングも野放し状態なので当然上位・・・と思っていましたが、それでも世界のベストテンには入らないのですね。

■ 医療の質、日本は195カ国中11位 世界疾病負担研究(GBD)2015
2017.05.25:メディカル・トリビューン
 米・University of Washington、Institute for Health Metrics and Evaluation(IHME)のChristopher J. L. Murray氏らは、世界疾病負担研究(GBD)2015のデータを用いて1990~2015年の世界195カ国・地域における医療の質およびアクセスの変化を新規の指標により定量化。「1990~2015年に世界全体では医療へのアクセスと質は改善していたが、国・地域間の格差はますます拡大していた。2015年時点で日本は195カ国中11位であった」とLancet(2017年5月18日オンライン版)で報告した。

◇ リスク調整原因別の死亡率からHAQを算出
 Murray氏らは、質の高い医療が提供されていれば回避できたと考えられる回避可能死亡率を32の疾患分類ごとに求め、これを基に医療へのアクセスと質を評価する定量的指標「Healthcare Access and Quality(HAQ)インデックス(範囲0~100)」を開発した。その際、脳卒中や心疾患など特定の疾患における回避可能死亡率を従来の方法で算出すると、医療へのアクセスと質以外に、食事内容やBMI高値、身体活動状況などのリスク因子への曝露レベルの違いが反映されるとの指摘があった。そこで、同研究では行動・環境リスクへの曝露の影響を極力排除するため、まずリスク調整原因別に死亡率を算出し、これを基にHAQインデックスを算出した。

◇ 167カ国で有意な改善
 世界195カ国・地域のHAQインデックスの平均値は1990年の40.7から2015年には53.7に、日本では78.3から89.0に上昇、167カ国で有意な改善が確認された。
 しかしその一方で、HAQインデックスが最も高い国と最も低い国との差は1990年の61.6ポイント(範囲23.1~84.7)から、2015年には66.0ポイント(同28.6~94.6)に拡大していた。
 2015年時点でHAQインデックスが最も高かったのはアンドラ公国の94.6、次いでアイスランドの93.6、スイスの91.8の順で、6位のオーストラリアを除き、上位10位を西欧諸国が占めていた。日本は11位、カナダは17位、スロベニアは18位と、これらの国は最高十分位に入っていた。英国は30位(HAQインデックス84.6)、米国は35位(同81.3)に位置していた。最もHAQインデックスが低いグループには、サハラ以南アフリカ諸国、アフガニスタン、パプアニューギニアなどが含まれていた。
 1990~2015年に韓国、トルコ、ペルー、中国、モルディブは、HAQインデックスの著明な上昇(それぞれ24.1、24.9、23.7、24.7、29.6)が認められた。その要因として医療システムへの資金増加、医療提供者の責任感と管理遂行力などが考えられるが、詳細な分析は今後の課題であるという。

◇ 日本は経済発展に見合った医療政策が実現
 さらに同研究では、社会・人口統計学インデックス(SDI)を加味して、当該国の経済的発展段階で実現可能と想定されるHAQの最大値をHAQフロンティアとして算出。HAQインデックスとHAQフロンティアとの差を医療へのアクセスと質の潜在的な改善余地として数値化し、各国の医療政策当局の問題意識を高め、具体的政策策定の手がかりとなることを目指した。
 日本の2015年時点のHAQフロンティアは90.4で、HAQインデックスとの差は1.3ポイントと小さく(195カ国の平均は20.1)、1990年時点の6.2ポイント(HAQインデックス78.3、HAQフロンティア84.5)に比べてかなり改善しており、「医療へのアクセスおよび質に関しては経済発展に見合った医療政策が実現していることがうかがえる」としている。
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女性用マネキンは「拒食症」レベル?

2017年05月23日 05時54分08秒 | 小児科診療
 マネキンは「皆が憧れる体型」のシンボルです。
 でもそれを医学的に評価すると「やせすぎ」だそうです。
 つまり、マネキンは「病的にやせること」を誘導してきたことになりますね。
 英国からの報告です;

■ 女性用マネキンは「拒食症」レベル?
HealthDay News:2017/05/23
 店頭で女性服をまとっているマネキンは、「摂食障害でも問題ない」というメッセージを送っている可能性があると、新たな研究で示唆された。
 今回の調査では、英国で全国展開しているファッション小売業者に置かれているマネキンの身体サイズを測定した。その結果、女性用マネキンの平均サイズは「人間であれば極めて低体重」に相当し、全てのマネキンが低体重であることが判明した。男性用マネキンでは、低体重のものは8%に過ぎなかった。
 本研究では、「女性用ファッションを宣伝するために用いられるマネキンの身体サイズは非現実的であり、人間なら医学的に不健康とみなされるものである」と結論された。マネキンの体型を極端に痩せ衰えていないものに変えていくことは、拒食症や過食症といった摂食障害の問題を解決するわけではないが、前向きな新しい一歩になる可能性があるという。
 研究を率いた英リバプール大学のEric Robinson氏は、「極端に痩せている体型に価値があると強調する場面を減らすよう、環境を変える必要がある。過度に痩せている女性の身体を見本として呈示すると、実現しがたい体型が理想だと思い込みやすくなるため、この種の思い込みを阻止する方策を社会的に講じるべきだ。若者におけるボディイメージ障害や摂食障害の比率は懸念すべき高さであり、マネキンの寸法の変更は、子どもや思春期の若者、若い女性に特に有益であるだろう」と述べている。
 米国神経性無食欲症・関連障害協会(ANAD)によれば、米国では3000万人に何らかの摂食障害があると考えられる。精神疾患の中で摂食障害は死亡リスクが最も高いという。

<原著論文>
Robinson E, et al. J Eat Disord. 2017 May 2;5:13.

 もう一つ。
 男性より女性がダイエットに励む要因は脳の違いによる、という報告;

■ 男性より女性が減量に励む理由 脳内活性の性差が要因か
HealthDay News:2017/05/23
 脳MRI検査を用いた最近の研究で、食べ物への脳内の反応が低い人は食べ過ぎる傾向が強く、肥満リスクが高まる可能性のあることが示された。この研究では摂食行動のプロセスに影響を及ぼす脳内活性には性差があることも明らかにされた。女性の脳では摂食行動に対して感情的な反応が高まるのに対して、男性の脳では食べることで得られる満足感に焦点が当てられるという。
 研究著者の米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)助教授のArpana Gupta氏は「この知見は、なぜ女性は男性よりも減量に悩むことが多いのかを説明するものだ」と述べている。
 今回の研究は、肥満の病態に脳がどういった役割を担っているかを探るため、年齢をマッチさせた健康な女性43人と男性43人(平均年齢はそれぞれ31.8歳、29.8歳)の合計86人を対象に脳MRI検査を行った。研究グループは、中でも摂食行動が脳内報酬系に強く関与する神経伝達物質ドーパミンの活性パターンにどういった影響を及ぼすのかを調べた。
 解析の結果、ドーパミン系の活性がもともと低い人では、男女ともに食べ物への感受性が低下しており、こうした不足分を補うために摂食行動を取りがちになることが分かった。つまり、食べることにあまりこだわらない人の方が最終的には食べる量が多くなる傾向があるとしている。
 しかし、同氏によると、今回の知見で特筆すべきなのは、男女では単に摂食行動に対する脳内の反応に差がみられたことだったという。女性の脳では、食べ物に対して感情を司る脳領域の神経活動が活発化するが、肥満の女性ではこうした反応は低下していた。なお、肥満の男性の脳内ではこうした影響はみられなかった。
 一方、男性の脳では、食べることは嗅覚や温度感覚、味覚を司る脳領域の活性と関連していた。肥満の男性では、特に感覚制御に関わる脳領域での反応が上昇したが、こうした影響は女性ではみられなかった。男女で摂食行動に対する脳内の反応に差が生じる理由は明らかにされていない。
 米テキサス大学サウスウェスタン医療センターのLona Sandon氏は「こうした性差は驚くにはあたらない」と述べている。自身の経験的にも、女性は男性に比べて食物への渇望(food craving)を口にすることが多く、過食などの摂食障害に苦しむことも多いほか、気分を落ち着けるために砂糖や脂肪分の多い食べ物に手を伸ばしてしまいがちだという。
 同氏によると、女性が食べ過ぎを防ぐには運動が強く勧められるという。「ドーパミンレベルが低いとうつ病になりやすく、食べる量も多くなりがちになるが、これまでの研究でうつ病患者が運動をすると食欲にも良い影響を与えることが報告されている」と、同氏は指摘している。


 う〜ん、わかったようなわからないような・・・。
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イタリア、予防接種を就学の条件に

2017年05月21日 08時40分02秒 | 小児科診療
 日本における予防接種は「受ける権利はあるが義務ではない」というスタンスです。
 米国では規定の予防接種を受けていないと入学や進学ができないと聞いています。
 今回、イタリアでも同様の政策が採られたようです。

■ イタリア、予防接種を就学の条件に
2017年05月20日:AFP
【5月20日 AFP】イタリア政府は19日、麻疹(はしか)患者の急増を受け、一連の予防接種を就学の条件とする新政令を承認した。
 パオロ・ジェンティローニ(Paolo Gentiloni)首相は同政令を承認した閣議の後、「(この動きによって)これまでは接種が推奨されるにとどまっていたいくつかの予防接種が義務化される」と語った。
 これにより、国立の保育園や小学校に入る6歳以下の子どもはポリオ、ジフテリア、破傷風、B型肝炎、ヘモフィルス・インフルエンザb型菌(Hib)、B型髄膜炎、C型髄膜炎、麻疹、風疹、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)、百日ぜき、水痘(みずぼうそう)の12種類の病気の予防接種を受けることが義務付けられる。
 イタリアでは6歳から義務教育を受け始めるが、この年齢を超えた子どもが予防接種を受けていない場合、保護者には罰金が科されることになる。
 予防接種義務化について教育省は多くを語ろうとせず、野党「五つ星運動(Five Star Movement)」は製薬会社への「贈り物」と非難している。
 ベアトリーチェ・ロレンツィン(Beatrice Lorenzin)保健相は、子どもが予防接種を受けていないことを主な原因として麻疹患者が3倍になったことを受け、この改革を進めてきた。
 保健省は、的外れな健康不安が急増していることが原因で、ありふれた病気の予防接種を受ける2歳児の数が数年前の90%超から2015年の85%にまで低下していると非難した。世界保健機関(WHO)は、危険な大流行を防ぐために予防接種率95%を目標値としている。
 ロレンツィン保健相は先月、子宮頸(けい)がんワクチンの副作用の可能性について問題提起する番組を放送したイタリア放送協会(RAI)を叱責した。
 イタリアは、麻疹、流行性耳下腺炎、風疹の新3種混合ワクチン(MMRワクチン)と自閉症との間に関連性があるとする信ぴょう性のないうわさが流布している国の一つでもある。


 予防接種賛成派と反対派の綱引きはイタリアでもある様子。
 ワクチンは予防医学なので、有効であれば何も起こらないから効果が実感しにくく評価されにくい。
 すると副反応だけが目につきがちです。
 さらにメディアが騒ぎ立てて恐怖心をあおるので始末に悪いですね。

 一般市民が求めている「100%有効かつ副反応0%のワクチンは存在しない」ことから啓蒙する必要があります。
 ワクチンの必要性を判断する要素は、

・その病気(感染症)の重症度
・ワクチンの効果・副反応

 等のバランス。
 一つだけ抜き出して強く主張する行為はナンセンスだと思います。
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同時接種・混合ワクチン・混合接種の違い

2017年05月18日 05時49分53秒 | 小児科診療
 まさかこんなことが起こるとは・・・しかも小児科専門医?

■ <ワクチン>東京・品川の医師、数種を混ぜ乳幼児に接種
(毎日新聞 2017/5/16)
 東京都品川区は16日、区内の小児科クリニックの男性医師が別々に接種しなければならないMR(麻疹・風疹)、水痘、おたふく風邪などのワクチンを混ぜ、1回の注射で乳幼児に接種していたと発表した。区は記録が残る2012年4月以降、計358人に接種していたことを確認したが、健康被害の報告はないという。
 区によると、接種のためにクリニックを訪れた母親が、保健所に安全性を問い合わせて判明した。医師は4種混合と細菌性髄膜炎を予防するヒブワクチンを混ぜて接種していたことも認め、「注射する回数を減らしてあげたかった。保護者にも説明し、問題ないと認識していた」と話したという。
 子供の予防接種に詳しい新潟大学医学部の斎藤昭彦教授によると、欧米ではMRとおたふく風邪などの混合ワクチンが使われている。しかし、複数のワクチンを勝手に混ぜ、1本の注射器で接種した場合、それぞれのワクチンの予防効果や安全性は確認されていないという。日本小児科学会も予防接種ワクチンを一つに混ぜて接種しないよう公表している。


 実は、欧米では4種混合とヒブワクチン、それにB型肝炎ワクチンを一緒にした6種混合ワクチンが使用されています。
 しかしこのワクチン、6種類のワクチンを混ぜて調整した状態で開発・治験が行われ、その作用が確認され副反応が問題ないことが確認されているのです。
 そのような製品があるからと云って、目の前のワクチンを臨床現場で混ぜて接種することに、有効性・安全性は確保されていません。
 実際に混合ワクチン開発途中で、効果が得られない、あるいは副反応の頻度が高いという理由で消えていったワクチンも少なからず存在します。

 「日本小児科学会の予防接種の同時接種に対する考え方」を引用します。
 しっかり「複数のワクチンを1つのシリンジに混ぜて接種しない」と書かれています;

 日本国内においては、2 種類以上の予防接種を同時に同一の接種対象者に対して行う同時接種は、医師 が特に必要と認めた場合に行うことができるとされている。一方で、諸外国においては、同 時接種は一般的に行われている医療行為である(3)。特に乳児期においては、三種混合ワクチン、イ ンフルエンザ菌 b 型(ヒブ)ワクチン、結合型肺炎球菌ワクチンなどの重要なワクチン接種が複数回必要である。これらのワクチン接種がようやく可能となった現在、日本の子どもたちをこれらのワクチン で予防できる病気(VPD: Vaccine Preventable Diseases)から確実に守るためには、必要なワクチンを適切 な時期に適切な回数接種することが重要である。そのためには、日本国内において、同時接種をより一般的な医療行為として行っていく必要がある。
 同時接種について現在分かっていることとして以下のことがあげられる。
1)複数のワクチン(生ワクチンを含む)を同時に接種して、それぞれのワクチンに対する有効性につ いて、お互いのワクチンによる干渉はない。
2)複数のワクチン(生ワクチンを含む)を同時に接種して、それぞれのワクチンの有害事象、副反応 の頻度が上がることはない。
3)同時接種において、接種できるワクチン(生ワクチンを含む)の本数に原則制限はない。
 また、その利点として、以下の事項があげられる。
1)各ワクチンの接種率が向上する。
2)子どもたちがワクチンで予防される疾患から早期に守られる。
3)保護者の経済的、時間的負担が軽減する。
4)医療者の時間的負担が軽減する。
 以上より、日本小児科学会は、ワクチンの同時接種は、日本の子どもたちをワクチンで予防できる病気 から守るために必要な医療行為であると考える。
 尚、同時接種を行う際、以下の点について留意する必要がある。
1)複数のワクチンを1つのシリンジに混ぜて接種しない
2)皮下接種部位の候補場所として、上腕外側ならびに大腿前外側があげられる。
3)上腕ならびに大腿の同側の近い部位に接種する際、接種部位の局所反応が出た場合に重ならないように、少なくとも 2.5cm以上あける。

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長引くインフルエンザ流行2017

2017年05月17日 08時23分03秒 | 小児科診療
 GW開けまでインフルエンザの検査をするシーズンはあまり記憶にありません。
 お隣の栃木県ではまだ流行中・・・

■ 栃木県内、インフル流行続く 6カ月超、際立つ長期化 5月に学年・学級休業も
2017年5月15日:下野新聞



 栃木県内で5月に入っても今季のインフルエンザの流行が続いている。5月1~7日の週に県内76カ所の定点医療機関1カ所当たりの患者数は2・29人で、依然として流行水準(1人)を超えている。流行期が1月初旬から数えて「18週目」まで続いたのは過去5年間で今季と2013~14年のシーズンのみ。今季は2000年以降で最も早い10月末~11月初旬に流行期入りしており、流行期の長さが目立っている。
 県内公立学校のインフルエンザによる休業は、直近で5月2日。日光市今市小は2、4年が学年休業したほか、同市や那須烏山市、野木町の小中3校で学級休業になった。
 今季の流行期入りは昨年10月31日~11月6日の週。流行期入りが9年ぶりに越年した昨季に比べ、2カ月半早かった。12月5~11日の週に注意報(定点当たり10人以上)水準の10・08人になり、ピークは1月30日~2月5日の週の24・54人。ただ警報(30人以上)水準には至らず、過去5年間で最も低いレベルだった。
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医師の「働き方改革」は可能か

2017年05月15日 07時12分20秒 | 小児科診療
 勤務医の労働環境は過酷で、明らかに労働基準法に違反しています。
 私も体調を崩して勤務医を辞めざるを得なくなった医師の一人です。

 昨今、「働き方改革」が謳われるようになりました。
 しかし医師の労働環境は例外とみなされ、5年の猶予期間が設けられました。
 それほど非常識な状況なのです。

 医師の労働環境を改善するために、諸外国ではよく「医師・病院のストライキ」が話題になりますね。
 一方日本には「医は忍術」という伝統があり、現場の医師は体を壊しドロップアウトするまで我慢して働き続けています。
 この機会に徹底的にメスを入れた大手術を行い、医師も人間らしい生活をできるようにして欲しいと思います。

 しかし、厚生労働省が考えることはちょっと違います。
 「勤務医が大変なら、開業医がもっと働くべきだ」
 として、開業医に24時間体制で患者対応を促すような仕組みをどんどん作るのです。
 「内輪もめさせて責任を逃れる」というありがちな手法ですね。
 もう、ボロぞうきんのように扱われていることを実感します。
 それから「医師だけ働かせる」という魂胆ですが、医師だけでは診療は成り立たないことを忘れていらっしゃる。看護師も事務スタッフも医師と同じように24時間体制で働くことになることに気づいていない。

 この歪みはどうしたら解決するのでしょう?
 24時間体制の医療システムを構築することを目指すなら、医師の数を今の倍以上に増やすしかない。
 すると医療費は現状より増えることは避けられない。

 政治家さん、どうする?
 医師に犠牲を求め続けることしか考えつきませんか?

■ 特集◎医師こそ働き方改革を《動き出す労基署》 聖路加病院に労基署、土曜外来を全科廃止へ
2017/5/10:日経メディカル
 労働基準監督署による立ち入り調査が行われ、改善策の実施を迫られる医療機関もある。「今の政権になってから、業種を問わず、労基署の立ち入り調査が増えた」と社会保険労務士法人名南経営の服部英治氏は指摘する。労基署がチェックするのは主に長時間労働の実態で、「昔は労基署に医師の仕事は完全に『聖域』という考え方があったが、今はそうではなくなっている」とも言う(元労働基準監督官へのインタビューは別掲記事参照)。
 実際、ここ数年、熊本大学医学部附属病院、沖縄県立北部病院(名護市)など地域の基幹病院に労基署の立ち入り調査が入った事実が報じられている。最近の立ち入り事例の中でもインパクトが大きかったのが聖路加国際病院(東京都中央区、520床)のケースだ。中央労働基準監督署が2016年6月、調査を実施。病院側は医師の時間外労働の削減などを求められ、その影響で診療体制の縮小を余儀なくされた。

◇ 救急車搬送の受け入れを抑制
 調査の結果、医師に関して指摘を受けたのは、
(1)長時間労働の常態化
(2)夜間・休日勤務に対する賃金の支払いの問題
──の2点だった(図1)。(1)については、昨年4~6月の時間外勤務が月平均で約95時間に達していた。



図1 中央労働基準監督署の指摘事項と聖路加国際病院の対応


 (2)については、これまで宿日直として運用してきた夜間・休日の業務がそうとは認められず、時間外労働として扱う必要があるとされた。
 年間1万1000件もの救急車搬送を受け入れる聖路加国際病院では、救急外来の医師だけでなく病棟の当直医も救急の応援に当たる。本来、宿日直は通常の勤務とは違い、夜間や休日の電話応答や火災予防のための巡視、非常事態発生に備えた待機など、「ほとんど労働を伴わない勤務」と定義されている。聖路加国際病院の勤務実態は、宿日直の定義には当てはまらないと判断された。そのため同病院は、過去に遡り本来支払う必要があった時間外の割増賃金と、実際に支給してきた宿日直手当の差額分を、個々の勤務医に支払うことになった。その総額や遡及期間は明らかにしていないが、過去2年以内について十数億円を支払ったようだ。

 労基署の指摘を受け同病院では、時間外労働を承認制にするなど残業時間のコントロールに乗り出した。また、時間外労働の負担の平準化を図り、60歳に近いベテラン医師にも準夜帯の勤務を担ってもらうことにした。さらに、夜間・休日の応需体制を縮小。今年5月には全科の土曜外来を廃止する。夜間については、これまで救急外来と病棟当直を合わせ1日17~19人の医師で回してきたが、今では12~14人体制に縮小。救急車搬送の受け入れも以前より抑えている。

 夜間の人員配置の縮小に伴い、これまで実施してきた夜間の患者家族への病状説明などを中止したため、患者や家族からクレームが出ているという。理解を求めるため、事情を説明した貼り紙を待合フロアに掲示している状況だ。


□ 聖路加国際病院院長 福井 次矢氏に聞く
「『自分の時間は患者のもの』は通用しなくなった」
 聖路加国際病院の医師たちはこれまで、朝6時くらいに出てきて夜は7時、8時くらいまでいるのが当たり前という感覚でやってきたが、労働基準監督署に時間外労働が長過ぎると指摘された。私自身、「自分の時間は患者のもの」という感覚で働いてきたが、そういう価値観を変えざるを得ない状況になって、すぐに改善策を講じることにした。
 必要な業務でなければできるだけ居残らないよう、院内の会議で何度もお願いしたことで、それまで95時間だった医師の月平均の残業時間が50時間に減った。これまでより早く帰宅できるケースは増えている。
 ただ、36協定では制度上、時間外労働が月45時間を超えられるのは1年のうち6カ月までとされている。残業を月45時間以内に抑えなければならない月は、その医師はほとんど夜勤に入れず、他の医師にしわ寄せがいくといういびつな形になっている。
 結果的に救急車搬送の受け入れを減らさざるを得なくなったが、そもそも高度急性期や救急医療を担っている病院と、回復期や慢性期の医療を担う病院の医師の労働時間管理のあり方は異なるのではないか。今後設置される新たな検討の場では、病院が担う機能の違いも勘案した、きめ細かな議論が行われることを期待している。(談)

■追記(2017.5.14)
聖路加国際病院は、日経メディカルの取材時点(2017年4月下旬)では、5月から全診療科で土曜外来を休止することを検討していましたが、調整の結果、土曜外来の休止は6月から一部診療科に限定して行うことになったとのことです。



 私は小児科医ですが、入院患者の急変や救急外来受診患者の緊急入院の他に、深夜に「患者さんの点滴が漏れたのでお願いします」という一本の電話でよく起こされました。
 病院内には内科系当直がいるはずなのですが、内科医は「私には子どもの点滴はできない」と拒否するので直接小児科医が呼び出されます。病院によっては看護師が点滴手技をマスターして夜間に対応してくれる施設もありますが、残念ながら私の勤務した病院は「点滴は医師の仕事であり、看護師は手を出さない」という看護部の方針がありました。
 重症患者の急変なら納得できますが、小児科医はただ「点滴漏れ」のために睡眠時間を減らされ、疲弊するばかりでした。これが他の科と異なるところです。
 わかってもらえないとわかりつつも看護師スタッフに愚痴をこぼすと「医者は高給取りだから・・・」と冷ややかな目で見ていることを思い知らされました。
 
 と、こんな感じです。
 小児科医を希望する医学生が増えないわけですよね。
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1歳未満の赤ちゃんにハチミツは厳禁!

2017年05月03日 07時31分23秒 | 小児科診療
 これは小児科医にとっては常識です。
 しかし、一般の子育て世代では? 
 おじいちゃん、おばあちゃん世代では?

 悲劇が起きてしまいました。

■ 乳児ボツリヌス症で男児死亡、1カ月間離乳食にハチミツ
2017/4/10:日経メディカル
 東京都は4月7日、都内に住む生後5カ月の男児が乳児ボツリヌス症で死亡したことを明らかにした。国立感染症研究所で同症に関する記録が残っている1986年以降、初めての死亡例という。男児は発症する1カ月ほど前から、離乳食としてハチミツを混ぜた市販のジュースを習慣的に飲んでおり、そのハチミツが乳児ボツリヌス症の原因と推定されている。
 東京都によると、男児は1月中旬ごろから、離乳食開始とともにハチミツ入りのジュースを飲み始めた。家族からの聞き取りでは、1日に2回、計10gほどを摂取していたという。男児と同居していた家族の中には「1歳未満の乳児にハチミツを与えてはいけない」ことを知らなかった人がいたのもわかっている。
 2月16日には咳や鼻水などが表れ、さらに20日にはけいれん、呼吸不全などのため医療機関に救急搬送された。22日に医療機関から最寄りの保健所に報告があり、30日に男児は死亡。男児の糞便と自宅に保管してあった開封済みのハチミツからボツリヌス菌が検出された。当該保健所は、発症から死亡に至る経過から、死亡原因はボツリヌス菌によるものと断定した。
 東京都福祉保健局健康安全部食品監視課によると、厚生労働省が自治体に対して「保護者、児童福祉施設等に対し、1歳未満の乳児にハチミツを与えないように指導すること」と通知を出したのは1987年。「現在では自治体主催の母親学級や乳幼児健診などで周知されているが、通知が出る前の時代に子育てをしていた人は乳児ボツリヌス症について知らない可能性も考えられる」と担当者は話している。


 次は医師による解説的コメントです。
 乳児の初発症状は「乳児では、泣き声が小さくなり、乳を吸う力も弱まります。全身の筋力が低下して、頭や手足を支えることができなくなります。」だそうです。

■ 赤ちゃんとハチミツとボツリヌス
2017年4月14日:読売新聞
◇ 乳児で国内初の死亡例
 生後6か月の赤ちゃんにハチミツを混ぜたジュースを飲ませたことで、乳児ボツリヌス症を発症してしまった事例が報告されました。ボツリヌス菌は、瓶詰や缶詰などの身近な食品で増殖して、食中毒の原因となります。ハチミツは、ボツリヌス菌を含んでいることがあるため、1歳未満の赤ちゃんに与えてはいけません。今回は、このボツリヌスについてのお話です。
◇ 酸素に弱い細菌
 ボツリヌス菌の重要な特徴として、酸素が嫌いだということが挙げられます。このため、ボツリヌス菌は、瓶詰めや缶詰、あるいは真空パックなど、空気に触れにくい食品で増殖しやすいのです。さらに、酸素のある環境では 芽胞という、ヒマワリの種のような殻に覆われているのですが、低酸素状態になると発芽し、強力な毒素をつくるのです。
 ボツリヌス菌の毒素は神経に作用し、ごく少量でも呼吸に必要な筋肉を 麻痺させます。わずか500グラムで人類を滅ぼすこともできるといわれ、生物テロに使われることも心配されています。
 感染すると、数時間~数日で症状が出てきます。成人の場合は、最初は眼に関する症状が多く、視力低下、複視(ものが二重に見える)、 眼瞼下垂がんけんかすい (まぶたが下がる)などが表れます。続いて、飲み込みや歩行が難しくなり、病気が進行すると呼吸困難になります。乳児では、泣き声が小さくなり、乳を吸う力も弱まります。全身の筋力が低下して、頭や手足を支えることができなくなります
◇ 繰り返す集団食中毒
 ボツリヌスという名前は、ラテン語でソーセージ(腸詰)を意味する「botulus」が基になっています。これは、19世紀末にボツリヌス菌がヨーロッパで認識されたころには、自家製ソーセージによる食中毒が多かったことに由来するといわれています。
 過去の集団食中毒の例をみながら、その事実を確認してみましょう。
 日本ではじめて報告されたボツリヌス食中毒は、1951年に北海道で起こった自家製の「いずし」が原因でした。魚類を発酵させる食品は、酸素の嫌いな菌にとっては絶好の棲処だったのです。
 84年には、熊本で製造された真空パックの辛子レンコンによる食中毒が起こりました。この時には、14都道府県で36人の患者が出て、そのうち11人が亡くなりました。
 2006年、タイで過去最大の集団発生が起こりました。自家製のタケノコ缶詰で、209人が発症し、134人が入院、呼吸筋の麻痺で42人が人工呼吸器をつけました。
◇ なぜ1歳未満はダメ?
 通常は、ボツリヌス菌がハチミツに入ったとしても、菌の量はごくわずかです。大人の消化管内では発芽せず、毒素を作りません。しかし、詳しい仕組みは、まだ解明されていないのですが、1歳未満の乳児の未熟な消化管では、ボツリヌス菌が発芽して強力な神経毒をつくり出す場合があるのです。
 かつて日本でも、乳児ボツリヌス症の発生が続いたことがあります。このため、1987年に当時の厚生省が、「1歳未満の乳児にハチミツを与えないように」と指導するよう、都道府県などに通知を出しました。
◇ 妊婦でなくても要注意
 今は、妊婦に対しては、母子手帳や妊娠中の啓発用冊子などで情報提供されています。そのため、ハチミツに注意が必要なことは常識と思っているお母さんも多いでしょう。
 大半の場合、ハチミツ瓶のラベルにも、1歳未満の乳児には与えないよう記載されています。しかし、小さな文字で書かれた注意書きに気付く人は多くありません。甘くて喉ごしの良いハチミツは、子どもに食べさせやすい食品でもあるので、その情報を知らなければ、乳児に与えてしまう危険性があります。
◇ 身近に潜む危険
 近年は、瓶詰のキャビアやオリーブなど、輸入食品によるボツリヌス食中毒も報告されています。自家製の瓶詰め野菜や、井戸水、湧水による感染も起きることがあります。ボツリヌスがつくり出す毒素は、100度で10分間加熱することで不活化するとされていますが、オリーブなどの加熱しない食品も多く、なかなか発生を完全には防ぐことはできません。
 最近は、保存用のガラス瓶「メイソンジャー」でつくるサラダが人気です。持ち運びや保存に便利で、見た目もオシャレなのですが、蓋を閉めると真空に近い環境になり、ボツリヌスが活躍するには好条件となってしまうのです。米疾病対策センター(CDC)は、家庭における野菜などの瓶詰に対して注意喚起しています。
 『 Home Canning and Botulism 』CDC
 ボツリヌスは、土壌中など自然の環境に存在している菌です。決して発生の頻度は高くありませんが、「あなたの身近にもボツリヌスの危険は存在している」ということを知っておいてください。


 最近、一部の小児科医の間で「咳止め」としてハチミツを処方することが流行りつつあります。
 お兄ちゃん、お姉ちゃんに処方されたハチミツを、飲ませやすいからという理由だけで赤ちゃんに流行すると、大変なことになるかもしれませんのでご注意を。
 もう一つ、医師による感想的コメントを紹介します;

■ 乳児にハチミツは危険…知らなかった人は「非常識」なのか
2017年4月13日:読売新聞
 とても悲しいニュースがありました。
 東京都で、離乳食としてはちみつを与えられた生後6か月の男の子が「乳児ボツリヌス症」で死亡しました。都の発表によると、男の子は今年1月から、ジュースに市販のはちみつを混ぜたものを1日平均2回ほど与えられており、2月半ばにせきなどの症状が出て、3月末に死亡しました。便や自宅のはちみつからボツリヌス菌が検出されたそうです。
 このニュースを受けて、SNSでは「乳児がはちみつを食べてはいけないというのは常識だ」という意見が多く見られました。乳児は腸内細菌のバランスが未熟なため、ボツリヌス菌が口から入った場合に繁殖を防ぐことができません。はちみつがいけないことは、確かに母子手帳にも記載されていますし、今ではこれは「常識」とされていると言って良いかと思います。
 しかし、母子手帳をすみからすみまで読まない人もいるでしょうし(本当は読んでほしいのですが)、医療機関や乳幼児健診で必ず教えてくれるわけでもないので、知らない人がいてもおかしくありません。実際に、レシピ投稿サイトではちみつを使った離乳食が載せられていたり、古くはグルメ漫画に紹介されたりしたこともあります。「赤信号は『止まれ』のサイン」というほどには、全国民に周知されているとは言えないのが現実です。
◇ 実は「黒糖も危険」…私も知りませんでした
 赤ちゃんや子供の「食の安全」については、大人が気をつけるしかない問題ですが、自分でも100%わかっているかというと、自信がありません。私も、今回のニュースをきっかけに、はちみつと同様の理由で乳児には黒糖をやらない方が良いということを、初めて知りました。土壌にいるボツリヌス菌は熱に耐性があり、通常の調理での加熱では死滅しないことも多いため、サトウキビから黒糖を作る際に残っていることがあるのだそうです。
 黒糖をわざわざ離乳食に使う人は多くないとは思いますが、「白い砂糖には漂白剤が使われている」や「白い食べ物は体を冷やす」など、事実ではない情報を信じて、いつも砂糖の代わりに黒糖を使っている人は、赤ちゃんの食事にもそうしているかもしれません。十分洗っていない野菜や果物だって、注意が必要です。食の安全というと、残留農薬や食品添加物を気にしがちですが、基準範囲内の農薬や添加物よりもこわいのは寄生虫や腐敗です。大人が適切に判断して食べさせる必要があります。
◇ 食の安全、考え直す機会に
 妊婦、授乳婦、赤ちゃんが口にするものには様々な注意事項があり、「取りすぎに気をつけなければいけない」ものと、「絶対に避けた方が良い」ものがあります。一方で、リスクをゼロにしようとすると栄養が偏ったり、食べられるものがまったくなくなってしまったり、食事を全然楽しめなくなったりしかねません。私自身、その兼ね合いはなかなか難しいと、日々感じます。
 今回の件では、知らなかった人を非常識だと責めるのではなく、食の安全を守る上で必要な情報をどう周知するか、その方法を考え直す機会にしたいと思います。


<参考>
★ 「ハチミツを与えるのは1歳を過ぎてから」(厚生労働省)
「乳児ボツリヌス症」の本邦第一例(IASR)
★ 「ボツリヌス症 2008年1月現在」(IASR)
★ 「乳児と大人の腸内細菌のちがい」(光岡知足先生)
★ 「子どもへの“かぜ薬”をめぐる議論あれこれ」(当院ブログ)
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