日々の恐怖 6月15日 おっかねえ神様(3)
翌日、私は近所に住む婆さんを訪ねた。
「 なあ婆さん、犬の死ぬ道ってあるじゃん。
あそこって、なんで犬が死ぬんだ?」
「 あっこにゃ、犬嫌いな神様がおるっち話だで。」
「 神様?」
「 お社はないけんどな、ほれ、覚えとらんか?
曲がりっ角のとこに、岩があるで。」
言われてみれば、そんな気もする。
「 あれが、神様?」
「 ありゃ御神体よ。
人が住む前からあっこにあって、あっから動かんっち話だ。」
「 動かんって、なんで?」
「 あっこがお気に入りっちことだでな。
動かそうとすると、決まって悪いことが起きる。
屋根も嫌いらしくてな。
祠を作ったら、雷落ちてぶっ壊れたって話だで。」
「 おっかねえな。」
「 神様なんて、本当はみ~んな、おっかねえもんだで。
優しいだけの神様なんぞおらん。
優しい神様は、おんなじくらい、おっかねえ神様だでな。」
「 そうだったか・・・。
ところで、なんでその神様、犬が嫌いなんだ?」
「 むか~し、ションベンかけられてから嫌いなったち話だで。」
「 ・・・・・・・・。」
確かに小便をかけられたのは、不愉快だったろう。
犬も嫌いになるだろう。
でもだからって、無関係な、ただ通りすぎただけの犬までたたり殺すのは、ちょっと理不尽じゃないだろうか。
そんなことを思った。
そして、同時に思う。
” もしも人間が同じことをしたら、神様は人間も嫌いになるだろう。
そうなったら、あの道は・・・・・。”
そこまで想像して、怖くなった。
ところで件の夫婦だが、あの後も集落で暮らし続けている。
当時はしばらくペットロスで塞ぎこんでいたそうだが、翌年、縁あって新しい犬を引き取ってから、徐々に回復していった。
その犬は長く生き、何年か前に老衰で死んだ。
犬の死ぬ道とは無関係に、天寿を全うしたそうだ。
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