Year In, Year Out ~ 魚花日記

ロッドビルドや釣りに関する話題を中心に。クラシック音楽や本、美術館巡りに日本酒も。

ジェームス・マクブライド/The Color of Water

2012年02月26日 | 

この本の副題は、 A Black Man's Tribute to His White Mother。「tribute」というのは日本語では「讃歌、賛辞」という意味です。

出版されたのは1996年。日本語訳も出ていますが、あまりにも分かりやすいタイトルなのでここには敢えて書きません。

音楽家でもあり著述家でもある著者が、黒人と結婚して著者を含む12人の子供を育てた白人の母のことを綴っています。正確には、自分の母を通じてその家族、勿論著者自身やその兄弟、様々な立場の親戚、そしてそれを取り巻く当時のアメリカという社会について、綴っています。

美しい話ばかりではありません。カッコいい話でもありません。けれど、そこには人間としての強さ、弱さ、優しさ、哀しさ、全てが含まれています。

この本の表紙に、New York Times の書評の言葉として "[A] triumph"(勝利)と書かれていますが、読後感はまさに「上質のストーリーをたっぷり読んだ!!」その一言に尽きます。

非常にコンパクトな文体で、難しい単語も出てきません。しっとりと、しかし着実にストーリーを辿れます。

                    

印象的な人物や、印象的な言葉がたくさん出てきます。

"Educate your mind!"

これは著者の母親の口癖。

"If you throw water on the floor it will always find a hole, believe me."

これも同じく著者の母親の言葉です。

それから、少し長いですが、著者がまだ10代の跳ねっかえりの頃、普段は酔っ払ってばかりの爺さんにガツンとやられたこの言葉。

学校もロクに行かず、夏になると親戚のうちに行き、近くにある the Corner(要するに色んな人たちの「溜まり場」だと思って下さい)に行って酒を飲んでは大人の仲間入りをした気分でいた著者が、バイト先でトラブった揚句にその相手を「撃ち殺してやりたい!」と言った時。

爺さんに「そんなことをすれば速攻でムショ行きで、ムショから出てきたらまたここ(the Corner)にやって来る。そうしたいならそうしな。それもお前の人生さ。」と言われ、ムッとした著者は「俺はあんたたちが思っている以上に smart なんだ!」と言い返します。

それに対してこの爺さん(あだ名はChicken Man)がこう言います。

"You ain't no smarter than anybody here. If you so smart, why you got to come on this corner every summer? 'Cause you flunkin' school! You think if you drop out of school somebody's gonna beg you to go back? Hell no! They won't beg your black ass to go back. What makes you so special that they'll beg you! Who are you? You ain't nobody! If you want to drop out of school and shoot people and hang on this corner all your life, go ahead. It's your life!"

誰にでも人生のどこかでこう言う風に言ってくれる人が居るものですね。


                    

1930年から1960年代くらいまでのアメリカという社会がよく分かる本ですが、一方でその時代をたくましく生き抜いた一人の母の姿がここにあります。それは、どんな歴史の本にも載っていない、一人の母親の姿ですが、だからこそ動かしがたいリアリティがあって、胸が詰まります。

いい本に出会ったことを幸運に思います。

James McBride,
The Color of Water: A Black Man's Tribute to His White Mother
(Riverhead Books)

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