ロッドビルドを標榜するこのブログで、音楽の話はあくまでも亜流。ですからあくまでも息抜き程度にお話出来ればと思っているのですが、今日の話題は、1988年に亡くなった指揮者エフゲニ・ムラヴィンスキーの指揮した、チャイコフスキーの交響曲(第4番~第6番)です。
私は人に自慢出来るほどのコレクターではありませんが、クラシック音楽が好きという点では人後に落ちないつもりです。ただ、好きなジャンルがかなり偏っていて、好きな曲は色々な組み合わせ(というのは、指揮者とオーケストラという意味)を聴くのですが、知らない曲は全く知らないまま、ということが多いです。
そんな私がかなり色々な組み合わせで聴いた曲が、このチャイコフスキーの交響曲です。第4番、第5番、そして「悲愴」と名の付く第6番、どれも好きですが、特に好きなのは第5番です。そしてこれまで聴いた組み合わせの中で最も気に入っているのが、このムラヴィンスキー指揮、レニングラード・フィルの演奏です。
この演奏を初めて知ったのは、恐らく吉田秀和の『世界の指揮者』という文庫本の中でだったと思います。今は手元にありませんが、友人とお金を出し合ってレコードを買い、テープに落としたものを大事に大事に、それこそテープが伸びるほど聴いたものです。(当時、我が家にはレコードプレーヤーはありませんでした・・・)
高校を卒業する時、お世話になった理科の先生が Micro(マイクロ)というメーカーのレコードプレーヤーを譲って下さり、これを抱えて行った京都の下宿で初めてレコードを聴くようになりました。それこそレコードを買い漁った時代で、同時に、以前も書きましたが、生のコンサートに足しげく通うようになりました。
ムラヴィンスキーのレコードもその頃真っ先に買ったもの一つです。四条木屋町を少し下がったところにコンセールというレコード屋があり、そこでドイツ・グラモフォンの3枚(第4~第6番まで1枚ずつ、計3枚)を買いました。ジャケットのドイツ語が読めないくせに早く封を開けたくて、近くのフランソアに行ったのも良い想い出です(因みにここは、文泉堂のご主人に教わって私が京都で最初に行った喫茶店です)。
マイクロのプレーヤーもこの時買ったレコードも勿論今も手元にあります。ですが、両方とも私の中では既に神格化されていて、おいそれとは聴けない状況にありました。というのは、このレコード以降、レコードやCD、生の演奏で何度となくチャイコフスキーを聴きましたが、このレコードを越える演奏に会ったことがないからです。CDが出ているのも知っていましたが、レコードがあるのにわざわざCDを買わなくても・・・と思って、長い間そのままで居ました。
何事も好みの変遷というのはあるもので、若い頃好きだったチャイコフスキーも歳と共に聴く機会が減り、ここ数年はどちらかと言うと聴く対象はバロック音楽が中心で、ヘビーな交響曲はちょっと敬遠がちでした。ところがつい先週でしたか、NHKのTV番組でチャイコフキーの第4番が取り上げられていて、そこでN響の演奏を聴いた刹那、自分の好みの演奏ではなかったこともあって、無性にムラヴィンスキーが聴きたくなりました。
早速レコードを・・・と行きたいところですが、残念ながら数年前に買い替えたミニコンポは、私のOrtofon(MCカートリッジ)を繋いだだけでは音量が小さ過ぎ、全く用をなしません。仕方がないのでついにCDを買うことに決めました。
随分と前置きが長くなりましたが、こうして無事手に入れましたCDが上の写真の2枚組みです。届いて以来毎日聴いておりますが、やはり・・・良いです。好きです、この演奏。人が何と言おうと、私のチャイコフスキーの原点はここにあります。もしあなたが何か楽器の演奏をしたことがあるのなら、このCDを聴いて下さい。楽器は人が演奏するのだということが良く分かります。弦楽器は人が弦を弾いて、擦って音がするのだということが良く分かります。管楽器は人が息を送り込んで音がするのだということが良く分かります。そんな臨場感、手触り感に溢れた演奏です。
さて、このムラヴィンスキー、生前に一度だけ聴くチャンスに手が届きかけたことがあります。1986年10月1日、大阪のザ・シンフォニーホールでの演奏会のチケットを、私は持っていました。ところが、直前に急病とかでムラヴィンスキーは来日しませんでした。代役に立ったのが若き日のマリス・ヤンソンス。
今も手元に残る半券には大きく赤で「済」の文字。これは、ムラヴィンスキーの代わりにヤンソンスが振ることになったため、いくらかチケット代が払い戻しになった、その印です。1階R列22番とはホールのほぼド真ん中。こんな良い席でオーケストラを聴いたのは、多分この時だけです。
演目はチャイコフスキーの交響曲第5番と、ショスタコービチの交響曲第6番。以前も書きましたが、その演奏(レニングラード・フィル)は素晴らしく、私がこれまで聴いたどのオーケストラよりも完成度の高いものでした。金管の雄たけびと咆哮、それに負けない冷徹な弦の響き、一糸乱れぬアンサンブル・・・。それはそれで良い経験だったのですが、やっぱり一度でいいから生でムラヴィンスキーを聴いてみたかったですね。
CDで久しぶりに演奏を聴いて、若かりし頃の想い出が色々と呼び起こされました。こういう聴き方は極めて個人的なものですが、それも私の歩いて来し方、恥ずかしくも懐かしいものばかりです。今後これを超える演奏に出会えるかどうか分かりませんが、たとえそうなったとしても、このムラヴィンスキーの演奏は私の中では別格であり続けるでしょう。そんな演奏に出会えたことを私はとても幸せに思います。
チャイコフスキー 後期交響曲集(ムラヴィンスキー&レニングラード・フィル)
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