2023年4月、電撃的な社長交代を果たしたトヨタは、佐藤恒治新体制のもと新たなEV戦略を次々に発表している。マルチパスウェイ(全方位)戦略を維持するとしながらも、国、地域をあげた欧・米・中によるEV覇権争いに乗り遅れることはできないと。
テスラが抱える巨大なリスクの正体とは? クルマが売れれば売れるほどのしかかる「品質地獄」と「メンテナンス地獄」
サイバートラックはテスラの次の成長商品だ。
2021年以降に生産開始といわれてきたが、実際にテキサス州のギガファクトリーで生産され、市場へ投入されるのは2023年秋となる。このモデルは2019年から受注を開始しているが、現在では100万台以上の注文が入っているという説もあるほどだ。
これほどの数の消費者を魅了し、予約金を支払ってでも手に入れたい魅惑的な消費財といえば、 アップルのiPhoneのような世界だと思われる。カリスマ経営者が先導する既存価値を変える魅惑的な商品。石油の世紀に終焉をもたらす企業と経営者として、ユーザーからの支持は強い。
ただし、ここには大きなリスクもある。マスクの言動やテスラの企業のガバナンスは安定的で盤石とは思われない。特に、2022年以降のマスクの言動にはやや理解に苦しむことが多くなり始めている。株式市場はそのリスクを察知し、既に逃げ始めた投資家も多い。敵失を期待してはならないが、「パラレル・シリアル」組み立て工程とは未知な領域で立ち上げには大きなリスクも伴う。新工場、新モデル、新生産システムを初めての土地でいきなり立ち上げ、成功させるのは偉業に近い。
アップルやアマゾンが実現しているデジタルでソフトウェア主導のプラットフォームや指数関 数的なスケールと、テスラが目指すハードウェアのEVを基盤としたSDVのビジネスモデルは同じには見えず、テスラが完全なる指数関数的なスケーラビリティを築いたとは思われない。
ハードウェアとしてのEVの成功なしに、上の階層のエコシステムを独り占めすることは容易ではない。ましてや、完全自動運転技術の完成が必要条件にあるとなれば、それが実現できなければ単なるEVメーカーであり、どこかでライバルに追いつかれるだろう。それが分かっているだけに、マスクは何者かに憑依されたがごとく撃侵を止めない。
テスラは現在200万台ものEV生産能力を確立した。これが意味することは、15年間で築いてきた400万台のテスラの保有台数はこれから2年で倍々ゲームとなっていくということだ。
テスラはここにきて品質問題を多発させてきている。これまでの多くのリコール(無償修理)はOTAを用いたソフトウェアのアップデートで修理ができた。もし、この先にソフトウェアでは対応できないハードウェアのアップデートが必要になった時、ディーラーというメンテナンス機能を持たないテスラはその対応に多大なリスクを背負うことになる。ソフトウェアと違いハードウェアは直線的な成長ラインをたどる。ハードウェアが生み出す罠をテスラは今後も乗り越えていかなければならないのである。
2018年の生産地獄は見事に乗り越えたが、これからは「品質地獄」「メンテナンス地獄」も避けては通れない。今後も、必ず紆余曲折がありそうだ。伝統的な自動車産業 はあきらめなければ追いつけるチャンスが残されていると強く確信している。