漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

貫之集 559

2024-10-26 06:53:09 | 貫之集

あふことの やまびこにして よそならば ひとめもわれは よかずぞあらまし

あふことの 山彦にして よそならば 人めもわれは よかずぞあらまし

 

逢うということが、山彦のように遠く響くだけのもので、あなたがよそよそしい他人であるならば、人の目を気にして避けるようなこともなかったでしょうに。

 

 人の目があるので愛しい人との逢瀬もままならない、というもどかしさを「他人だったら人の目など気にしないで済むのになぁ」と、反語表現で表した歌です。


貫之集 558

2024-10-25 06:52:16 | 貫之集

かざすとも たちとたちにし なきなには ことなしぐさも かひやなからむ

かざすとも 立ちと立ちにし なき名には ことなし草も かひやなからむ

 

ことなし草をかざして何もなかったと言っても、すっかり立ってしまった浮き名には、役には立つまい。

 

 「ことなし草」は忍ぶ草の異名で、ここではもちろん「事無し」の意がかかっていますね。
 この歌は、後撰和歌集(巻第十七「雑三」 第1220番)に入集しています。そちらには

しそくに侍りける女の、をとこになたちて、かかる事なむある、人にいひさわげといひ侍りければ

との詞書が付され、また第二句が「立ちと立ちなむ」、第四句が「こなし草の」とされています。


貫之集 557

2024-10-24 06:05:40 | 貫之集

ももはがき はねかくしぎも わがごとく あしたわびしき かずはまさらじ

百羽掻き 羽掻く鴫も わがごとく 朝わびしき 数はまさらじ

 

何度も何度も羽ばたきをする鴫のその羽ばたきの数も、一人寂しく明けた朝の私のわびしさには勝ることはないであろう。

 

 類歌が 260 にも見え、また両歌は古今集 0761 のよみ人知らずの歌を踏まえています。上記は、「数がまさらない」のは読み手のわびしさの数のことと解釈しましたが、もととなった古今集歌を踏まえ、これを「眠れぬ夜に打った寝返りの数」ととらえる説もあるようです。
 なお、この歌は拾遺和歌集(巻第十二「恋二」 第724番)に入集しています。

 

てるつきを ひるかとみれば あかつきに はねかくしぎも あらじとぞおもふ

照る月を 昼かと見れば 暁に 羽掻く鴫も あらじとぞ思ふ
(貫之集 260)

 

あかつきの しぎのはねがき ももはがき きみがこぬよは われぞかずかく

暁の 鴫の羽がき 百羽がき 君が来ぬ夜は われぞ数かく
(古今和歌集 0761)


貫之集 556

2024-10-23 06:23:59 | 貫之集

たなばたに おもふものから あふことの いつともしらぬ われぞわびしき

たなばたに 思ふものから あふことの いつとも知らぬ われぞわびしき

 

たなばたにつけて逢いたいと思うものの、実際いつ逢えるともしれないわが身がわびしい。

 

 「織姫と彦星は年に一度逢えるからまだ良い。そえにひきかえ自分は・・・」との思いですね。597 にも近い発想の歌がでてきます。


貫之集 555

2024-10-22 06:23:04 | 貫之集

ながきよを おもひあかして あさつゆの おきてしくれば そでぞひちぬる

長き夜を 思ひ明かして 朝露の おきてし来れば 袖ぞひちぬる

 

長い夜を物思いで明かし、露の置く朝に起きてきたので、袖がすっかり濡れてしまったよ。

 

 第四句「おき」は「(朝露が)置き」と「(自分が)起き」との掛詞になっています。袖が濡れたのは露に触れたためのみならず、物思いに涙したためでもあるのでしょう。