かざすとも たちとたちにし なきなには ことなしぐさも かひやなからむ
かざすとも 立ちと立ちにし なき名には ことなし草も かひやなからむ
ことなし草をかざして何もなかったと言っても、すっかり立ってしまった浮き名には、役には立つまい。
「ことなし草」は忍ぶ草の異名で、ここではもちろん「事無し」の意がかかっていますね。
この歌は、後撰和歌集(巻第十七「雑三」 第1220番)に入集しています。そちらには
しそくに侍りける女の、をとこになたちて、かかる事なむある、人にいひさわげといひ侍りければ
との詞書が付され、また第二句が「立ちと立ちなむ」、第四句が「こなし草の」とされています。