一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

裁判官の問題意識(下) (模擬裁判体験記4)

2007-11-22 | 裁判員制度
前回の続きです。
同じく判例時報の記事からの一部引用です。

話題は裁判員を交えての評議の進め方に移ります。


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【N元裁判官】
・・・これまで評議の主宰というのは、どうしても裁判官の人柄とか、あるいは経験、先輩の伝統の継承というようなことでされ、その手法について客観的に議論されるということはほとんどなかったわけですけれども、実際の手法が果たして適切なのかということについて、裁判官以外の立場から議論が行なわれる状況がもたらされたわけで、それを受けて、私たちも、DVDを素材としてコミュニケーション論の分野の研究者の人たちと議論をすることにしたのです。
 そこで問題となったのは、やはり、裁判長が一人一人の裁判員の意見を引き出すという意欲は持っているにしても、どうしても裁判長対個々の裁判員という意見交換になってしまいがちであるということですね。裁判員同士の議論というのがなかなか盛り上がってこない。極端な形で言うと、教師と生徒という関係の会話になってしまうということが象徴的なこととして指摘されています。 
(中略)
確かに、捜査の可視化も不十分なままで、これまでの残りかすを持ったまま制度が突っ走ろうとしているわけですけれども、そういう中で、裁判員の人に、事実認定についてきちんと議論できる雰囲気を作っていく、本当に疑わしければ疑わしいと言って構わないし、捜査段階が不透明のような立証では有罪の認定ができないというような訴訟指揮を裁判長がするならば、あるいは調書に依存した運用も変わってくるかもしれないわけです。 (以下略)


【R裁判官】
・・・どうも最初の弁護士会あたりの批判が非常に強かったせいか、裁判官が意見を押し付けてはいかんと、やっぱり自由に裁判員の意見をはつげんできるようにしなきゃいけないということが聞きすぎている傾向がありまして、それはそれなりに正しいわけですけれども、裁判長以外の裁判官があんまり発言しない、しにくいというような傾向が模擬裁判ではかなり多いような気がしています。そういう意味で、やっぱり陪席裁判官の役割はかなり重要で、その人の個性というのもかなり生かすような形で発言してもらう。裁判官の場合に、意見を押しつける形の発言はできるだけ避けなきゃいけないと思います。けれども、ひとつの偏った方向に議論が行っているとか、デッドロックに乗り上げているというようなこともあります。そのときに、こういう視点、こういう間接事実について皆さんどう評価しますかという形で議論を戻していくとか、そういう押しつけと感じさせないような形の発言の仕方は十分あると思うんですね。そのような形で工夫は十分できるんではないかという感じを受けました。


【K裁判官】
・・・裁判員制度の課題の中で残された一番大きいものが評議の問題ではないかと思います。供述調書の問題ももちろん大きいんですけれども、当事者に対して公判前整理手続きで争点整理を的確にしなさい、証拠開示もできるだけしなさい、供述調書は使わない審理を目指しますというような訴訟指揮をすることによって、ある意味で当事者に非常に負担を強いることになります。ところが評議の段階になると、途端に裁判所に任せなさい、裁判官と裁判員が自由に議論しますというのは、評議を完全なブラックボックスの中に閉じ込めてしまうことになります。しかし、私は、このような考え方は、わかりやすく納得できる裁判を目指す裁判員制度の趣旨とは整合しないと考えます。前の懇話会で紹介したと思いますが、評議シートというような、検察官、弁護人と合意した論点集をもとに評議するというようなルールを確立しないと、幾ら当事者が整理手続きと公判で一生懸命頑張っても、最後の評議はブラックボックスでどうなるか全くわからないというのでは、裁判員制度の趣旨に合わないんじゃないかと思います。今年の五月ぐらいに判例タイムズに載りましたカナダ・オンタリオ州の陪審員に対する裁判官の説示という、若い判事補の方が書かれた文章がありまして、非常に啓発されました(判例タイムズ1205号60頁以下参照)。カナダ・オンタリオ州は陪審制度ですけれども、裁判官の説示がイギリス、アメリカと違って、いわゆる評議シート、それから樹形図と言うんでしょうか、幹と枝を分けて、こういう論点をこういう順番で議論していくとこういう結論に繋がっていくというような論点と順番を決めた評議シート、樹形図などを、起訴状、冒頭陳述、争点集、証拠一覧なども一緒にして綴じたファイルを陪審員に渡すんだそうです。しかもその内容について事前に検察官と弁護人とで検討することが法的に義務付けられているようです。勿論裁判員制度とは違いますけれど、当事者と合意した争点集を評議に活用するというのは非常に参考になる例ではないかと思って、今後是非そういうものをルール化していただきたいというふうに考えております。


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なるほど、評議の方法はまだ試行錯誤の段階で、その「試行」の一環が今回の模擬裁判ということなわけですね。


ということで、次回はいよいよ模擬裁判です。
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