Q,世間の名利を求めて祈ることはやめるべきか?密教では現世利益を説くではないか?
A,定業は祈祷で転じ得たとしても保てない。かえって世間の愛着が増すのみで来世は地獄へ落ちる。祈るならば悟りを求めて祈れ、というのは世間の執着を断てとの意味である。しかしそうはいっても愚人は悟りを求めて祈ることなどおぼつかない、そこで密教では悟りへの入り口として現世利益の加持祈祷を行うのである。
夢中問答集(無窓疎石)より・・・
問、世間の名利を祈ることは一向に制し止むべしや
答、・・定業を祈りて転ぜんことも難かるべし、たとひ祈り得たりとも、幾程かこれを保つべき。世間の愛着いよいよ増長して当来は必ず悪趣に入るべし。とても祈りをするとならば無上道を祈れかしと勧めむためなり。しかれども・・愚人はたとひかようの教訓によりてこの祈りを止めたりとも、さらば仏神に参りて菩提を祈らむと思ふ心あるべからず。かやうにて一期を過ごしなば佛菩薩に参詣して値遇の縁を結び奉ることもまたやみぬべし。さればかようの人には・・・制し止むることはあるべからず。密教の中に調伏・息災等の有相の悉地を設くることはこのいわれなり。大日経に甚深無相の法は愚人の及び難きゆえに,有相の説を兼ね存せけりと説ける(大日経巻七「甚深無相法 劣慧所不堪 爲應彼等故 兼存有相説」)もこの意なり。
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