8月26日に静岡県の東富士演習場で行われた陸上自衛隊の「富士総合火力演習」において、今回初めて島嶼(とうしょ)防衛を想定した演習が行われました。
島嶼防衛についての陸上自衛隊の関与については意外に思われる方も多いかと思いますが、これは自衛隊が、陸海空3自衛隊を一体として運用して島嶼防衛を行う「統合作戦(Joint Operation)」を推し進めている現れでもあります。
今回の演習では、海上自衛隊のP-3C対戦哨戒機が敵部隊の潜水艦、艦艇の動静を探り、航空自衛隊のF-2支援戦闘機が対艦ミサイルで侵略部隊を攻撃する役割を演じています。
更に一部の敵部隊に島嶼に上陸を許したと仮定し、陸自部隊が偵察から火砲射撃、突撃、敵部隊の制圧までの一連の作戦行動を行いました。
幸福実現党が主張して来たように、自衛隊が島嶼防衛を重視し始めたことは是として、実際の島嶼防衛において、こうした自衛隊の想定や戦略は果たして有効でしょうか?
このことを1982年にイギリスとアルゼンチンとの間で起こったフォークランド紛争を例に挙げて説明したいと思います。
フォークランド諸島を巡るイギリスとアルゼンチンとの争いは、尖閣諸島を巡る日本と中国の争いに非常に似ていると同時に、程度の差こそはあれ、実効支配に置いている国よりも対立している相手国の方がその島に近いという地理的な環境も似ています。
アルゼンチンは地の利を活かして、イギリス海軍がフォークランド諸島に展開していない不在の隙を突いて、フォークランド諸島の周辺海域の制海権を確保し、悠々と上陸作戦を実行しました。
実際にアルゼンチンは1982年3月30日から4月3日にかけてフォークランド諸島に上陸しました(ロザリオ作戦)が、この上陸自体は少数の兵力を用いて秘密裏に行われたもので、自衛隊の想定のように大規模な兵力で堂々と行われたものではありません。
上陸したアルゼンチン軍は、周辺海域に展開するアルゼンチン海軍の空母「ベインティシンコ・デ・マジョ」から兵力の増援を受け、4月2日に東フォークランド島のポート・スタンレーを、4月3日にサウス・ジョージア島を占拠しました。
最終的にはマーガレット・サッチャー首相の決断によりイギリス軍は大規模な動員が行われて激しい戦闘の末、6月14日にフォークランド諸島を奪還しますが、駆逐艦2隻を始めとする艦艇6隻を失うなどイギリス軍の犠牲も少なくありませんでした。
フォークランド紛争で日本が学ぶべきことは、
(1)実効支配下に置いている島の周辺の海域をしっかり守る。
(2)島を奪還するためには大規模な兵力の動員が必要。
(3)島を奪還するためには犠牲が伴う。
という3つのポイントです。
自衛隊はこの3つのポイントに関して全くの準備不足です。
特に(1)の周辺海域をしっかり守ることについては、先日の香港の活動家が尖閣諸島に上陸したことによって、周辺海域の海上防衛が全くなっていないことを証明してしまいました。
現在、沖縄や尖閣諸島に最も近い護衛艦がある海上自衛隊の基地は1000km強も離れた長崎県の佐世保基地です。これでは尖閣・沖縄有事の際に全く間に合いません。
先の大戦における日本の島嶼防衛は、敵が島嶼に上陸する段階で迎え撃つ、若しくは、内陸に引き込んで、地の利を生かして迎え撃つという発想に基づいています。
一方、英米の島嶼防衛戦略は「外敵の侵攻は海で迎え撃ち、敵には一歩たりとも上陸を許さない」という鉄則に基づいています。
米国も本土を島に見立て、強大な海軍や空軍、更には強力な海兵隊で、敵国に太平洋や大西洋を決して渡らせないという戦略を取っています(日米同盟や米英同盟もその戦略の一環です)。
実際に、第二次世界大戦開戦以降の世界の島嶼攻防戦を緻密に分析すると、島嶼の海岸線や島内陸で防衛する戦略を取った場合、ほとんど全て防衛に失敗しており、侵攻軍が島嶼占領に成功しています。(参照:北村淳著『島嶼防衛』明成社刊)
イギリスもフォークランド奪還においては、鉄則通り、周辺海域・空域で圧倒的優勢な立場を確保してから島嶼侵攻を行い、島に立て籠もって侵攻軍を待ち受けて防衛したアルゼンチン軍は敗北しました。
島嶼防衛においては、「敵侵攻軍を少なくとも島嶼周辺海域・空域までの海洋で打ち破り、一歩たりとも海岸線に到達させてはならない。そのためには、敵侵攻軍に島嶼の周辺海域・空域での行動の自由を確保させてはならない」ということが鉄則になります。
自衛隊はこうした戦略や教訓を研究し、海上自衛隊の護衛艦を南西諸島に配備し、尖閣諸島や離島のパトロールを強化すべきです。
今回の富士総合火力演習には、中国や韓国の武官の姿も偵察に訪れていますが、本来、彼らに見せつけるべきは富士総合火力演習のようなショーではなく、尖閣諸島周辺海域における海上自衛隊艦艇の展開、南西諸島への大規模な兵力動員演習であるべきです。
尖閣諸島・離島防衛に向け、日本の「本気」を見せることこそが、中国の暴走を抑止する最大の戦略となるのです。 (文責・黒川白雲)
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