なみにのみ ぬれつるものを ふくかぜの たよりうれしき あまのつりぶね
波にのみ ぬれつるものを 吹く風の たよりうれしき 海人の釣舟
波に濡れるように涙にくれていたけれども、吹く風の力で海人の釣舟が近くに寄ってきたように、愛しい人に逢えてうれしい。
この歌は後撰和歌集(巻第十七「雑三」 第1224番)に入集しており、そちらには長い詞書がついていますのでご紹介します。今風に言うと、不倫関係にある男女のつかの間の逢瀬というところでしょうか。
「すみ侍りける女、宮仕へし侍りけるを、友だちなりける女、同じ車にて貫之が家にもうできたりけり。貫之が妻、客人に饗応せむとて、まかり降りて侍りけるほどに、かの女を思ひかけて侍りければ、忍びて車に入れ侍りける」