大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 11月6日 サムシングの存在

2014-11-06 23:27:11 | B,日々の恐怖



   日々の恐怖 11月6日 サムシングの存在



 叔母さんが久々に俺の家に遊びに来て、つい先日見たテレビの恐怖特集の話になって、

「 そんな幽霊とか、いるわけねーじゃん!」

みたいな会話をしてた時だった。
その叔母さんが、昔お客さんから聞いた話を教えてくれた。
 俺の叔母さんはちっちゃい居酒屋をやっていた。
その居酒屋ってのは、郊外の辺鄙な場所にあるもんで、周囲にそれらしいところもないので常連さんが多かった。
 でも、新しいお客さんが飲みに来るのは珍しい。
その中に、月に2,3度来るようになったオバサンがいるんだけど、このオバサンが酒を飲みながら叔母さんに語った話だ。

 オバサンは結婚して20年くらいになる亭主がいたんだけど、この亭主がえらくダメなヤツだったそうだ。
もう子供達は大きくなって、家を出ていたんだけれど、亭主はオバサンに毎日のように金をせびって、フラフラ遊んでばかりだった。
おかげでオバサンは少なくはない借金を抱えていた。
 さらに亭主は精神的な病の気もあって、たまに昂ぶって暴れたりすることもしばしばだった。
亭主は、借金の話になるともう手がつけられなかった。
でもそんなことがあったかと思えば、死人のように暗い顔をして、部屋にこもっていたりもする。
このオバサンは毎日、パートから疲れて帰ってきては亭主と口論、そんな毎日を送っていた。
 さて、そんなある日、いつにも増して激しい口論の末、亭主はオバサンをしたたかに殴りつけた後、ヒステリーを起こして暗い戸外へ出て行ってしまった。
家の外から、オバサンを罵倒するような大声が遠ざかっていくのが聞こえていた。

“ またこれだ。
いつになったらこんな生活から開放されるんだろう?
いっそのこと死んでくれれば・・・。
いや、殺してやろうか・・・?」

そんなことを考えながら、オバサンは仏間に行って布団を敷き、もう寝ることにした。
 仏間には扉のしまった仏壇と、布団が一枚敷いてあるだけだ。
明かりが消され、豆電球の弱々しい光が部屋の中をぼんやりと照らしていた。
 どれくらい経っただろうか。
急に、

「 ドン、ドン、ドン、ドン!」

大きな音でオバサンは目を覚ました。

“ こんな時間に誰かが訪ねて来たのか?
それとも亭主が帰ってきたのか?”

そんなことを思いながら上半身を布団の上に起こすと、おかしなことに気付いた。
音は扉の閉まった仏壇からしている。

「 ドン、ドン、ドンドンドンドンドン!」

何かが仏壇の中から観音開きの扉を叩いている。
オバサンはあまりのことに動けなくなって、じっと仏壇の扉を見つめている。

「 ドンドンドンドンドンドンドン!」

もう仏壇全体が揺れるぐらいだ。
 するとその振動と音がピタッと止んだ。
静寂の中で、仏壇を見つめているオバサンはあることに気付いた。
閉まっていた仏壇の扉が3,4センチ程、僅かに開いている。
そしてその隙間の暗闇から、目玉が二つ縦に並んで、こっちを睨んでいるのがうっすらと見えた。
 オバサンが、

「 ウワッ!!」

と叫ぶと、その目玉はふっと消えた。
 明かりをつけると、仏壇はズレたままだし、扉も開いたままだ。
怖くてしょうがないオバサンは、家中の電灯をつけて、居間で朝が来るのを待った。

 翌日の正午近く、オバサンの家に近所の人と警察が訪ねてきた。
なんと亭主が、家から数分の雑木林で首を吊っているのが見つかったらしい。
どうやら死んだのは昨日の深夜だ。
オバサンが仏壇の異変を目の当たりにしたその時刻だった。
 借金を苦にしての自殺とされ、その後は事後処理にもう大騒ぎだったんだけれど、オバサンは昨夜の体験を誰にも話さなかった。
亭主が死んで数年たって、ようやくこの奇妙な体験を人に話すようになった。

「 人が死んで喜んではいけないとは思うけど、死んでくれて、本当によかったよ。」

オバサンは、ママである叔母さんにこう語った。
 あの日、仏壇から覗いていた目は亭主のものだったんだろうか?
この話を聞いた自分はそう思ったんだけど、そんなことよりもだ。
そんなことよりも、

「 そんなこともあるんだねぇ・・・。」

で簡単に済ませちゃう叔母さんに、どんな怪談よりも、そういう霊的なサムシングの存在を信じさせる説得力を感じた。










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