・2007年から2017年までの足かけ10年、わたしと夫の松永洋介は、奈良少年刑務所で受刑者に詩を書いてもらう教室の講師をしてきた。
・友からやさしい言葉を浴びた少年たちは、わたしの目の前で変わっていった。まるで蛹から蝶になるように、一瞬にして変わる様子を、何度目にしたことだとう。まったく無表情だった少年が微笑み、はげしいチェック症状がピタッと止まり、吃音が消え、ならず者のような子が自ら姿勢を正し、ひどく引っ込み思案の子が手を挙げ発言するようになった。・・・
詩によって自分を表現する。それを誰かに受けとめてもらう。たったそれだけのことで、人はこんなにも変わる。言葉にそんな力があったのか、と驚きを禁じ得なかった。自身が詩も書く作家であるのに、そこまで言葉の力を信じていなかった。
・わたしは確信した。「生まれつきの犯罪者」などいないのだと。人間は本来、やさしくていい生き物だ。それが成長の過程でさまざまな傷を受け、その傷をうまく癒せず、傷跡が引きつったり歪んだりして、結果的に犯罪へと追い込まれてしまう。そんな子でも、癒され、変われることがあるのだと、心から信じられるようになった。
・「わたしは、二か月前に奈良に引っ越してきた作家です。東京では、詩の朗読コンサートや、オープンマイクをしてきました。自作の詩を読みたい人が集まって、みんなの前で朗読するという集いです。詩は、書くだけでなくて、声に出して読むことに、とても大きな意味があるんです。ぜひ、書いた人に朗読してもらってください。きっといいことがあるはずです。なにかお手伝いできることがあれば、なんでもおっしゃってください」
・「実は、新しい教育をはじめようと思っています。『社会性涵養プログラム』というものです。寮先生には、その講師をお願いしたいんです。刑務所は、これまで、明治時代に制定された監獄法という古い法律よって運営されてきました。・・・ それが、百年ぶりに改正され、『刑事施設及び受刑者の処遇等にに関する法律』として今年の6月に施行されました。『受刑者等の人権を尊重しつつ、その者の状況に応じた適切な処遇を行う』ことが、さらに重要になってきたんです」
・「『社会涵養プログラム』では三科目を考えています。一つはSST。ソーシャル・スキル・トレーニングです。ロールプレイによって、コミュニケーションのスキルをあげる授業です。二つ目は絵を描く授業です。もう一つが、寮先生にお願いした童話や詩を使っての授業です」
・「あの子たちは、言葉で表現することが苦手です。それが人生を困難にしています。それを少しでも緩和していただければ。それに・・・」
・「彼らの物語を書き換えてあげたかった」「短くて美しい言葉を、繰り返し繰り返し、寄せては返す波のように彼らに体験してほしかった」「そうすれば、彼らのなかで切れ切れだったものがつながって、やがてひとまとまりの物語になっていくと思うんです。思考が構造化され、人生を見通せるようになる気がしました。だから『童話』や『詩』が、大切だと思いました」
・「いままで、日本のどの刑務所にも、このようなプログラムはありませんでした。わたしたちにとっても初の試みです。手探り状態ですので、こちらも勉強させていただきながら、いっしょに作っていけたら、と思います」
・「彼らには、刑務所でのストイックな生活が必要です。しかし、単に罰を与えるだけでは、何も変わらないんです。『復讐』することで、なにかがよくなるということは、ないと思います。それでは、再犯して刑務所に戻ってきてしまう」
・はじめての授業の教材にしたのは「おおかみのこがはしってきて」という絵本だった。
こどもの狼の次から次への質問におとうさん狼が答える話。
それを役割分担して読んでいく。終わったら感想と話し合い。
そして読む人を交代して読んでいく。
・「ほうら、きみが『できません』って勇気を出していってくれたおかげで、この教室には『しなくていい』っていう選択肢が生まれたんだ。みんな、きみに感謝していると思うよ」
「先生。ぼく、きょう、生まれてはじめて、信用できる大人に会いました。いままで『できない』っていうと、『なに言ってるんだ。みんながやってるんだよ。きみものやりなさい』と叱られたり、『大丈夫、きみならできるから、やってごらん』って励まされたりして、とってもつらかったんです」
・この教室では「注意しない」ことにしている。たとえ、ふんぞり返って座っていても「ちゃんと座りなさい」とは言わない。
・もう一つは「待つ」ということ。指導者は急がさない。順番に発言してもらうとき、なかなか声の出ない子がいる。そんなときは、黙ってじっくり待つ。
・この教室は、彼らにとって「すぐに答えられなくても、ちゃんと待ってもらえる」「評価されない」「叱られない」「安心・安全な場」なのだ。だから、リラックスできる。リラックスすれば、充分に力を発揮できる。仲間との共同作業のなかで、自分が持っている以上の力を発揮することも可能になる。
・空が青いから白を選んだのです
「ぼくのお母さんは、今年で七回忌です。おかあさんは、体が弱かった。けれども、おとうさんはいつも、おかあさんを殴っていました。ぼくはまだ小さかったから、おかあさんを守ってあげることができませんでした。おかあさんは亡くなる前に、病院でぼくにこう言ってくれました。
『つらくなったら、空を見てね。わたしはきっと、そこにいるから』。
ぼくは、おかあさんのことを思って、おかあさんの気持ちになって、この詩を書きました」
「ぼくは、おかあさんを知りません。でも、ぼくもこの詩を読んで、空を見あげたら、おかあさんに会えるような気がしてきましたっ」そして、わっと泣き崩れてしまった。
教室のみんなが、口々に彼を慰めた。
「そうだったんだ」
「さみしかったんだね」
「がんばってきたんだね」
「ぼくもおかあさん、いないんだよ」
・刑務所はいいところだ
刑務所は いいとこだ
屋根のあるところで 眠れる
三度三度 ごはんが食べられる
お風呂にまで 入れてもらえる
刑務所は なんて いいところなんだろう
「共感だけが『受けとめ』ではない」と知った。違う意見でも、構わないのだ。相手を否定せず、きちんと自分の気持ちを述べれば、それはりっぱな「受けとめ」になる。人と人として対等に向き合うことこそが、大切なのだと、彼に教えられた。
・自分に価値を認められない人間は、他者の価値も認められない。だから、人を傷つけたり、殺めたりすることもできてしまう。人の命の重さやそれぞれの人生の尊さを実感していたら、強盗殺人やレイプなど、できるはずがない。
つまり、「発達障害だから犯罪者になる」のではなくて、困難を抱えているのに、適切な支援をうけられなかったため、心が傷ついて、犯罪にまで追い込まれてしまうのだ。
・言葉
「いいんだよ」
「がんばったね」
「よくやった」
この言葉が ほしい
この言葉が ボクを幸せにする
「お前はアカン」
「でき悪い」
「お前はいらない」
この言葉は いらない
この言葉は ボクを不幸にする
嫌な言葉を言われると 自信をなくし
自分自身が嫌になる
好きな言葉を言われたくて 行動し
ボクは ボクを見失う
一つ一つの言葉が ボクを造る
一つ一つの言葉が ボクを壊す
・「ぼくは 必要のない人間です」が、「こんな僕でも、必要としてくれている人がいる」に変化し、「生きていてもよいのだ」と思ってくれた。
・愛について考える
愛って
もらうものではなくて 与えるもの
与えようとする気持ちこそが 愛
もらいたい気持ちは 欲
ぼくは 家族の愛を知らずに育った
だから 家族の話をきくと いらだちしか湧かなかった
でも それはうらやましかったからだ と
いまは 素直に思える
愛を欲しい自分
愛を与えたい自分に 気がついたから
これからは
「与えてもらえる人になるため 人に与えていきたい」って思う
・出逢い(最後の授業の日に)
良い出逢いなんて ある訳ないと思っていた
すぐに離れていくと 感じていた
それならずっと独りでいいと 思い続けてきた
でも いまはすべて逆のことを感じている
ほんとうに人生を変える いい出逢いだと思う
もう これから独りじゃない
こう思えたのは あなたたちが居てくれたから
この出逢いは ぼくの宝物です
ほんとうに ありがとう
・乾井教官は、こう言ってくれた。
「彼らには、だれかに受けとめてもらう経験がなかった。それが、社会性涵養プログラムを受けて、世の中には受けとめてくれる人がいるんだと知ったんですよ。0が1になった。それはとても大きなことです。彼らの力を信じましょう」
彼らが厚生するためには、二つの要素が必要だ。一つは、彼ら自身の厚生への意欲。そして、もう一つは世間の理解だ。この本が、その一助となることを願ってやまない。
・道
ぼくは 道を歩いている
でも その道は真っ暗闇の道
目を大きく見開いても 何も見えない
手を伸ばしても 伸ばしても 何もつかめない
前を歩いているのか 後ろに歩いているのかも わからない
ぼくは悲しくなり 歩くのを止めた
あの時は・・・
でも いまは違う
ぼくには 道が見えている
その道は たしかに小さくて細くて不安定な道だけど
ピカピカ光っている
だからもう
悲しくなったり 歩くのを止めたりしない
ぼくは その道を一歩一歩 現実にあるいていく
感想;
人は誰の心の中にも良心があるのだと思いました。
それを引き出してくれることがなく、犯罪に巻き込まれてしまってしまうのでしょう。
「空が青いから白を選んだのです―奈良少年刑務所詩集―」 寮美千子著
奈良少年刑務所では下記の社会復帰のトレーニングを行っている。
社会性涵養プログラム
・SST(ソーシャル・スキル・トレーニング)
基本的なコミュニケーションを学ぶ
・絵画
絵を描くことで無心な時間を過ごす
・童話と詩
言葉を中心とした情操教室 寮さんが担当
お母さんへの思いを綴った詩が多かったです。その中より一つ。
クリスマスプレゼント
五十ニ人の仲間のクリスマス
ごちそう食べて ケーキも食べて
ゲームをやって 思いっきり笑って
プレゼントだって もらえるんだ
寝ているあいだに だれかが
こっそり枕元に置いていってくれるんだよ
それが サンタさんなにか 学園の先生なのか
ぼくは しらないけれどね
でも ほんとうにほしいものは
ごめんね これじゃない ちがうんだ
サンタさん お願い
ふとっちょで怒りん坊の
へんちくりんなママでいいから
ぼくにちょうだい
世界のどっかに きっとそんなママが
余っているでしょう
そのママを ぼくにちょうだい
そしたら ぼく うんと大事にするよ
ママがいたら きっと
笑ったあとに さみしくならないですむと思うんだ
ぼくのほんとうのママも
きっと どこかで さびしがってるんだろうな
「しゃかい」ってやつに いじめられて たいへんで
ぼくに会いにくることも できないでいるんだろうな
サンタさん
ぼくは 余った子どもなんだ
どこかに さみしいママがいたら
ぼくがプレゼントになるから 連れていってよ
これからはケンカもしない ウソもつかない
いい子にするからさぁ!
確かに犯罪を犯した人が悪いのは当然ですが、社会が家庭が犯罪を少年達に犯しやすいようにしているのかもしれません。
米国の調査では、凶悪犯罪の半数は親にアルコール中毒含む精神的な疾患があり、半数は親が犯罪を行っている家庭で育ったとありました。
選挙と同じで、この社会は私たち一人ひとりの考えと行動の結果なのだと思います。
・友からやさしい言葉を浴びた少年たちは、わたしの目の前で変わっていった。まるで蛹から蝶になるように、一瞬にして変わる様子を、何度目にしたことだとう。まったく無表情だった少年が微笑み、はげしいチェック症状がピタッと止まり、吃音が消え、ならず者のような子が自ら姿勢を正し、ひどく引っ込み思案の子が手を挙げ発言するようになった。・・・
詩によって自分を表現する。それを誰かに受けとめてもらう。たったそれだけのことで、人はこんなにも変わる。言葉にそんな力があったのか、と驚きを禁じ得なかった。自身が詩も書く作家であるのに、そこまで言葉の力を信じていなかった。
・わたしは確信した。「生まれつきの犯罪者」などいないのだと。人間は本来、やさしくていい生き物だ。それが成長の過程でさまざまな傷を受け、その傷をうまく癒せず、傷跡が引きつったり歪んだりして、結果的に犯罪へと追い込まれてしまう。そんな子でも、癒され、変われることがあるのだと、心から信じられるようになった。
・「わたしは、二か月前に奈良に引っ越してきた作家です。東京では、詩の朗読コンサートや、オープンマイクをしてきました。自作の詩を読みたい人が集まって、みんなの前で朗読するという集いです。詩は、書くだけでなくて、声に出して読むことに、とても大きな意味があるんです。ぜひ、書いた人に朗読してもらってください。きっといいことがあるはずです。なにかお手伝いできることがあれば、なんでもおっしゃってください」
・「実は、新しい教育をはじめようと思っています。『社会性涵養プログラム』というものです。寮先生には、その講師をお願いしたいんです。刑務所は、これまで、明治時代に制定された監獄法という古い法律よって運営されてきました。・・・ それが、百年ぶりに改正され、『刑事施設及び受刑者の処遇等にに関する法律』として今年の6月に施行されました。『受刑者等の人権を尊重しつつ、その者の状況に応じた適切な処遇を行う』ことが、さらに重要になってきたんです」
・「『社会涵養プログラム』では三科目を考えています。一つはSST。ソーシャル・スキル・トレーニングです。ロールプレイによって、コミュニケーションのスキルをあげる授業です。二つ目は絵を描く授業です。もう一つが、寮先生にお願いした童話や詩を使っての授業です」
・「あの子たちは、言葉で表現することが苦手です。それが人生を困難にしています。それを少しでも緩和していただければ。それに・・・」
・「彼らの物語を書き換えてあげたかった」「短くて美しい言葉を、繰り返し繰り返し、寄せては返す波のように彼らに体験してほしかった」「そうすれば、彼らのなかで切れ切れだったものがつながって、やがてひとまとまりの物語になっていくと思うんです。思考が構造化され、人生を見通せるようになる気がしました。だから『童話』や『詩』が、大切だと思いました」
・「いままで、日本のどの刑務所にも、このようなプログラムはありませんでした。わたしたちにとっても初の試みです。手探り状態ですので、こちらも勉強させていただきながら、いっしょに作っていけたら、と思います」
・「彼らには、刑務所でのストイックな生活が必要です。しかし、単に罰を与えるだけでは、何も変わらないんです。『復讐』することで、なにかがよくなるということは、ないと思います。それでは、再犯して刑務所に戻ってきてしまう」
・はじめての授業の教材にしたのは「おおかみのこがはしってきて」という絵本だった。
こどもの狼の次から次への質問におとうさん狼が答える話。
それを役割分担して読んでいく。終わったら感想と話し合い。
そして読む人を交代して読んでいく。
・「ほうら、きみが『できません』って勇気を出していってくれたおかげで、この教室には『しなくていい』っていう選択肢が生まれたんだ。みんな、きみに感謝していると思うよ」
「先生。ぼく、きょう、生まれてはじめて、信用できる大人に会いました。いままで『できない』っていうと、『なに言ってるんだ。みんながやってるんだよ。きみものやりなさい』と叱られたり、『大丈夫、きみならできるから、やってごらん』って励まされたりして、とってもつらかったんです」
・この教室では「注意しない」ことにしている。たとえ、ふんぞり返って座っていても「ちゃんと座りなさい」とは言わない。
・もう一つは「待つ」ということ。指導者は急がさない。順番に発言してもらうとき、なかなか声の出ない子がいる。そんなときは、黙ってじっくり待つ。
・この教室は、彼らにとって「すぐに答えられなくても、ちゃんと待ってもらえる」「評価されない」「叱られない」「安心・安全な場」なのだ。だから、リラックスできる。リラックスすれば、充分に力を発揮できる。仲間との共同作業のなかで、自分が持っている以上の力を発揮することも可能になる。
・空が青いから白を選んだのです
「ぼくのお母さんは、今年で七回忌です。おかあさんは、体が弱かった。けれども、おとうさんはいつも、おかあさんを殴っていました。ぼくはまだ小さかったから、おかあさんを守ってあげることができませんでした。おかあさんは亡くなる前に、病院でぼくにこう言ってくれました。
『つらくなったら、空を見てね。わたしはきっと、そこにいるから』。
ぼくは、おかあさんのことを思って、おかあさんの気持ちになって、この詩を書きました」
「ぼくは、おかあさんを知りません。でも、ぼくもこの詩を読んで、空を見あげたら、おかあさんに会えるような気がしてきましたっ」そして、わっと泣き崩れてしまった。
教室のみんなが、口々に彼を慰めた。
「そうだったんだ」
「さみしかったんだね」
「がんばってきたんだね」
「ぼくもおかあさん、いないんだよ」
・刑務所はいいところだ
刑務所は いいとこだ
屋根のあるところで 眠れる
三度三度 ごはんが食べられる
お風呂にまで 入れてもらえる
刑務所は なんて いいところなんだろう
「共感だけが『受けとめ』ではない」と知った。違う意見でも、構わないのだ。相手を否定せず、きちんと自分の気持ちを述べれば、それはりっぱな「受けとめ」になる。人と人として対等に向き合うことこそが、大切なのだと、彼に教えられた。
・自分に価値を認められない人間は、他者の価値も認められない。だから、人を傷つけたり、殺めたりすることもできてしまう。人の命の重さやそれぞれの人生の尊さを実感していたら、強盗殺人やレイプなど、できるはずがない。
つまり、「発達障害だから犯罪者になる」のではなくて、困難を抱えているのに、適切な支援をうけられなかったため、心が傷ついて、犯罪にまで追い込まれてしまうのだ。
・言葉
「いいんだよ」
「がんばったね」
「よくやった」
この言葉が ほしい
この言葉が ボクを幸せにする
「お前はアカン」
「でき悪い」
「お前はいらない」
この言葉は いらない
この言葉は ボクを不幸にする
嫌な言葉を言われると 自信をなくし
自分自身が嫌になる
好きな言葉を言われたくて 行動し
ボクは ボクを見失う
一つ一つの言葉が ボクを造る
一つ一つの言葉が ボクを壊す
・「ぼくは 必要のない人間です」が、「こんな僕でも、必要としてくれている人がいる」に変化し、「生きていてもよいのだ」と思ってくれた。
・愛について考える
愛って
もらうものではなくて 与えるもの
与えようとする気持ちこそが 愛
もらいたい気持ちは 欲
ぼくは 家族の愛を知らずに育った
だから 家族の話をきくと いらだちしか湧かなかった
でも それはうらやましかったからだ と
いまは 素直に思える
愛を欲しい自分
愛を与えたい自分に 気がついたから
これからは
「与えてもらえる人になるため 人に与えていきたい」って思う
・出逢い(最後の授業の日に)
良い出逢いなんて ある訳ないと思っていた
すぐに離れていくと 感じていた
それならずっと独りでいいと 思い続けてきた
でも いまはすべて逆のことを感じている
ほんとうに人生を変える いい出逢いだと思う
もう これから独りじゃない
こう思えたのは あなたたちが居てくれたから
この出逢いは ぼくの宝物です
ほんとうに ありがとう
・乾井教官は、こう言ってくれた。
「彼らには、だれかに受けとめてもらう経験がなかった。それが、社会性涵養プログラムを受けて、世の中には受けとめてくれる人がいるんだと知ったんですよ。0が1になった。それはとても大きなことです。彼らの力を信じましょう」
彼らが厚生するためには、二つの要素が必要だ。一つは、彼ら自身の厚生への意欲。そして、もう一つは世間の理解だ。この本が、その一助となることを願ってやまない。
・道
ぼくは 道を歩いている
でも その道は真っ暗闇の道
目を大きく見開いても 何も見えない
手を伸ばしても 伸ばしても 何もつかめない
前を歩いているのか 後ろに歩いているのかも わからない
ぼくは悲しくなり 歩くのを止めた
あの時は・・・
でも いまは違う
ぼくには 道が見えている
その道は たしかに小さくて細くて不安定な道だけど
ピカピカ光っている
だからもう
悲しくなったり 歩くのを止めたりしない
ぼくは その道を一歩一歩 現実にあるいていく
感想;
人は誰の心の中にも良心があるのだと思いました。
それを引き出してくれることがなく、犯罪に巻き込まれてしまってしまうのでしょう。
「空が青いから白を選んだのです―奈良少年刑務所詩集―」 寮美千子著
奈良少年刑務所では下記の社会復帰のトレーニングを行っている。
社会性涵養プログラム
・SST(ソーシャル・スキル・トレーニング)
基本的なコミュニケーションを学ぶ
・絵画
絵を描くことで無心な時間を過ごす
・童話と詩
言葉を中心とした情操教室 寮さんが担当
お母さんへの思いを綴った詩が多かったです。その中より一つ。
クリスマスプレゼント
五十ニ人の仲間のクリスマス
ごちそう食べて ケーキも食べて
ゲームをやって 思いっきり笑って
プレゼントだって もらえるんだ
寝ているあいだに だれかが
こっそり枕元に置いていってくれるんだよ
それが サンタさんなにか 学園の先生なのか
ぼくは しらないけれどね
でも ほんとうにほしいものは
ごめんね これじゃない ちがうんだ
サンタさん お願い
ふとっちょで怒りん坊の
へんちくりんなママでいいから
ぼくにちょうだい
世界のどっかに きっとそんなママが
余っているでしょう
そのママを ぼくにちょうだい
そしたら ぼく うんと大事にするよ
ママがいたら きっと
笑ったあとに さみしくならないですむと思うんだ
ぼくのほんとうのママも
きっと どこかで さびしがってるんだろうな
「しゃかい」ってやつに いじめられて たいへんで
ぼくに会いにくることも できないでいるんだろうな
サンタさん
ぼくは 余った子どもなんだ
どこかに さみしいママがいたら
ぼくがプレゼントになるから 連れていってよ
これからはケンカもしない ウソもつかない
いい子にするからさぁ!
確かに犯罪を犯した人が悪いのは当然ですが、社会が家庭が犯罪を少年達に犯しやすいようにしているのかもしれません。
米国の調査では、凶悪犯罪の半数は親にアルコール中毒含む精神的な疾患があり、半数は親が犯罪を行っている家庭で育ったとありました。
選挙と同じで、この社会は私たち一人ひとりの考えと行動の結果なのだと思います。