日々の恐怖 6月11日 心当たり(2)
どうにも扱いに困った様子の親族たちをよそに、ばあちゃんは従兄弟の背中を精一杯さすりながら、
「 大丈夫、大丈夫。」
と声をかけ、
「 その男の夢なら、ばあちゃんも見たことがあるんだよ。」
と話し始めた。
「 ばあちゃんはね、その質問にいつもこう返していたんだ。
家の軒下の鉢植えが枯れかけている、私も世話できずにいるし、きっと長くは持たないってね。
あの鉢植えたちに、ばあちゃんも悪いことをしてしまった。
もう、そうして押し付けておくのも忍びない。
だから、いいんだよ。
もういいんだよ。」
そんな風に言っていた。
それから何日かして、ばあちゃんは亡くなった。
あのばあちゃんの話は、俺を含め、親戚みんなどう捉えていいのかわからずにいる。
従兄弟を安心させようと、ばあちゃんが咄嗟に話を合わせて語って聞かせたのかもしれない。
ばあちゃんが心配していた軒下の鉢植えは、まだ無事だった数鉢を俺が預かることにした。
幸い今のところ、黒い男が夢に出てくることはないままだ。
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