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48時間の猶予、国民投票結果を盾に債務カットを突きつけたチプラス首相

2015-07-08 09:13:46 | 日記

今年2月に債権国ドイツ議会で紛糾したにもかかわらず第2次金融支援1300億ユーロの返済を4か月延長しました。しかし、期限6月末日にチプラス首相はEU側の事前承諾も取らずに『国民投票』に打って出てEU側が求める財政緊縮策を否とする結果を得て勝利宣言までして債務カットまで要求しました。この要求をEUは受けられるでしょうか?金融市場としては受け入れるべきでしょうが、EU内での他債務国への影響や、政治的に難しいでしょう。ギリシャの自国銀行がいくつか潰れそれをEU内の銀行が引き継ぎ実利を取ることで落としどころを探る動きになるかもしれません。その場合は次のようなケースになるかもしれません。ギリシャ銀行破たん→債務一部免除→預金一部支払い不能です。チプラス首相の国民生活を人質に取った瀬戸際外交は残り48時間です。

以下コピー 影響は限定的でとうにヤマ場を越えたとみられていたギリシャ危機がここ数カ月で暗転、経済問題を超えた深刻な事態に発展しかねない状況になってきた。

 直接のきっかけは、欧州連合(EU)が求めていた財政緊縮策の受け入れに、大差をもって反対姿勢を示した5日のギリシャ国民投票だ。この民意を武器にチプラス首相は一両日中にも、ギリシャのユーロ通貨圏からの追放に躊躇してきたEUに対し、債務カット(過去の借金の棒引き)などの追加支援を要求する勢いという。しかし、EUが納得できる抜本的な経済再建策を打ち出さずに支援の追加を求めるギリシャに対しては、債権国側の反発が大きく、両者の交渉が難航するのは確実とみられる。

 いちかばちかの危険な賭けを繰り返すチプラス首相の外交手法が災いし、欧州の地政学的リスクが急拡大しかねない。ギリシャのEUや北大西洋条約機構(NATO)からの離脱リスクは絶対にないと断言できるのか。その最悪シナリオのリスクを検証してみよう。

●危機の発端

 今回の危機の発端は、2009年10月に発足したパパンドレウ政権が、前政権の行った財政赤字の隠蔽を明らかにしたこと。GDP比で5%程度とされていた財政赤字が、実際には13%前後に達していたことが判明した上、あまりにも楽観的な経済見通しを前提にした財政再建計画を公表したため、格付け会社が相次いでギリシャ国債の格下げに踏み切った。事態は同国国債の暴落にとどまらず、ユーロの急落や世界的な株安に発展し、ギリシャ危機と呼ばれるようになった。

 この危機に対し、EUはまず10年5月に国際通貨基金(IMF)と協調して総額1100億ユーロの第1次支援を、次いで12年2月にIMFとECB(欧州中央銀行)は協調で総額1300億ユーロに及ぶ第2次支援を決定した。その条件としてギリシャに課されたのが、増税、年金改革、公務員改革、公共投資削減などの厳しい緊縮財政策だった。

 緊縮財政策はパパンドレウ氏の後を受けたパパデモス首相の下で一定の成果をあげ、14年4月には国債の発行再開にこぎ着けた。国際金融界でギリシャ危機がヤマ場を越えたとの見方が広がる一方で、同国内では緊縮策の副作用もあって経済が大きく縮小、国民生活は窮乏し、大規模なデモや暴動が頻発するようになったのだ。

●繰り返される、賭けのような対応

 こうした危機に急進左派連合を率いるチプラス氏は、賭けのような戦略で対応してきた。

 最初は、今年1月の総選挙だ。国民の不満の高まりを見て取ったチプラス氏は、パパデモス政権時代にギリシャが受け入れた緊縮財政の見直しを迫る姿勢を鮮明にすることで、過半数近い議席を獲得、第1党に躍り出て政権を掌中にした。そして、緊縮策の断行を求めるEUなどに対し、債務減免を柱とした大幅な支援の拡充を要求、債権国側と激しく対立するようになった。

 ギリシャの資金繰りが懸念される中で翌2月、EUなどは暫定的に同月末に期限が切れることになっていた第2次金融支援の4カ月延長を決めた。中身は、ギリシャが改革を断行することを条件に、支援の基本的な枠組みを維持するというものだ。しかし、チプラス政権は最低賃金の引き上げや公務員の復職といった主張を取り下げず、火種を残すことになった。

 事態が緊迫したのは、先月末のことだ。支援交渉がまとまりかけていたにもかかわらず、ギリシャが一方的に交渉を打ち切り、EUに事前の通告をせずに国民投票の実施を宣言したことから交渉が決裂してしまったのだ。チプラス首相が、「民意を問う」賭けに出たのである。

 国民投票までの間も、事態は緊迫の度を増した。ギリシャ政府は6月29日、金融不安と資本流出懸念の高まりから、銀行の休業やATMを使った引き出し額の制限(1日当たり60ユーロ、約8000円)、海外への送金・現金持ち出しの制限などを柱とする資本規制に追い込まれた。

 そして翌30日、ギリシャはIMFに約15億ユーロ(約2000億円)の債務を返済せず、事実上のデフォルト(債務不履行)に陥った。先進国として、またユーロ圏の国家として初という異例の事態だ。IMFは混乱を最小限に抑えるため、あえてデフォルトと見なさず「延滞(arrears)」に分類したものの、新規融資を含むすべての追加金融支援の停止措置を発動した。

 最後に残ったギリシャ支援は、ECBからのELA(緊急流動性支援)だ。1日当たり60ユーロまでとはいえ同国内の銀行のATMで引き出しができるユーロ紙幣のほとんどは、このELAで供給されているものだ。今後の同国政府と債権国側との交渉次第では、いつELAが打ち切られ、銀行の休業に続いてATMが完全停止してもおかしくない状況となっていた。

 こうした中でギリシャは今月5日、EUが求める財政緊縮策への賛否を問う国民投票を実施した。結果は予想を覆すもので、反対が61.31%と賛成の38.69%を大きく上回る結果になった。チプラス首相は賭けに勝ち、5日夜の記者会見で「有権者は勇気ある選択をした」と勝利宣言をした。一両日中にもEUなど債権国側に再協議を求めて、緊縮策反対の「民意」を盾に、大幅な債務減免などの要求を突きつける構えという。

●ユーロ離脱の可能性

 ドイツとフランスの対立を軸に2度の世界大戦で荒廃を繰り返した欧州では、地域が丸ごと結束することで経済復興と平和を実現しようとの理念が広く浸透している。EUの単一市場はその理念を具現化したもののひとつであり、単一通貨のユーロはその象徴だ。各国が独自の金融政策を発動できなくなるという弊害を指摘する声が強い中で、EU28カ国のうちの19カ国がユーロ圏に参加した経緯があり、参加各国だけでなくたとえば米国でも、ひとたびユーロに参加した国の離脱を歓迎するムードは存在しない。

 また、ドイツのようなユーロ圏の経済大国にとっては、かつての自国通貨であるマルク建てで輸出するのと比べて実利が大きい。マルクが強い経済力を反映して通貨高になりやすかったのに対して、ギリシャのような経済力の弱い国も参加するユーロなら、高い価格競争力を保って輸出を伸ばすことが可能だからだ。

 もちろん、チプラス首相自身も「反対」への投票を呼びかけた国民投票で「(「反対」が)ユーロ圏離脱を意味するわけではない」と強調しており、ユーロ離脱が招くギリシャ経済への信用力低下のマイナス影響を十分に理解しているとみられる。瀬戸際の政治・外交手法を好むチプラス首相には、EU側もユーロからの離脱国を出したくないはずだとの読みがあり、その点を突いて譲歩を引き出そうとしているのは明らかだろう。

 問題は、そんなチプラス首相の思惑通りに物事が進むかだ。今年2月のギリシャ支援策延長の際にも、ドイツ議会などの承認を得る作業は容易ではなかった。今回、自ら積極的に汗をかこうとしない他国民のために、血税で負担の埋め合わせを求められるドイツ国民の感情的な反発を再び抑えることは一段と困難なはずである。

 チプラス首相の予想よりも交渉が難航すれば、ギリシャはユーロ紙幣の調達難に陥って資金繰りに窮する。そうなれば、ユーロの導入前に用いられていたドラクマのような自国通貨を復活させて、公務員給与や年金の支払いに充てざるを得なくなるだろう。

 だが、そうした対応は、ギリシャの流動性危機を今よりも深刻なものにしかねない。オスマントルコから独立したギリシャが、1832年に当時のフェニックスに代わる通貨として古代通貨にちなんで発行したドラクマが際限なく切り下げを繰り返してきた事実が示すように、観光以外に外貨を獲得できるこれといった基幹産業を持たないギリシャが、自国通貨の信頼を維持するのは容易なことではないからだ。むしろ、ギリシャが新通貨を発行すれば、EU、IMF、ECBといった国際機関や債権国団から金融支援を引き出すことが一層困難になりかねない。

●忍び寄るロシアの影

 万が一そうなった場合、ギリシャ経済の救世主として名乗りを上げるのではないかと取り沙汰されているのが、ギリシャへの天然ガス輸送パイプラインの敷設をもくろんでいるロシアである。内戦が続くウクライナルートに代わるものとして計画しているが、実現すればギリシャは長期安定収入が得られるようになる。

 実はチプラス首相は、債務問題をめぐるEUとの協議が難航していた最中の5月8日、モスクワでロシアのプーチン大統領と会談している。この会談でチプラス首相はEUの対ロ制裁への反対を表明し、ギリシャをロシアが発動した欧州産農産物の禁輸措置の例外にするとの言質を引き出したのだ。

 ウクライナ情勢をめぐって、欧米との対立を深めるロシアが欧米陣営の切り崩しを狙っているのは明らかだ。プーチン大統領は会談直後、ギリシャから金融支援要請はなかったとした。しかし、ギリシャが一段と資金繰りに窮する事態になれば、EUやNATOからの離脱を条件にパイプラインの敷設だけでなく金融支援に踏み切り、交通の要衝にあるギリシャの取り込みを図っても不思議はない。

 経済問題としてみれば、イタリアやスペインといった南欧諸国、バルト3国などの財政問題と連動しない限り、ギリシャ危機はたいした混乱を招かないはずだった。ギリシャのGDPはEU 全体の2%程度にすぎず、民間金融機関が保有していたギリシャ国債のECBによる買い入れも進んでいたからだ。しかし、賭けのような駆け引きを繰り返すチプラス首相の対外交渉戦略は、事態を大きく揺るがせた。

 古代ギリシャのアテネは、デモクラシー(民主主義)を誕生させながら、モボクラシー(衆愚政治)に陥ったケースとしてあまりにも有名だ。耳触りのよい緊縮財政見直し策を訴えて勇ましい外交を展開するチプラス政権は、現代版モボクラシーの果てに、再び欧州に冷戦時代のような政治的・軍事的緊張をもたらすリスクを内包しているのかもしれない。
(文=町田徹/経済ジャーナリスト)

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