平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

「大暗室」 江戸川乱歩~僕の創造した世界をすばらしいとは思いませんか。

2012年02月08日 | 小説
 江戸川乱歩の『大暗室』をひさしぶりに読んだ。
 まず『大暗室』というタイトルがすごい。
 そして、内容は『パノラマ島奇譚』などに通じる乱歩の荒唐無稽な世界。

 何しろ帝都・東京の地下に<大暗室>を造営し、天女、人魚、人面獣身の妖女、蛇女などが跋扈する<怪奇と艶美とを織り交ぜた狂気の国、夢幻の国>を作り出すという話ですからね。
 そして、天女、人魚、妖女、蛇女になるのは、この大暗室の主人・大曾根竜次がさらってきた選りすぐりの美女たち。
 大曾根は大暗室を取材に来た新聞記者たちに語る。
 「僕の創造したこの世界をすばらしいとは思いませんか。こんな世界が地球のどこにあるでしょう。ただ詩人たちが、空想の中で歌っていた世界です。夢の国です。恐ろしいけれども、甘美この上ない悪夢の世界です」
 「僕は彼女たちの或る者には、羽根をはやして、人工の美女を作りました。或る者には鱗を着せて、人工の人魚を作りました。それから大蛇を作り、半人半獣の怪物をこしらえました。
 いや、彼女たちばかりではありません。この地獄の国そのものが、すべて僕の創造した人工の世界なのです。この峨々たる岩山も、あの湯の池も、虚空のオーロラも、ことごとく作りものなのです」

 凄まじい情熱である。
 大曾根は、この<人工の世界>を作り出すために悪事を重ね、金塊を奪い、美女をさらってきた。
 詩人や小説家が空想や文章表現で終わらせることを、現実に形にしている。
 経済人なら手元にある大金を投資や事業など現実的なことに使うのだろうが、大曾根は<夢想世界の実現>という非現実的なことに使っている。

 しかし、この大曾根の情熱こそが江戸川乱歩の真骨頂でもある。
 現実を嫌い、空想世界に生きるという姿勢。
 現実は退屈で、夢の世界こそがまこと、とする思想。
 蛇女などがいた浅草の見世物小屋やサーカスの世界へ郷愁を感じる思い。

 乱歩は、自然主義文学など明治以降の<近代文学>から背を向けている。
 ゆえに乱歩は、ひとつの強烈な個性であり、現代にあっても少しも古さを感じない。

 ところで、大曾根が作り出した世界って、現代で言えばディズニーランドですよね。
 もっとも、ディズニーランドが多くの客を集めてお金を売る商業施設なのに対し、大暗室は大曾根自身の満足のために作られた個人施設。
 この違いは大きい。
 やはり大曾根は狂気の人である。



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