平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

「プロジェクト・シャーロック」 我孫子武丸~もし犯罪捜査専用の名探偵AIがつくられたら?

2023年03月31日 | 短編小説
 もし、AIが「名探偵」のように真犯人を推理することが出来たら──。
 暇を持てあましていた警視庁総務部情報管理課の木崎誠は「犯罪捜査専用のAI」を作り始めた。
 現在、警視庁には犯罪のデータベースはあるが、検索機能しか持っていない。
 これでは到底「名探偵」にはならない。
 プロジェクト名は「プロジェクト・シャーロック」
 シャーロックとはもちろんシャーロック・ホームズのことだ。

 名探偵のAIをつくるにあたり木崎はこんなことを考えた。

・犯人を当てるフーダニット(Who done it?)。
・アリバイや犯行方法を当てるハウダニット(How done it?)。
・動機を考えるホワイダニット(Why done it?)。
・現場の乱れ方や血痕の飛び散り方から犯行時の犯人と被害者の動きを3Dモデルで再現。
・時刻表や乗り換えアプリとの連動~これで鉄道トリックの大半は解決できる。
・画像解析機能
 犯行現場の画像から被害者の来ていた服のメーカーや本棚にある本のタイトル・出版社名を検索。
 糸のような残留物も見つけることができる。
・推理の方法は帰納法より演繹法。
 演繹法の方がコンピュータには適している。
 ちなみに
「帰納法」とは、さまざまな物証やデータから真実を導く方法。
 ホームズが依頼者を観察して、依頼者がどんな人物かを推理する方法だ。
「演繹法」とは簡単に言えばシミュレーション。
 今回の場合はすべての容疑者の行動をシミュレートし、犯罪の実行可能性を判定する。
 可能性がゼロなら、その容疑者を捜査対象から外していく。

 木崎のつくった「名探偵AI」はさらに進化する。
 このAIをオープンにしたので、世界中の「科学捜査機関」や「鑑識」がデータを提供したのだ。
「推理小説マニア」は過去の推理小説のトリックや定石をどんどんUPしていった。

 かくして木崎のつくった名探偵AIは犯罪捜査で有効なツールになる。
 AIの名前は「シャーロック」では直接的過ぎるので、
 ギリシャ語の「S」に相当する「シグマ」と呼ばれるようになった。

 そんな時、「シグマ」の開発者の木崎が殺されてしまう。
 データ提供などで「シグマ」育成に関わった世界中の協力者も次々と殺される。
 犯人は誰なのか?
 動機は名探偵AI「シグマ」が優秀になったら困る存在。
 つまり犯罪者たちだ。
 ……………………………………………

 時代はもうAIの時代。
 ChatGPT。
 マイクロソフトのEDGEにもbing・AIが搭載された。
 今後はワードやエクセルなどにも搭載されるらしい。

 そんな中、登場したのが、この作品『プロジェクト・シャーロック』だ。
「シグマ」を作る際に木崎が考えたことは技術的には可能なので、
 将来、刑事や探偵が要らなくなる時代が来るかもしれない。
 ミステリーも今後、AIが活躍する作品がどんどん出て来るだろう。
 …………………………………………………

 さて以下はネタバレ。
 その作品にはなかなか面白いオチがある。
 名探偵AIに対抗するために犯罪者たちは何をしたか?
 ネタバレでも知りたい方は以下をご覧下さい。




 名探偵AIに対抗するために──




 犯罪者たちは──




 過去の犯罪のノウハウを集めた──



 犯罪者AIをつくる!
 そのAIの名は「モリアティ」。
 もちろん、モリアティとは犯罪社会のナポレオン、ホームズのライバルの数学者の名だ。
 見事なひねり方ですね。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ブラッシュアップライフ~スウイングする会話! 巧みな伏線! さまざまな遊び! 新しいスタイル!

2023年03月29日 | その他ドラマ
 安藤サクラ、夏帆、木南晴夏がしゃべりまくる!
 後半から水川あさみも参加!
 その他、黒木華、三浦透子、志田未来らが脇をかためる。
 中堅女優大集合の見事なキャスティングだ。

 彼女たちがしゃべるのは──
・『ビーチボーイズ』『ナースのお仕事』など昔のテレビドラマのこと。
・街にラウンド・ワンができたこと。
 これでプリクラやカラオケが出来るようになった。
・最近の同級生の動向。
 誰々がつき合って別れたとか。
・成人式の後、みんなでカラオケに言ったこと。
 その時、同級生の福ちゃん(染谷将太)がレミオロメンの『粉雪』を歌ったか、どうか。
 など、どーでもいいこと。

 この饒舌な意味のないトークが楽しい。
 人はこんなふうにして人生を終えていくのだ。
 同時に随所にくすぐりがあり、役者さんの会話がスウイングして全然退屈しない。
 
 主人公の近藤麻美(安藤サクラ)は来世を人間として生まれ変わるために、
 人生を何度もやり直し、徳を積もうとする。
 徳を積むために麻美が奮闘するミッションは──
・保育園の先生の不倫の阻止。
・同級生の不倫の阻止。
・同級生の福ちゃんがミュージシャンを目指すのを阻止。
・薬の飲み合わせの悪さ指摘して祖父を長生きさせる。
・中学時代の社会科教師の痴漢冤罪の阻止。
 と、まあ、どちかかというと地味なミッション……。

 こんなドラマ世界なのに全10話をイッキに見れてしまうのは、
 役者さんの演技と脚本の力だ。

 遊びも山のようにある。
 3週目の人生で麻美はテレビ局のドラマのAPをやる。
 その撮影現場で、
『Woman』『家売る女』の臼田あさみさん、
 同じく『家売る女』の仲村トオルさん、
『花咲舞が黙ってない』の塚地武雅さんが実名で登場する。
『リバーサルオーケストラ』の撮影で前野朋哉さんが演技しているシーンも出て来る。

 5週目の人生では麻美はパイロットになるのだが、
 航空学校のくだりなどは完全に朝ドラ『舞いあがれ!』?

 そして巧みな伏線。
 テレビのドラマの企画会議で、
「不倫を阻止するというドラマは地味だ」
「もっとたくさんの人を救う内容に出来ないか」
 という会話が出るが、それが後の伏線になったりする。

 実に新しいドラマだった。
 脚本はバカリズムさん。
 お見事です!

 日テレの日曜ドラマ枠は実験的な作品が多いが、
『ブラッシュアップライフ』はまさにそれ。
 新しい試みをいろいろしている。
 次作はオードリーの若林さんと南海キャンディーズの山里さんのドラマらしい。
 どんなドラマを見せてくれるのか?


※追記
 カラオケで『粉雪』を歌う加藤君がジワる……!

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

どうする家康 第12回「氏真」~そなたは降りるな。そこでまだまだ苦しめ。

2023年03月27日 | 大河ドラマ・時代劇
 自分がひとかどの武将であることを証明するために懸川城で奮戦する氏真(溝端淳平)。
 その背景には、
・父、今川義元(野村萬斎)に「そなたに将としての才はない」と言われたこと。
・家康(松本潤)への劣等感がある。

 氏真はこんな荷を背負ってたんですね。
 だから山にこもって武術の修行をしていたし、
 妻の実家の北条家に逃げることもしなかった。

 そんな氏真に妻の糸(志田未来)は言う。
「降りて楽になりましょう。糸は蹴鞠をしているあなた様が好きでございます」
 氏真はこれで囚われから解放される。
「余はなにひとつ事をなせなかった。
 しかし、妻ひとりを幸せにすることはできるかもしれん。笑わば笑え」
 仏教で言う「諦め」ですね。
「笑わば笑え」という言葉がすごくいい。

 そして氏真は、自分も氏真のようになりたい、と語る家康に言う。
「そなたはまだ降りるな。そこでまだまだ苦しめ」

 人生を降りること。
 荷を降ろすこと。
 人はどこかでこのことを考えなければならないのかもしれない。
 歳を取るし気力は衰えるし、いつまでもギラギラではいられない。
 自分の背負っているものが重く感じて来た時は少しずつ降ろしていくのが、正しい生き方だろう。

『人の一生は重き荷を背負いて遠き道を行くがごとし』
 家康の遺訓だが、家康はまだまだ荷を背負って生きていかなければならないようだ。

 氏真、家康、糸、瀬名(有村架純)、そして前回の田鶴(関水渚)。
 彼らには共通の思い出があるようだ。
 それは雪が降った時の今川館での思い出……。
 それは美しいが、同時に儚い……。
 楽しいが、哀しい……。

 情趣のあるいい作劇だ。


※追記
 一方、この作劇はどうなんだろう?
 まず回想による説明が多すぎる。
 まあ、家康の人生は長丁場だから、
 いちいち氏真のシーンを入れ込んでいたら物語が進行しないんだけど。
 あとは、義元の言葉。
「おのれを鍛え上げることを惜しまぬ者はいずれ必ず天賦の才ある者を凌ぐ」
 お説教っぽくて暑苦しい。
 史実が変わってしまうので出来ないが、
 この言葉を聞いた氏真が家康と共に現実と闘うという選択肢も出来てしまう。

コメント (12)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高市早苗の問題を冷静に考えてみた~日本の社会と政治は完全にぶっ壊れたな……。

2023年03月25日 | 事件・出来事
 最近「量子力学」と「時間と空間」「僕たちの見ている現実とは何なのか?」について考えている。
 だから高市早苗のことなんか、正直どうでもいい。
 宇宙や世界の真実に比べたら小さい、小さい。笑
 でも、ちょっと考えてみよう。

 仮に高市早苗氏の主張していることが全部正しいとすれば、こんなことが言える。

①高市早苗、人望ねえな。
 総務省の役人が捏造文書を作って貶めようとするほど嫌われてたのか?
②霞ヶ関の官僚がそんなことするか?
 捏造がバレたら自分のキャリアが台なしになるのに。
③この件で貶められているのだから、高市氏は名誉毀損で捏造官僚を訴えればいいのに。
④ていうか、放送法の解釈変更をたったひとりの判断でやったのか?
 それってとんでもないことだぞ。
「暴力団」と揶揄された磯崎総理補佐官でさえ、総務省の役人と半年以上かけてやり合ったのに。
 あの安倍晋三でさえ、集団的自衛権の時、内閣法制局の人事を変えたり、国会やマスコミを巻き込んで、スッタモンダをやったのに。
 高市さん、あなたは何様だ?

 だから、高市早苗氏の言うことはどう見ても納得できないのである。
 官僚の皆さんも誠実に仕事をやっただけなのに、捏造呼ばわりされて可哀想に……。
 今後、高市氏の下で働きたいと思う官僚はほとんどいないだろう。

 この10年で日本の社会と政治はとんでもなく壊れた。
 秩序が壊れ、混沌とし、エントロピーが高くなっている。
 この混沌はいったいどこにいくのだろう?

コメント (9)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「夜明け前」② 島崎藤村~明治維新に裏切られた半蔵は次第に頭がおかしくなっていく。半蔵は純粋すぎたのだ。

2023年03月24日 | 小説
 神武の創造──戊辰戦争も終わり、ついに明治の世がやって来た。
「俺もこうしちゃいられない」
 半蔵は希望で燃えていた。

 しかし、馬籠宿の人たちは醒めていた。
 新政府の財政状況は厳しく、発行する紙幣は信用がなかった。
 外国との貿易と相次ぐ国内での戦争で物価も上がっていた。
 徳川慶喜が恭順を示したのに討伐令が出たことで、
 庶民は「俺は葵の紋を見ると涙が出る」と徳川に心を寄せた。
 半蔵は「新政府の信用はそんなに薄いのか」とがく然とする。

 半蔵も新政府に裏切られた。
 新政府は、木曽五木(ごぼく)と呼ばれる「ひのき」「さわら」「あすひ」「高野まき」「ねずこ」といった高級木材のある山を官有林にした。
 徳川の世では、許可された山であれば、落ちた枝などを炭や薪にすることは許されていたが、民はそれが出来なくなった。
 半蔵は馬籠の「戸長」として抗議し、結果「戸長」を免職されてしまう。

 東京でも裏切られた。
 半蔵は教部省の役人として東京で働くことになった。
 そこで見た東京の風景は西洋文明が入り込んだものだった。
 神道、仏教を管理する教部省の役人はあろうことか、国学の大家の本居宣長をからかい、貶めていた。

 たまりかねた半蔵は驚くべき行動に出る。
「訴人だ! 訴人だ!」
 神田橋で帝の行幸があると聞いた半蔵は、自分の思いを書いた扇子を持って帝の馬車の前に飛び出した。
 扇子には西洋文明の侵入を憂うこんな歌が書かれていた。
『蟹の穴防ぎ止めずば高堤(たかづつみ) やがて悔ゆべき時なからめや』

 半蔵の行動は、憂国の行動として贖罪金を支払うことで許されたが、
 周囲の反応は冷たかった。
 妻は泣き崩れ、馬籠の住人は「気が触れた」と噂し合った。

 半蔵の精神がおかしくなったのは、この頃からだった。
 半蔵は息子に家督を譲り、神社の宮司として信州に赴任したが、
 狂信的に神道の教義を説いたので、村人たちは半蔵をあざ笑った。
 半蔵は教育で日本を美しい国にしようと思ったのだが、またしても裏切られた。

 馬籠に戻ってきた半蔵はますますおかしくなる。
「庭に変な奴がいる。俺を狙っている。誰か俺を呼ぶような声がする」
 半蔵は幻覚を見るようになった。
「さあ、攻めるなら攻めて来い」
 と幻影と戦うようになった。

 そして、秋祭りの時、村の万福寺に火をつけてしまう。
 半蔵にとって、国の根本は神道であり、仏教は枝葉であり、寺は本来なら御一新で取り壊されるべき物だったのである。
 息子の宗太は急いで座敷牢を作り、頭のおかしくなった父親を閉じ込めた。
 半蔵の狂気は続き、意識はますます混濁していった。
「や、また敵が襲って来るそうな。楠木正成の屎(くそ)合戦だ」
 半蔵は楠木正成にならって、見舞いに来る客に自分の大便を投げつけた。
 幻影はますます半蔵を苦しめていった。
 ……………………………………………………………

 いやはや、壮絶な小説である。

 半蔵のモデルは島崎藤村の父親だったので、
 藤村は自分も頭がおかしくなるのではないか、と恐怖したらしい。

 結局、半蔵は五十六歳で亡くなる。
 半蔵の国学の弟子たちは墓を掘りながら、こんなことを語る。
「お師匠さまのような清い人はめったにいない」

 そう、半蔵は純粋すぎたのだ。
 自分の理想にこだわりすぎたのだ。
 純粋で、こだわりすぎたから裏切られた時の反動も大きかった。

 現実は理想を駆逐していく。
 普通の人は裏切られて、少しずつ現実と折り合いをつけていくのだが、
 半蔵にはそれができなかった。

 僕はこの作品を大河ドラマ『蒼天を衝け』が放送されている時に読んだ。
 水戸天狗党の事件など、いろいろリンクすることがあって面白かったが、
 こんなことも思った。
 渋沢栄一は明治維新で飛躍した人物だが、半蔵は裏切られて挫折した。

 明治維新の裏には、こんな物語もあったのである。

コメント (14)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「夜明け前」① 島崎藤村~和宮降嫁、水戸天狗党の敗走。木曽路にも幕末の嵐が押し寄せて来た。

2023年03月22日 | 小説
 木曽路はすべて山の中である。
 ある所は岨(そば)づたいに行く崖の道であり、ある所は数十間の深さに臨む木曽川の岸であり、ある所は山の尾をめぐる谷の入り口である。一筋の街道はこの深い森林地帯を貫いていた。


 この有名な書き出しで始まる島崎藤村の『夜明け前』。
 文庫本4巻にわたる幕末・明治の壮大な歴史小説である。

 主人公は木曽路・馬籠の宿の本陣・問屋(といや)・庄屋を務める青山半蔵。
 半蔵は「国学」を学んでいる。
 国学の根本は暗い中世の否定だ。
 つまり中世以来この国の道徳の権威として君臨している儒教、仏の道を教える仏教の否定である。
 平田篤胤ら国学者は、儒教や仏教の影響を受けない古代人の心に立ち帰って、心ゆたかにこの世を見直せと主張した。
 これが政治的に行き着く所は帝を中心にした国の形成──つまり王政復古、武家社会の否定である。

 だから半蔵は徳川の世に批判的だ。
 黒船がやって来て、不平等な通商条約を結び、
 日本国内の金銀が不当に海外に流出していることにも憤っている。
 その憤りを半蔵はこんな短歌で表現する。
『あめりかのどるを御国(みくに)のしろかねに、ひとしき品と定めしや誰』

 半蔵は、幕末の若者が皆そうであったように『尊皇攘夷』思想の持ち主なのだ。
 しかし、半蔵には本陣の家業があるため、尊皇攘夷運動に関わることが出来ない。
 半蔵は嘆く。
「こんな山の中にばかり引き込んでいると何だか俺は気でも違いそうだ。
 みんな、のんきなことを言ってるが、そんな時世(じせい)じゃない」

 そんな木曽路の半蔵にも時代の波は押し寄せて来る。

 和宮降嫁。
 将軍・家茂に嫁ぐ和宮は中山道、木曽路を通って江戸に入った。
 その通行は前代未聞の規模で、とんでもない人足と馬が駆り出された。
 帝を崇拝する半蔵はもちろん麻の裃(かみしも)をつけ、袴の股立(ももだち)を取って奔走した。

 水戸天狗党の敗走。
 天狗党は尊皇攘夷のために筑波山で戦った志士たちである。
 天狗党の中には尊皇攘夷の指導者だった藤田東湖の息子・小四郎もいる。
 しかし幕府の討伐軍に敗れた。
 敗れて木曽路にやって来た。
 だが彼らは惨めな敗走軍などではなく、
 水戸斉昭を表す『従二位大納言』の旗を奉じた、整然とした軍隊だった。
 そこには戦闘員ばかりでなく兵糧方、賄い方もいた。
 敗れた天狗党を接待することは危険なことだったが、
 半蔵は本陣の幕を張ってに自分の屋敷に迎え入れた。
 藤田小四郎は感謝して半蔵にこんな言葉を送った。
『大丈夫、まさに雄飛すべし、いずくんぞ雌伏せんや』
 だが結局、水戸天狗党は雄飛かなわず、越前・敦賀でとらえられ斬首された。
 ……………………………………………………………………

 見事な歴史小説である。
 大河ドラマ『蒼天を衝け』の渋沢栄一もそうだったが、
『尊皇攘夷』に燃える当時の若者の苦悩や葛藤がよくわかる。
 水戸天狗党の敗走軍が『従二位大納言』の旗を奉じた立派な軍隊だったなんてディティルは第一級の歴史資料である。

 とはいえ、ここまではまだ『夜明け前』の前編。
 大政奉還を経て、半蔵がいよいよ御一新(明治維新)を迎える。
 半蔵が待望した『帝を中心にした世』の始まりである。
 しかし半蔵は明治の世に裏切られ、さらなる苦悩に襲われる。

 それは次回で。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

どうする家康 第11回「信玄との密約」~もう一度、あの幸せな日々を取り戻さねばならぬ

2023年03月20日 | 大河ドラマ・時代劇
「もう一度、あの頃のよかった日々にしなければならぬ」
「もう一度、あの幸せな日々を取り戻さねばならぬ」

 過去に生きる人がいる。
 過去の美しい思い出にとらわれて前に進めない人……。
 田鶴(関水渚)がそうだ。

 田鶴は「今川家」にもとらわれている。
 家康(松本潤)に対して、
「今川様のご恩を忘れ、悪い方へ悪い方へ進んでいる」

 しかし、世の中は動いているのだ。
「今川の世は終わったのです」
「信玄は今川を見限ったぞ」
「駿府か……欲しくなって来た」
 力を失った今川家はもはや強者に喰われるしかない。
 信長(岡田准一)は足利将軍を担いで上洛を目論見、
 信玄(阿部寛)は西に進もうとしている。

 家康も過去や今川にとらわれていたら生きていけない。
「駿河と遠江、相互に切り取り次第で、如何か?」
 放っておいたら信玄に遠江を取られてしまう。
 遠江をとられたら、今度は三河が危うくなる。

 この世は純粋でまっすぐでは生きていけないのだ。
 まっすぐな田鶴は死ぬべくして死んだ。
 本人もそれがわかっているようだったが、おのれの真に殉じた。

 現在、田鶴は『椿姫観音』として祀られているらしい。
 椿は、瀬名(有村架純)いはく、「世に流されずおのれを貫く花」。
 田鶴を椿にたとえて描いた今回のエピソードはなかなか文学的だった。
 あの幸せだった頃に戻るには「死」しかなかったというのが哀しい。
『椿姫観音』は浜松にあるのか。
 一度、行ってみたい。
 ちなみに瀬名墓所「月窟廟」は、浜松城を挟んで田鶴が東、瀬名が西にあるらしい。
 ふたりの友情はこんな所にもあらわれている。

 信玄との会談のシーンは、予想どおりのフリとオチだった。
「信玄は臆病者だ」
「甲斐の虎ではなく猫だ」
「ニャー、ニャンニャン」
 そこへ信玄登場。
「わしは猫が好きだ。好きな時に寝て、好きな時に食う」
 家康たちは「ひぇ~っ!」
 忍びも配置していたし、瀬名の好きな栗も用意していたし、
 信玄の方がはるかに格が違う。
 お茶をお盆に乗せてやって来た時は笑ってしまったが……。

 白兎はまだまだ苦労しそうだ。

コメント (12)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

どうするインボイス!~当座、登録を見送ろうと思う。現状は法律違反ではないし

2023年03月19日 | 事件・出来事
 3月末が近づいて、ちらほら発注先から「インボイスは登録したか?」と連絡が来るようになった。

 インボイス制度。
 いろいろな説明が流布していてわかりづらいが、個人事業主に限って単純化すれば──
『今まで消費税込みで請求書を出していた場合、
 1000万以下の事業者は消費税分の支払いを免除されていたが、
 今年(2023年)の10月1日から支払わなくてはならなくなる』
 というものだ。

 さて、どうする?
 僕のような個人事業主にとっては実質「増税」だ。
 請求書作成も面倒になりそう。
 だから、3月末〆切の申請は
 様子見で見送ろうと思う。
 現状、登録しなくても「法律違反」ではないし。

 国税庁の発表に拠ると、
 昨年末までの、個人事業主の登録者数は23.7%らしい。
 告知が徹底していないせいもあるが、まだまだ低い。
 僕と同じように「勘弁してくれよ」と思っている人も多いのだろう。
 確定申告を経て、どれくらい増えるのか?

 中止を求める声明を出している団体は──
・日本脚本家連盟
・日本児童文学者協会
・日本シナリオ作家協会
・日本図案家協会
・日本美術家連盟
・日本美術著作権連合
・日本漫画家協会
・日本アニメーター演出協会
・日本俳優連合

 登録者数は23.7%と低いし、上記の団体が反対しているし、
 粘れば、見直しの可能性が大いに出て来る。

 野党政治家もがんばっている。
 れいわ新選組と共産党はインボイス導入に反対だ。
 立憲民主党も原口一博さんらは反対を表明している。

 個人事業主もそうだが、インボイス導入で、零細下請け企業はますます苦しくなる。
 原材料費高騰、価格転嫁できないなどの現状でインボイスが導入されれば、
 下請け企業はどうなってしまうのか?
 個人事業主や下請け企業って日本経済を支える上で重要だと思うんだけどな~。

 というか現在、必要なのは「減税」じゃないのか?
 さまざまな形で税金を取られて使えるお金が少ないから、
 日本はいつまでたっても不況から脱出できない。
 現在、世の中はインフレ状態になっているが、これは原材料費が上がっているからで、
 給料が上がってインフレになっているわけではない。
 減税は一番の経済対策だと思うんだけどな~。
 増税してのバラまきは砂漠に水を撒くようなもの。
 この意味でもインボイス導入は反対だ。
 
 ただ、登録見送りに関しては十分に注意して下さい。
 僕の場合は発注先と、それなりの信頼関係があるので大丈夫だと思っていますが、
 登録申請を断った場合、
 発注が減ったり、消費税分を減額されたりする可能性があります。
 これらは『下請法』で禁止されている行為なのですが、
 発注減らしに関しては、いくらでも理由をつけられます。
 なので判断は発注先との関係を十分に考慮した上でおこなって下さい。

コメント (14)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

エルピス 希望、あるいは災い~世の中には「嘘をついて平気な人」と「嘘をついて壊れてしまう人」がいる。

2023年03月17日 | 推理・サスペンスドラマ
『エルピス 希望、あるいは災い』を一気に見た。
 サブスクのいい所はこれなんですよね。
 面白いドラマやアニメを一気に見られる。

 作品は女子アナウンサーの浅川恵那(長澤まさみ)と若手ディレクターの岸本拓朗(眞栄田郷敦)が、ある連続殺人事件の冤罪を晴らしていく物語だ。
 しかし彼らが担当しているのは『フライデーボンボン』という深夜のバラエティ番組。
 おまけにこの事件は大物政治家の絡んでいる案件らしく、上から圧力がかかる。
 しかし、ここで引き下がったら、犯人とされた松本良夫(片岡正二郎)は死刑になってしまう。
 ……………………………………………………………

 世の中には「嘘をついて平気な人」と「嘘をついて苦しむ人」がいる。
 前者は政治家とかが多いかな?

 浅川恵那と岸本拓朗は後者だ。

 恵那は過去にニュース番組のアナウンサーをしていた。
 だが彼女が読んでいたのは自粛と忖度だらけの原稿。
 恵那はこのことに苦しみ、食べ物を受けつけず、食べれば吐いてしまう体になってしまった。
 自分を偽り続けていると人は壊れてしまうのだ。

 拓朗は、いじめで自殺した同級生を助けられなかったことに罪悪感を抱いている。
 これまで拓朗はこの罪悪感から目を逸らし、自分をゴマかして生きて来たが、
 冤罪事件のことを調べていく過程で、もう逃げてはいけないと決意する。

 そんな恵那と拓朗が傷つき、絶望しながらも、真実の報道をしようとする。
 偽りの自分を否定して心の中のものを吐き出す。
 恵那は叫ぶ。
「心の中の大切なものをどうして押しつぶされて生きていかなくてはならないのよ!
 これのどこに希望があるのよ!
 人として当たり前に生きていたいだけよ!」

 圧巻のドラマだった。
 BG少なめで、過剰な演出はなく、カメラは役者さんをそのまま映す。
 映画を観ているような感覚だった。

 脚本は渡辺あやさん。
『相棒』の脚本も書かれているが、社会問題を扱った内容が多い。

 タイトルの「エルピス(Elpis)」とは、様々な災厄が飛び出した「パンドラの箱」に残された「希望」あるいは「災い」の兆候のことを言うらしい。
 冤罪事件というパンドラの箱が開いてしまい、恵那と拓朗は「希望」と「災い」の間をさまようのだ。

コメント (5)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ぼっち・ざ・ろっく!~下北沢のライブハウスで活動する女子高生バンド! すべてが肯定されるやさしい世界

2023年03月15日 | コミック・アニメ・特撮
 アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』を一気に見た♪
 下北沢のライブハウスでバンド活動をおこなう女子高生の物語だ。
 下北沢はよく行くから、僕にとって馴染みの風景。
 下北沢のライブハウスにも行ったことがある。

 主人公は後藤ひとり(青山吉能)。
 通称ぼっちちゃん。
 陰キャでコミュ障で、人といっしょにいると緊張する。
 結果、いつもぼっち。
 人気者になるために3年間ギターを練習しまくった結果、プロ級のギター奏者になり、
「ギターヒーロー」の名で演奏動画をUPした結果、フォロワー3万人を獲得!
 ひとりはネットの世界では超人気者なのだ!
 でも現実世界ではぼっち……。
 そんなひとりが伊地知虹夏(鈴代紗弓)、山田リョウ(水野朔)と共にバンドを始めるが、
 他人との演奏経験がなく、緊張もあって本来の実力を発揮できない。
 最初のライブでは『完熟マンゴー』のダンボールを被って演奏し「ロックだ!」と言われる。笑

 実に魅力的な主人公設定だ。
 前半、視聴者は、ひとりがいつ「ギターヒーロー」の超絶テクニックを披露してくれるのか、ヤキモキする。
 ひとりが「ギターヒーロー」であることをバンド仲間は知らないので、いつバレるのかハラハラする。
 後半は、新宿のライブハウスで活躍するバンド「シク ハック」の酔っ払いベースの廣井きくり(千本木彩花)や路上ライブで知り合ったひとりのファンたちが加わってさらに盛り上がる。
 ちなみに僕は酔っ払いのきくりさん推しです!
 …………………………………………………………

 さて、主人公・後藤ひとりのぼっち具合はこんな感じだ。

・過去の恥ずかしい体験がフラッシュバックして精神崩壊する。
・深夜テンションのまま学校に行って後悔する。
・黒歴史は毎日更新される。
・学校では誰かが話しかけてくれるのを待っている。
・学校では誰も名前を覚えていなくて、「あの~」「おい」と呼ばれる。
・頼まれると断れない。
・学校でもジャージを着ている。
・常に猫背。寝ぐせ。死んだ魚の目をしている。
・上手くジャンプできない。
・ネットだけが自分の居場所。現実からの避難所。
・家族と広告以外のメールは来ない。
・写真も家族写真とクラスの集合写真のみ。
・インスタを始めたら自分は承認欲求モンスターになってしまうと思っている。
・ライブチケットのノルマ5枚を売る時、頭に浮かぶのは父と母と妹と飼い犬。
・ぼっちと一人好きは違う、とわかっている。
・さわやかで向上心のある人がまぶしい。
・明るい人は全員パリピだと思っている。
・海やキャンプなど、青春コンプレックスを刺激する歌は苦手。
・夏休みはいつも家にいる。
・江ノ島でトンビに襲われる。
・家に友達が来る時は「歓迎」の段幕をつくり飾り付けをする。
・家に友達が来る時はシミュレーションをして、ツイスターの練習などをする。
・遊びに来たひとりの友達を家族は「レンタル友達」だと思っている。
・体育祭は忌まわしいイベント。
・「クラスで一致団結」という言葉を聞くと意識が飛ぶ。
・学園祭でメイド喫茶をやることになったが『冥土喫茶』ならやれると思っている。

 以上が主人公・後藤ひとりの生態だが、どんな人でもいくつかは自分に当てはまるはず。
 人間は誰でも多かれ少なかれ「ぼっち」なのだ。
 こんなひとりがバンド仲間と心を通わせていくからドラマが生まれる。
 時折、覚醒して、カッコイイ超絶演奏をするからワクワクする。

 太宰治の『お伽草子』に「浦島さん」という短編小説がある。
 太宰治ヴァージョンの「浦島太郎」だ。
 そこで描かれる竜宮城は「すべてが肯定される世界」だ。
 浦島太郎は「批判のない世界」に幸せを感じて竜宮城に留まる。
『ぼっち・ざ・ろっく!』の世界もこれと同じだ。
 ひとりの言動はすべて肯定される。
 周囲は、ひとりの不器用さや生きにくさを理解していて、
 時に面白がったり、フォローしたり、
 逆に勇気づけられたりして、いっしょに歩んでいく。
 そこはとんでもなくやさしい世界なのだ!

 ギャグとやさしさがいっぱい詰まった『ぼっち・ざ・ろっく!』。
 現実に疲れた時は見てみるのもいいかもしれません。


※関連動画
 「ギターと孤独と蒼い惑星」LIVE at STARRY (YouTube)
 ひとりがついに覚醒する感動のシーン!
 ひとりが覚醒してドラムの虹夏が驚き、ベースのリョウとアイコンタクトを送り会う!
 動画のコメント欄にあったが、
 0:50でリョウがヴォーカルの喜多ちゃんの歌い出しの合図を出している!
 細かい所まで気を配っている、すごい作画だ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする