地蔵菩薩三国霊験記 9/14巻の2/13
二、地蔵三昧に通力を得たる事
中比北陸道に蔵好房と云ふ僧あり。元より鈍根にして一文不通なり。人品沙汰の限りたりといへども信心深厚にして地蔵を信じ奉る。終日名号を唱へて怠る時なし。當時の人呼びて地蔵小法師とぞ申しける。他の誉を受けても喜ぶことなく亦毀りを得れども怒ることなく一切以て地蔵修行より外他なし。されば積功累徳して功験益妙を得たり。口に誦する所は偏に南無地蔵の四字なり。修験の妙に驚き世を挙げて帰依の輩ありけれども更に事ともせず、白山の笥笠(しりゅう・白山市中宮)に入り草庵を結ぶに手(をのずか)ら竹木を折かけ薄衣麁食尤も乏しきとせず、爰に二十餘年を経て後、二十四日の夜半に高声に地蔵の宝号を口唱す。人怪しみて往て見れば唱ふるに随って天上し次第に声も幽かになれば終に形は失せけり。是ぞ奇異の行人なり。
引証。十輪経に云、若し諸有情或は多聞の為、或は淨信の為、或は淨戒の為、或は靜慮の為、或は神通の為乃至、能く至心に地藏菩薩摩訶薩を稱名念誦歸敬供養
する者有らば、此の善男子、功徳妙定威神力の故に、彼の一切をして皆憂苦を離れしめ、意願滿足せしめ、其の所應に隨って生天涅槃之道に安置す。
(大乘大集地藏十輪經序品第一「若諸有情或爲多聞或爲淨信 或爲淨戒或爲靜慮或爲神通或爲般若 或爲解脱或爲妙色或爲妙聲或爲妙香 或爲妙味或爲妙觸或爲利養或爲名聞 或爲功徳或爲工巧或爲花果或爲樹林 或爲床座或爲敷具或爲道路或爲財穀 或爲醫藥或爲舍宅或爲僕使或爲彩色 或爲甘雨或爲求水或爲稼穡或爲扇拂或爲涼風或爲求火或爲車乘或爲男女或爲方便 或爲修福或爲温暖或爲清涼 或爲憶念或爲種種世出世間諸利樂事。於追求時爲諸憂苦之所逼切。有能至心稱名念誦歸敬供養地藏菩薩摩訶薩者。此善男子。功徳妙定威神力故。令彼一切皆離憂苦意願滿足。隨其所應安置生天涅槃之道」)。