先日の「釣(り)」と同じアンソロジーの、今度は「魚」をテーマにした随筆を集めたものです。
前回のものとは違ってこちらは釣った魚とは限らず、広く魚に関して書かれた随筆が収められています。筆者の大半は作家もしくは学者で、情緒的な文章から学術的なお話まで、内容は多岐に亘っています。
全体を通して楽しめたかと言われればちょっと微妙なところですが、しかしそのなかに、圧倒的な文章力で思わずぐっと引きこまれたものがありました。ムツゴロウでお馴染み、畑正憲の「テツギョ」という随筆です。
テツギョというのは、奥羽山脈の奥、宮城県の魚取(ゆとり)沼というところに棲む天然記念物の魚で、少々乱暴に言えば、フナと金魚が合わさったようなお魚だそうです。筆者が重い潜水用具を担いでその山に分け入り、沼に潜ってテツギョに出会うという随筆なのですが、ユーモア溢れるその筆致、鮮やかな描写、そして洞察に満ちたその結語、どこをとっても一級品の名随筆です。
ここにその本文を引用したい気持ちは山々ですが、こういうものは自分で読み進んで最後に出会うところに意味があると思うので、敢えてそれはしないことにします。人と魚、住む世界は違っても、同じ地上で繋がっていることには変わりありません。人と自然の関わりあいということを考えさせられた一文でした。
末廣泰雄(編)『日本の名随筆32「魚」』(作品社)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます