テレビでもよく取りあげられる“アナフィラキシー”。
漠然とした不安を抱いている方も多いと思われます。
それを解消する目的で、現在どこまでわかっているのかを調べてみました。
当初、「アレルギー疾患患者は危ない!」と報道されていましたが、
現在は、
・アレルギー疾患のある人が全員ハイリスクになるわけではない。
と修正されています。
日本人の4割がスギ花粉症、という時代ですから、
アレルギー疾患患者はダメと言われると、
日本人の4割はワクチン接種ができないという困った事態に陥ります。
では、どんな人がハイリスクなのか?
アレルギーの基本は「特定の物質に対して過剰な免疫反応を起こす病態」です。
この「特定の物質」をはっきりさせれば、無用の不安が払拭できます。
問題にしているのはワクチンによるアナフィラキシーですから、
ワクチンに入っている物質に限定されます。
・ワクチン成分にアレルギーのある人はハイリスク
ワクチンにはワクチンそのものの他に、
安定性・保存性を持たせる目的で様々な物質が含まれています。
現在までの解析では添加物の中でも、
・ポリエチレングリコール(PEG2000)
の可能性が指摘されています。
・・・と言われても、ピンときませんね。
実はこの物質、いろんなものに添加されて含まれています。
例えば、医薬品、ヘアケア・スキンケア製品、洗剤、顔料分散剤、潤滑剤・・・
たくさんありますね。
医薬品にはポリエチレングリコールそのものがあります。
便秘薬「モビコール®」です。
これらのものにアレルギー反応を経験した事のある方は、
ハイリスクということになります。
さらに、この類似物質である、
・ポリソルベート(ポリソルベート20/ポリソルベート80)
も可能性が報告されています。
ただ、現在は“諸説あります”の段階で、
上記が確定しているわけではないようです。
より具体的に、例えば
「化粧品が肌に合わない経験がある」
レベルのエピソードがどれくらいのリスクになり得るか?
まで言及している記述は見当たりませんでした。
ではどうしたらよいか?
答えは「従来のワクチン接種と同様」。
つまり、「アナフィラキシー対策を取りながら粛々と接種を進める」のみです。
今後もアンテナを張って情報収集をしたいと思います。
今回の情報源は以下の通り(⇩)
■ ワクチンによるアナフィラキシー経験者はどんな人?
(⑤)モデルナ社のワクチンによるアナフィラキシー例の詳細が公開されている。
(⑦)ファイザー社ワクチンによるアナフィラキシー例;
・・・アナフィラキシーを起こした21人のうち17人は、医薬品や食品、昆虫刺傷などに対するアレルギーの既往歴を持っていた。このうち7人は過去にアナフィラキシーも経験していた。7人のうちの1人は狂犬病ワクチンの接種後に、別の1人はインフルエンザA(H1N1)ワクチンの接種後にアナフィラキシーを発症していた。
(⑨)ファイザー社ワクチンによるアナフィラキシー例;
アレルギーまたはアレルギー反応の既往は医薬品、造影剤、食品、虫刺されなどによるものが21例中17例(81%)に認められ、7例(33%)は過去に医薬品や食品の他、狂犬病ワクチン接種とインフルエンザA(H1N1)ワクチン接種によるアナフィラキシーを経験していた(表)。
■ アナフィラキシーが危険なのはどんな人?
(⑥)英国では、医薬品医療製品規制庁(MHRA)が昨年末に、ファイザー製ワクチンの接種を避けるべき人を「同社ワクチンの1回目接種後、あるいはその含有成分(PEG、後述)によって過去に、全身性のアレルギー(アナフィラキシーを含む)を経験した人」に限るとの方針を出している。
・・・
今回、インフルエンザなど従来のワクチンに比べて高頻度にアナフィラキシーが発生しているのは、「ポリエチレングリコール」(PEG)という物質が含まれるからだ、という説が『Science』誌等で指摘されている。 PEGは「医薬品添加物」として、さらにはヘアケア・スキンケア製品、洗剤、顔料分散剤、潤滑剤などの用途で、人体に使用するさまざまな製品に含まれている。・・・『Science』の記事によれば、新型コロナで初めて実用化された「mRNAワクチン」では、体に免疫反応を起こさせる主役のmRNAが、脂質ナノ粒子のカプセルに入っている。このカプセルの分子をくるむことで、変質を防いで長持ちさせるのがPEGだ。
ただ、高分子量のPEGを含む薬剤では、アナフィラキシー報告があるという。例えば、手術前の腸管の洗浄剤や、心臓のエコー検査の造影剤などだ。有効成分よりもPEGが誘因の可能性が高いとされている。
・・・“PEG犯人説”は現段階ではあくまで仮説なので、今後の検証が必要だ。
(⑧)・・・Pfizer社-BioNtech社とModerna社のmRNAワクチンは、脂質ナノ粒子にmRNAを封入して、酵素によるmRNAの分解を防ぎ、in vivoでの送達効率を高めている。脂質ナノ粒子は、ポリエチレングリコール(PEG2000)修飾により安定化されている。mRNAワクチンに関する研究は以前から行われてきたが、緊急使用が許可されたのは今回の2製品が初めてだ。
PEGは医薬品の賦形剤として使用される化合物で、まれにIgE仲介性の反応とアナフィラキシー再発に関係することが示されている。ゆえに、mRNAワクチン含まれるPEG 2000がアナフィラキシーを引き起こしている可能性はある。これまでに行われた研究では、感作リスクは、高分子量のPEGを含む注射薬において高いことが示唆されている。
Pfizer社-BioNtech社のワクチンに対してアナフィラキシーを起こした患者の、Moderna社のワクチン接種時のアナフィラキシーリスクを推定することは困難だ。いずれもPEG2000をベースとしているが、組み合わされている脂質は異なるためだ。
英国で2020年末に緊急使用が認められたAstraZeneca社のアデノウイルスワクチンには、PEGと構造が似ているポリソルベート80が用いられており、Janssen社がフェーズ3試験を行っているアデノウイルスベクターワクチンとNovavax社がフェーズ3試験を進めているサブユニットワクチンにもポリソルベート80が、Sanofi Pasteur社とGSK社がフェーズ1~2試験を実施中のサブユニットワクチンにはポリソルベート20が含まれている。それらがアナフィラキシーを引き起こすかどうかについては現時点では不明だ。
(⑩)コロナのワクチンに含まれる成分で、アレルギーを起こしやすいものは分かっている?
今のところ、ファイザー/ビオンテック社のワクチンに含まれているポリエチレングリコール(polyethylene glycol; PEG)が、アナフィラキシーの原因のひとつとして推測されています。そして類似した(科学的には“交差した”と表現します)成分であるポリソルベートが注意するべき成分と考えられています。
▷Br J Anaesth. 2020 Dec 17:S0007-0912(20)31009-6. doi: 10.1016/j.bja.2020.12.020. Epub ahead of print. PMID: 33386124.
つまり、過去、新型コロナのワクチン接種でアナフィラキシーを起こした方、そしてポリエチレングリコールやポリソルベートにアレルギーがある方以外は、接種可能と考えられているということです。
なお、ポリエチレングリコールは本来、安全性の高い成分であり、さまざまな医薬品にも含まれる成分です。
■ 現在までの情報を踏まえたアナフィラキシー対策は?
ワクチン接種後のアナフィラキシーの管理については、次のような対策が明記されている。
1.ワクチン接種を実施する場所にはアナフィラキシーの評価および管理に必要な医薬品や備品、特に十分量のエピネフリンプレフィルドシリンジまたはオートインジェクターなどの準備をする。
2.アレルギー反応の既往に応じてワクチン接種後15分間または30分間の観察時間を設ける。
3.アナフィラキシーが疑われる場合は直ちにエピネフリン筋注で治療する(アナフィラキシーは急性で生命を脅かす有害事象であるためエピネフリン投与に禁忌はない)。
4.全ての被接種者に対し、観察期間が終了しワクチン接種場所を離れた後にアレルギー反応の徴候または症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診するように指示する必要がある。
■ 新型コロナワクチンによるアナフィラキシーは他の医薬品と比べると多い?少ない?
(⑩)・・・最近、ファイザー社のコロナワクチンは、189万回中21件、モデルナ社のコロナワクチンは約400万回中10人にアナフィラキシー反応があったと報告されています。
▷JAMA. 2021 Jan 21. doi: 10.1001/jama.2021.0600. Epub ahead of print. PMID: 33475702.
▷Allergic Reactions Including Anaphylaxis After Receipt of the First Dose of Moderna COVID-19 Vaccine — United States, December 21, 2020–January 10, 2021
そして今のところ、報告されているコロナワクチンに対するアナフィラキシーは、アドレナリンというアナフィラキシー時の薬剤など、適切な対応によって全員が回復されています。
コロナのワクチン接種後のアナフィラキシーは、頻度は高くなく、適切な処置が行われるならば比較的安全であるといえるでしょう。
これらのコロナのワクチンに対するアナフィラキシーは、大部分が30分以内、一部が数時間以内に起こっています。ですので、接種後30分は医療機関内で、接種後しばらくは医療機関の周辺で受診できるようにしておくと、より心配が少ないと思われます。
では、コロナのワクチンのアナフィラキシーは多い方なのでしょうか?
米国のデータベースにおける、従来のワクチン接種約2500万回を検討した報告では、アナフィラキシーの発生率はワクチン 100 万回あたり 1.31回と推定されています。
▷Journal of Allergy and Clinical Immunology 2016; 137:868-78.
そして、よく使われるセファロスポリンという抗菌薬に対してのアナフィラキシーの頻度は、100万人あたり1人~1000人(幅が広いのは研究ごとに差があるからです)、解熱鎮痛剤に対するアナフィラキシーの頻度は、100万人の過去1年あたりで考えると30~500人程度ではないかと考えられています。
▷New England Journal of Medicine 2001; 345:804-9.
▷Current Treatment Options in Allergy 2017; 4:320-8.
新型コロナのワクチンには世界の注目が集まっており、その副反応の情報収集はより丁寧に行われており、『最大限の情報がひろいあげられている』可能性が高いですので、新型コロナのワクチンが、特別にアナフィラキシーが多いとはいえないでしょう。
<参考資料>
⑤ コロナワクチン、アナフィラキシー例の続報!モデルナ10例の特徴
⑥ ワクチン接種で発症「アナフィラキシー」の正体
久住 英二 : ナビタスクリニック内科医師
⑦ COVID-19ワクチンでアナフィラキシーを起こした21人のプロフィール〜アナフィラキシーの発生率は接種100万回当たり11.1件
⑧ SARS-CoV-2ワクチンによるアナフィラキシーの機序は? 現状で接種10万回当たり1件、アナフィラキシーにはPEGが関係か
⑨ コロナワクチン、アナフィラキシー例を詳報!〜米・CDC発表、 21例の特徴
⑩ 新型コロナのワクチンは、アレルギーの病気を持っていると接種できないの?
堀向健太 | 日本アレルギー学会専門医・指導医。日本小児科学会指導医。