平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

「痴人の愛」① 谷崎潤一郎~ナオミちゃん、これからはほんとに友達のように暮らそうじゃないか

2024年09月20日 | 小説
 谷崎潤一郎の『痴人の愛』には大正デモクラシー時代のさまざまな風俗が描かれている。

 主人公・河合譲治(28)の職業はサラリーマン。
 そんな河合が引き取って育てるヒロイン・ナオミ(15)は浅草のカフエの女給の見習い。
 その姿は活動女優のメリー・ピクフォードに似ている。
 そんなふたりが共に住むのは、大森にある、「文化住宅」と呼ばれる「お粗末な洋館」。
 赤い屋根、白いマッチ箱のような外側、長方形のガラス窓の洋館を見て
 ナオミは「まあ、ハイカラだこと!」と目を輝かせる。
 ふたりがデートをするのは活動写真、デパートメント・ストア、洋食屋。
 洋食屋でナオミはビフテキを食べる。
 河合はナオミを理想の女性に育てるため、音楽と英語を学ばせる。
 稽古に行く時のナオミの服装は、銘仙の着物・紺のカシミヤの袴・黒い靴下・可愛い小さな半靴。

 カタカナがいっぱいだ。
 西洋風でお洒落で明るい。
 大正デモクラシーと言えば「個人の自由」が尊重された時代。
 人々は新しい文化や自由を満喫していたのだろう。
 ……………………………………………………………

 さて、このような河合とナオミはどのような物語を紡いでいくのか?

「ナオミちゃん、これからお前は私のことを『河合さん』と呼ばないで『譲治さん』とお呼び。そしてほんとに友達のように暮らそうじゃないか」

 両親からナオミを引き取った河合は大森の文化住宅でこう提案する。
 ナオミは河合が与えてくれる新しい生活に大満足だ。
 ふたりは「お伽噺の家」で、世帯じみてない楽しい生活を送る。
 河合はナオミを背中に乗せ、馬になって「ハイ、ハイ、ドウ、ドウ!」と部屋の中を歩きまわったりする。笑

 共同生活を始めた頃の気持ちを河合はこう表現している。
『その頃ナオミに恋していたかどうかは自分にはよくわかりません。彼女を立派な夫人に仕込む楽しみの方が強かったようにも思います』

 だが、次第に河合はナオミに女を感じるようになる。
 鎌倉に海水浴に行き、彼女の水着姿を見て、
「ナオミよ、ナオミよ、お前は何と云う釣合いの取れた、いい体つきをしているのだ」

 そして共同生活を初めて二年目──ふたりは結ばれる。
 事が終わり、ナオミは「譲治さん、あたしを捨てないでね」と語り、河合は結婚の話をする。
 ナオミは引き取られてからこうなることを薄々理解していたらしく、結婚に同意する。

 こうして河合は幸せの絶頂に立つわけだが、ここから先が谷崎潤一郎の真骨頂。
 ナオミに翻弄されて、河合は泣き、怒り、狂い、消耗していく。
 ナオミを理想の女性に育てて支配しようとしたのに逆に支配される。
 だが、どんなに酷い目に遭っても河合はナオミを捨てられない……。

 その詳細は次回。
 

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