【現代思想とジャーナリスト精神】

価値判断の基軸は自らが判断し思考し実践することの主体であるか否かであると考えております。

画期的な熊倉浩靖著『「日本」誕生―東国から見る建国のかたち』       (櫻井 智志)

2020-05-04 04:06:26 | 書評


 著者の『日本語誕生の時代』、『増補版上野三碑を読む』と拝読してきた。今回の著作を三度読んだ。一回目は断片的に教えられる知識が発見できた。だが全体の構造を把握に至らず二回目に書き込みしながら、精読した。三回目は著者の研究の方法と叙述の方法を理解しながらひとつひとつを味わいながら読んだ。




 現代書館から刊行された本書の帯を、読了後に眺めはっとした。
「従来の都中心の古代国家成立論とは一味違う、列島全体を俯瞰した歴史書の誕生!」
明瞭な本書の特徴を一文に集約している。
出雲、大和など日本列島を西日本から次第に勢力を拡大させて、より北東部へと広がっていった、そう思い込んでいた私は、「天」「東」「夷」の三層構造の著者の指摘に驚いた。東国(あづま、あづまのくに)という具体的な地域概念に重要な意義を発見している。京都大学理学部学生時代から古代史を学び続け、自らが大学教授として群馬学センター副センター長を歴任する長いプロセスで足元の群馬遺産を実証的に調査・研究を続けてきた。県内の山上碑・多胡碑・金井沢碑=上野三碑の実証的研究によって著者は、ユネスコ「世界の記憶」に上野三碑を登録する理論的実務的の実質的指導の役割を果たしてきた。その裏付けが、本書の大きな仮説を実証する上野三碑の長年のフィールドワークでもあった。




 「建国記念の日」が政府によって決定される時に、それが戦前の紀元節の復活として国民から強い反対の運動が起こった。「古事記」「日本書記」は神話であって歴史書ではない、という根拠が叫ばれた。
 しかし著者の手法は画期的な検証によって、読者に新鮮な驚きを抱かせる。「古事記」や「日本書記」の内部において、中国や朝鮮の古典史書や古典文学、国の内外の歴史遺産の実証的点検と的確な推理と仮説―論証の蓄積をわかりやすく明示する。
 第三章「東国で国家を準備した者たちの出自と伝承」、第四章「東国貴族の登場―東国六腹朝臣」、第六章「東国貴族と日本という国家の成立」は、東国の具体的地理学、東国の歴史、東国をリードした貴族の実際、国家成立に関わる日本と東国貴族との軋轢などが次々にあきらかにされている。




 東国に派遣された貴族と渡来人によって、東国は古代史に重要な役割を果たした。日本古代史は、古代中国・古代朝鮮との関わりによって重要な間柄であり、多くの古文書や歴史碑など具体的史料の大規模な点検によって解明を進めることができた。
 著者の科学的な論理と方法論は、文科系の思い入れやレトリックであいまいにすることなく、重要な歴史的仮説を蓄積された客観的データを提示することで実りある展開を繰り広げている。
 高校生の頃、著者は高崎哲学堂に連なる広範な文化的営みの中にいた。高崎白衣観音慈眼寺僧職橋爪良恒氏らと月に数回「聞法会」講話に参加していた。生徒会長としてピラミッド型組織でない自由な形態をめざして高校活性化に尽力していた。学年の級友たちは、日本で初めてノーベル賞を受賞した物理学者湯川秀樹氏のように、京都大学理学部で学び将来を期待する声が集まった。
 著者が「おわりに」に記した京大理学部以来の親友水野寛氏への友情と同期の71S5の同級生たちの友愛に感謝の気持ちを述べている。開かれた心と自然と人間の歴史に対する著者の学問的人間的関心。同時代を生きる著者のマインドは、挫折や苦悩を知り、たえず希望を堅持して学問と社会に対する開かれた半生を貫いている。

コロナ問題、事実を正確に認識する報道番組を通して

2020-05-02 18:51:45 | 政治・文化・社会評論
❶ アメリカ国民が外出禁止に反発しデモにかなりの人々が参加。ウイルス感染症の感染防止という合理から外出禁止は重要だと考える。ただパチンコ店で働くひとの暮らしや店の営業を考ええると、あまりに事情を善悪二元論で切り捨てる発想には注意深く対応したいと考える。

❷ 連合に続き全労連もメーデー集会を今年は自粛した。社民党と関わりある全労姜は、150人規模の会場に50人が参加してメーデーを実施した。ただこれは重要だと考える平和と反戦反核の行事に、十二分の議論や思考を踏まえない禁止措置は後々後悔のない対応を考えたい。

❸ 基礎医学、基礎科学を思う。田村智子議員が国会質問したように、全国の保健所予算は減らされてきた。大学教育でも教養教育を減らし実用科目を増やす政府の動きがある。世の中から基礎基本のすそ野を削っていくことは、やがてに日本社会の各分野で、根の弱い大木が枯れていく。

❹ #コロナ危機で自殺相談 自宅にとどまることを、精力的にあちこち政治行動で動き続ける小池百合子都知事が、ステイホームと訴え続ける。言われた側は数か月自宅待機し、この先いつまで続くか先も見えない。真面目な人ほどうつ病に罹患しやすい。価値観は自宅待機。本当はコロナ感染症から国民を守ること。自宅などで自殺増大。危険な循環だ。

❺ 北朝鮮国民の姿が、オリンピックやトランプ・金会談や李・金南北会談を通して身近なものとなってきた。また途絶えているが、確かなことは、南北朝鮮は日本に先立つ歴史を遡る文化や文明を持ち、東アジアの中で周辺諸国から攻撃も仕掛けられてきた。政治指導者の評価の力量をもたないが、国民の幸福を求める暮らしの行方に冷静な眼で見守りたい。

市民と野党の共闘と新型コロナ感染症態勢の陥穽

2020-05-01 13:41:32 | 言論と政治
市民と野党の共闘と新型コロナ感染症態勢の陥穽
                                櫻井 智志

 4月28日付けの広原盛明氏の評論は、示唆に富む。新型コロナ問題の背景で起きている政局の動向と、静岡4区衆院補選の結果を踏まえて論じている。
 第1部で4.28広原評論全文を転載させていただいた。便宜上ナンバリングの数字と小見出しを加えた。
第2部で私見として感想を記した。


第一部
広原盛明のつれづれ日記
2020-04-28
小池東京都知事・吉村大阪府知事が突出する中で沈没する野党共闘、安倍内閣支持率下落と野党共闘の行方(35)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その212)

➀コロナ閉塞と「規制社会」「自粛社会」「監視社会」
 連日、新型コロナウイルスの感染者数や死者数の報道を聞かされ、気が滅入ることおびただしい。それに外出自粛のアナウンスまでが加わるのだから、閉塞感が深まるばかりだ。日本全体がまるで「規制社会」「自粛社会」「監視社会」になってしまったような気がする。

➁小池都知事や吉村府知事のワンマンショー
 テレビでは、小池都知事や吉村府知事がワンマンショーよろしく連日大奮闘だ。御両人が日本の首都と第2自治体の首長であることには間違いないが、まるで上御一人か司令官気取りで振舞っているのはいただけない。この緊急事態を乗り切れるのは自分一人、全ての権限が自分に委ねられていると言わんばかりだ。

③安倍首相の稚拙な行動様式に対する国民の批判
 代わって安倍首相はどうか。1人10万円一律支給で暫らくは時を稼いだのはいいが、その後、世論受けのする政策がいっこうに打ち出せない。内閣支持率が上がらないのは、アベノマスクや星野源とのコラボ動画に象徴されるような小手先のパフォーマンスが国民の嘲笑を買っているからだが、それ以上に安倍首相の稚拙な行動様式に対する国民の批判が高まってきていることがある。大局的判断が不得意で、その場の思い付きで施策を乱発する。身内やお友達の話は聞くが、それ以外の人の意見には耳を傾けない。政策への批判には「ご飯論法」でごまかすなど、「反アベチャンムード」が次第にそして着実に内閣支持率の足を引っ張るようになってきているのである。

➃衆院静岡4区補選の結果
 こんな情勢の下で4月26日、衆院静岡4区補選が行われた。選挙は、自民公認候補に対して野党4党の統一候補が挑むという構図。本来ならばもっと関心を集めてよいはずだが、「コロナ・コロナ」の大合唱に消されて、ほとんどメディアからの報道がなかった。毎日新聞(4月28日)によれば、野党は今回の補選を「勝てない選挙ではない」とみていたという。2017年衆院選の静岡4区は自民公認候補が当選したが、比例票は野党4党で8万4910票、自民公明両党で7万9684票となり、野党票が上回っていたからだ。
  ところが蓋を開けてみると、自民候補は6万6881票、野党統一候補は3万8566票というダブルスコアに近い大敗、野党各党は声も出なかった。立憲民主党の福山幹事長は27日、記者団に対して「野党統一候補で戦えたことは一定の成果があった」、「より有効な選挙ができるように分析する。各党で反省も良かった点も共有していきたい」と中身のない感想を述べたという(毎日同上)。

➄朝日新聞(4月28日)、立憲枝野代表や国民玉木代表
朝日新聞(4月28日)は、福山幹事長の「新型コロナの状況のなかで、まして(自民前衆院議員の)弔い合戦。非常にやりにくい状況だった」との敗因分析を紹介した上で、立憲の枝野代表や国民の玉木代表が現地入りせず、野党連携をアピールして政権への批判票を吸い上げることができなかったとの解説を加えている。だがそこには、なぜ枝野代表や玉木代表が現地入りしなかったのかの解説はない。

⑥日本共産党の選挙総括
 一方、共産党の小池書記局長は例の如く「大奮闘・大健闘」と評価し、「今回の補選を安倍政治を転換するための野党共闘の前進の貴重な地歩とする」と総括している(赤旗4月28日)。しかし、幾ら大敗しても百年一日の如く「大奮闘・大健闘」というのでは、選挙に対する分析能力が疑われる。こんな総括では野党共闘も前進しないし、選挙にも勝てないこと間違いなしだ。

➆静岡4区補選と野党共闘
 今回の補選に対する野党各党の姿勢をみると、とても本気で選挙戦を戦ったとは思われない。野党各党の幹部が選挙戦中に現地入りしないなど普通では考えられないし、各党バラバラの選対体制では効果的な集票活動もできない。要するに、野党共闘に対する各党の温度差が激しく、野党統一候補を担いだ選挙戦には力が入らないのである。

➇「小池都知事、吉村府知事、日本維新の会、国民民主党による新党立ち上げ」思いつき計画

 こんな政治状況を見て、どこかで見たような紙芝居をもう一度やってみようとする御仁があらわれた。ダイアモンドオンラインに「経済・政治 上久保誠人のクリティカル・アナリティクス」と題する連載を続けている大久保氏である。氏は小池都知事や吉村府知事を天まで持ち上げ、彼らを中心に新党結成を提起する。小池氏が民進党代表の前原氏と結託し、希望の党を結成しようとした時と瓜二つのシナリオだ。紙芝居の見出しは、「小池都知事らが安倍首相のお株を奪う今こそ『地方主権で政権交代』の好機」というもの。中身は以下の内容に尽きる。 「新型コロナウイルス対策を巡って、さまざまな地方自治体が中央政府の方針を破り、独自の対策を打ち出す事例が増えている。そして安倍晋三首相のお株を奪うかたちで、東京都の小池百合子知事や大阪府の吉村洋文知事、北海道の鈴木直道知事ら多くの都道府県知事が存在感を高めてきた。そんな今こそ、『小異を捨てて大同につく』ことで『地方主権』を掲げた新党を立ち上げ、新型コロナウイルス感染拡大の終息後の政権交代を目指すべきだ」「彼らは、17年の総選挙時の『希望の党』を巡ってゴタゴタした因縁があるが、そんなものは乗り越えて共闘すべきである。いわゆる『野党共闘』がうまくいかないことに対  して『小異を捨てて大同につけ』と言われるが、共産党との共闘などに未来はないので捨てるべきだ。地方勢力の共闘こそ『大同につく』価値がある、真の野党共闘である」新型コロナウイルスとの闘いに勝利するために、そしてその後の新しい日本を創るためにも提案したいのが、『地方主権』を推進する勢力の『共闘』だ。あえて大胆に提言すれば、新型コロナウイルスの感染拡大の『第一波』が収まったときか、それ以外でもどこかいいタイミングで、小池都知事、鈴木道知事、大村県知事らと、吉村府知事が副代表の日本維新の会、そして玉木雄一郎代表率いる国民民主党が、『地方主権』を掲げた新党を立ち上げてはどうだろうか」

➈悪夢「瓢箪から出るか駒」と低迷する野党共闘
 この紙芝居を笑い飛ばすことはたやすい。しかし「瓢箪から駒が出る」ということもある。安倍政権の危機はそれほど深刻なのだ。野党共闘が低迷し、次の時代を切り開く展望を示せない現在、悪夢がよみがえる可能性があることは覚悟しておかなければならない。(つづく)


第二部 『私見』 コロナ「新」態勢、ファシズム招来への危機

❶コロナ閉塞と「規制社会」「自粛社会」「監視社会」
「規制社会」「自粛社会」「監視社会」と言う把握は妥当だろう。新型コロナ感染症流行は人為的なものという怖れはないかも知れない。だがコロナを契機に蠢いている政治的動きを見通す努力を保持したい。

❷小池都知事や吉村府知事のワンマンショー
 小池百合子氏が都知事に当選することは、よもやあり得まいと思っていた。当選後も人気の中で突然「希望の党」を立ち上げ、民進党リベラル派を追い出し、一気に内閣総理を目指す勢いだった。その過去があるから、私には小池百合子氏を根本的に油断できない人物と考えている。東京五輪でオレガオレガの過剰な自意識を見せ、コロナが流行すると、都の広報のテレビ画面にまで顔を出し続け世論の批判をあびてPRは別のやり方に変えた。

❸安倍首相の稚拙な行動様式に対する国民の批判
 まあこれだけ、国会で証人喚問レベルのやりたい放題をやっていれば、自民党内でも安倍取り巻き隊以外は冷めきっていくのも当然だろう。だがどこまでゆくのか、決して油断はできない。

❹衆院静岡4区補選の結果
 私は投票日前日、夕方から0時までのニコニコ動画を使った対談を見ていた。候補者の疲れ切った表情と、画面に流れる反野党の陣営側のコメントの酷さに、動画を発想したのはよいが、逆効果と感じた。コロナ事態で街頭応援は大変だったと思う。ただ、工夫が足りなかった。同姓同名の候補を出した某団体はやることは稚拙だけれど、妨害効果はあった。この団体は、局面が変わったら問答無用の運動に動くだろう。

❺朝日新聞(4月28日)、立憲枝野代表や国民玉木代表
 立憲民主党と国民民主党は、じわじわと与党にひきずられてゆく。むしろ、自民党内で保守本流の護憲派などと連立のこえさえ出ている。安倍亜流の取り巻きよりも、不破茂氏や野田聖子氏らとの大連立も想定しうる。肝心なことは、「大連立」を掲げても、ずるずる引き込まれて自民党の一派閥並みになってゆく危険を熟知することだ。

❻日本共産党の選挙総括
 1070年代、日本共産党機関誌『前衛』は、全国的な規模の地方選挙、国政選挙の後に、詳細なデータを記載した特別号を出版していた。小池晃書記局長の「大奮闘・大健闘」は、統一候補が国民民主党から無所属で出馬したことへの配慮も多分にあったろう。ただ内部では、広原氏の指摘する「自民候補は6万6881票、野党統一候補は3万8566票」の数値が、「2017年衆院選の静岡4区は自民公認候補が当選したが、比例票は野党4党で8万4910票、自民公明両党で7万9684票となり、野党票が上回っていた」という数値とどう繋がっているかの分析は大事であろう。

❼静岡4区補選と野党共闘
 コロナ事態下で、野党共闘と市民運動がともに闘う初心がどうだったか。

➑「小池都知事、吉村府知事、日本維新の会、国民民主党による新党立ち上げ」上久保誠人妄想計画選挙
 読んで唖然。いまの日本ならあり得る。コロナ・ファシズムは、予想外の政局を運ぶ。

❾悪夢「瓢箪から出るか駒」と低迷する野党共闘
 安倍の栄華アベノエイガは永遠ではない。本人も意外な行動にでることがある。経済的ダウンと政治とは相互関係にある。当面コロナ対策の裏で政府や与党が何をはかっているか、冷静な認識を堅持したい。