徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

B型肝炎ワクチンの勧め

2020年08月27日 10時51分41秒 | 小児科診療
B型肝炎といわれても・・・?
これはウイルス感染症の一つですが、水ぼうそうやおたふくかぜ、インフルエンザとくらべると馴染みのない病気ですね。
小さなお子さんをお持ちのご家族はご存知のことと思われますが、このウイルス感染症を予防するワクチンが2016年10月に定期接種化し、2016年8月以降に生まれた子どもはもれなく接種することになりました。

ただ、病気を知っている町の小児科医の立場からすると、それ以前に生まれた子どもにも、たとえ有料(任意接種)でもぜひ接種していただきたいワクチンであることを強調したく、この文章を書いています。

B型肝炎は知らない間に感染し、症状が出ないことが多い感染症です。
咳や飛沫ではなく、体液や血液を介して感染するため、知らない間にうつるのです。密かに性行為でもうつります。

そしてやっかいなことに、このウイルスが一旦体の中に入るとヒトの体はそれを排除することができません。
慢性感染では肝細胞の中に潜伏し、じわじわと体をむしばみ、数十年かけて肝硬変肝癌のリスクを抱えることになります。
一過性の感染でも、将来ガンを患って免疫抑制剤を使用する際に休眠状態のウイルスが再活性化して劇症肝炎を起こすことがあります。いずれも命に関わる病気です。

繰り返しますが、B型肝炎を予防できるワクチンが存在します。肝癌を予防するため、元祖“抗がんワクチン”でもあります。
従来日本では1986年から母子感染(=垂直感染)をターゲットに予防措置(ワクチン+免疫グロブリン)がされてきました。それはほぼ成功したのですが、母子感染以外の水平感染(家族や他人から感染)の問題が残りました。
近年問題になってきたのが父親からの感染です。母子感染予防事業を開始する頃には、いわゆる“イクメン”がまだほとんどいなくて、父親と子どもの接触は乏しくリスクと考えられていなかったという社会環境もあったようです。
それを解消すべく、2016年にすべての子どもを対象に広げて定期接種となったわけです(ユニバーサル・ワクチネーション)。

B型肝炎ワクチンは年齢が若いほど免疫の付きがよく、成人前に3回接種を済ませるとほぼ100%有効です。一方で、40歳以降では有効率が70%まで落ちてしまいます。
ですから、成人前にワクチンを済ませておくことをお勧めします。とくに将来、医療関係の仕事を考えている方は必須です。

より詳しく知りたい方はこちらをお読みいただき、お子さんの命を生涯にわたって守ることのできるワクチンの接種をご検討ください。

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思春期のニキビ治療の勧め

2020年08月23日 11時23分25秒 | 小児科診療
誰もが思春期に悩むニキビ。
私も例外ではありませんでした。
しかし結局、積極的な治療をすることなく、アラ還の現在に至ります。
なのでそれなりにニキビ痕が残ってしまっています。

当院は皮膚科ではありませんが、かかりつけの子どもが大きくなってニキビ面になると時々相談を受けます。
ぬり薬を処方するくらいで様子を見て、よくならなかったら皮膚科へ誘導するスタンスでやってきましたが、近年ニキビの治療革命が起きたと耳にすること複数回、自分なりに調べてみました。

その治療革命とは「赤く炎症を起こしたニキビを治療するだけではなく、ニキビができやすい肌そのものを改善する」というもの。

つまり、従来の治療は
1.炎症を起こしたニキビを治す
だけでしたが、治療革命により
2.ニキビを予防することができるようになった
のですね。

確かに画期的です。
ただし、ニキビ肌の改善まで希望する場合は治療に時間がかかります。
1だけなら1ヶ月程度
2も希望する場合は1年程度
が目安です。

当院では漢方薬による体質改善も合わせて行っています。
体に合う漢方薬を飲み続けると、肌がきれいになっていくことが実感されます。

こちらに配布プリントをアップしてありますので、興味のある方はどうぞご参照ください。

ああ、私が中学生の頃、こんな薬が揃っていたら今の肌よりキレイだったろうなあ・・・。
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日本人がマスクをする理由は「みんながしているから」

2020年08月20日 17時26分17秒 | 小児科診療
新型コロナウイルスの感染様式は、飛沫感染(一部空気感染)+接触感染であることがかなり一般的に認識されてきました。
そして前者の飛沫感染が圧倒的に多いことも。

その飛沫感染対策で一番重要なことは「ソーシャルディスタンス」(社会的距離)を保つこと。
それができない場合は「マスク」を着用すること。
屋内ならこれに「換気」が加わります。

しかし、屋外で歩いている人は例外なくマスクをしています。
まるでガマン大会。

日本人は欧米に比べて、マスク着用率が異常に高いらしい。
あ、最近では欧米ではマスク着用が義務化されつつあり、しかしアメリカ人は「人権侵害」と根強く反対し続けていますね。

なぜこれほどまで違うのか?
それを研究して論文にした人がいます。

論文にもなった、日本人がマスクを着ける心理
倉原優(近畿中央呼吸器センター)
2020/08/17 日経メディカル)から一部抜粋
・・・厚生労働省から「新しい生活様式」における熱中症予防行動のポイントが提示されていますが、その中にマスクについて言及があります(図1)。

図1 厚労省の令和2年度熱中症予防行動リーフレット(抜粋)

 ウェブサイトにはこうあります。「高温や多湿といった環境下でのマスク着用は、熱中症のリスクが高くなるおそれがあるので、屋外で人と十分な距離(少なくとも2m以上)が確保できる場合には、マスクを外すようにしましょう」。
 そう、「外しましょう」と書いてあるのです!
 厚労省もちゃんと啓発してくれているではないですか。しかし、残念ながらこの声は届かず、酷暑の下、マスクを外さずに街中を歩いている人が大多数です。
・・・
 もちろん例年よりも気温が高いことが原因かもしれませんが、マスク装着の同調圧力が一部影響を与えている可能性もありそうです。

◆ 日本人がマスクを着ける動機とは
 同志社大大学社会心理学の中谷内一也教授らによると、日本人がマスクを着ける動機は、「感染が怖いから」でも「他人を守るため」でもなく、「みんなが着けているから」が第1位だったそうです1)。本来、マスクは新型コロナウイルスの感染を予防するために装着するのですが、日本人にとってはそうではなく、他者に同調するために装着しているという驚愕の研究結果でした。
・・・
 政府が啓発しているにもかかわらず、頑なにマスクを装着する日本人。これじゃあまるで我慢大会じゃないか。ウェブサイトだけでなく、広くテレビCMでもマスクについて言及してほしいと思うのは私だけでしょうか。
 マスクを着けていない人は入店お断りという対応をしている店も出てきている、このマスク問題。新たな差別を生まないか、心配です。

(参考文献)
1)Nakayachi K, et al. Why Do Japanese People Use Masks Against COVID-19, Even Though Masks Are Unlikely to Offer Protection From Infection? Front. Psychol. 04 August 2020

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当院が「イソジンうがい薬」を処方しない理由

2020年08月12日 07時31分18秒 | 小児科診療
先日(2020.8.4)の大阪府知事の発言「イソジンうがい薬がウイルス陽性率を減らした」という「ウソのようなホントの話」に日本中が振り回されました。

正しい知識を持つ医療者は「また余計なことを言い出して・・・」とあきれ顔をしています。
イソジンという消毒薬が新型コロナウイルスに有効なのは事実です。
でも、「消毒可能=うがい薬有効」と単純に言えない医学的理由があるのです。

当院ではもう10年以上前からイソジンうがい薬は処方していません。
その理由は、
・口の中には「口腔常在細菌叢」という腸内細菌叢と似たような“悪さしない善玉菌”が陣取っており、外から入ってきた悪玉菌につけいる隙を与えないことで感染から守っている、
・イソジンは悪玉菌のみならず善玉菌をも一網打尽でやっつけてしまう、
・すると、見張り番がいなくなる分、かえって悪玉菌が侵入しやすくなる、
等々・・・感染対策としてイソジンうがいをすると逆効果になるリスクがあるのですね。

昔、イソジンうがい薬と水うがいのどちらがインフルエンザ予防に効果があるかという研究があり、なんと水うがいに軍配が上がりました。

というわけで、当院ではイソジンうがい薬は採用しておらず、のどの炎症をやわらげる成分のうがい薬を処方しています。
人間は病原体(細菌やウイルス)と共存しています。オール・オア・ナッシングではなく、うまくつき合っていく必要があるのです。

関連学会も声明を出しましたね(⇩)。
無効であるばかりか、ヨウ素を必要以上に摂取することによる健康への悪影響にも言及しています。

ヨウ素系うがい薬の頻回使用に注意勧告
日本甲状腺学会、日本内分泌学会、日本内分泌外科学会
 ヨウ素系うがい薬による新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の重症化予防効果は、現時点で認められていない。それだけでなく、ヨウ素系うがい薬を頻回に用いることで、むしろ必要量以上のヨウ素が体内に吸収される可能性がある。日本甲状腺学会、日本内分泌学会、日本内分泌外科学会は合同で、「新型コロナウイルス感染症へのヨウ素系うがい薬の使用についての見解」(以下、見解)を8月7日に発表。内分泌の観点からヨウ素系うがい薬への注意を促している。
ヨウ素の1日摂取量上限は3mg
 一般市民にSARS-CoV-2感染予防法としてヨウ素系うがい薬が注目されたのは、大阪府の吉村洋文知事の発言(8月4日)に端を発する。これを受け、ヨウ素系うがい薬の購入を求める人たちが薬局やドラッグストアに殺到したのは承知の通りである。
 見解では、「ヨウ素系うがい薬による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する有効性を科学的に評価できる論文はなく、現時点で重症化予防などの効果は明らかでない」と指摘した。
 さらに、生命維持に必須の甲状腺ホルモン原材料であるヨウ素を必要量以上に摂取した場合、甲状腺機能に異常を来すことがあると指摘している。見解によると、ヨウ素系うがい薬には7%のポビドンヨードが含まれており、15~30倍に希釈後の1回量に含まれるヨウ素は14~28mg。口腔、咽頭粘膜から体内に吸収される量は不明だが「日常で食品から摂取する量よりもかなり多いヨウ素が吸収される可能性がある」という。
 なお、わが国におけるヨウ素摂取量の上限は1日当たり3mgとされており、一時的であれば超過しても問題はないが、長期に及ぶと甲状腺機能を維持する上で好ましくない。
 そのため、ヨウ素系うがい薬を使用する際の注意として
①口腔内で数秒間うがいし、飲み込まない
②甲状腺機能異常を来さない使用頻度および期間は明らかでなく、5~6日間で口内炎などの症状が改善しない場合は中止する
③甲状腺疾患患者または既往例は、使用前に医師・薬剤師に相談する―を挙げた。
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