日々の恐怖 9月12日 小さくて白っぽい動物(4)
私はAさんのそばを離れると、先ほど見た小さな動物のことを少し思った。
” あれは、なんだったんだろう・・・・?”
しかし、そんな疑問はすぐに日常に忙殺されてしまい、その日の夕方には、不思議なものを見たことすらも、忘れてしまっていた。
1月も半ば頃、退勤時に更衣室で隣のユニットの職員とたまたま顔を合わせた。
彼女は、新年会の時に貧血で倒れた職員だった。
「 今更だけど、大変だったね、もう平気なの?」
「 もうすっかり。
注目集めちゃって、恥ずかしかったです。」
彼女は今から夜勤のようで、照れ笑いをしながら手早く着替えをしていたが、ふと思い出したように言った。
「 そういえば、Bさんってわかります?」
「 利用者さんの?
わかるけど、どうしたの?」
「 最近、調子がいいんですよね。
年末は声も出せなくて、もう危ないかとも思ったんですけど・・・。
年が明けてからは食欲も出て、かなり遅れましたけど、昨日なんて新年の挨拶をしてくれたんですよ。
わたしが担当してる方だから、嬉しくて。
あちこちで自慢してるんです、わたし・・・・。」
本当に嬉しそうに笑う彼女を、介護士の鑑だなと私も微笑ましく思った。
しかし一方で、年明けにAさんから聞いたイヌの話を思い出し、まさかとは思いつつも、うすら寒くなったのだった。
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