株式市場では日経平均株価が史上初の4万円台を実現するなど、連日の最高値更新にわいている。『「日経平均10万円」時代が来る!』の藤野英人さんは、株価はさらに上昇が続くとみている。日経平均株価が10万円になる日は本当にやってくるのか。またその時、私達はどんな備えをしたらよいのか。藤野さんに聞いた。
――日経平均株価10万円が実現する可能性は。
今後10年のうちに、少なくても約9割の確率で10万円になると本気で思っています。
――著書ではその条件として、インフレの進展、大企業の変化、新興企業の三つを挙げています。
今までの30年間は世界の中で日本だけがデフレに陥っていました。日本だけ特殊な状況が続いてきたのです。デフレのもとで日本企業は消費者に提供する商品やサービスを「より良いものをより安く」売るよう心がけてきました。本来なら「より高く」売れるように努力するべきだったはずです。
ところが、それではもう成り立たなくなってきました。安く売っているばかりでは、社員の給料を上げるのに十分な利益が確保できません。今まで人手不足を補ってきた女性やシニア、外国人の社会参加率は限界に近く、これ以上の増加は期待できない。給料が低い企業にはいい人材も集まってきません。
また資源価格は上昇し、円安も進んで原材料を海外から仕入れるのに必要なコストも上がっています。
新型コロナウイルス禍を受けた経済再開やロシアのウクライナ侵攻などによって人手不足や物価の値上がりは一段と深刻になり、それが引き金になって日本の企業は急速に変わろうとしています。
商品やサービスの値上げをして利益を増やし、業績が上がって株価の上昇につながるという好循環が生まれつつあるのです。こうした変化は、一時的なものではなく、本質的なものだと考えています。変化のスピードも、ゆっくりだったこれまでとは違い、もっと速く進むようになるでしょう。
さらにテクノロジーの急速な進化や地政学的な問題なども考え合わせると、日本の株式市場は長期的に伸び、日経平均株価が10万円になるのは必然といってもいい。
一方、日経平均10万円が実現した世界は決して幸せとは限らないとも指摘しています。
今までのようなデフレの時代から考えると恐ろしいことになります。インフレ経済に転換すれば、モノやサービスの価格は値上がりします。値上がりに見合った分だけ給料が上がらなければ、生活の水準を維持することはできなくなります。給料の上がらない会社にいる限り、地獄とも言える状況が待っているでしょう。
一杯470円程度の吉野家の並盛牛丼は、10年後は同じ値段で食べることはできなくなるでしょう。今でも米国では日本の3倍近い1500円程度で売っています。日経平均株価が今の2~3倍になっているということは、吉野家の牛丼も現在の3倍程度に値上がりしていてもおかしくはありません。
インフレのもとでは株式や不動産といった資産が値上がりしやすい。そのため、こうした資産を多く持っている人には有利です。反対に、資産が現預金だけの人は資産が目減りしていくため厳しい。どんな資産を持っているかで差は広がっていくでしょう。早いうちにインフレ経済に適した行動を取る必要があります。
――ではどうしたらよいでしょうか。
インフレの時代では、投資をする人としない人の差は大きくなります。日本には投資は「悪」ないし「怖いもの」という思い込みを持っている人が多い。節約をしてお金を貯めるという考え方が強い人は、生活しにくくなっていくでしょう。
藤野英人(ふじの・ひでと)氏 レオス・キャピタルワークス代表取締役会長兼社長CEO(最高経営責任者)&CIO(最高投資責任者)。