途中で何度も読むのを中断することになりましたが、それはこの本が面白くないからではなく、その示唆に富んだ内容を自分の胸のうちで反芻するためでした。
著者はアメリカのカーネギー・メロン大学の教授で、40代半ばを過ぎたところで末期ガンが発覚し、余命数ヶ月と宣告されます。この本は、彼が愛する妻と3人の子供たちに残した最後のメッセージです。(因みに彼はつい最近亡くなりました。)
しかし彼はこの本のなかで、不治の病に屈服した消極的な言葉ではなく、果敢なまでに客観的に、かつ極めて平易な言い回しで、自分がどう生きてきたかを雄弁に、けれど押し付けがましいことはひとつも言わず、淡々と語っています。私は原書のペーパーバックで読みましたが、英語という言葉がこれほど力を持っていると感じたのは久しぶりです。随所に味わい深い表現が出てきて、読みながらいくつもメモを取りました。少しだけご紹介しましょう。
○...if I work hard enough, there will be things I can do tomorrow that I can't do today.
(一生懸命やれば、今日出来ないことでも、明日は出来るようになる。)
○The brick walls are there to give us a chance to show how badly we want something.
(<何かを成し遂げようとした時に障害となる>れんがの壁は、私たちが(それを越えたところにあるものを)どのくらい欲しているかを示すために、そこにある。)
○Luck is what happens when preparation meets opportunity.(ローマの哲学者セネカの言葉)
(幸運は、十分な「準備」が「機会」と出会った時に訪れる。)
○Experience is what you get when you didn't get what you want.
(経験とは、自分が望むものを手に入れることが出来なかった時に得るものである。)
挙げればきりがありませんが、こうした文言が高圧的な言い方ではなく、著者の心情から素直に出てきているところが、この本をとても読みやすいものにしています。お涙頂戴的な言い回しはひとつもありませんが、この本を最後まで読んで目頭が熱くなるものを感じるのは私だけではないと思います。何と言うか、正々堂々とした清々しさを感じます。(因みに著者はフットボールと映画「ロッキー」を愛していました。)
なお、邦訳には著者の最後の講義を録画したDVD付きのものもあるようですし、その動画はYouTubeでも配信されているとのこと。機会があれば彼の映像も見てみたいと思っています。
Randy Pausch
The Last Lecture
(Hyperion)
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