野生の空気を読む [ 後編 ]
あるとき私は JR上越線の、渋川市郊外にいました。 EF55型機関車( 愛称:ムーミン号 )の復活運転でした。 榛名山を背景に写せる場所で、他の鉄道ファンと共に築堤に立っていた。
構図が決まらないので、カメラを構えたまま 一歩後ろにさがった。 もう一歩さがった。 一歩前に出た。 もう一歩前に出ようと片足を上げた瞬間、「 このまま 足を下ろしたら、とんでもない事のなる 」。 そんな、するどい殺気を感じた。
私は片足を上げたまま 足元を見ると、ヤマカガシが頭を持ち上げ、今にも跳びかかりそうな勢いで、威嚇していた。 「 これ以上近付いてみろ、噛みついてやる 」 と、言わんばかりに。。。
あるとき私は、わたらせ渓谷鉄道にいました。 群馬と栃木の県ざかい付近。 沢を吹きおろす風が涼しくて、真夏でも30分と居られない避暑地がある。 列車の撮影の合い間、よくここで休憩していた場所。
ある日、いつものように沢に行ってみると、なんだかちょっと 空気が違う。 まるですぐ近くで、誰かに監視されているような・・・。 とても居たたまれず、すぐにその場を離れることにした。
そのうちに、数匹のサルが草むらから姿を見せた。「 サルくらいでこんな強い胸騒ぎなど 感じないはず 」。
私は重い空気を引きずったまま、三脚を立て、望遠レンズを付けて列車を待つ。 少し逆光ぎみの、風景が一番輝くとき。
ふと、カメラのファインダーに、一頭のシカが飛び込んだ。 ずっとずっと、写したかったシーンだった。
おわり
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