あきかぜに ほころびぬらし ふぢばかま つづりさせてふ きりぎりすなく
秋風に ほころびぬらし 藤袴 つづりさせてふ きりぎりす鳴く
在原棟梁
秋風に吹かれて、藤袴が綻びてしまったようだ。「つづりさせ」と言ってこおろぎが鳴いているよ。
スマートな(?)口語訳が難しいですが、第二句の「ほころぶ」は花(藤袴)が開く意と、(袴が)綻びる意の両義で、こおろぎの鳴き声が「つづりさせ」と聞こえることをとらえての言葉遊びですね。「つづりさせ」は「綴り刺せ」で、綻びを縫い繕う意です。
作者の棟梁(むねやな)は業平の子。古今集に四首入集している四首目で、これまでの三首は 0015、0243、0902 に採録されています。
はなとみて をらむとすれば をみなへし うたたあるさまの なにこそありけれ
花と見て 折らむとすれば 女郎花 うたたあるさまの 名にこそありけれ
よみ人知らず
花だと思って折ろうとしたら、女郎花ではないか。何とも困った名を持つ花なのだろうか。
歌意がとらえにくい歌です。「うたた」はここでは「厭わしい」「嫌だ」の意。「咲いている花を手折ろうと思って良く見たら女郎花であった。「女」と名のつく花となると、下心があって近づいたと思われかねないではないか。困ったものだ。」というくらいのおどけた詠歌でしょうか。
あきぎりの はれてくもれば をみなへし はなのすがたぞ みえかくれする
秋霧の 晴れて曇れば 女郎花 花の姿ぞ 見え隠れする
よみ人知らず
秋霧が晴れたり曇ったりすると、女郎花の花の姿が見えたり隠れたりする。
「それがどうしたの?」と言いたくなるような、何の変哲もない歌ですね(笑)。秋霧と女郎花の組み合わせは、0235 でも詠まれています。
あきくれば のべにたはるる をみなへし いづれのひとか つまでみるべき
秋来れば 野辺にたはるる 女郎花 いづれの人か 摘まで見るべき
よみ人知らず
秋が来ると、野辺にみだらな様子で立っている女郎花を、一体誰が摘まずに見ることができるでしょうか。
女郎花を詠んだ歌が続きます。「たはる」は漢字で書けば「戯る/狂る」で、ここではみだらな行為をする意。第五句冒頭の「つまで」は「摘まで」と「抓まで」の掛詞になっており、「抓む」は「抓る」意で、男女の戯れの行為ですね。