徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

新型コロナに対して「消毒剤の空中散布」は有効なのか?

2020年10月29日 16時56分35秒 | 小児科診療
テレビでよく流れる、諸外国の都市で「街を消毒剤散布している図」。
以前からずっと疑問に思ってきました。

感染症対策は、
・強毒性病原体を扱う実験室
・感染症患者を診療する病院
のしていることが正しい、というか科学的根拠(エビデンス)のある方法です。

しかし、病院内に消毒剤を散布する姿を見たことありません。
物品や汚染させた医療器機などは、消毒剤をしみこませた布で清拭することはありますが。
消毒薬が効果を発揮するためには「濃度」と「消毒時間」が必要です。
空間散布では、この両者とも確保できませんから、有効と評価されるはずがないのです。

こちらの記事を読むと、やはり私の理解は間違っていないことがわかりました。

■ 新型コロナに消毒剤の空間散布はNG
 PANDAID(Forbes JAPAN、2020.10.28)より抜粋(下線は私が引きました)

・・・テレビでは白い防護服を着た作業員が消毒薬を散布する映像が使われることもあり、散布があたかも効果的であるかのようなイメージを与えていますが、実際には病院ですら消毒液を撒くようなことはしていないのです。病院では、人が頻繁に触るところを、一日に1~2回程度、界面活性剤あるいはアルコールをしみこませたクロスで拭くだけです。
・・・新型コロナ対策としては、消毒薬の噴霧は必要ないと考えられます。吸入などによる人体への毒性が懸念されますし、そもそも消毒効果が得られにくい方法です。消毒に関しては、人がよく触る部分を界面活性剤かアルコールで1日1回程度拭いておけば十分です。感染者が少ない地域では環境の消毒は必要ないかもしれません。また壁や天井、床などを拭く必要はありません。

・・・アルコール(濃度60%以上)と界面活性剤は細菌や新型コロナウイルスのようにエンベロープがあるウイルスには有効です。次亜塩素酸ナトリウム(0.02~0.05%)はウイルス全般に有効です。・・・最近話題になっている次亜塩素酸水について言えば、精製してすぐに接触する面をひたすようにして使用するなら消毒効果が期待できます。しかし、時間の経過や有機物の存在で不活化されてしまうこともあり、使いづらいところがあります。

・・・陽性患者が発生した飲食店などから消毒作業のご相談を受ける場合など、「消毒証明書」の発行をお求めになられる方がかなりいらっしゃいます。そのような場合、証明はできかねるということを丁寧にお伝えし、ご理解を頂く努力をしているという状況なのですが。・・・仮に消毒作業をしたとしても、どなたかがマスク無しでくしゃみや咳をした瞬間、もしくは飛沫のついた手でどこかを触った瞬間に、またもや感染リスクは発生してしまいます。ですので、消毒作業を行なった後に「証明書」の発行などを行ったとしても、あまり意味がないと考えています。
・・・ウイルスを環境から完全に消滅させたという証拠は出せないですよね。また時々「感染者が発生した事務所や店舗を消毒のために数日閉めた」という報道を耳にしますが、消毒に不必要に長い時間をかける必要性はないと思います。実際には、人が頻繁に触れるような感染リスクの高い環境表面を消毒すればよいだけですので。
・・・医療機関では、新型コロナウイルス感染症の診察を行ったあとでも、患者さんや医療従事者が触れた場所を前述の消毒薬で拭いているだけで、その所要時間は数分です。当然、ウイルスが床にいることもありますが、しかし、床の上を転がったり、床を手で触った後に顔に触れたりしない限り、床の上のウイルスが問題になることはありません。

・・・新型コロナウイルスは特定の感染経路からしか感染しません。環境表面からノミのように人間に飛び移ってくるわけではないのです。従って、感染者が利用した環境において、消毒を要するのは人が頻繁に触れる場所であり、そこをきちんと押さえていれば、接触感染するリスクは極めて低くなると考えてよいでしょう。

・・・冒頭で話題となった消毒薬の散布などは、人体への毒性もあることですし、効果も不確実です。

こちらも参考になります;

■ 「消毒剤噴霧」「空間除菌」の効果は証明されておらず、人体に有害な可能性あり
忽那賢志 | 感染症専門医

こちらの本でも「病院で医師が採用していない感染対策はエビデンスがないのでお勧めできない」と断言しています。

■ 感染症専門医が普段やっている 感染症自衛マニュアル

具体的には、テレビで毎日のようにやっている「免疫力を上げる食事や生活習慣」はエビデンスがなく、正式に採用している病院は皆無なのでお勧めできない、というスタンスです。

■ 風邪をひきやすい人に朗報!免疫力を自分で高める近道とは?

これらのことを考えると、一般市民のみならず、医療関係者も不安に煽られてエビデンスがない感染対策に手を染めていることに気づきます。

開業クリニックでクラスターが発生すると、ダスキンなどの消毒専門業者に依頼して消毒してもらうそうです。
でも一方で、新型コロナウイルスは物品の表面に付着しても自然に感染力がなくなる事実があります。

■ 新型コロナ感染症:ウイルスはどれくらい長く物質上にいるのか
石田雅彦 | ライター、編集者



下記記事によると、最長は「サージカルマスクで7日間」という報告がありますから、1週間閉院すれば、消毒せずとも自然に新型コロナウイルスは居なくなるはずなんですが・・・。

■ 新型コロナ、サージカルマスクの表面で7日間感染力を示す
一般的な消毒方法はいずれも有効、香港大学の研究


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子どもの新型コロナウイルス感染症でわかっていること(2020年10月現在)。

2020年10月27日 07時50分38秒 | 小児科診療
新型コロナウイルス感染症は「高齢者が重症化しやすく死亡率が高い」ことは広く認識されるようになりました。

では子どもが罹ったら?
軽く済むと言われていますが、今ひとつ情報が入ってきません。
わからない=不安」という構図から、
今でも感染者が差別される“魔女狩り現象”が後を絶たないのが現状です。

不安の連鎖を断ち切る方法は、
正しい知識を持って対策を立て正しく怖がる
ことに尽きます。

さて、2020.10.25に東日本外来小児科学会が開催されました。
形式は最近多い、現地開催&WEB配信のハイブリッドです。
私はWEB配信視聴で参加しました。

招待講演「小児のCOVID-19についてわかってきたこと」
(藤沢市民病院 臨床検査科 清水博之Dr.)
は大変わかりやすく、“COVID-19の今”を知ることができました。
やはり小児は軽症で済み、発熱・咳嗽ともに発症者の半分くらいしか認められません。
だから、ふつうの風邪やインフルエンザと症状だけで区別することは不可能です。

特徴といえば「鼻症状が乏しいのに嗅覚障害・味覚障害がはっきり出ること」「熱の勢いがそれほどでもないのに倦怠感が強い」と教えていただきましたが、子どもの訴えはわかりにくい・・・。

重症化率は乳児を除いて低く、日本では「小児の死亡ゼロ」です。
子どもにとっては、インフルエンザよりインパクトがない、小児にとって危険ではないことがだんだんわかってきました。

講演内容をざっくりまとめると、以下のようになります;
■ 小児は感染しても軽症がほとんどで、重症化することもまれ。
■ 小児は感染する確率、感染させる確率ともに成人より低い。

将来新型コロナに対するワクチンが開発された場合、高齢者は必須ですが、小児に接種するメリットがどれだけあるのか、という議論も生まれそうな気がしています。

メモできた要点を記しておきます;

・小児患者は少ない(≒ 罹りにくい)
日本での新型コロナ感染者の中で、20歳未満は全体の8%。
(人口比率は17.5%なので相対的に少ない)

・日本における疫学
2020年2〜5月の20歳未満感染例は700名弱、
そのうち0-14歳は425例。
 発症例:290例
 無症状:135例
感染経路
 家庭内:67%
 学校・園の職員:5%
 接触者:3.1%
 習い事の先生:1%
重症度
 重篤な肺炎:2例
 死亡者:ゼロ

・年齢別致死率;
 日本人平均:1.9%
 未成年:0%

・症状;数字は、小児(成人)
 発熱:56%(71%)
 咳嗽:54%(80%)
 息切れ:13%(43%)
 筋肉痛:23%(61%)
 鼻汁:7.2%(6.9%)
 咽頭痛:24%(35%)
 頭痛:28%(58%)
 嘔気/嘔吐:11%(16%)
 腹痛:5.8%(12%)
 下痢:13%(31%)
★ 発熱・咳嗽・息切れのどれか:73%(93%)

・症状の経過
(潜伏期間)平均3〜7日間(4〜5日が多い)
(経過)
 80%:風邪症状で発症しそのまま治る
 20%:7〜10日後に急激に呼吸不全が進行する
 10%:重症となり集中治療室へ
 5%:致命的
(無症候病原体保有者)30%?

・嗅覚障害・味覚障害
地域差がある:欧州では80%以上、中国武漢のデータでは5%程度。
若年女性に多い。
突然発症し速やかに消えることが多いが、10-30%は完全回復しない。

・川崎病様症状(小児多臓器炎症症候群)
MIS-C(Multisystem inflamamatory syndrome in children)
川崎病類似したCOVID-19症例。
違うところは、
 消化器症状必発(70〜100%)
 ショック症状がまれではない
 心不全が多い(EF低下45%)
 冠動脈瘤発生りつが高い(8-24%)
COVID-19に罹患してから約1ヶ月後に発症するので、
PCRを検査しても陰性、抗体は陽性。

・小児の感染経路は家庭内感染が多い。
(日本)
 小児全体:56%
 小学生のみ:75%
★ 学校内感染は15%
(ニューヨーク)18歳未満
 家族内感染:91%
 旅行先での感染:9%
(スイス)16歳未満
 家族内二次感染:79%

・小児患者は重症化しにくい
理由として、年齢とACE2(新型コロナウイルスが結合するレセプター)発現量が相関することが想定されている。
ただし、1歳未満では約10%が重症化する(中国のデータ)。

・診断方法
1.核酸増幅法:PCR、LAMP ・・・現在の感染の有無
2.抗原検査(定性):イムノクロマト法 ・・・現在の感染の有無
3.抗体検査     ・・・過去の感染の有無

・診断検査の所要時間
1:2-3時間
2:30分(エスプライン)、15分(クイックナビ)

・検査のタイミング
1:感染8日目(発症3日目)が感度80%でピーク

・検査の感度
1:最高80%(上記)
2:37〜67%(エスプライン)
★ 2では疑陽性もあり得る。粘性による影響に注意。

・治療:ステロイド
過去のSARS、MERSではウイルス消失が遅延し、死亡率に差はなく、副作用が多いと報告されていたため、当初は「COVID-19にステロイドは使わない」と言われていた。
現在はランダム化非盲検比較試験の結果、人工呼吸管理を要する重症患者では死亡率がステロイド使用/未使用=29%/41%と有効、酸素投与のみの患者では22%/25%と有効であることが判明。
 → 酸素需要があればステロイド投与を検討すべし。

・治療戦略(成人)
呼吸器症状
 ⇩
胸部CT撮影  → 肺炎なし → 経過観察(第7病日前後での増悪に注意)
 ⇩             (シクレソニド吸入は選択枝)
肺炎あり  → SpO2≧95% → リスクファクターなし → 経過観察
 ⇩            → リスクファクターあり → ファビピラビル 
 ⇩          ★ D-dimer上昇例では抗凝固剤を検討  
SpO2≦94%
 ⇩
レムデシベル、ステロイド

・小児の治療
現時点では小児を対象とした報告・エビデンスは存在しないため、
成人のRCT結果を参考に症例ごとに検討。

<エキスパートオピニオン>(北米18施設の小児治療指針)
支持療法が基本。
低酸素血症、挿管症例、多臓器不全、敗血症、急激な臨床症状の悪化時には個別に検討する。
第1選択薬はレムデシビル、ステロイド。

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新型コロナ流行期、もう一つの“医療崩壊” 〜小児科が消える?〜その2

2020年10月25日 06時36分05秒 | 小児科診療
この冬、インフルエンザと新型コロナウイルスが同時流行したらどうなるか?
発熱患者を断る医療機関があるので、患者の受け入れ体制を確保すべく、
政府は「発熱患者を診療する医療機関には補助金を出します」という政策を打ち出しました。

<参考>
(2020.10.19 ケアネット)・・・医療関係者のみ閲覧可能(要登録)

この補助金、少々変わった特徴があります。
発熱患者を診療すると補助金が減っていくのです。
最大20名の発熱患者を診療すると、補助金はゼロになります。
発熱以外の患者さんも診療すると上限が10名に減り、
発熱外来の時間を限定すると、さらに減ります。
例えば、
・発熱外来2時間→ 上限6名分弱
・発熱外来1時間→ 上限3名分弱
とほとんど意味が無くなります。

どういうこと?

政府の説明は「空床対策と同じ」「セーフティーネット」。
つまり、発熱外来を担当する医療機関は、そのための準備や設備が必要であり、
もし発熱患者が来なかったり少なかったりした場合補助します、というシステム。

一理あるのかも知れませんが、小児科にとってはピンとこない制度です。
なぜってまず、
「コロナ患者=発熱、とはいえない」事実。
小児患者は軽症で済むので、熱が無いことも多く、
ふつうのカゼと全く区別できません。
熱がある患者だけを隔離することは感染対策としてアウトです。

そして、これから迎える風邪の流行る季節、
小児科では発熱患者が増えてきて1日に10名を超えることは当たり前。
残念ながら患者数減少で困っている小児科は、
この制度の恩恵にあずかれません。

小児科は新型コロナ騒ぎの中、
従来通り発熱患者も断らずに診療を続けてきました。
当院は5月頃から、全患者を時間的隔離+空間的隔離という感染対策の元に診療してきました。

発熱患者を診療してきた小児科が救済されず、
発熱患者を断ってきた小児科以外が発熱患者を診るようになると
補助金が入る、というヘンなシステム。
到底納得できません。
是非、改変を希望します。

「正直者が馬鹿を見る」
のではなく、
「正直者が救われる」
政策を発効していただきたいものです。

小児科の救済を訴えるべく、記事を追加しておきます;

<参考>

追跡:コロナ拡大、小児科苦境 「うつされたくない」保護者敬遠 「緊急事態」5月収入半減 
(2020年10月21日 毎日新聞社)より抜粋
 新型コロナウイルス感染症の流行下で、小児科の医療機関が経営に苦しんでいる。特に感染が拡大して政府の緊急事態宣言が発令されていた5月は、他の診療科より患者が大きく減るなどして収入が半減したほか、患者の「受診控え」は今も続く。閉院した医療機関もある。【御園生枝里、小川祐希】
・・・・・
 新型コロナウイルス感染症の影響で、受診控えは各診療科でみられるが、小児科では顕著に表れている。
 処方箋のデータベースを分析する医療コンサルタント「医療情報総合研究所」(東京都千代田区)によると、30の診療科のうち小児科は患者数の減少幅が最も大きく、8月は前年同月比34%減。続く耳鼻咽喉(いんこう)科(24%減)、呼吸器科と放射線科(いずれも14%減)を大きく上回った。小児科の収入も急速に悪化。日本小児科医会の調査によると、全国383診療所の収入の合計は5月、前年同月の51・7%にまで落ち込んだ。
 閉院に追い込まれた小児科の医療機関もある。大阪小児科医会には新型コロナの影響で「閉院した」との声が2件寄せられており、「入居するビルの家賃が高く、経営はかなり厳しい」「規模の縮小や閉院も視野に入れざるを得ない」といった訴えもある。
 なぜ小児科の医療機関では患者が激減したのか。「診療所で新型コロナをうつされることを心配し、保護者が受診を控えたためだ」。日本小児科医会の林泉彦(もとひこ)・業務執行理事は理由をこう説明する。
 保護者の「受診控え」を顕著に示すのが、予防接種の件数だ。予防接種は小児科の大きな収入源の一つだが、新型コロナの感染が急拡大した3月は前年同月比5・7%減、4月は6・2%減と、受診控えの影響が如実に表れている。5月は反動で9・4%増えたが、全体の落ち込みを補うほどではなかった。
 子どもの夏風邪が今年は流行しなかったことも、受診患者の減少に追い打ちをかけた。予防策が奏功したとの見方もあるが、国立感染症研究所によると、全国約3000の小児科からの報告では、子どもの代表的な夏風邪である手足口病は2020年、1週間の患者数が1医療機関あたり0・2人以下に抑えられている。大流行した昨年の7月下旬、同13・42人に達したのとは対照的だ。同じく夏風邪で、発熱や口の中の水疱(すいほう)を伴うヘルパンギーナは例年、7月にピークを迎えるが、20年は8月の同0・72人が最高で、低水準のまま。咽頭結膜熱(プール熱)は、3月までは例年並みの患者数で、本来なら徐々に増え始める6月以降も同0・2人以下のままだ。
 日本小児科医会は9月、厚生労働省に小児科の財政支援を求める要望書を提出した。さらに、保護者の間にも小児科を支えようとする動きが広がっている。2~19歳の4人の子どもを育てる東京都の会社員、伊藤美賀子さん(41)が、政府に支援を求める署名をインターネット上で集めたところ、約2万5000人分の賛同が集まった。
 子どもの健康への影響も懸念される。生活の変化や長期の休校などで頭痛がしたり、登校ができなくなったりする子どももいる。小児科は不登校やいじめなどの問題、虐待の発見や初期対応も担っている。日本小児科医会の林業務執行理事は「新型コロナの流行時だからこそ受診が必要な場合がある。子どもは新型コロナに感染しても、無症状や軽症が多い。必要以上に怖がらず、適切に受診してほしい」と訴えた。
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新型コロナ流行期、もう一つの“医療崩壊” 〜小児科が消える?

2020年10月13日 07時30分17秒 | 小児科診療
新型コロナが流行し、その患者さんを診療する医療機関(主に総合病院や大学病院)はベッドが埋まり、医療従事者は過酷な勤務を強いられて“医療崩壊”が社会問題になり、現在進行形です。

一方、現場ではもう一つの“医療崩壊”が進んでいます。
それは、「患者さんがいない」という逆ベクトルの現象。

新型コロナ対策として感染予防対策が徹底され、学校も休校が長く続きました。
すると、風邪患者がいなくなります。
2020年冬はインフルエンザが大流行する予想でしたが、新型コロナ騒ぎで感染対策が施行された途端、ピークを迎える前に小規模な流行のまま萎みました。

国民にとって、これは喜ばしいことです。

しかし、
「風邪患者激減=小児科開業医の仕事がなくなる」
ことでもあります。

全国の小児科開業医院では患者数が5割減少しています。
収入が半減する状態が続けば、ふつう会社は傾きます。
高齢の小児科医は、このタイミングで廃業・閉院する方もいらっしゃると耳にします。
しかし、地域で小児医療を担う中堅・ベテランの小児科も経営難から閉院を余儀なくされる可能性が徐々に大きくなってきました。

現在は雇用調整助成金でなんとかしのいでいますが、
この状況が続くと職員の給料や賞与が支給できなくなります。

前述のように、国民にとっては喜ばしいことなので、
あまり注目されずニュースになりにくい現象であり、
あえて現場からの報告としてブログに書かせていただきました。


小児医療が崩壊する!患者と収入「5割減」の衝撃 病院数は20年前から3割減、廃業の決断も
井艸 恵美 : 東洋経済 記者 
※ 下線は私が引きました。

「このままでは日本から身近なかかりつけ小児科医が消えてしまいそうです」
小児科開業医でつくる日本小児科医会は9月7日、緊急メッセージを発表した。コロナ禍でかつてない患者の減少に見舞われた小児科は今、存続の危機に陥っている。

小児科の経営はなぜ苦しいのか
大阪市旭区にある民間の小児科専門医療機関「中野こども病院」は、8月末から新型コロナウイルスの疑いのある患者を受け入れる協力医療機関になった。木野稔理事長は「背に腹は代えられない。協力医療機関にならなければ補償が何も入ってこない」と話す。木野氏が問題視するのは、「今の国の支援策はコロナを受け入れているか、受け入れていないかで線を引かれる」ということだ。
新型コロナの陽性者を受け入れていなくても、小児科の医療機関にかかる負担は大きい。小児科はほとんどが発熱患者のため、発熱だけで何の病気か区別するのは難しい。そのため、疑いのある患者の検査結果が出るまでは個室の管理になり、コロナ患者と同じように扱わなければならない。
中野こども病院では全79床のうち、コロナ対応用に個室4床、準備用に4床を用意している。こうした体制を4月から続けてきたが、コロナへの対応で使えない病床があっても補助金は出ない。協力医療機関になれば、1日約5万円の空床補償を受け取ることができる。
しかし、補償が支払われても4月から続く赤字は解消できない。その原因は患者数の大幅な減少だ。中野こども病院では、5月には患者数が前年の約5割まで減り、4~5月の赤字額は5800万円にのぼった。7月に患者数は7割まで回復したものの、8月に入り再び6割ほどに落ちている。そして、7月は1700万円、8月も2800万円の赤字だ。

他の診療科もコロナ禍で患者減少に苦しんでいるが、小児科はとくに患者の減少率が著しい。休校や保育所への登園自粛、団体生活での衛生管理が徹底されたことで、風邪やウイルス性胃腸炎のような子どもの感染症が少なくなっているからだ。
子どもの感染症が減ったことが自体はよいことだ。しかし、救急医療を維持するには、「(風邪などの軽症患者は単価が低いため)患者を数多く診なければ成立しない」(木野理事長)。同病院の外来患者数は年約6万人にのぼるが、現在の診療報酬制度では利益率は2%ほど。そこに今回の患者数の減少が襲った。

20年間で小児科病院は3割減少
また、小児科は固定費を削りにくい事情がある。小児患者の入院収入は、成人の患者よりも高い単価を得られるしくみがある。しかし、この入院収入を得るためには、医師や看護師を多く配置しなければならない。
そのため赤字が続いていても、費用の6割を占める人件費を削りにくい。「風邪などの軽症患者は減っているが、重症患者の数は減っていない。患者が半分になったからといって、入院の体制を維持するためには職員の数を減らすことができない」(木野理事長)
中野こども病院は、地域の小児医療を維持するには欠かせない存在だ。救急患者を24時間365日体制で受け入れており、広範囲から患者が来る。大阪府内にある8つの2次医療圏のうち、大阪市内だけでなく、北河内(大阪府北東部)、中河内(大阪府東部)地域の患者をカバーしている。輪番制で救急を受け入れる病院は他にもあるが、同院のように常時受け入れる病院は少ない。

こうした小児科専門病院が広範囲から患者を受け入れているのは、小児科医不足を背景に小児科の集約化が進められてきた結果だ。小児科を標榜する病院は2018年時点で2567病院で、1996年と比べて約1200、3割ほど減っている。

鹿児島県日置市にある「鹿児島こども病院」も、24時間体制で近隣地域から救急患者を入れる民間病院だ。新型コロナの入院患者を受け入れる協力医療機関ではないため、空床補償などの補助金は受け取れない。
「県内でまだ感染患者が少ない段階では、当院の役割は別にある」と奥章三理事長は話す。
鹿児島こども病院では40床あるベッドのうち、5床に慢性の重症患者が入院している。集中治療室で治療を終えてからも、長期的に人工呼吸器や人工栄養などの管理を必要とする患者だ。中には15年ほど入院している患者もいるという。同院には空気感染を防ぐ陰圧室がない。

増え続ける「医療的ケア児」
「1人でもコロナの患者を受け入れたら、この子どもたちは別の病院か在宅に移すしかないだろう」(奥理事長)
同院では、こうした小児の重症患者を在宅で介護している家族が一時的に患者を預ける「レスパイト入院」も受け入れている。「鹿児島県では鹿児島市立病院の新生児センターの満床状態を解消するために、在宅医療への移行が進められている。当院はその後方支援も担っている」と奥理事長。
在宅医療への移行を進めることができるのは鹿児島県だけではない。全国的に在宅で小児患者を介護する家庭は年々増加している。医療技術が進歩し、人工呼吸器や胃ろうなどの治療が必要な低出生体重児や重症新生児が増えているからだ。こうした子どもたちは「医療的ケア児」と呼ばれ、厚生労働省の推計によると2018年時点で在宅で看護されている医療的ケア児は約2万人。2005年の約1万人から倍増している。

コロナ禍であっても家族の負担を軽減するレスパイト入院は必要とされている。実際、鹿児島こども病院でもレスパイト入院の患者数は減っていないという。しかし、通常の外来・入院患者が減少し、同病院の経営は毎月400万~700万円の赤字が続いている。
「福祉医療機構から融資を受けて2021年3月まではしのげるが、来年度以降も同じ感染状況が続けば現行の小児医療サービスを提供し続けることは厳しい。夏から秋にかけて赤字幅が広がってきているが、必要としてくれる患者がいる限り、規模を縮小してでも病院機能は維持しなければならない」(奥理事長)
給付金を受け取れない診療所
かかりつけ医として子どもの診療に当たる地域の診療所も患者数の減少に苦しんでいる。

日本小児科医会の会長を務める神川小児科クリニック(東京都大田区)の神川晃院長は「患者は5割ほど減少し、収入もほぼ半減している。このままでは地域の小児医療が崩壊する」と話す。
日本小児科医会が会員の小児科診療所に行った実態調査によると、中小法人へ支給される持続化給付金を受けにくいという回答が多く寄せられた。持続化給付金の受給要件は、前年同月比で収入が5割以上減少することだ。
小児科診療所の収入の内訳は、保険収入が3分の2を占め、残りは予防接種などの自由診療だ。患者がほぼ半減し、保険収入は5割以上減少しても、自由診療の予防接種が一定数維持されれば収入全体の減少率は、給付金の要件である「収入5割減」にわずかに届かない。同様の理由で家賃支援給付金も対象外になることが多い。
さらに、今後インフルエンザとの判別が必要になる時期に迅速診断検査キットの購入などの出費が増える可能性がある。10月からは発熱などでコロナ感染が疑われる場合の相談先が、行政の窓口からかかりつけ医に変更される見通しだ。感染症を判別するためには、インフルエンザなどの迅速検査数が増えることが予想される。しかし、小児科診療所の診療報酬は主に包括(定額)算定のため、複数の迅速検査を実施しても個別に保険請求はできず、費用は診療所の持ち出しになる。

前出の小児科医会の調査によると、5月の外来患者が40~60%減少したという施設が4割を占めて最も多かった。調査では、今回のコロナ禍をきっかけにすでに廃業を決めたという声も上がっている。小児科を標榜する病院が減る一方で、小児科診療所の数は20年前からほぼ横ばいだ。しかし、このまま患者減少が続けば診療所も減少する可能性がある。

子どもたちにも異変が起こっている。受診の機会が減って何カ月も診察していない患者が増えるなか、神川医師は鬱症状や頭痛、腹痛、夜尿症(おねしょ)など、心理的不安やそれが原因となる症状の患者が増えていることに気づいた。
「子どもは新型コロナウイルスに感染しても重症化することがほとんどない。それにも関わらず、子どもたちはコロナに感染するのではという不安を想像以上に抱いていて、心身に影響が出ている。子どもの声を代弁することも小児科医の役割だが、子どもたちに関われない中でその機能が失われるのではないか」と神川医師は懸念する。

民間小児病院も財政支援を要望
日本小児科医会は9月11日、厚労省に「小児科消滅阻止に向けた緊急要望書」を提出し、小児科医による子どもの遠隔健康相談の創設や迅速検査を包括外にする保険請求などを求めている。
一方、全国の民間小児病院も財政支援を求めて厚労省に要望書を7月に提出した。要望書を取りまとめた土屋小児病院(埼玉県久喜市)の土屋喬義理事長は「小児病院の病床は稼働率を90%以上にしてやっと収支トントン。コロナ患者を受け入れる病床を確保するため、(病床)稼働率は低下している。外来患者数の大幅な減少が続く中、空床への補償があっても大幅な赤字の解消には至らない」と話す。
コロナ禍を機に患者の減少や受診行動の変容は続くだろう。特に小児科はその影響が甚大だ。コロナ禍は外来患者の診療をできるだけ多くこなし、病床をほぼ埋めなければ黒字化できない小児医療体制の限界を浮き彫りにした。小児医療を存続させるためには余裕ある医療体制への見直しが必要だ。
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新型コロナPCR陽性の医療者家族・・・批判され、差別され、追い詰められる“被害者”たち。

2020年10月04日 08時07分31秒 | 小児科診療
新型コロナ流行期における医療従事者の話です。

当院は小児科なので、風邪を引く患者さんが毎日来院します。
新型コロナが登場してからも、ず〜っと同じスタンスで診療してきました。

他科では「発熱患者お断り」なんてことが話題になりましたが、
日本中の小児科開業クリニックは、当院と同じように診療を続けてきたところがほとんどです。
当然、感染リスクには毎日さらされ続けています。

さて、メディアで繰り返し報道されているように、
新型コロナウイルスは、無症状の患者さんからも感染します。
その内訳は、
無症状=発症前+無症候感染者



つまり、無症状の人々も感染対策(マスクを着用)しなければ、
新型コロナウイルス感染拡大を防ぐことができません。

しかし、小児科に来院する方々を観察すると・・・
乳幼児はマスクを嫌がりしていません。
日本小児科学会も「2歳未満にはマスクを推奨しない」と提言を出しています。
子どもを連れてくる家族(ご両親、祖父母)、一緒に来る兄弟姉妹はどうでしょうか。
全員がマスクをしているとは限りません。

現在、病院では「ユニバーサルマスク」が推奨されています。
これは、症状の有無にかかわらず、病院内にいる人はすべてマスクを着用というスタンスです。
当然、お見舞いに来る方々もです。
病院入り口で体温チェックをしてOKでも不十分です。
前述の通り無症状者からも感染することがあるので、100%とは行きません。

医療関係者でも若者が三密ライブに参加して感染し病院に持ち込む例も報告されたことがありましたが、現在は皆無です。
現在の病院・開業医院に感染者が発生した場合、患者さんが持ち込むことが多いのです。

もちろん、患者さんを非難しているわけではありません。
症状に苦しむ人が集まるのが医療機関ですら、必然的です。
ただ、現状を知り理解して欲しいだけです。

さて、某県の小児科クリニックでクラスターが発生しました。
前述の事情から、どこの小児科クリニックでも避けられないリスクです。

医療者が感染対策に注力しても、すべて防ぐことは無理です。
感染症専門病院でもクラスターが発生している現実を「気の緩み」と批判する政治家(⇩)もいらっしゃいますが、現場で3日間だけでも過ごしていただきたいものです。

■ 舛添要一氏 コロナ院内感染拡大は「気の緩みを象徴するような出来事」

その県では、医療施設でPCR陽性者が発生した場合、すぐに実名公表する方針です。
そして、陽性者の濃厚接触者に検査をしてさらに陽性者が出ると、
実名は出しませんがリンクを張って公表してきました。

SNS情報網が発達している現在、
クリニックでPCR陽性者が出ると、まず個人が突き止められてしまいます。
リンクが張られて公表されてしまうので、その家族も判明します。
当然、成人だけではなく、子ども達もです。
クリニック勤務者とその子ども達の個人情報が丸裸にされてしまうのです。

自分の行動に原因はないけど、PCR陽性になった子ども達。
彼ら・彼女らは学校で非難され差別されます。
中には学校へ行くのが怖くなり不登校になる子どもも出てくるでしょう。

県知事は、この点をどう捉えているのでしょう?

感染対策としてPCR陽性者を公表することには一定の意義がありますが、
被害者を追い詰めるような個人情報開示は避けるべきです。
この辺の線引きはデリケートな問題ですが、
「本来は保護されるべき個人情報を扱っている」
という基本認識のもとに行っていただきたい。

某県の知事は会見で、
「医療者への感謝として補助金を」
と述べましたが、一方で個人情報保護という点では不十分と言わざるを得ず、
「感謝を述べる一方で、泥を塗っていることに気づいていないのか?」
というのが私の印象です。

どうか、医療者とその家族を追い詰めていることに気がついてください。
現状を放置すれば、最先端で働く医療スタッフが燃え尽きて、
現場を去って行くことでしょう。

行政の方針が招く“医療崩壊”です。


<追記> 2020.10.10
関係者の方々の行政への働きかけで、
新型コロナPCR陽性者の情報公表基準を変更するに至りました。
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