平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

「アルキメデスの大戦」~「数字はウソをつかない」が「人間はウソをつく」。ここに人間社会の悲喜劇が生まれる。

2024年06月20日 | 邦画
 空母VS戦艦。
 来たるべき戦争で有効なのはどちらなのか?

 山本五十六(舘ひろし)と永野修(國村隼)は空母派。
 嶋田繁太郎(橋爪功)と造船中将・平山忠道(田中泯)は戦艦派。
 戦艦派の主張の根拠は──
「戦艦こそが日本海軍の象徴である」
「砲撃戦こそ日露戦争以来の日本海軍の伝統である」
「巨大戦艦を目の当たりにすれば敵は怖じ気づくだろう」
「戦艦は美しい」
 
 こんな理由で物事は決められていくんですね。
 戦闘機による戦いこそが次の戦い方なのに。
 現在の日本の防衛は大丈夫なのだろうか?
 今になって「ドローンが重要」とか言っているけど……。

 さて、空母VS戦艦。
 山本五十六ら空母派は「空母の建造費より戦艦の建造費が安いこと」に疑問を持つ。
 戦艦派の見積もりのウソを暴くために、自ら巨大戦艦の建造費を割り出そうとする。
 そこで抜擢されたのが、帝大の数学の天才・櫂直(かい・ただし 菅田将暉)だ。

 櫂は奮闘する。
 補佐するのは海軍少尉の田中正二郎(柄本佑)だ。
 艦船の建造費は海軍の機密であるため、十分な情報を得られない。
 七転八倒の末、櫂はこんな数式を導き出す。
『艦に使用された鉄の総量から建造費を割り出す数式』だ!←すげえ!

 結果、見積もりのウソがバレる。
 主人公・櫂は胸を張って言う。
「数字はウソをつかない!」

 だが、物語はここで別の展開を迎える。
「数字はウソをつかない」が「人間はウソをつく」のだ。

 人間や組織の意思決定は必ずしも「数字の正しさ」でおこなわれない。
「思惑」「利害」「思想」「理想」で決められる。
 そのためには数字を誤魔化すし、ウソもつく。
 だから人間社会は厄介なのだ。
 数字の正しさや合理性がなくても、あらぬ方向に突っ走ってしまう。
 ここに人間社会の悲喜劇が生まれる。

 物語はここからさらに、ひと捻り、ふた捻りされる。
 ネタバレになるので書かないが、この捻り方が素晴しい。
 これが映画『アルキメデスの大戦』を深い作品にしている。

 それにしても、平山中将ではないが、やはり戦艦大和は美しい。
 主人公の櫂もこの美しさには抗えなかった様子。

 監督・脚本・VFXは『ゴジラー1.0』の山崎貴さん。
 山崎貴監督はVFXで大和を再現したかったのだろう。
 山崎監督はTAMIYAのプラモデルを一生懸命作った子供だったに違いない。


※追記
 本作に拠れば、太平洋戦争開始時のアメリカと日本の国力差は──
 工業力~アメリカ:日本=50:1
 石油 ~アメリカ:日本=120:1
 やはり無謀な戦争だった。

※追記
 ヒロインの尾崎鏡子役は浜辺美波さん。
『ゴジラー1.0』でも使っていたけど、山崎監督、浜辺美波さんが好きだねえ。
 浜辺さん(鏡子)の顔がなぜ美しいのかを数学的に解明するシーンもあった。笑


※関連動画
 映画『アルキメデスの大戦』予告(YouYube)
 攻撃を受けて傾く大和……!

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『十角館の殺人』『屍人莊の殺人』~やはり「館もの」のミステリー作品は面白い!

2024年06月07日 | 邦画
 日本のミステリー作品を2本見た。
 いずれも『館(やかた)もの』だ。館に人が集められ殺人事件が起こる。
 一応「ネタバレなし」でレビューを書いてみる。

『十角館の殺人』
 綾辻行人・原作 Huluでドラマ化。

 この作品、『絶対に映像化できない作品』なのだ。
 小説だから成り立つ話なのだ。
 でも今回映像化されて僕はダマされてしまった。
 ええっ、そんな~!?
 ぜんぜん気づかなかった~!

 この作品を見ていると、人間の認識能力がいかにいい加減なものかがよくわかる。
 思い込みが認識を大きく歪めることがよくわかる。

 トリックは実にシンプルだ。
 さまざまな作品で擦られていて手垢のついたものだと言っていい。
 ただミスリードがいろいろ仕掛けられていて、それが真相を覆い隠している。
 ミスリードを取り除いていけば、真実はくっきり浮かび上がる。
 …………………………………………………………

『屍人莊の殺人』
 今村昌弘・原作 2019年映画化。

 ゾンビが凶器になるミステリーである。
 ついに『ゾンビが凶器』になるミステリーが来たか!
 斬新だねえ。画期的だねえ。
 まあ、ミステリーの古典には『毒蛇』や『オランウータン』が凶器になる作品があるが。

 個人的には、最初の殺人と最後の殺人のトリックがすごいと思った。
 これらは『ゾンビが凶器』でなければ実現不可能。
 ふむふむ、なるほど。
 最後のトリックは犯人がどうしてゾンビの特性を知り得たか、という疑問が残るが……。

 この作品の魅力は、剣崎比留子役の浜辺美波さんだろう。
『賭ケグルイ』『シン仮面ライダー』など浜辺美波さんはやはり2.5次元俳優。
 特異な衣裳を着たエキセントリックな変人役がよく似合う。
 その集大成が今回の比留子役だ。
・推理の時、白眼を剥いて頭をグリグリする。
・チッ! と舌打ちする。
・推理を披露する時、相撲の雲竜型をする。
・「協力してくれたらキスさせてあげる」と言う。←こんなこと言われたら、絶対協力するだろう!

 浜辺美波さんと神木隆之介さんは三度目の共演。
『屍人莊の殺人』(2019)
『らんまん』(2023・朝ドラ)
『ゴジラ-1.0』(2023)
 公私ともに仲がいいらしいし、もうお前らつき合っちゃえよ!←by『葬送のフリーレン』

 いい感じのコメディ&ミステリーになっています。
 原作は既読で、その地の文に若干のユーモアを感じたが、
 映画版では、監督が木村ひさしさんなのでコメディ要素が強くなっている。


※予告編はこちら
 映画『屍人莊の殺人』予告編(YouTube)

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「東京リベンジャーズ」~クソな人生から熱い人生へ! これが俺の人生のリベンジだ!

2024年05月24日 | 邦画
 実写版『東京リベンジャーズ』を観た。

 内容はタイムリープ×ヤンキーもの!
 現在を変えるために主人公が過去に戻って奮闘するというタイムリープものの王道と
 ヤンキーものを掛け合わせた作品だ。

 主人公・花垣 武道 (北村匠海)はカノジョの橘 日向 (今田美桜)を救うため、
 過去に戻ってヤンキー同士の抗争の中で奮闘する。

 物語が進むにつれて、武道の奮闘する目的が拡大していく所が面白い。
 当初の目的は、日向を救うためだったが、
 それが親友の千堂 敦(磯村勇斗)のため、
 「東京卍會」の副総長、通称ドラケンこと龍宮寺 堅(山田裕貴)を救うためと拡大していくのだ。
 その過程で武道はどんどん強くなっていく。
 人は背負うものが多くなればなるほど強くなれるのだ。
 この物語のダイナミズム!

 武道の戦いは自分のためでもある。
「俺の人生クソだって!」
 現在の武道は逃げてばかりだった自分を責めている。
 戦わずに逃げた結果、現在の人生は底辺の卑屈なものになっている。
 武道はそれを変えるために過去に戻る。
「こんな俺だってよ、譲れねえものがあるんだよ!」
「これは俺の人生のリベンジだ!」
 卑屈でない自分
 困難から逃げない自分
 ケンカが弱くても立ち向かう自分
 そんな自分を取り戻すために武道は過去に戻る。

 そんな奮闘の過程で、武道は心から信頼できる仲間を得る。
・前述のドラケンこと龍宮寺堅
・ダチの千堂敦
・「東京卍會」総長で通称マイキーこと佐野 万次郎(吉沢亮)

 彼らは弱くてもツッパって戦う武道を認めてくれる。
「タケミっち、お前、これから俺のダチ」
「お前。カッコいいよ」
「ケンカが強いヤツはクソほどいるけどな。
 譲れねえもののためにはどんなヤツにも楯突ける。そんなヤツはなかなかいねえ」

 これ、ヤンキーものの王道なんですよね。
 こうやって熱い絆で結ばれた仲間ができていく所が心地いい。
 ……………………………………………………………………………………

 というわけで、1980年代に衰退したヤンキーものが復活した。

「ヤンキーなんてダサい」
「もっとお洒落にスマートに生きようぜ」
「やっぱ二次元。オタク万歳」
「ひきこもり。ニート」
「失われた30年。俺の人生お先真っ暗」

 こんな40年の時を経て、ヤンキーが自己主張を始めたのは何なのだろう?
 武道がタイムリープして、ヤンキーの熱い自分を見出したというのも象徴的だ。 

 ヤンキーの価値観とは何か?
 万次郎の言葉を借りれば、
「ひとりひとりがみんなのために命をはれる生き様」
「肩肘張ってケンカして自分の尻は自分で拭く生き様」

 僕はナンパなのでヤンキーは苦手なんだけど、感じるものはある。
 こういう価値観・生き様が見直される時代が来たのかもしれない。


※追記
 何という豪華なキャスト!
・北村匠海
・杉野遥亮
・吉沢亮
・山田裕貴
・永山絢斗
・高杉真宙
・眞栄田郷敦
・鈴木伸之
・磯村勇斗
・高良健吾
・村上虹郎
・間宮祥太朗
 今やドラマに欠かせない主役級の若手俳優ばかり。
 日向役は今田美桜さんがやっているのだが、最初は気づかなかった。

※追記
 宮藤官九郎さんの『不適切にもほどがある!』は『東リベ』に対するアンサー作品なのだろう。

コメント (2)
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「ゴジラー1.0」~日本は命を粗末にする国だった。今回はひとりの犠牲者も出さないことを誇りとしたい

2024年05月08日 | 邦画
 主人公・敷島浩一(神木隆之介)は特攻隊員の生き残り。しかも特攻から逃げた人物。
 ゴジラと戦う男たちは日本海軍の生き残り。
 彼らの中では戦争は終わっておらず、『死に場所』を求めていた。

 そんな彼らに『海神作戦』を立案した元・海軍技術士官の野田健治(吉岡秀隆)は言う。
「これまで日本は命を粗末にする国だった」
「今回の民間主導の作戦としては、ひとりの犠牲性者も出さないことを誇りとしたい!」
「これは未来のための戦いである!」

 死ぬことから生きることへ。
 死ぬ美学よりは生き残る美学へ。
 生きて抗え!
 これが『ゴジラ-1.0』の主要テーマである。

 それは彼らのプライドを取り戻すことでもあった。
 ゴジラを戦って、倒して生き残ったこと。
 これが今後、彼らが生きていく上でのプライドになった。
 …………………………………………………………

『ゴジラ-1.0』のもうひとつの魅力はVFXの魅力である。
 それは山崎貴監督の集大成でもある。
『三丁目の夕日』~戦後間もない下町や銀座の街並み
『永遠の0』~戦闘機
『アルキメデスの大戦』~戦艦
 戦後の街並み、戦闘機、戦艦のVFXは山崎監督の得意技なのである。
 これらの得意技を『ゴジラ-1.0』に投入した。

 というより山崎監督のインタビュー動画に拠ると、
 これは制作費を抑えるための苦肉の策でもあったらしい。
「戦後の街並み」「戦闘機」「戦艦」はデータとして残っているから、イチから作らなくていいのだ。

 ちなみに『ゴジラ-1.0』の製作費は21億(1500万ドル)。
 アメリカで同様の作品を作ったら100億~200億は当たり前なので、アメリカ人は驚いている。

 ハリウッドの皆さん、ぜひ投資して下さい!
 日本なら安く作品を作れますよ。
 おまけに、現在、日本は「円安」でアメリカに比べたらはるかに「物価」が安いので、
 最低限の投資で良い作品がつくれます!
 …………………………………………………………

 以下、ラストのネタバレを含みますので、未見の方はスルーして下さい。

 この作品、スピルバーグが絶賛していて三度も見たそうだが、それもそのはず。
 スピルバーグ作品のオマージュが見受けられる。
『ジョーズ』~オンボロ船、海洋学者、ジョーズの口に酸素ボンベをツッコんで爆破させる。
『ジュラシックパーク』~恐竜が人間を食らえて放り投げる。

 ラストの典子(浜辺美波)との再会シーン。
 明子の子役の女の子が下手くそだな~と思ってみていた。
 典子と会ってもまったくリアクションをしなかったからだ。
 だが、これには理由があった。
 典子は再生能力の高い「ゴジラ細胞」によって生かされている存在だったのだ。
 つまり典子とは違う存在。
 だから明子は反応しなかった。

 ゴジラ細胞によって生かされている典子がこの後どうなるのかは描かれていない。
 バッドエンドと捉える人は多いだろうが、
 そのまま生きてハッピーエンドになる可能性もなくはない。

 面白かった。
 ゴジラの上陸シーンは、どの作品を見ても胸躍るが、今作では特に。
 ちなみに、有名な♪ ダダダン、ダダダン、ダダ・ダダダン ♪ は
『ゴジラのテーマ』ではなく、『戦いのテーマ』というタイトルらしい。
♪ バーバババ~ン ♪ で始める曲が『ゴジラのテーマ』らしい。


※関連動画
『ジョーズ』~ジョーズを倒すシーン(YouTube)
 ※初めて見た時は凄さに圧倒されましたが、今見ると、ゆるいですね……。

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メタモルフォーゼの縁側~芦田愛菜×宮本信子 作品は人と人を繋げ、人を変える!

2023年08月31日 | 邦画
「……きれいな絵ね」
 書店で偶然、目に入ったコミックの表紙のイラスト。
 市野井雪(宮本信子)はこの絵が気に入ってコミックを購入する。
 コミックはBL(ボーイズ・ラブ)の『君のことだけ見ていたい』
 だが雪に抵抗はない。
「あらあら」と驚きつつも、主人公たちの恋愛をワクワクして読んでいく。

 佐山うらら(芦田愛菜)は高校生。
 書店でバイトしている。
 うららも『君のことだけ見ていたい』の愛読者で、
 この作品を通して、雪と知り合い、心を通わせるようになった。

 作品は人と人を繋ぐのである。
 雪は70歳を越えたおばあちゃんだが、作品を通して語り合えば女子高生のうららとも親しくなれる。
 作品で繋がるふたり。
「あれがよかったよね~」
「咲良くんがいいよね~」
「ここ、せつなかったよね~」
 完全にオタクの会話だ。笑
 実は雪は貸本屋の漫画家さんにファンレターを書こうとしたことがあり、
 実はオタクの要素を持っていた。
 ……………………………………………………………

 そして、もうひとつのテーマであるメタモルフォーゼ(変化)。

 縁側で話をしているうちに、ふたりは変化していく。

 うららは漫画を描き始める。
 漫画スタートセットを通販で買って始めた漫画執筆だから、そんなに上手くない。
 自分の下手さに赤面しながらも、雪に励まされ、作品を最後まで描き上げ、
 印刷所に入れてオフセットの印刷の同人誌にする。
 すごい、変化だ!

 印刷所に原稿を入れた後に漏らした言葉は──
「楽しかった……!」
 そう、たとえ稚拙でも楽しいことが一番だ。
 印刷所から同人誌が届いた時は包装紙を空けて、息をのむ。
 これも大きな喜び!

 雪にも変化が起きた。
 以前は出せなかったファンレターを『君のことだけ見ていたい』の作者コメダ優 (古川琴音)に
 書き、サイン会まで行って直接手渡した!

 人は変われるのである。
 人は繋がれるのである。

 その他にも「同人誌即売会に出展した時の話」や「コメダ先生との話」とかがあるのだが、
 ぜひ映画本編を御覧になって下さい!
 …………………………………………………………

 あとは、芦田愛菜×宮本信子の芝居合戦。
 演技の上手いふたりが絡み合って、とんでもない相乗効果を生んでいる。

 この作品を紹介してくれた僕の友人が「芦田愛菜が出ると作品は文学になる」と語っていたが、
 確かに。
 僕は今、映画『青く、痛く、脆い』と見ていて「杉咲花さん、いい役者さんだな」と思っているが、
『メタモルフォーゼの縁側』のうらら役ではない気がする。
 杉咲花さんはどちらかと言うと、コミック寄りのデフォルメされた役が合っている。
 2次元~人間くさい3次元。
 今の役者さんはこの間のどこで芝居をするかが求められている。

 コメダ優先生役の古川琴音さんは、いかにも同人誌あがりの作家さんにいそう!
 特に同人誌即売会に同人誌を買いに来た時の姿は……!
 どんな役にもなり切れて、役の職業の雰囲気を醸し出せる。
 古川琴音さんもいい役者さんだな~。
 
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「そして、バトンは渡された」~おかげで未来の楽しみがふたつになった。明日がふたつになった

2023年04月22日 | 邦画
 優子(永野芽郁)とみぃたん(稲垣来泉)、なんか怪しいなと思っていたら、やっぱりそうだった!←ネタバレになるので、こんなふうにしか書けない。
 時系列はバラバラ。
 いろいろなエピソードが断片で描かれる。
 でも中盤、これらの断片が繋がって、ひとつの物語が生まれる。
 ちょうどジグソーパズルがすべて埋まって、ひとつの絵が生まれるように。

 だが、ジグソーパズルは全部埋まっていなかった。
 終盤、新たなパズルの断片が見つかって、さらに感動的な物語が浮かび上がる!

 僕は中盤とラストで二度泣きました!
 ネタバレしないように書いたのは、ぜひこの作品を見て泣いてほしいから。

 それにしても見事な作劇手法だ。
 ラストですべての伏線が回収される!
 ラストですべての登場人物が魅力的になる!
 ラストで世界が愛でいっぱいになる!
 ……………………………………………………………………

 すこし具体的にこの作品を語ろう。

 普通、子連れの女性と結婚する時、男はためらう。
 実際、結婚式当日に子供がいると梨花(石原さとみ)に言われた時、森宮壮介(田中圭)は驚き、ためらった。
 だが、すぐに森宮はこんなことを言った。
「おかげで未来の楽しみがふたつになった。明日がふたつになった」
 愛する対象がひとり増えて森宮はワクワクしたのだ。
 それまでの森宮は東大を出て一流企業に勤めたが、何を目標に生きていけばいいか、わからずにいた。
 だが、子供を得て、愛情を注ぐ幸せを得た。
 それは彼の人生を「まぶしいくらいに輝いたもの」にした。

 彼女には森宮の他にふたりの父親がいる。
 実の父親・水戸秀平(大森南朋)。
 梨花が再婚して得た二番目の父親・泉ヶ原茂雄(市村正親)。
 そして梨花の三度目の結婚で得た父親・森宮壮介。
 三人の父親たちは彼女を得たことで、満ち足りた日々を過ごした。
 三人の父親に愛されて、彼女はやさしくて素敵な女性になった。
「わたしにはいろんな親の愛情がいっぱい詰まってるんだよ!」
 愛を注ぐことは幸せ。
 愛を注がれることも幸せ。
 これで人生は素敵なものになる!

 そして彼女の母親・梨花。
 自由奔放で、どちらかというとマイナスイメージの女性だが、
 実は梨花には秘密があって、それが明らかになった時、感動的なドラマが生まれる。

 ラストは彼女の結婚式で終わる。
 三人の父親が参列して、彼女は愛する夫のもとへ。
 これでタイトルが回収された。
 父親から夫へバトンは渡されたのだ。


※追記
 今作の永野芽郁さんは魅力的だった。
 永野さん本人も父親のいないシングルマザーの家で育てられたから、役への思い入れも大きかったのだろう。
 本作で、第45回日本アカデミー賞 優秀主演女優賞、第64回ブルーリボン賞 主演女優賞を受賞。

※追記
 原作は瀬尾まいこ著・文藝春秋刊。
 2019年本屋大賞を受賞した。

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「ドライブ・マイ・カー」~チェーホフのテキストが私の中に入って来て、私の体を動かしてくれます

2023年04月20日 | 邦画
「言葉」についての物語だ。

 家福悠介(西島秀俊)は俳優・舞台演出家。
 広島の国際演劇祭に招聘されて、チェーホフの『ワーニャ伯父さん』の演出をしている。
 その演劇形態は「多言語演劇」だ。
 多言語演劇とは、その名のとおり、複数の外国人の役者が自国の言葉で演じる演劇だ。
 観客は舞台上のスクリーンに映される字幕で内容を理解する。

 今回の『ワーニャ伯父さん』にオーディションで選ばれたの役者と言語は──
・韓国のイ・ユナ(パク・ユリム)~手話
・韓国のリュ・ジョンウィ(アン・フィテ)~韓国語
・台湾のジャニス・チャン(ソニア・ユアン)~中国語
・高槻耕史(岡田将生)~日本語           などだ。

 この多言語演劇が意味することは何だろう?
 芝居の稽古が始まった時、役者たちとって、相手のしゃべっているせりふは単なる「音の繋がり」でしかない。
 お経を聴いているように思える。
 台本に意味が書かれているから、かろうじて芝居が成立している感じだ。
 だが、稽古を重ね、何度も相手のせりふを聴いていくうちに相手の思いや感情が心に染み入って来て、言葉の壁を越えた演劇空間が生まれる。
 人が理解し合うのに言葉はそんなに重要ではないのだ。
 逆に人は言葉で嘘をつくから、理解し合うことの妨げになったりする。
 
「人が理解し合うのに言葉はそんなに重要でない」
 このテーマは、運転手・渡利みさき(三浦透子)とのやりとりでも展開される。
 当初、みさきは映画祭側が手配した単なる「運転手」でしかない。
 みさきは運転中、何も話さないし、その運転は「重力を感じない」くらいに巧みなので「空気」のような存在であるとも言える。
 だが、みさきの運転する車に乗って、少しずつ言葉をかわしていくうちに、
 ふたりは同じ苦悩を抱えていることに気づき、理解し合うようになる。
 ……………………………………………………………………………

「人が理解し合うのに言葉はそんなに重要でない」

 しかし、これは「言葉の無力」を意味するものではない。
 芝居の稽古を重ねていくうちに、役者のイ・ユナは手話でこんなことを言う。
「チェーホフのテキストが私の中に入って来て、私の体を動かしてくれます」
 自分は空っぽで何もない、と嘆く役者・高槻耕史に家福はこんなアドバイスをする。
「テキストが問いかけてくるものに耳を傾けろ」
「テキストに自分を投げ出すんだ」

 言葉はなかなか伝わらないが、救いにもなる。
 実際、家福もチェーホフのテキストを繰り返し聴くことで何かを探していた。
 テキストが自分の中にスーッと入って来て、心を揺り動かす瞬間を待っていた。
 たとえば、『ワーニャ伯父さん』のソーニャのこんなせりふだ。

「仕方ないの、生きていくしかないの。
 ワーニャ伯父さん、生きていきましょう。
 長い長い日々と、長い長い夜を、
 運命が与える試練に耐えながら、
 安らかでなくても生きていきましょう。
 そして最期の時が来たらおとなしく死んでいきましょう。
 そしてあの世で言いましょう。
 私は苦しみました。私は泣きました。つらかったって。
 そして、その時が来たら、ゆっくり休みましょう」

 このせりふが単なる「音の繋がり」で終わるのか?
 心に染み込む「救いの言葉」になるのか?

 僕の場合は後者の感じが強い。
 胸に迫って来る言葉だ。
 だが、これでわかった気になってはいけない。
 さらに人生を重ねていけば、もっと深い「救いの言葉」になるかもしれない。

 人は心の中を埋めてくれる言葉を探して生きているのかもしれない。


※追記
 今作は米国アカデミー賞で「国際長編映画賞」、カンヌ映画祭で「脚本賞」などを受賞。
 原作は村上春樹。
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「蜜蜂と遠雷」~ピアノコンクールの4人のピアニストたち。世界は音楽であふれている!

2023年04月18日 | 邦画
 国際音楽コンクールを舞台にした4人のピアニストの物語だ。

・栄伝亜夜(松岡茉優)。
・風間塵(鈴鹿央士)。
・マサル・カルロス・レヴィ・アナトール(森崎ウィン)。
・高島明石(松坂桃李)。

 亜夜、塵、カルロスは天才だ。
 凡人とは違う音楽の世界に生きている。
 一方、高島明石は妻子がいて、田舎の楽器店に勤めているサラリーマンだ。

 コンペティションは3次審査まである。
・1次審査は指定曲から3曲を選んで演奏。

・2次審査は指定曲から3曲+コンクールの課題曲「春と修羅」にカデンツァを加えて演奏。
 カデンツァとは、自由で即興的な演奏のことだ。
 ここで亜矢たちは通常とは違った自分を表現できる。

・3次予選はオーケストラを入れてのピアノ協奏曲。
 いかにオーケストラといかに協奏できるかが問われる。
 今回のオーケストラの指揮者は世界的な指揮者の小野寺昌幸(鹿賀丈史)。
 小野寺はコンクールのピアノ演奏者に合せることをしない。
 自分が指揮するオーケストラのクォリティについて来ることを要求する。
 ついて来れなければ、そのピアニストの実力はそれまでだ、と考える厳しい指揮者だ。
 …………………………………………………

 やはりコンペティションものは面白いな。
 今作では、4人が2次審査のカデンツァで自分をそう表現するか、
 3次審査で指揮者・小野寺の要求にどう応えるか、がドラマになる。
 果たして優勝するのは誰か?

 だが、この作品は誰が優勝するかはメインテーマではない。
 それは付随的なものでテーマは別にある。
 それは「4人のピアニストはどのような音楽を見出すか?」というテーマだ。

 彼らは「自分の音」を求めている。
 天才ではないサラリーマンの高島明石は地に足のついた「生活者の音」を。
 カルロスは揺るぎない「完璧な音」を。
 亜夜は「母の死によって失ってしまった自分の音」を。
 塵は「世界は音楽であふれていることを証明する音」を。
 果たして、彼らは自分の求めている音を演奏することができるのか?

 圧巻の作品だった!
 4人のピアニストたちの苦悩。それを乗り越えた時の素晴らしい演奏!
 4人が見出した音については映画本編を観て確かめてほしいが、
 3次審査で亜矢が演奏した「プロコフィエフのピアノ協奏曲の3番」などは音が飛び跳ねている♪
 プロコフィエフを離れて、「世界が音であふれていること」を実感できる。

 この作品を観ると、自分のまわりの音に耳を傾けたくなる。
 心を無にして、目を閉じて耳を傾けてみれば、きっと音楽が聴こえて来るはずだ。
 そう、世界は音楽であふれていて美しいのだ!


※映画予告編はこちら
 映画「蜜蜂と遠雷」予告編(YouTube)

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シン・ウルトラマン~テレビ版「ウルトラマン」の新解釈! 怪獣とは何か? なぜアキコ隊員は巨大化したのか?

2022年12月21日 | 邦画
 ゴメス、パゴス、メロンガなど懐かしい怪獣(禍威獣)が次々と登場!
 さて、令和の時代に、総監修・脚本の庵野秀明は『ウルトラマン』をどう描くのだろう?

 基本ラインは昭和のテレビ版『ウルトラマン』のストーリーである。
 ウルトラマン誕生→メフィラス星人→人の巨大化→ゾフィ登場→ゼットンとの最後の戦い。
『シン・ウルトラマン』では、テレビ版のストーリーの裏に隠されたストーリーを描いてみせる。

『シン・ゴジラ』でもそうだったが、活躍するのは霞ヶ関の官僚たち。
 ただし、今回は公安など警察系の官僚が多い。
 怪獣(禍威獣)攻撃にあたっては法的根拠を常に問題にしているし、アメリカや世界の諜報機関も絡んで来る。

 怪獣(禍威獣)が次々と出現するのは、使徒が不気味に襲ってくる『エヴァンゲリオン』のよう。

 人の巨大化はテレビ版のメフィラス星人のエピソードで出て来るのだが(アキコ隊員が巨大化する)、『進撃の巨人』を思わせる。
 当初、ウルトラマンは『銀色の巨人』と称されていた。

 というわけで『シン・ウルトラマン』堪能しました!
 あらゆるエンタメ要素が詰め込まれている感じ。
 音楽も懐かしい。
『シン・仮面ライダー』も楽しみだ。
 さて、以下はネタバレ。
『シン・ウルトラマン』を未見の方はここでストップして下さい。




 ………………………………………以下、ネタバレ。


 物事を大きな視点で見てみると世界は違って見えて来る。
『シン・ウルトラマン』は宇宙からの視点だ。

 怪獣(禍威獣)は実は宇宙人が放置した戦略生物兵器だった。
 大地を掘削したり、ウランなどの核物質を探したり、威力偵察をおこなったりする生物兵器なのだ。
 それが突然、目覚めてしまった。

 人の巨大化は人類を生物兵器にするためのメフィラス星人の陰謀。
 人類は知性を持っているので生物兵器として怪獣(禍威獣)より役に立つのだ。

 そして全宇宙の宇宙人たちは、地球という星に生物兵器に転用可能な人類という生物がいることに気づいてしまった。
 これからはさまざまな宇宙人が飛来して人類狩りが始まるだろう。
 そうすれば宇宙の秩序が乱れる。
 ゾフィはこれを阻止するために地球爆破を考える。
 天体制圧用最終兵器ゼットンを起動させる。
 このゾフィの動きにNOと言うウルトラマン。
 ゼットン破壊のための戦いを始める。

 すべてがうまく繋がりましたね。
 実に見事な裏ストーリー!
 テレビ版で描かれた個々のエピソードの行間を埋める作業でもある。

 それは先日、最終回を迎えた『鎌倉殿の13人』も同じ。
 脚本の三谷幸喜さんは『吾妻鏡』に描かれた個々の事実の行間を読み、波瀾万丈のドラマにした。
 ちなみに庵野秀明さんは1960年生まれ。三谷幸喜さんは1961年生まれの同世代である。
 庵野さんはテレビの「特撮」で、三谷さんは「歴史」で行間を埋める作業をしている。

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東京オリンピックの公式記録映画、観客ゼロの大爆死!?~監督・河瀬直美は負の部分をどう描いたのかな?

2022年06月04日 | 邦画
 河瀨直美氏が総監督を務めた東京五輪公式記録映画『東京2020オリンピック SIDE:A』の興業が思わしくないらしい。
 昨日公開で多くて10人程度。観客ゼロの映画館も。
 まあ、そうだろうな……。『東京五輪の記録映画』と『シン・ウルトラマン』が並んでいたら、『シン・ウルトラマン』見るよね。
 それに昨年の東京オリンピック自体が負のイメージばかり。
 今更「感動をもう一度!」と押しつけられても困るし、そもそもあのオリンピックに感動はあったのか?
 
 映画はSIDE:AとSIDE:Bに分かれていて、SIDE:Bは3週間後の6月24日に公開らしい。
 劇場としては、
「どうして客の入らない映画を2部構成にしたのか?」
「結果、6週間を客の入らない映画で占拠されることになった」
 と思っていることだろう。
 まあ、劇場としては最低保障があるから客が入らなくても大丈夫なのかな?
 その最低保障の出所はJOC? つまり税金?
 …………………………………………

 この作品、どんなふうにあのオリンピックを描いているんだろう?
 SIDE:Aは選手の活躍を描いたオモテ舞台を、
 SIDE:Bはスタッフなどの舞台裏を描いたものになるようだが、
 東京五輪の負の部分をしっかり描いた内容になっているのか?

 つまり
・森喜朗氏の発言などの相次ぐ失言や不祥事
・招致賄賂疑惑
・演出チームの交代
・エンブレムや国立競技場などをめぐる、すったもんだ
・膨大に膨らんだ総額4兆円とも言われている予算
・大量の食品廃棄
・新型コロナウイルスによる開催の是非
・五輪反対デモに関するNHKの捏造

 これらを描かなくては『記録映画』にはならないだろう。
 監督の河瀨直美氏はスポーツ紙の取材に答えて
「100年後にも届くような映画でないといけない」
 と語ったようだが、上記の負の部分をしっかり描いたら、2021年の日本を描いた映画として「100年後」にも意味のある作品になると思う。
 つまり1964年の東京五輪が「希望」だったのに対し、2021年の東京五輪は「衰退日本の象徴」という位置づけだ。
 さて、作家・河瀬直美は負の部分をどう描く?
 上の方に気をつかってヨイショする内容になっていたら、作家・河瀬直美は終わる気がする。
 ちなみに河瀬直美さん、2025年の大阪万博にも関わるらしい。

 それと、東京五輪の収支報告はどうなったのかね?
 今月(6月)に出すと言っているが、大会組織委員会は6月末日で解散するらしい。
 収支報告をチョロッと出して、五輪スポンサーのテレビ局や新聞社はさらりと報道して終わりかな?
 政府や電通を怒らせたら怖いしね。

 やはり東京オリンピックはウソとゴマカしの『欺瞞日本』の象徴になりそうだ。


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