ドロシー・L・セイヤーズの The Nine Tailors(1934年)読了(邦題『ナイン・テイラーズ』)。
年の瀬も押し詰まったある日、ピーター・ウィムジィ卿の運転する車が田舎道で脱輪。雪のなかを歩いて助けを求めた寒村で、思いもかけず大晦日の鐘撞に参加するウィムジィ卿。
年が明けてロンドンに戻ったウィムジィ卿だったが、春先のある日、その村の教区長から手紙が届く。村のヘンリー卿が亡くなり、先に亡くなった夫人の墓に埋葬しようとしたところ、墓から男の死体が出てきた。顔は潰され手首も切断されているが、身体中に縛られた跡があるという。男の正体は・・・? かつて村を襲った忌まわしい事件との関係は・・・?
大晦日の「鐘撞」と書いたが、日本の除夜の鐘のようなのんびりしたものとは全く違う。何気なく見える冒頭のこのエピソードが最後まで意味を持つのだが、それはまるで死者を弔う Tenor Bell が低音で静かに鳴り続けているかのような、素晴らしい構成。
因みにタイトルの "Nine Tailors” は、死者が男性の時に鳴らされる Tenor の3連打が3セット、つまり鐘を9回鳴らすこと。イギリス伝統の Campanology(鐘学、鳴鐘法)や、当時の農村や治水の描写が続く部分は、最初は正直退屈だったのだが、けれど最後の最後にそれも全て伏線だったことを知る。
それは単なるミステリー小説という枠では捉えきれない壮大な叙事詩のようで、さながらヴィクトリア朝のゴシック小説を読んでいるかのよう。特にラスト15頁くらいは、じんわり泣きながら読んだ。素晴らしくも恐ろしい、間違いなく忘れがたい名作。
Dorothy L. Sayers,
The Nine Tailors
(Kindle)
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