手を掛ける

子供の頃、夏休みになると田舎の祖父母の家に行くのが楽しみでしたが、特に小学校の高学年になって、1人で電車を乗り継いで行くようになってからは、片道6時間の行程も何のその、知らないおじさんおばさんの親切を受けながら、それはそれは楽しい冒険旅行。今は世の中すっかり物騒になりましたが、30年前はまだのどかなものでした。

その祖父母の家での日課の一つが、祖父が大切にしていた畑に出ることでした。夏は特に色々な野菜が育っていて、青々と茂る葉っぱを掻き分けて雑草取りをするのが私の仕事の一つでした。しかしそこは飽きっぽい子供のこと、すぐに終わったような顔をしてはサボってミミズを掘ったりセミを取ったり。そんな時によく言われたのがこの一言。

「畑は正直なんやで。
　手ぇ掛けたら掛けた分だけ、野菜が美味しぃなるんや。」

麦藁帽子の下で鼻から汗を垂らしながらこう言っていた祖父のことを、30年経った今もよく憶えています。

ロッドビルドも何となくその工程が分かったような気がしていて、ここのところ、ともすれば緊張感なく組んでいたのかもしれませんが、サンドブロックを握り締めてバンブーロッドの塗装を剥がしている時、ふと祖父のこの言葉を思い出しました。

前にも書きましたがこの作業、恐らく私には向いていません。向いていないと思うからやらなくていいかと言われたら、そんな小理屈は仕事の時だけにしてほしいなぁと思う気もするのですが、いずれにせよ、このあまり好きではない作業を続けているうちに、長らく忘れていた感覚をふと思い出したのです。

そう。手を掛けると掛けた分だけ綺麗になる、という、至極単純な理屈です。畑の草取りと同じ。懐かしく思うと同時に、慌しい日常にかまけて長らくそれを忘れていた自分が何だか恥ずかしくなりました。

そんな自分を取り戻すかのように、今日も既にこんな時間ですが、これからまた少し削ろうと思っています。初心忘れるべからず。ロッドビルドをナメたらいかんですねぇ・・・