私が自分で勝手に思い込んでいるだけなのかもしれませんが、以前からいわゆる「江戸前の釣り」に対する漫然とした憧れがあります。
それは何も腕一本で巨大マグロを仕留めようとかそういう釣りではなく、いわゆる小物、小魚を繊細な道具で狙う、そういう釣りです。それにもジャンルがあって、陸っぱりでハゼやテナガエビを狙う方や、池や用水路でタナゴを追う方もいらっしゃいますが、今の自分の中ではその系譜を海の船釣りに求めたいところ。
私が知っている船宿は、東京湾に数多ある船宿のなかでもその極々一部でしかないのですが、それでもそういう船宿に伝わっている釣り方に、江戸の時代からの船釣りの伝統が(程度の差こそあれ)脈々と受け継がれているに違いないと信じています。
前置きが長くなりましたが、そんな私が本屋の店頭でろくに中身も見ずに買ってしまったのがこの本。「江戸の釣り」であって「江戸前の釣り」でないところが図らずも意味深なのですが、そんなことはさておき、結論から言えば、私にはその面白さがよく分かりませんでした。
江戸時代、天下太平の世になって、釣りが趣味として発達してきた経緯が丁寧に綴られています。筆者はかなりたくさんの文献を読んでおられるのでしょう、そこからの解説、詳説が本文の中心です。しかし、それはあくまでも資料、史実としての釣りを読んでいる感覚であって、釣りが好きな人が読んで面白いと思うかどうかとはまた別の話でした。
要するに今の私には学術的に過ぎたということですが、それでも昔の錘はこんなんだったとか、天秤は昔からあまり変わってないんだなとか、知識として面白いことはいくつもありました。それでも、読み物としてはどこか焦点がボケているような気がしたのは、私がこれを「資料」としてではなく「読み物」として読もうとしたからでしょう。ここら辺は個人の好みが分かれるところだとは思います。
長辻象平『江戸の釣り~水辺に開いた趣味文化』(平凡社新書)
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