十善戒略解(慈雲尊者)全文
「 帰命頂礼、十善戒 十方三世 の諸如来の
三十二種の妙相もこの浄戒を、種因とす
戒定智慧も三密も三十七の道品も
身三口四と、意三より 皆生じたる功徳なり
世間諸善の根本にて人の人たる道なれば
出家在家も持つ(たもつ)べく老若長幼奉ずべし
龍樹菩薩の教誡に 仏果を期して戒なきは
渡りに船のなき如く 到るを得じと、のたまえり
昔、比丘あり、行く道に渇きに迫り水を得て
蟲の命をあわれみて 死して道果を得たりけり
また、八才の少沙弥の水の流れて蟻穴に
入るを救いし功徳にて 夭死転じて長寿せり
また、毘舎伽母の指の輪の 落ちて入江に沈みしも
元の指端に還(かえ)りたるためしは実にいなまれず
影勝王の像の子の産に臨みて悩みしを牧牛の女の操もて
誓いて分娩せしめたり
斑足王の猛悪も 実語のとくに感悟して
九十九余の命をも放ちて道に入りにけり
言辞弁舌明瞭に生まれし種(もと)は不綺語なり
時候和順に資産富み 草木さえ皆色ぞ増す。
人天中に香はしきものは善語に過ぐるなし
妻子眷属和悦して上下人心、皆服す
主従和睦違わぬは 不両舌語の功徳なり
親好厚く和敬せば これぞ菩薩の心なる
足ることを知る人の身は 地上に臥すも
浄土なり 己をせめて施せよ
多欲は餓鬼の種因なり
世を乱し身を滅ぼすは 皆一朝のいかりなり
一切男女は過去の父母
一子の慈悲を運ぶべし
八正の道広けれど 邪見の人ぞ踏み迷う
己が顔貌智慧技量 皆善悪の影ぞかし
神も聖もみ仏も みなこの道に由りたもう
これぞ真実の道なれば この道撥無(ほつむ)するなかれ
妻子珍宝及王位 死出の旅路の共ならず
唯この戒の功徳のみ 身に添う三世の友ぞかし
百歩の間持(たも)つすら 仏になるとのたまえば
萬行中の易行なり 唯 ひたすらに守るべし]
以下に尊者が一句一句について解説されます。