漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

古今和歌集 1016

2022-08-11 06:12:46 | 古今和歌集

あきののに なまめきたてる をみなへし あなかしがまし はなもひととき

秋の野に なまめき立てる 女郎花 あなかしがまし 花もひと時

 

僧正遍昭

 

 秋の野に色めかしい様子で競い合うように立っている女郎花よ、なんとやかましいことだ、花がさくのもひと時の間だというのに。

 「かしがまし」は、濁らない形の「かしかまし(囂し)」が Weblio 古語辞典 に載っていました。やかましい、うるさい意ですね。和歌に使われるのは珍しい語のようです。遍昭が詠んだ女郎花の歌は 0226 にもありました。再度ご紹介しておきましょう。

 

なにめでて をれるばかりぞ をみなへし われおちにきと ひとにかたるな

名にめでて 折れるばかりぞ 女郎花 われおちにきと 人にかたるな

 

僧正遍昭

 


古今和歌集 1015

2022-08-10 07:08:37 | 古今和歌集

むつごとも まだつきなくに あけぬめり いづらはあきの ながしてふよは

むつごとも まだ尽きなくに 明けぬめり いづらは秋の 長してふ夜は

 

凡河内躬恒

 

 寝物語もまだ終わらないのに、もう夜が明けてしまったようだ。長いといわれている秋の夜はいったいどこに行ってしまったのだ。

 心を寄せる異性と過ごす夜は、秋といえどもあっというまに明けてしまうという嘆き(恨み節)の歌ですが、それを「秋の夜長はどこにいったのか」といぶかしんで見せるところにおかしみ(諧謔味)がありますね。


古今和歌集 1014

2022-08-09 06:21:54 | 古今和歌集

いつしかと またくこころを はぎにあげて あまのかはらを けふやわたらむ

いつしかと またく心を 脛にあげて 天の河原を 今日やわたらむ

 

藤原兼輔

 

 早く逢いたいとはやる心で衣をすねまでまくり上げて、彦星は天の川を今日渡ろうとするのでしょうか。

 詞書には「七月六日、七夕の心をよみける」とあります。一年にたった一度織姫に逢えるのを待ちわびる彦星の想いを詠んだ歌ですが、「脛にあげて」という表現が「諧謔歌」たる所以でしょうか。作者の意図としても、滑稽な情景として詠んだものでしょう。


古今和歌集 1013

2022-08-08 06:31:30 | 古今和歌集

いくばくの たをつくればか ほととぎす しでのたをさを あさなあさなよぶ

いくばくの 田をつくればか ほととぎす しでの田長を 朝な朝な呼ぶ

 

藤原敏行

 

 どれほどの田を作っているからといって、ほととぎすは田長を毎朝呼ぶのだろうか。

 ちょっとわかりづらいですが、ほととぎすは自分で田を作っているわけでもないのに、忙しい田長に毎朝呼びかけているのは困ったものだ、というところ。田長(たをさ)は、農仕事を取り仕切る長の意で、「しでのたをさ」はほととぎすの別名。Weblio古語辞典 によると、「『賤(しづ)の田長』の変化したもので、田植えの時期を知らせる鳥の意であったが、音が変化して『しで』となったので『死出』と当てられ、死出の山を越えて来る鳥の意となった。」とのこと。


古今和歌集 1012

2022-08-07 06:01:43 | 古今和歌集

やまぶきの はないろごろも ぬしやたれ とへどこたへず くちなしにして

山吹の 花色衣 主や誰 問へど答へず くちなしにして

 

素性法師

 

 山吹の花の色の衣よ、あなたの持ち主は誰なのか。そう問うても答は返って来ない。「くちなし」なのだから。

 植物の「梔子(くちなし)」と「口無し」をかけて戯れた歌。掛詞と言うより駄洒落に近い気がしますね、と言っては失礼かもしれませんが、諧謔歌らしい歌と言えましょうか。印象的な「ぬしやたれ」のフレーズは 0873 にも出てきましたね。

 

ぬしやたれ とへどしらたま いはなくに さらばなべてや あはれとおもはむ

主やたれ 問へど白玉 言はなくに さらばなべてや あはれと思はむ

 

河原左大臣