平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

「べらぼう」 第3回「千客万来『一目千本』」~重三郎、出版プロデューサー・プロモーターになる!

2025年01月20日 | 大河ドラマ・時代劇
 重三郎(横浜流星)は出版プロデューサーでありプロモーターだ。

 本を出版するために資金を募る。
 今で言うと「ファンド」「クラウドファンディング」
 ちなみにこうして出す本を「入銀本」というらしい。
 出資者は花魁の贔屓客。
 推しの花魁を本に載せるためにお金を出す。
 今で言うと「推し活」あるいは「ホストクラブ」「クラブ」のシステム。
 資金に関して重三郎はノーリスクだ。

 それから出版企画。
 絵師を選び、本のコンセプトをつくる。
 重三郎は花魁を花や草木に見立てて紹介した。

「女郎花(おみなえし)」「蒲公英(たんぽぽ)」「山葵(わさび)」「葛(くず)」「鳥兜(とりかぶと)」
 これで花魁の性根を表現した。
 山葵はツンとして愛想がないから←なるほど!
 葛はほんとうにキズだから。笑
 鳥兜は必ず腹上死するから←恐ろしい
 花の井(小芝風花)は女郎花←女郎の代表ってことか。
 こういう本を「粋」「面白い」と考える江戸の人々の感性が素晴しい。

 さて、こうして生まれた本が『一目千本』
 重三郎はこの本を売って儲けようとは考えなかった。
 出資者に本を渡すと、残りの本を見本として男が行きそうな場所に配布した。
 今で言うと「サンプルプロモーション」だ。
 この本を手に入れる方法は「吉原に来て馴染みになること」と宣伝。
 男たちは、見立てられた花魁への興味と本を求めて吉原へ。
 結果、吉原は昔の活気を取り戻した。
 プロモーション成功だ。

 この成功は、重三郎のやることに否定的だった養父の駿河屋市右衛門(高橋克実)を認めさせた。
 重三郎は市右衛門に「これからも吉原のためにしっかりやれ」と励まされた。

 江戸城パートでは、田安賢丸(寺田心)の養子縁組をめぐって
 田沼意次(渡辺謙)と老中・首座の松平武元(石坂浩二)の対立が激化。
 経済重視の意次は秩父の鉄の採掘に乗り出した。
 重三郎の名前も源内(安田顕)が贈った『吉原再見』で思い出した。
 ……………………………………………

 吉原パート。
 ストーリーラインとしてはシンプルなサクセスストーリーでわかりやすい。
「こんな吉原良かないんで」
「親父様の機嫌より河岸(かし)が飯を食える方が大事なんで」
「忘八なら損得で動け」
 みたいな台詞がいい。

 長谷川平蔵宣以(中村隼人)は花の井のために五十両を出資して親の財産を食いつぶした。
 現代から見ると、ホストに入れあげて借金地獄に陥った女性を想起させてイメージが悪いが、
 宵越しのカネは持たない江戸っ子の粋と捉えたい。
 結果として平蔵の五十両が吉原を救ったことになったし、平蔵もサバサバしているだろう。

 ただ、この作品、こういう危うさを持っている。
 前回の源内の序文は「吉原を美化している」「公共放送がこんな描写をしていいのか」という批判がフェミ界隈からあがった。
 でも吉原の悲惨は今回も描かれたし、重三郎はそれを何とかするために戦っているわけだし、
 当時の人にしてみれば岡場所はあって当然の場所だったし、吉原文化も生まれたわけだし、
 現代の価値観で断罪してしまうのはどうなんだろう?
 表現が萎縮して作品がどんどんつまらなくなってしまうと思う。

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「坂の上の雲」~日本はなぜ旅順要塞を攻略しなければならなかったのか?

2025年01月19日 | 大河ドラマ・時代劇
 さて本日(1月19日)、ドラマ『坂の上の雲』の「旅順総攻撃」が放送される。

 諸説あるが、本作では陸軍・第三軍の乃木希典(柄本明)を批判。
 ロシアの旅順要塞を落とすことに固執し、兵に無謀な突進させて敵の機関銃の餌食に。
 その総死者数は1万2000人。
 真之(本木雅弘)が主張したとおり、
 最初から203高地を獲ることだけを行なっていればよかったのに……。
 一応、乃木将軍も地下道を掘ったり、それなりの対応をしていたのだが、
 なかなか方針転換できないのが日本軍の悪い癖。

 ではなぜ日本は旅順要塞を落とさなければならなかったのか?
 旅順湾にロシアの「旅順艦隊」がいたからである。
 一方、ロシアからは世界最強の「バルチック艦隊」がアフリカの喜望峰を越えてやって来る。
「旅順艦隊」+「バルチック艦隊」となれば、日本の連合艦隊は確実に負ける。
 制海権をロシアに握られて、満州に展開している陸軍の補給もままならず、日本は負ける。
 だから旅順要塞を攻略して、要塞から旅順艦隊を殲滅しておかなければならなかった。

 この状況に海軍も手をこまねいていたわけではなかった。
「封鎖作戦」
 旅順湾の入口に船を沈めて、旅順艦隊を湾外に出さないようにする作戦だ。
 これで日本の連合艦隊はバルチック艦隊だけを相手にすればいい。
 真之は米西戦争に観戦武官として参加していた時、アメリカが「封鎖作戦」を使うのを見た。
 だが、旅順要塞の火力は米西戦争のスペインの火力よりはるかに高い。
 だから反対したが、東郷平八郎(渡哲也)は苦渋の決断。
「夜間に攻撃すること」を条件に作戦にGOを出した。
 果たして結果は──
 要塞からの集中砲火を受けて失敗。
 真之の親友・広瀬武夫(藤本隆宏)はこの作戦で戦死した。
 これが前回のエピソードで描かれた「広瀬死す」だ。

 という状況下で、本日、旅順要塞での戦いが描かれる。
 前回の「広瀬死す」もそうだったが、戦争の悲惨と愚かさを描かれるだろう。

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「坂の上の雲」~いかにして日露戦争は起こったのか。非戦派の伊藤博文と主戦派の桂太郎

2025年01月17日 | 大河ドラマ・時代劇
 ドラマ「坂の上の雲」。1月19日(日)の放送で「旅順総攻撃」が描かれる。
 そこで今回はドラマで描かれた、日露戦争が起こるまでの経緯を紹介していきます。

 日清戦争の勝利。
 勝利はしたものの、それは日本に恩恵をもたらすものではなかった。
 西欧諸国が干渉してきたのだ。

 時代は帝国主義の時代。
 それぞれが権益を主張する貪欲な世界で道理はない。
 強い者勝ち、言った者勝ち。

 同時にロシアは南下してくる。
 満州を占拠し朝鮮にも食指をのばす。
 朝鮮をとられれば日本は目の前だ。
 国際政治において地政学の見地は忘れてはならない。

 そんな情勢下の日本の政治。

 伊藤博文は非戦派だ。
 ロシアとの戦争を必死に回避しようとする。
 明治天皇(尾上菊之助)も伊藤に信を置いていて非戦派だ。

 一方、当時の総理大臣・桂太郎(綾田俊樹)。
 桂は主戦派で、ロシアとの戦争やむなしと考えている。
 非戦派の伊藤博文に対しては「恐露病」と揶揄している。

 一方、外務大臣の小村寿太郎(竹中直人)。
 伊藤博文の考え方は古いとして「日英同盟」を結ぶ。
 これはアジアの権益を日本と英国で守っていこうという同盟だが、
 ロシアは自分たちに対する事実上の軍事同盟だと非難する。

 一方、伊藤博文も負けていない。
 単身ロシアに行き、非戦派の大蔵大臣ウィッテ(ヴァレリー・バリノフ)と通商条約を結ぼうとする。
 しかしこの時、ウィッテはロシア皇帝ニコライ2世(ティモフィー・ヒョードロフ)の信任を失っていた。
 ニコライ2世は皇太子時代に日本を訪問して斬りつけられる(「大津事件」)という被害に遭って
 日本のことを良く思っていない。
「これでは日本が戦争を仕掛けて来ます」と訴えるウィッテに対し、
「日本が大国ロシアに戦争を仕掛けて来るわけがない。戦争を始めるか否かを決めるのはロシアだ」と
 突っぱねる。

 そして、ロシアの提示して来た通商案は日本にとって到底飲めないものだった。
 日本側は「満州の権益をロシアに譲る代わりに朝鮮の権益を確保したい」と提案したが、
 ロシアの返事は「満州の権益はロシア。日本の朝鮮の権益は制約付きで認める」
 日本が再考を促すと、条件はさらに悪くなって、
「満州の権益はロシアと朝鮮の北半分。日本の権益は38度線以南の南半分」と回答。

 結果、交渉は決裂。
 日露戦争が始まる。
 ………………………………………………

 僕はネトウヨさんではないが、この日露戦争までの過程を見ると、
 当時の人々が「ロシアとの戦争やむなし」と考えたのは理解できる。

 今の価値観で言うと、朝鮮併合も満州の権益確保も非難されるべきことなのだが、
 当時は弱肉強食の帝国主義の時代。
 これも当時の人々にとっては必然の考え方なのだろう。

 歴史を見る時は現代の価値観だけでなく、当時の価値観でも見る必要がある。

 ただ明治の政治家や軍人が賢明だったのは──
「戦争をいかに終わらせるかを考えていたこと」だ。

 戦争が避けられないとわかると、伊藤博文は外交官・金子堅太郎(緒形幹太)をアメリカに派遣。
 アメリカの世論を日本寄りにして、終戦の調停をアメリカにさせるように働きかけることを指示。
 金子はハーバード大学留学の経験があり、ルーズベルト大統領とは同窓生なのだ。

 この点は、いたずらに戦線を拡大し、戦争を終わらせる方策も考えなかった太平洋戦争の指導者たちと大きく違う。

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「坂の上の雲」~病床六尺。正岡子規のもうひとつの戦い

2025年01月15日 | 大河ドラマ・時代劇
「坂の上の雲」のレビューが滞っていたので今週まとめて書きます。

 まずは正岡子規(香川照之)。
 秋山真之(本木雅弘)が米国・英国を視察し、日清戦争を経験し、
 秋山好古(阿部寛)がドイツ・フランスで学び、満州で戦う中、
 子規は肺の病気のため日本の狭い世界にいる。
 病が少し癒えて、新聞「日本」の従軍記者として日清戦争の中国へ渡るが、
 戦争はすでに終わっていた。

 子規は狭い世界で生きている自分を嘆く。
 病が重くなり、床に伏せるようになると焦りはさらに激しくなる。

 そんな中、子規は自分なりの戦いを始める。
 俳句・短歌の論評・再評価と革新だ。

 やがて子規は、自分の戦いが清国・ロシアと戦う真之や好古の戦いと同じだと考えるようになる。
 真之も同じ考えで、子規を励ます。

 こうして子規は俳句・短歌の革新という仕事を精力的におこなっていくが、
 病はどんどん重くなり、痛みは子規を苦しめ、妹の律(菅野美穂)に当り散らしたりする。

 こんな子規が死を前にした時にたどり着いた境地がこれだ。
「病床六尺」
 庭の木々や朝顔を見て子規は考える。
「この六尺の小さな世界の中にも自然の営みがあり、真実がある」
「とりとめのない日常の中に大切なものが潜んでいる」

 つまり真之や好古のように飛びまわらなくても、世界を知ることはできるのだ。

 司馬遼太郎が今作で子規を描いたのは、「もうひとつの戦い」と「病床六尺」を描きたかったからであろう。

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「べらぼう」 第二回「吉原再見・嗚呼御江戸」~平賀源内、そして後の松平定信登場!

2025年01月13日 | 大河ドラマ・時代劇
 平賀源内(安田顕)。
 讃岐の人らしいが、洒脱な感じがカッコいい。
 蘭学をベースに「本草学」「地質学」「医者」「殖産事業家」「戯作者」「浄瑠璃作者」「俳人」「蘭画家」「発明家」とさまざまな顔を持つ。
 さまざまな号を使い分けて、用いた号は「鳩渓」「風来山人」「悟道軒」「天竺浪人」など。
 (wikiより)
 作中の「貧家銭内」は源内の著作に出て来る登場人物の名前らしい。
 物事の本質を理解しつつ、洒落で生きている人ですね。

 そんな源内に「吉原再見」の序文を書いてもらうために、蔦屋重三郎(横浜流星)は奮闘。
 だが重三郎の力では口説き落とせなかった。
 重三郎は行動力はあるが、まだ未熟なのだ。

 一方、花魁・花の井(小芝風花)。
 源内の出した「瀬川」のヒントを読み解き、見事源内を口説き落とした。
 さすが一流の花魁だ。
 相手の思っていること、望んでいることを読み取った。
 この行動の理由には、「吉原の花魁として負けられない」という心意気。
 これまたカッコいい!
 そして「重三郎を助けたい」という思いがあったのだろう。
 おそらく花の井は重三郎のことが好き?

 源内の書いた序文は、
 吉原にはさまざまな女郎がいて、それぞれに趣があってよろしい、というものだった。
 花の井に「ちょっと空気にあたって来る」と言って吉原を歩いてまわって観察し、
 序文を書いて花の井に預けて去っていく。
 源内はやっぱり洒脱だねえ。
 吉原の大門が閉まって江戸の街を歩いていく姿もよかった。

 重三郎は未熟だが、カラッとした江戸の商人で清々しい。
 ……………………………………………………

 江戸城パートでは、田沼意次(渡辺謙)と老中・首座の松平武元(石坂浩二)が対立。

 意次の考え方は、世の中はすべてカネ。
「カネの手綱を握ること」で権力を維持し、世の中を動かせると考えている。
 そのために新しい貨幣を造っている。

 一方、松平武元。
 武元が拠り所にいているのは「武士の権威」。
 これで民を統治することができると考え、
 意次のやっていることは「商人のやることで武士のやることではない」と批判している。
 でも、これは時代遅れなんですよね。
 商人は豊かになり、武家の言うことを聞かない。
 年貢の米では札差(中間業者)が間に入って、銭に替えてもたいした額にはならない。
 時代は商人、カネが物を言う時代なのだ。

 そんな対立軸の間に、新しい人物が登場。
 田安賢丸(たやす まさまる/寺田心)。
 彼は松平武元側だ。
 武士は武士らしく、武家の権威を守れ、と考えている。
 そんな賢丸はのちの「松平定信」。
 質素倹約の財政再建派、「寛政の改革」をおこなった人物だ。

 田沼意次と松平定信の対立は、現在の「積極財政派」と「緊縮財政派」の対立に似ている。
・積極財政派~お金を刷って経済を活性化させよう。減税も視野。
・緊縮財政派~プライマリーバランスを重視して無駄な予算は削っていく。増税も視野。

 さて、さまざまな人間が絡み合って面白くなって来ました。

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「蟹工船」② 小林多喜二~労働者たちは国家に裏切られる……。しかし立ち上がる。

2025年01月12日 | 小説
『蟹工船』のラストは以下のような形で描かれる。

・ストライキをすることで、労働者たちは浅川に労働条件の改善を迫る。
・浅川は明日返事をすると言ってその場を収める。
・翌日、蟹工船を守っていた海軍の駆逐艦がやって来る。
・労働者たちはこれを歓迎する。
「駆逐艦は俺達国民を守る帝国の軍隊だ。俺達の状態をくわしく説明すれば有利に解決がつく」
・しかし──
 やって来た軍隊が労働者に浴びせた言葉は次のようなものだった。
「不届者」「不忠者」「露助の真似する売国奴」
 軍隊はストライキを主導した労働者の逮捕した。
 結果、ストライキは失敗に終わる。

 国家は資本家の味方であり、国民の味方ではなかったのだ。
 労働者たちは国家に裏切られた。

 ただ、『蟹工船』はここで終わらない。

「今に見ろ。今に見ろ」
「よし、今度は一人残らず引き渡されよう! その方がかえって助かるんだ」
「もう一度やるんだ! 死ぬか、生きるか、だからな」
「ん、もう一度だ!」

 労働者たちは屈しなかった。
 今度は戦い方を変えて戦おうと決心した。

 そして後日談としてこんなことが語られる。
・サボやストライキは博光丸だけでなく、他の船でもおこなわれていたこと。
・浅川や雑夫長が管理能力を問われ、缶詰製造に多大な影響を与えたという理由で首になったこと。
 解雇された浅川が「ああ、俺ア今まで、畜生、だまされていた!」と叫んだこと。
・「組織」「闘争」を経験した漁夫、雑夫らが警察の門から色々な労働の颯へ、それぞれ入り込んで行ったこと。

 浅川たち幹部が、その上の者たちに拠って切られる所が皮肉だ。
「組織」「闘争」を経験した労働者がそれぞれ労働運動に入っていった、というラストは
 小林多喜二の希望・願いなのだろう。
 ………………………………………………………

 この作品、自然と人間の戦いの描写も秀逸だ。
 たとえば──

 博光丸は函館を出港した。
 留萌(るもい)の沖あたりから雨が降り出し、稚内に近くなるに従って波のうねりがせわしくなった。
 宗谷海峡に入った時は三千トンのこの船がしゃっくりにでも取りつかれたようにギクシャクした。
 船が一瞬宙に浮かび、グウと元の位置に沈む。船が軋み、雑夫達は船酔いでゲエゲエした。
 糞壺の窓から樺太の山並みが見えるようになると、棚から物が落ち、船の横っ腹に波がドブーンと打ち当たった。
 強風でマストが釣り竿のようにたわみ、甲板に波が襲い、機関室の機関の音がドッドッドッと響き、時々波の背に乗るとスクリューが空廻りした。
 カムサッカの海は、よく来やがった、と待ち構えていたように挑みかかって来た。
 波は荒れ狂い、空は猛吹雪で真っ白になっている。
 そんな中、雑夫や漁夫は蟹漁で使う八隻の川崎船が波や風にもぎ取られないようにロープで縛る作業を命じられていた。
 細かい雪がガラスの細かいカケラのように、甲板に這いつくばっている漁夫達の顔や手に突き刺さる。唇が紫色になる。

 こんな描写に触れるのも小説を読む楽しみである。

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「蟹工船」 小林多喜二~プロレタリア文学の代表作。権力者たちはなぜ「赤化する社会」を怖れたのか?

2025年01月10日 | 小説
「おい、地獄さ行ぐんだで」

 蟹工船はオホーツク海で猟をし、船の中で加工して缶詰にする工場付きの船である。
 ここで働くのは貧しい農民や食い詰めた者たち。
 ここでは人は軽い。
 道具でしかなく簡単に使い捨てられる。
 蟹工船の幹部たちにとっては、人が漁で死ぬよりも「川崎」という小舟が失われることの方が
 重大事だ。
 船長などの幹部は船のサロンで豊かな生活している。
 一方、労働者たちは暗くて悪臭のする船底だ。

 蟹工船の管理監督・浅川はこんなことを言って労働者たちを鼓舞する。

「言うまでもなくこの蟹工船の事業は一会社の儲け仕事ではなく国際上の一大問題なのだ。
 我々日本帝国人民が偉いか、露助(ロシア人)が偉いか。一騎打ちの戦いだんだ」
「我がカムサッカの漁業は国際的に言って優秀な地位を保っており、
 日本国内の行き詰まった人口問題、食料問題に対して重大な使命を持っているのだ。
 俺達は日本帝国の大きな使命のために命を的(まと)に北海の荒波をつっ切って行くのだ」

 この浅川の言葉に労働者たちは感激して必死に働く。
 しかし、次第に疑問を持ち始める。

「帰りてえな。カムサッカでァ死にたくないな」
「浅川の野郎ば、殴り殺すんだ!」
「日本帝国のためか、いい名義を考えたもんだ」
「いくら働いても俺達のものにならない」

 疑問を持つきっかけもあった。
 たまたまロシアの海岸に漂着した「川崎船」の労働者たちが、
 ロシアの中国人通訳からこんなことを言われるのだ。

「あなた方、貧乏人。だからプロレタリア。
 金持ち、あなた方をコクシする。金持ち、だんだん大きくなる。
 あなた方、貧乏人になる。働かない金持ち、えへん、えへん。
 プロレタリア、一人、二人、三人、百人、千人、五万人、十万人、手をつなぐ。
 みんな強くなる。働かない金持ち、にげる。
 プロレタリア、一番偉い」

 こうして労働者たちは、他の工場で「ストライキ」というものが行なわれていることも知って、
「サボタージュ」、つまり「サボる」ことを始める。
 これには浅川たちも困り始める。
 ひとりふたりなら力で押さえつけられるが、全員だとさすがに無理。
 漁が滞り缶詰ができなければ今度は監督者の浅川たちが会社から責められる。

 かくして労働者たちは「労働条件の改善」を浅川に飲ませることに成功するのだが……。
 ………………………………………………………

『蟹工船』(小林多喜二・著)は「プロレタリア文学」の代表作である。

 現在も格差社会はどんどん進行していて、『蟹工船』は決して古くない。
 それどころか力を持っている。
 プロレタリア文学の登場に、「芸術」を志向する芥川龍之介は作家として危機感を抱いたらしい。

 上記の中国人通訳の言葉は「資本主義」や「社会主義革命・運動」とは何か? を的確に表わしている。

 資本主義とは──
「金持ち、あなた方をコクシする。金持ち、だんだん大きくなる。
 あなた方、貧乏人になる。働かない金持ち、えへん、えへん。」

 社会主義革命や運動とは──
「プロレタリア、一人、二人、三人、百人、千人、五万人、十万人、手をつなぐ。
 みんな強くなる。働かない金持ち、にげる」

 さて、皆さんは上記のことをどう考えられるだろうか?
 時代遅れだ。
 これだからパヨクは困る、と思われるだろうか?

 ただ、この点を押さえないと、
「戦前の昭和」「アメリカの50~60年代」「日本の学生運動」を理解できない。
 赤化する社会を権力者がなぜ怖れたのか、がわからなくなる。

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「翔んで埼玉2~琵琶湖より愛をこめて」~上級の大阪・京都・兵庫と下級の滋賀・奈良・和歌山!

2025年01月08日 | 邦画
「翔んで埼玉~琵琶湖より愛をこめて」を観た!

 物語は──
 全国を大阪の植民地にする作戦が進行している。
 謎の白い粉をたこ焼きなどにして食べると関西人化してしまうのだ!笑
 たとえば意識は抵抗しているのに「なんでやねん」とツッコんでしまうとか。笑
 作戦を推進しているは「大阪」「京都」「兵庫」の上級・関西グループ。
 白い粉をつくるために甲子園の地下で強制労働させられているのは、
「滋賀」「奈良」「和歌山」の下級・関西グループ。
 ここに埼玉の麻実麗(GACKT)がやって来て、滋賀・奈良・和歌山の仲間と共に
「植民地作戦」を打ち砕く。
 ………………………………………………

 第1作「翔んで埼玉」を観た時、この作品は「自虐のススメ」を描いていると思った。
 自らを笑い飛ばし、最終的に自己肯定する。
 ダ埼玉で何が悪い?
 海がなくて何が悪い?
 誇るべきものがなくて何かが悪い?
 既存の価値観の逆転だ。

 自らの欠点やマイナスに悩んだり、悲しんだりするよりはそれを楽しもう!
 笑い飛ばそう!
 笑いはすべてを浄化する。
 そんなメッセージだ。

 実際、「翔んで埼玉2~琵琶湖より愛をこめて」は「琵琶湖以外に何もない滋賀」で大ヒットしたらしい。
 滋賀の方は素晴しい。
「自虐」をよく理解していらっしゃる。
 …………………………………………

 今作はパロディ作品でもある。

・埼玉と東京の関係
・埼玉と千葉の対立
・大阪の東京へのライバル意識
・京都、兵庫のエリート意識
・琵琶湖で大阪に水を供給しているという滋賀の自負
 こんな現実(違っていたらすみません)を誇張し、パロディ化することで浮かび上がらせている。

 あと見て思ったのが、このシリーズは『パラレルワールド』なのではないか、と思った。
「われわれの住んでいる世界」と「麗たちの住んでいる世界」は平行世界なのだ。
 ただ、このふたつの世界はときどき交差して同じ現実を共有する。
 パート2で言えば、
「大阪都構想の挫折」だとか「数年後に控えた万博」などが交差して共有した現実だ。

 まあ、wikiに拠れば、映画版は「伝説世界」と「現実世界」という解釈らしいんだけど、
 パラレルワールドの方がスッキリする気がする。
 

※追記
 三重県は滋賀・奈良・和歌山と同じ下級グループだったが、
 それが嫌で「関西」から「中部」に鞍替えしたらしい。笑

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「べらぼう」 第1回「ありがた山の寒がらす」~面白さを追求し華やかな江戸文化をつくった男

2025年01月06日 | 大河ドラマ・時代劇
 黄表紙、浮世絵、狂歌──面白さを追求し華やかな江戸文化をつくった男の話である。

 第1回は主人公と登場人物たちの紹介。

 主人公・蔦屋重三郎(横浜流星)は困難に立ち向かう熱い男。

「天下御免」「幕府公認の遊郭」「公界」だった吉原も陰りが出て来た。
 品川や新宿などの宿場でも岡場所ができたからだ。
 客は高いお金を出して、わざわざ吉原で遊ばなくていい。
 安い女郎なら宿場にたくさんいる。
 結果、「呼び出し」のかかる花魁以外の遊女は貧困。
 病にかかれば使い捨て。
 完全な格差社会。
 和泉屋、駿河屋などの女郎屋の主人もそれでいいと思っている。

 そんな吉原の現状に異を唱えて行動するのが重三郎だ。
 重三郎は知恵を使って老中・田沼意次(渡辺謙)の屋敷に入り込み、
 品川・新宿などの岡場所を取り締まってくれ(警動)と直談判。

 ここでの意次と重三郎のやりとりが面白い。

「宿場が栄えるには何が必要か?」
「女と博打です」
「ではそれらを取り締まったら宿場が廃れる。宿場がなくなれば人の行き来や流通が滞る。
 つまり運上冥加(営業税)が減り、経済滞る」
「おまえは吉原に客を呼び込む工夫をしたのか?」
 こう問われた時の重三郎のリアクションが素晴しい。
「今のお言葉で目が覚めました。『ありがた山の寒がらす』にございます」

 重三郎は意次が語った「経済の論理」を即座に理解したのだ。
「客を呼び込む工夫をしたのか?」という問いかけもたちまち反応し、吸収した。
 これが主人公なのである。
 老中様が訴えを聞いてくれなかった、で引き下がるのが普通の人。
 吸収して客を呼ぶ工夫を考えるのが主人公。

 重三郎は客を呼び込むために「女郎たちのガイドブック」を作るらしい。
 そして「女郎の錦絵」
 江戸の出版王の始まりである。
 ………………………………………………

「文化」と「経済」
 1月2日のブログでも書いたが、これは僕の今年のテーマなので今作はドンピシャ。
 どう描かれるか楽しみだ。
「江戸文化」ってすごいと思うんですよね。
 浮世絵、歌舞伎、寿司、天ぷら──現代日本が誇る文化はすべて江戸発祥だ。
 ただ「困難に立ち向かう熱い男」というのは主人公として定番すぎるので気になる。

 妓楼の旦那衆が魅力的だ。
 貧困の女郎を助けろ、と正論を吐く重三郎を無視。
 自分たちは「忘八」、人でなしだからと言い放ち、歌を詠む。
 こう書くと完全な悪役だが、彼らは「人でなし」であることを引き受けて生きているのだろう。
 彼らには覚悟がある。
 今後、どんな言動をするのだろう?
 ちなみに「忘八」とは「八つの徳を忘れた外道のこと」
 八つの徳とは「仁」「義」「礼」「智」「信」「忠」「孝」「悌」。

 今回は吉原の風俗も紹介された。
・大尽、大通、馴染み、一見、鴨~「大通」という言葉は初めて聞いた。
・引手茶屋、待合、妓楼~高級遊女と遊ぶには茶屋や待合で酒宴をしてから妓楼に案内される。
・公界~吉原では武士も町民も関係ない。妓楼に上がるとき武士は刀を預ける。
・絢爛豪華な花魁道中
 これこそが「吉原の文化」
 粋とか野暮とかも描いてほしい。
 今作の脚本は森下佳子さん。
「JIN」の脚本家さんだから吉原には精通している。

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2025年の日本経済~日本には「文化・エンタメ」という輸出品が残っていた!

2025年01月04日 | 事件・出来事
 スマホのAI・GEMINIを仕事やプライベートで使っている。
 結構、便利! 使える! 面白い!
 質問は音声入力。
「○○○について教えて」
「この文章を別の表現で言い換えて」
 そうすると、答えを三段階くらいで教えてくれる。
 一段階目は基礎的なこと。一般的な表現。
 二段階目は少しディープに。
 三段階目は少し違った角度から。

 最近では、見聞きした言葉を適宜調べたり、
 イメージがあるが、適当な言葉が見つからない時にGEMINIを使っている。

 時代はまさにAIの時代。
 画像生成、映像生成、音楽生成、ヴァーチャルヒューマン──
 AIを使いこなせるか否かで、生活の豊かさ・人生の戦略が違って来るように思える。
 もっと使いこなせるようになりたい。

 ちなみに年末特番のWBS(ワールド・ビジネス・サテライト/テレビ東京系)に寄ると、
 2030年の世界のAIの市場規模は77兆円になるらしい。
 日本は乗り遅れてはいけない。
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 WBS特番について少し。

 家電で破れ、スマホで後塵を拝し、今や日本の輸出品は自動車だけになった感じ。
 お正月のテレビではSUZUKIのCMがやたら流れ、続いてHONDA、日産のCMが目に入るが、
 日本の自動車業界はどうなんだろう?

 では日本の輸出品は自動車だけなのか?

・インバウンド
 昨年の外国人観光客は3300万人でコロナ前の3100万人を越えた。
 まだまだ伸びる外国人観光客。
 業界予測では倍の6000万人の可能性があるとか。
 その際に問題となるのが、今でもそうだが、オーバーツーリズム。
 6000万人を受け入れるには観光地の分散が必要。
 日本全国津々浦々、あまねく外国人観光客に来ていただくのだ。
 石破総理大臣は「地方創生」を重要な政策課題にしているが、ぜひがんばってほしい。

 星野リゾートは海外での「日本の温泉旅館」の展開を考えているらしい。
 1980年代のバブル期にも日本の企業が海外のホテルを買収したことがあったが、失敗。
 星野リゾートが「日本の温泉旅館」を展開する勝算は──
「寿司」「天ぷら」「温泉」などの日本文化が外国人に受け入れられていることがあるらしい。

・エンタメ
 日本のゲーム・映像・コミックなどのコンテンツの輸出額は5.3兆円。
 これは半導体などの輸出額を上まわっているらしい。

「ちいかわ」「おぱんちゅ」「ハロー・キティ」などのキャラグッズも人気で、
 これらを求めて外国人が原宿などに来ているとか。

 その他、日本酒、地域の名産品、農作物など、外国で売れる可能性のあるものはたくさんある。
 YOASOBIなどのJ-POPや80年代シティポップスなどもそう。
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 GDPの順位がどんどん下がり、衰退していると言われている日本経済。

 しかし上記のように海外で売れる可能性のあるものはたくさんある。

 2025年 悲観ばかりせず、前向きにがんばって日本経済を復活させましょう。

 その基本は「文化」を売ること。
 外国人は「日本文化」に注目している。

 そして「文化の輸出」は相互理解を生み、平和にも繋がる。
 あるいは、
 経済的に密接な繋がりがあれば、おいそれと国交断絶や戦争をしようと思わない。
 なぜなら輸出国がなくなれば国内が困るからだ。

 日本には「文化・エンタメ」という優れた輸出品が残されていた!

コメント (2)
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