日々の恐怖 6月17日 流星群
警察官で思い出した話がひとつある。
趣味で天体観測のサークルに入っているんだが、内容の性質上、活動は日が暮れてから深夜、明け方になる。
しかも、より光の少ない闇を求めて、月のない夜にわざわざ人気のない山の展望台に出掛けたりする。
ある夜、皆でかなり田舎の山頂の駐車場まで登った。
たしか流星群かなにか天体イベントのある夜だったと記憶している。
すでに観測マニアの車が数台停まっていた。
夜も更け、車は1台減り、2台減り、日付が変わってしばらくしたら、我々の車以外に1台を残すのみとなった。
何台かある間は気にしなかったが、その車、明らかにおかしい。
車から降りて観測するでもなく、なんというか、人の気配がしない。
よく見ると、夜露に濡れたあとに葉っぱなどへばりついて、乗り捨てられて何日も経っているような雰囲気なのだ。
こんなところに車を置いて、中の人はどこへ?
イオンの駐車場ならいざ知らず、乗り合わせて別の車で山を降りたとも考えにくい。
想像を掻き立てられ、我々は星どころではなくなった。
我々の仲間のひとりに刑事さんがいる。
「 通報したほうがいいでしょうね?」
と尋ねると、彼は、
「 確認してからでいいでしょう。」
と言い、スマホのライトを点けて躊躇なく車へ近づいていった。
一通り検分し、どこかへ電話を掛けて戻ってくると、
「 緊急ではないので大丈夫です。
朝になったら来てもらうよう、連絡しておきました。」
我々は安心し、何より闇のなかを普通にあの車に近付いて、中を覗きこめる度胸に感心した。
そして観測を楽しんで下山したのだが、何ヵ月も経ってから、例の山頂の駐車場で車中で練炭を焚いて自殺した人の話を聞いた。
流星群を見に来た人が通報してきたそうだ。
あの車の中にいたんだ。
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